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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第4章 錫杖の役割

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(1)女神の検証

 シルヴィアがエリサミール神と連絡を取ってから数時間後には、アマミヤの塔の管理層にクラーラ神が降臨していた。
 ことが起こってからたった数時間の神の降臨に、シルヴィアたちは今回の件が神域でも重要視されていると理解できた。
 硬い表情になっている一同を見回したクラーラは、最後にコウヒに視線を向けて言った。
「ハイハイ。気持ちはわかるけれど、少しは落ち着きなさい」
「しかし・・・・・・!」
 思わずといった感じで反論しようとしたコウヒを、クラーラは右の手のひらを見せて止めた。
「まずは、現場を見たりして検討しないことには、話が進まないわよ。ここで無駄に話をしていていいのかしら?」
 そう問いかけると、さすがの(?)コウヒも黙り込んだ。

 コウヒが静まったのを確認してから、シルヴィアがクラーラを見た。
「クラーラ神は、いえ、神域ではコウスケ様がどちらに行かれたか、わかっているのでしょうか?」
「残念ながらまだよ。そのためにも私が送り込まれてきたのもあるわね」
「そうですか・・・・・・」
 少しでも手掛かりをと考えての問いかけだっただけに、シルヴィアは肩を落とした。

 それを見たクラーラは、優しくシルヴィアに微笑みかける。
「言ったでしょう? まだ(・・)わかっていないって。諦めるのはまだ早いわよ」
「・・・・・・神でも見通せないことはあるということか」
 複雑な表情でそう言ったフローリアに、クラーラは小さく肩をすくめた。
「それはそうよ。特にこういった複雑な事象が起こったときにはね。神域みたいなところから『視る』のは、骨が折れるのよ。だから私がこうして出向いてきたのだけれど」
 女神たちが万能の存在ではないことは、シルヴィアたちにもよくわかっていることだ。
 だがそれでも、と期待してしまうのは、相手が女神と呼ばれている存在だからだ。
 それを理解したうえで、クラーラはさらに続けた。
「さあ。ここでいつまでもいるのは時間が勿体ないわ。まずはことが起こったところに案内して頂戴」
 クラーラがそう言うと、シルヴィアがハッとした表情になって、案内を始めた。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 まず最初に考助たちが消えた部屋に来たクラーラは、辺りを見回してから難しい顔になった。
「・・・・・・やっぱり時間が経ちすぎているかしら? でも、やってみるしかないわね」
 そう言ったクラーラは、ある場所で立ち止まって手をかざしたり、かと思えば別の場所に移動してしゃがみ込んだりと、色々なことを始めた。
 終いには、時々ひとりでブツブツと呟いていたりもしている。
 その行動が、考助たちの行方を探る為のものだということは皆がわかっているので、止めようとする者はひとりもいなかった。
 ひとりで呟いているのは、独り言ではなく神域と連絡を取っていることも、話の内容から推測できる。
「・・・・・・クラーラです。やはりこれだけでは・・・・・・そうですか。畏まりました」
 立ち止まって神域と交信していたクラーラは、そう言ったあとにシルヴィアを見た。
「ミツキの体がある場所はどこかしら?」
「あ、はい。こちらになります」
 問われたシルヴィアは、クラーラから感じた威圧に気おされつつも、なんとか頷いた。
 別にクラーラは威圧をしようと思っていたわけではないが、神域とのやり取りをする際に、神威の一部を開放していたので、それが周囲にも広がったのだ。
 当然、シルヴィア以外にもクラーラの神威は当てられている。

 
 シルヴィアに案内されてミツキが寝ている部屋に案内されたクラーラは、つかつかとベッドに近付いて行き、そこかしことミツキを触り始めた。
 特に念入りに触っているのが額だったのだが、それに意味があったのかどうかはシルヴィアたちにはわからなかった。
 ただひとり、コウヒだけは熱心にクラーラがやることを見ていたので、唯一彼女だけはわかっていたのかもしれない。
 ただし、このときのことは、コウヒは誰にも話をしたりしなかったので、それを知る術はなかった。
 それに、そんなことよりも、先ほどと同じように神域とのやり取りをしていたクラーラが、次に発した言葉のほうが重要だったのだ。

「――――考助たちが姿を消した理由がわかったわよ。ミツキは魂だけだけれどね」
 あっさりと飛び出してきたクラーラの言葉に、一同が目を丸くした。
 コウヒだけはほとんど変化なかったので、これまでのやり取りである程度の推測ができていたのかもしれない。
 一同の注目を浴びる中で、クラーラが衝撃の発現をした。
「どうも、三人揃って過去に行ってしまったみたいね。どうりで私たちが一生懸命探しても見つからないはずだわ」
 過去に行った。その言葉が集まった者たちに浸透するまで、しばらくのときを要した。

「か、過去!?」
 呆然とした様子で、最初に言葉を発したのはピーチだった。
 あの事故が起こったときに、一番間近で見ていたのが水鏡を使っていたピーチだったので、もしかしたらという考えもあったのだ。
 なにしろ、水鏡に映るのは決まって過去の映像だったのだ。それに錫杖が影響されると考えるのは自然なことだろう。
 ただし、まさか本当にそんなことになるとは、まったく考えていなかっただけである。

「そうよ。過去よ。どれくらい前までさかのぼったのかは、もう少しきちんと調べないといけないけれど・・・・・・」
 そう言って言葉を濁したクラーラに、ようやく復活したシルヴィアが首を傾げた。
「けれど、なにかあるのでしょうか?」
「ええ。もしかしたら正確な数字は特定できないかもしれないわね」
 一柱の女神のまさかの言葉に、ほかの者たちの顔はポカンとしたものになった。
 まさか女神がそんな答えを返してくるとは考えていなかったのである。

 呆けている一同とは別に、ひとりコウヒだけは厳しい顔でクラーラに問いかけた。
 コウヒは、この中では一番、女神たちが万能の存在ではないと理解しているため、そうした答えが返ってくることにも耐性があるのだ。
「こちら側から干渉することはできない?」
「そういうことね」
 コウヒの言葉に、クラーラはあっさりと頷いた。

 考助たちが過去に行ったのだとすれば、クラーラたちが存在している時間は、考助たちのいる時間から考えて未来ということになる。
 未来から強引に魔法など(・・)で過去に干渉した場合、本来の未来との大きな齟齬が出る場合がある。
 つまりは、下手にこちらから干渉すれば、未来が変わってしまい、考助たちが未来に戻ったとしても、いまクラーラたちが存在している時空とは別の世界に行ってしまう可能性があるということだ。
 となれば、できることはひとつしかない。
「・・・・・・向こうからの干渉を待つしかない、わね」
 クラーラがそうつぶやくと、一同の表情が暗いものになった。

 だが、そんな彼女たちの表情を見て、クラーラは安心させるように微笑んだ。
「なんていう顔をしているのよ。過去に飛ばされたといっても、行っているのはあの(・・)考助なのよ? さっさと問題を見つけて、シレッとした顔で戻って来るわよ」
 それがたとえクラーラの慰めだったとして、このときの女性陣の反応は明るいものだった。
 ひとりがクスリと笑いをこぼすと、他の者たちにもその笑みは広がって行ったのである。
考「解せぬ」
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