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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 錫杖の役割

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(10)ふたつの材料

 儀式によって錫杖が見えるようになったアネタとルーミヤは、ほぼ同時に息を呑んでシュレインと錫杖を見比べていた。
 そのふたりの反応を見て、シュレインが若干間違った解釈をした。
「うむ。どうやらきちんと見えるようになったようじゃの」
「いや、シュレイン。これって錫杖が見えるようになっただけの反応じゃないと思うけれど?」
 シュレインの言葉に、考助が冷静に反論した。
 アネタとルーミヤの視線は、明らかにシュレインと錫杖を交互に見ている。
 もし錫杖が見えるようになって驚いているだけなら、錫杖だけに注目しているはずだ。
 そころが、ふたり揃って同じ反応をしていることから、考助は違うと判断していた。

 そして、考助の言葉とアネタとルーミヤを見たシュレインは、嫌な予感を覚えつつアネタに問いかけた。
「あ~。済まぬが、どういうことじゃろうかの?」
「どうもこうもございません。そのお姿と持っていらっしゃる杖(錫杖のこと)。間違いなく貴方様は、我が一族に伝わっている『始まりの姫』そのものです」
「・・・・・・だからこそ、時空を超えていらっしゃったのですよね?」
 アネタの説明に加えて、ルーミヤまでが確信したような顔になってそう言ってきた。
 ちなみに、このとき傍にはイネスがいたが、そういえば、といった驚きの顔になっている。

 このまま放っておけば、跪きそうな勢いの三人を、シュレインは慌てて止めた。
「少し落ち着こうかの。吾の一族にも『始まりの姫』の話は伝わっておるのじゃが、少なくとも吾とはまったく違った存在じゃぞ?」
 『始まりの姫』は、ヴァンパイアにとって重要な位置を占める存在だ。
 その存在は、ヴァンパイアに儀式の重要性を説き、シュレインの知る後々のヴァンパイアの性質を形作るような教えを広めた存在でもある。
 そして『始まりの姫』自体も強大な力を持っていて、どんなヴァンパイアよりも優れた実力を持っていたと伝わっている。
 勿論シュレインは、その『始まりの姫』が自分だなんてことは、かけらも考えたことはなかった。
 それに、ヴァミリニア一族に伝わっている『始まりの姫』に関する言い伝えと自分は、かなり違っているはずだった。

 だが、そんなシュレインに対して、アネタとルーミヤは強固に反論してくる。
「そんなはずはありません。そもそも姿が一定ではないということも、アムという特徴を考えれば当てはまります」
「なによりも、その錫杖は間違いようがありません」
 姿形は人によって受ける印象が違うため、人づてになればどうしてもバラバラの容姿になってしまうことがある。
 だが、道具に関しては、(神器を除けば)姿形自体が変わるということが無いため、伝わる間にゆがめられるということが少ない。
 それを考えれば、シュレインが持っている錫杖は、間違いなく『始まりの姫』が常に持っていたと言われている物をそっくりそのままだった。

 両者の意見が平行線になりかけたところで、考助が絶妙のタイミングで口を挟んだ。
「言い伝え云々でいうのであれば、シュレインの時代に伝わっている伝聞がだいぶゆがめられているということが考えられるよね。もしくは、この時代よりもあとで生まれるはずのシュレインに伝わらないように、敢えて違った伝聞を伝えるとか」
「コウスケッ!?」
 敢えていま考助が言ったことを考えないようにしていたシュレインは、裏切られたという顔になって考助を見た。
 対する考助は、シュレインを見ながらニヤニヤしている。
 考助が、現人神になったばかりのころ、さんざんからかわれたことがあるので、報復のチャンスなのだ。
 勿論、あくまでも遊び(?)の一貫だ。

 慌てるシュレインとは別に、考助の説明を聞いたイネスたちは、大いに納得していた。
「確かに、それはあり得ますね」
「時代の改変が起こっては大変ですからね」
「対策が必要ね。長老ともきちんと相談しないと」
 イネス、ルーミヤ、アネタの順に発言を行い、そこからさらに具体的な話に移っていった。
 すでに、考助とシュレインがイネスたちから見れば、未来から来ていることは暗黙の了解なので、そこに疑問を挟む余地はない。
 いまのイネスたちにとっては、『始まりの姫』と呼ばれる存在が、時空を超えて過去に来たと言われても不思議なことではない。
 むしろ、『始まりの姫』であると言われたほうが、常識外の事態を起こしていることに対して納得できる。
 彼女たちにとっては、『始まりの姫』とはそういう存在なのだ。

 もはやイネスたちの意思は覆せないとわかったシュレインは、恨みがましげに考助をにらんだ。
 その視線は、はっきりとどうしてくれようと語っている。
 考助は考助で、シュレインの視線に気付きながら、わざとらしく視線を逸らしていた。
 シュレインは、考助を見ながら口の中で「覚えておくのじゃぞ」と呟き、イネスたちを見た。
「まあ、いまはそんなことは置いておくとして、吾らの帰還方法じゃ」
 シュレインがそう言うと、イネスたちはピタリと口を閉じた。
 『始まりの姫』としての効果は、こんなところにも発揮されている。

 彼女たちの対応に内心でため息をつきつつ、シュレインは考助を見た。
「これまでの材料で、なにかわかったことでもあるかの? どうやらこの錫杖がキーになっているようじゃが」
「ああ。やっぱりシュレインも気付いていたのか。僕もそう思うよ。ついでにいえば、大地母神も関係しているかな」
 自分たちの姿を見ることができるのが大地母神の信者で、錫杖でなにもしない状態で見えているのが宝玉となれば、もはや答え合わせも必要がないほどあからさまなヒントになっている。
 とはいえ、大地母神と宝玉をどうやって使えば、元の時代に戻れるのかは、いまのところ考助もわかっていない。
「大地母神に連絡を取れないのですか?」
 『始まりの姫』であればできるのではないかと期待を込めて見てくるルーミヤに、シュレインは首を左右に振った。
「残念ながら、吾が知っている大地母神は、先の時代じゃからの。いま無理に祈りを捧げたところで、話は通じないじゃろう」
「そうだね。・・・・・・というわけで、しばらくは待ちの状態かな? もしくは、まだ材料が足りていないか」

 考助がそう言うと、シュレインが首を傾げた。
「まだなにかあるのかの?」
「どうかな? まだまだ今回の件はわかっていないことが多いと思うけれど、ただ単に元の時代に帰るだけなら十分ともいえるかな? ただ、クラーラからの連絡は必須だけれど」
「そうか。大地母神の連絡が来ないということは、なにかがまだ足りてない可能性もあるのかの?」
「かもしれないね」
 さすがにそうだとは断言できずに、考助は曖昧にそう答えた。
 いまのところはっきりとした答えが出せない以上、半端に答えるしかないのだ。

 いずれにせよ、大地母神クラーラと錫杖の宝玉というふたつの材料が出そろったことは間違いない。
 さすがにこれが外れているとなると、逆戻りどころか精神的にはマイナスにまで落ち込むことだろう。
 そうなると、元の時代に戻ることができるのがさらに遅くなってしまう。
 そうした事態は、できる限り回避したいのだ。
 結果かが出ていない以上、絶対とは言えないのだが、考助のとしては間違いないと思っている。
 ただの勘なのだが、なによりもシュレインがそれを信じていてくれているので、考助もぶれずに思考し続けることができるのである。
なんとなくシュレインを責める(?)回でしたw
『始まりの姫』認定は、ほぼ決定です。
シュレインが何を言っても回り(イネスたち)が、推し進めます。
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