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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 帰還

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(3)回線工事

 考助からの干渉待ちと結論付けたクラーラは、神域に帰ることなくアマミヤの塔の管理層にとどまり続けていた。
 名目上は「考助からの連絡がいつ来てもいいように」というものだったが、管理層内だけとはいえ、楽しそうに歩き回っている姿を見れば、それが建前だということはよくわかる。
 ただし、当然ながら管理層にいるメンバーは、皆命が惜しいので、余計な突っ込みをすることはない。
 とはいえ、クラーラもただ管理層を歩き回っていたわけではない。
 考助たちが消えた部屋を訪ねては、いろいろと調査をしたり、ミツキの体を魂が戻ってきたときに不具合が起きないようにしたりしていた。
 ちなみに、ミツキは魂だけが考助とシュレインを追いかけていっていることは、すでにクラーラから他の者たちに伝わっている。
 そのため、いまのミツキの身体は、彼女自身のベッドに寝かされている。
 そのベッドには、クラーラだけではなく、シルヴィアやフローリアも訪ねては、床ずれなどが起きないように世話がされていた。

 クラーラが管理層に来てから三日ほどが経っていた。
 そして、ついにクラーラが待ちに待っていた反応を感じ取ることができた。
 クラーラはすぐさま、たまたまそばにいたコウヒを見て、
「来たわよ。すぐに伝えてあげなさい」
 それだけを言ったクラーラに、コウヒは小さく頭を下げてからその場を急ぎ足で離れて行った。
 それを見送ったクラーラは、自身もすぐに目的地へと向かって歩き始めた。

 
 クラーラが向かった先は、考助たちが例の実験を行った部屋だ。
 そこには、当時のままの状態で、テーブルの上に水鏡が置かれている。
 それは、下手にずらしたりしない方がいいというクラーラの助言に従ってのことだが、もともと管理層には、そうした魔法的な状況に詳しいものが揃っている。
 クラーラが来なかったとしてもその状態は維持されていただろう。

 部屋に入ったクラーラは、その水鏡をじっと見つめていた。
 先ほど感じた反応は、間違いなくその水鏡から来ている。
 そうこうしているうちに、コウヒが呼んできたシルヴィアとフローリアが姿を現した。
 どちらも焦ったような顔になっているのは、ある程度コウヒから話を聞いているためだろう。
 そのコウヒもどことなく緊張した面持ちになっていた。

 三人の顔を見たクラーラは、思わず笑みを浮かべてしまった。
 状況が状況だけにそんなことをしている場合ではないのだが、彼女たちの中にあるのが、間違いなく考助への思いだとわかったためだ。
「気持ちはわかるけれど、少しは緊張を解きなさい。なにも、最悪の結果だと決まったわけではないのだから」
 三人が緊張しているのは、状況によっては考助たちが戻れない可能性があることがわかっているためだ。
 それは、連絡が取れたうえで初めてわかることだと、クラーラから話を聞かされている。
 勿論、あくまでも最悪な場合はという前置きをして伝えられているが、わかっていてもいざとなると緊張してしまったのだ。

 クラーラの言葉に、三人はフッと緊張を解いた。
 そして、代表してシルヴィアが話かけた。
「それで、状況はどうなのでしょうか?」
「どうもこうもまだこれからよ。それに、これは・・・・・・あらあら。そういうことね」
 水鏡に向かって手をひらひらさせていたクラーラは、そんなことを言いながら楽しそうに笑みを浮かべた。
 考助が、時間の壁を越えてなにをしてきたのか、理解できたのだ。
「ええと・・・・・・ちょっと難しいわね。・・・・・・これで――どうかしら?」
 なにやらごそごそとしていたクラーラがそう言うと、静かだった水鏡の素面が波立ち始めた。

『あ~。テステス。聞こえているかな?』
「ばっちり聞こえているわよ。とりあえず、元気そうね」
 水鏡から聞こえて来た考助の声に、クラーラは大地母神らしい慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
 取りあえず声を聞く限りでは、いきなり最悪の事態に陥ったということはなさそうだ。
『元気・・・・・・? ああ、そうか。とりあえず体的になにか不具合が起きたということは・・・・・・ああ、いや。怪我とかしたということはないよ』
「なに? その微妙な言い回しは。おかしなことになっているのだったら、きちんと言ってね。そうしないと、対処できるものもできなくなってしまうわよ?」
『いや、うん。なんと言っていいのか・・・・・・ヴァンパイアでいうところのアムという存在になっているみたいでね』
 そう前置きをした考助は、いまの(?)自分たちの状況を話し始めた。

『――――というわけで、こっちはいまのところこうして連絡を取るのが精一杯で、あとはお手上げ状態だね』
 そう言って締めくくった考助に、クラーラは納得の表情で頷いた。
「なるほどね。まあ、とりあえずこうして連絡を取れただけでも良かったとしましょう。あとは、こっちでもいろいろ対策して見るわ」
『お手数をおかけいたします』
「いいのよ。いま考助にいなくなられると、こっちも困ったことになるから。まあ、それが無かったとしても、あの方たちは動いたでしょうけれど」
 誰であるかは具体的には言わなかったクラーラだったが、この世界で彼女が「あの方たち」と呼ぶ存在など限られている。

 勿論、時間の向こう側でクラーラの言葉を聞いている考助も、そのことをきちんとわかっていた。
『アハハ。まあ、そうかもね。それにしても、正確な時間とか場所もわかっていないんだけれど、大丈夫?』
「私は大丈夫ではありませんが、あの三姉妹でしたら大丈夫でしょう。私はあくまでも中継地として動くわ」
『それは・・・・・・ますますお手数をお掛けいたします』
 頭を下げている考助の図を思い浮かべながら、クラーラは笑みを浮かべた。
「いいのよ。そのために、ここまできているのだから。それよりも・・・・・・」
『はい?』
「この接続、どれくらい持ちそう?」
 クラーラにはわかっているのだが、過去から細い糸(繋がり)を通して、ほとんど強引に通信を行っている状態なのだ。
 そんな接続方法が、いつまでも持つなんてことは欠片も考えていない。
 むしろ、良く繋いでいると感心しているくらいだった。

 元より隠すつもりはなかった考助は、すぐに今の状態を暴露した。
『正直に言えば、そろそろ限界かな?』
「なるほどね。私のほうでもそう感じているわ。でも・・・・・・ちょっとだけ待ってね。いまなんとか安定させようとしているから」
 実は、この通信が来た段階で、クラーラは神域にいるエリスに連絡を取っていたのだ。
 ずっと繋ぎっぱなしは無理だとしても、安定していつでも通信が行えるように、過去との細い回線を結んだままの状態にできないかと。
 エリスも最初からそのつもりだったのか、すぐに手配するとの返事が来ていた。
 クラーラが先ほどから色々と話し込んでいたのは、考助たちの状況を確認する目的もあったのだが、それと同時にエリスたちの援護を待っていたのだ。

 裏でエリスたちが動いていると聞いた考助は、なんとなく恐縮しているような声を出した。
『なんか、色々と面倒をかけているねえ』
「気にしない方がいいわよ? どちらかといえば、不慮の事故でしょう、今回の件は」
 初めから錫杖と水鏡の組み合わせで過去に飛ばされるとわかっていれば、アスラ辺りが止めていただろう。
 ところが、そのアスラも予見できなかったのだから、クラーラの言った通りまさしく事故でしかない。
 それで責めるようなことを言うような者は、ひとり(一柱?)もいないのだ。

 結局このあとは、考助とクラーラで適当に会話をしていたら、エリスからの連絡がきた。
 これで、一回五分程度とはいえ、好きなときに会話をすることができるようになった。
 考助たちが過去から戻ってくる方法はまだわかったわけではないが、それでもいままでよりは十分に安心できる状況に、一同はホッと胸を撫で下ろすのであった。
考助とクラーラがのんびりと話をしている裏で、エリスたちが頑張っているという話でしたw
まずは、電話線工事が無事に終わったというところでしょうか。
過去からの帰還方法については、これから考助から状況を聞きつつこれから対策を立てる、といったところです。
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