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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 錫杖の役割

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(3)それぞれの様子

 朝。
 庵の中でシュレインと別れを済ませた考助は、彼女のあとから庵を出た。
 そして、時代が違っても変わらない太陽のもとで大きく伸びをしてから呟いた。
「さて、これからどうしたものかな」
 里の中にいるヴァンパイアたちから、自分たちを見つけるようにと言われたわけだが、どうすればいいのかはさっぱりわからない。
 行き当たりばったりで里を歩いていても、見つけられる確率はかなり低いだろう。
 だからといって、この場でうだうだ考えてもいい思い付きが出るとは思えない。

 少しの間その場に立って動かない考助に、それまで黙ってきたミツキが話しかけて来た。
「取りあえず、今後のことも考えて里の見学でもして見たら? それで見つかるとは思えないけれど、ほかの方法が思いつくかもしれないわよ?」
 それを人は希望的観測とよぶのじゃないだろうかと、一瞬考助は考えたが、一か所にとどまっていても意味がないということはわかっている。
 結局、足を動かして歩き回っていれば気分転換にはなるだろうと、ようやくその場から動き始めるのであった。

 
 しばらく里を歩き回っていた考助だったが、やはりというべきか、自分を見ることができる者と会うことはなかった。
 不思議なことに、考助が歩いていてもぶつかるどころか触れるような者もいなかったのだ。
 もっとも、大都市のように、人が多く行き交っているわけでもないので、そもそも他人と触れ合うこと自体が珍しいのだが。
 それはともかく、道を歩いていても、すれ違う者が自分を見てくることは一度もなかった。
 考助がどのように見えるのかは、長老とイネスの違いでまったくわかっていないのだが、少なくともアムであるということがわかれば、注目されることは間違いない。
 ・・・・・・とシュレインが言っていた。
 イネスと出会ったときの反応を思い出せば、なんとなくそのこともわかったので、考助もきちんと納得していた。

 このままだらだら歩き続けていても仕方ないと、積極的に自分から話しかけて行こうと考え始めた考助だったが、それを実行する前に不意に話しかけてくる者がいた。
「あれ? コウスケさん? どうしたのですか?」
 後ろを振り返らなくても、声で誰かはすぐにわかった。
「こんにちは。せっかくだから里を見ようと思ってあちこち歩いていたんだよ。・・・・・・イネスは?」
「私は、師匠の言いつけで、素材の買い取りに行っていました」
 思わず、ギルドに、と答えようとした考助だったが、寸でのところで止めた。
 ヴァンパイアだけの里にあるとは思えなかったし、なによりもこの時代にギルド自体が存在しているかどうかも不明なのだ。
 なるべく不用意なことを言うのは止めた方がいいと考えたのだ。

 とっさに言葉を止めた考助は、不思議に思われないように、別の台詞で誤魔化すことにした。
「やっぱりお得意さんとかは、いるのかな?」
 幸いにして、考助の葛藤(?)は気づかれなかったらしく、イネスはコクリと頷いた。
「はい。外は危険ですから。特殊なもの以外で、簡単に見つけられるようなものは、よく取ってきてもらっています」
 里の外はモンスターが出て危険だとはいえ、肉を得るためには外に出ざるを得ない。
 そうした狩人やハンターたちが、薬師が使うような薬草類を取って来ることもある。
 常備薬などは、そうして手に入れた物から作ることも多いのである。

 ゲルタの庵にいたときに、とてもふたりだけでは手に入れられないような量の素材があることを確認していた考助は、謎が解けて納得顔になった。
「なるほどね。ということは、結構な数回っているんだ?」
 狩りなどの合間に取ってきたものとなれば、数はさほど多くないはずだ。
 だが、ゲルタの庵には、それなりの数が揃っている。
 となれば、人数を多くして賄っているのだろうと考えた考助だったが、イネスは首を左右に振った。
「あ、いえ。急いでいるときは、自分から師匠の庵に持ってくる方もいますから」
「ああ、そういうことか」
 考えてみれば当然、といったイネスの回答に、考助はぺろりと舌を出した。

 そんな(顔ははっきり見えていない)考助の様子を見ていたイネスは、探るような視線を向けて来た。
「うん? どうかした?」
「あう。いいえ。大したことではないんです。コウスケさんはなにをしていたのかと思って・・・・・・」
 考助を見ていたことに気付かれているとは思っていなかったイネスは、ばつが悪そうな顔になって、そう聞いてきた。
「ああ。別に大したことはしていないよ。この里を歩き回って、自分が見れる人がいないかを探していただけだから」
「歩き回って・・・・・・? そ、そうですか」
 ほかにもなにか方法があるのでは、と言いたげなイネスの顔に、考助は思わず苦笑してしまった。
 まったくもって同感なだけに、敢えて言い訳めいたことは言わないでおく。

 そんな考助の考えを知ってか知らずしてか、イネスがふとなにかを思い出したような顔になった。
「あっ! そういえば、明日になれば里の中央でいちが開かれます。そこに行ってみてはどうでしょう?」
「市が? なるほど。それは良いね」
 イネスからの思わぬ情報に、考助の顔がほころんだ。
 通りを歩いているだけでは人がまばらで、あまり効果がないと思っていたところなのだ。
 人が多く集まるであろう市に行けば、いまよりは遥かに効率が良くなる可能性が高い。
 もっとも、里のすべての者が市に集まるわけではないので、効果のほどは推して知るべし、といったところなのだが。

 市の情報を手に入れた考助は、その後すぐにイネスと別れた。
 考助はのんびりと里を歩いているだけだったが、イネスにはゲルタから言いつけられた用事を済まさなければならない。
 考助としては、別に一緒について行っても良かったのだが、イネスから断ってきたのである。

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 考助がのんびりと里を散策している最中。
 シュレインは、長老の庵で文献を漁っていた。
 ただ、漁るといってもこの時代、個人で書物を有していることはほとんどない。
 一応長老は里を治めているだけあって、それなりの数を保有していたのが、シュレインにとっては救い(?)だった。
 ちなみに、シュレインが書物を読みたいと申し出た時点で、長老がこれ幸いとばかりに、自分が持っていない書物を所有している者を紹介すると申し出てきていた。
 シュレインとしてもあり難い限りなので、その申し出を快く受け入れていた。

 丁度シュレインが一息入れていたのを見計らって、長老が話しかけて来た。
「どんな感じかな?」
「なかなか興味深いものが多いの。残念ながら吾らがもとに戻るためにヒントになるような物は、いまのところないのじゃが」
 ため息交じりでそう言ったシュレインの雰囲気を感じ取ったのか、長老はその顔に笑みを浮かべた。
「ホホ。まあ、気長にやっていくしかないだろうな」
 もともと長老は、シュレインが書物を見たいと言ったときに、ヒントになるような物はないはずだと言っていた。
 それでも、とシュレインが言ってきたために、無理に断ることもないと快く了承したという経緯がある。

 シュレインとしてもそう簡単に見つかるとは考えていなかったので、長老の言葉に反発することはなかった。
 それに、長老の庵にある書物の中には、シュレインも初めて見るようなものもあったので、まったくの無駄になっているわけではない。
 むしろ、無事に元の時代に戻れたときには、色々と試してみたいことが増えているのであった。
長老は、シュレインの申し出にかこつけて、以前話し合ったことを実行しようとしています。
シュレインも何となく気付いてはいますが、断ることもない、どころか利になりそうなのでごく普通に了承した、という感じです。
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