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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第5章 帰還

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(1)フローリアの予見?

 イネスたちと話し合いを終えた考助とシュレインは、与えられた庵へと戻っていた。
 そして、庵に入るなり考助がシュレインに向かって言った。
「というわけで、ちょっと錫杖を貸してもらってもいいかな?」
「なにが、というわけ、なのかはともかく、錫杖を貸すのは構わないのじゃ。・・・・・・じゃが、その前に話しておくことがあるじゃろう?」
 表情を消したままジッと見てくるシュレインに、考助は内心で「怖ぁ」と思いつつ、ついと視線をずらした。
「えーと。なんのことかな?」
 考助はそんなことを言ってごまかそうと試みたが、当然シュレインにそんな技(?)が通用するはずもなかった。
「・・・・・・コウスケ?」
 それだけを言って自分を見てくるシュレインに、考助は両手を挙げながら降参を示した。
「わかったわかった。ゴメンゴメン。でも、あれは必要だと思ったから言ったんだよ?」
「・・・・・・どういうことじゃ?」
 考助の説明に、シュレインは意味がわからずに首を傾げた。

 ふたりが話をしているのは、先ほどの話し合いのときに出た『始まりの姫』についてだ。
 あのときの話では、完全にシュレインが『始まりの姫』そのものとして扱われていた。
 それは、シュレインにとっては、まさしく青天の霹靂というものだった。
 しかも考助はそれを否定するわけでもなく、どちらかといえば、同調する立場といわれてもおかしくない言動をしていた。
 シュレインにとっては、聞いていないどころか、どういうつもりだと問い詰めたくなるのも当然のことだった。

 頭上にはてなマークを飛ばしているシュレインに、考助がまじめな顔で返した。
「向こうの時代にいたときにも、少なくともイネスはそういう態度を取っていたと思うよ? 特に、錫杖を持ち始めてからは」
「なんじゃと!?」
「あ、やっぱり気付いていなかったんだ」
 考助にしてみればやっぱりかという思いだったが、シュレインにしてみれば驚きしかない。
 なによりも、自分が気付いていなかったことを、考助が気付いていたということが一番のポイントだった。

 そんなシュレインに対して、考助は肩をすくめた。
「まあ、こんな偉そうなことを言っているけれど、最初に気付いたのはフローリアだから。・・・・・・本来であれば、もっと上の立場を強調してもおかしくないのに、シュレインの下でいることが当然だと思っているのが不思議だって」
 プロスト一族は、ヴァンパイアの中でも最古の一族であり、その中でもイネスは最も古いメンバーのうちのひとりだ。
 それが、いくら一族全体を助けられたとはいえ、それだけであそこまでの恭順(?)を示すのはおかしいとフローリアは主張してきたのだ。
 もっとも、それをシュレイン本人ではなく考助に言ったのは、イネスとそれに近しい者たちくらいだったので、単なる気のせいという可能性のほうが大きかったということもある。
 どちらかといえば、酒の肴的な話として出てきていたので、考助もほとんど気にしていなかったのである。
 それが、今回の件で、フローリアの勘がピタリと当たっていたと思い出したのだ。

 それらの話を考助がすると、シュレインはなんとも言えない表情になった。
「・・・・・・どう考えてもフローリアは引退するのが早すぎたと思うのじゃが・・・・・・」
「同感だね」
 自分でも気づかなかった違和感に気付いたフローリアに、シュレインは脱帽といった顔になり、考助も追随するように頷き、さらに続けた。
「どちらかといえば、引退前よりもそうしたことに鋭く、強くなっている気がするけれどね」
「・・・・・・笑えないの」
 こと人をまとめる、あるいは人の裏を読んで導くといった分野に関しては、フローリア以上の存在を考助もシュレインも知らない。
 敢えていえば、巫女であるシルヴィアが同じようなことをできなくはないが、それはあくまでも神の代弁者としての巫女の立場になるので、まったく性質が違っているのだ。
 シュレインは、とてもではないがそうした分野では、フローリアには敵わないと考えていた。
 勿論、考助も言わずもがなである。

 真面目な顔で頷くシュレインに、考助は笑いながら答えた。
「というわけで、フローリアの勘が当たっていたみたいだから、敢えて話をずらすのもどうかと思ったわけだよ」
「話はわかったのじゃが、そういうことは早めに教えておいてほしかったの」
 ため息をつきながらそう言ってきたシュレインに、考助は肩をすくめた。
「それはどうしようもないよ。僕だって確信をしたのは、さっきの話をしていたときだし」
 いま思えば、イネスの態度がどことなく堅かった気もするが、それはあくまでも初対面で緊張しているからと言われてもおかしくないような感じだった。
 そのため、考助も気付けなかったのだ。
 イネスに続いて、アネタやルーミヤの言葉で、ようやく考助もフローリアの言葉を思い出したくらいだった。
 考助が、あの場であえて話を否定しなかったのは、そうした事情があったのである。

「とりあえず、姫の件についてはわかったがの。・・・・・・できれば勘弁してほしいのじゃが」
 最後に未練たらしく呟いたシュレインに、考助は思わずプッと噴き出した。
 ここまで気弱なシュレインも珍しい。
「大丈夫。そのうち慣れて行くから」
「・・・・・・それは、自身の経験からかの?」
「まあ、そうともいうね」
 考助もまた、現人神なんていう思ってもみなかった存在になっているのだ。
 それでも、いまのようにいれるのは、周囲の存在があったからである。
 それを考えればシュレインもさほど思い悩むことはないと、考助は考えていた。

 いたずらっぽく笑ったあと、考助は「それはそうと」と前置きをしてから別の要件を話し出した。
「錫杖を貸してくれるかな?」
「それは、勿論じゃ。なにか気付いたことでもあったのかの?」
 シュレインにしても錫杖を見たいという考助の要求は、さほど不思議なものではなかった。
 先ほどの話し合いで、錫杖が重要な役割を占めているということはわかっているのだ。
 考助が調べたがるのは当然といえる。

 その予想通り、シュレインから錫杖を受け取った考助は、すぐにアイテムボックスから道具を取り出してなにやら調べ始めた。
 アイテムボックスに入っている道具は簡易的なもので、完ぺきに調べることはできないが、それでもなにもない状態で調べるよりははるかにましなのだ。
 そして、しばらくの間カチャカチャと錫杖をいじくり回していた考助だったが、やがてその手を止めて考え込むような顔になった。
「なにかわかったのかの?」
「ああ、うん。まあ、予想通りといえば予想通りの結果かな?」
「というと?」
「この錫杖、いまだに本来の時間と繋がったままになっているね」
 あっさりとそう言ってきた考助に、シュレインの顔が明るいものになった。
「ということはっ・・・・・・!?」
「うん。まあ、これをたどれば元の時代に戻れる・・・・・・とは思うんだけれど、それをどうすればいいのかはわからないんだよね」
 神域を自由に行き来できる考助でも、時間を飛び越えるなんて真似は未だにできない。
 あるいは、将来的にそんな道具を作ることも可能になるかもしれないが、少なくともいまはできないのだ。

 考助の説明に、残念そうな表情を浮かべつつも、シュレインはすぐに納得の表情になった。
「それは残念じゃが、仕方ないの。いまは、錫杖のことがわかっただけでも良しとしようかの」
「そうだね」
 シュレインの慰め(?)に、考助も小さく頷くのであった。
本人フローリアのあずかり知らぬところで、驚愕する考助とシュレインでしたw
フローリアが現役だったときは、(近しい人を除いて)あくまでも考助のおまけ的存在として見られていたので、当人の能力はほとんど知られていません。
もっとも、本人もそう見られるように誘導していたのですが。
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