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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 過去へ訪問

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(7)今後について

 考助がやったのは、未来から持ち込んだ道具をいまいる時代でも認識されるようにしたのである。
 そのために、イネスにわざわざ書いてもらったのだ。
 ミギリの葉を使ったのは、あくまでも触媒としてであり、それ自体に意味があったわけではない。
 とにかく、その甲斐あって、無事にゲルタにも考助とシュレインの言葉を伝えるための環境が整った。
「今度は試しにシュレインが書いてみて」
「ふむ。わかったのじゃ」
 ここまでくれば、シュレインにも考助の意図が伝わっているので、すぐに頷いてイネスから筆を受け取って文字を書き始めた。

 ちなみに、シュレインが書いた文字は、普段考助たちが使っている共通文字ではなく、遥か昔にヴァンパイアが使っていた古代文字だ。
《これで、伝わりますか?》
 イネスの手から離れて、勝手に動き出した筆を目を丸くして見ていたゲルタは、書かれた文字を見て大きく頷いた。
「しっかりと見えているな」
《そうですか。これで、わざわざイネスを通さなくとも直接お話できますね》
「そのようだな」
 しっかりと会話が成立していると理解したゲルタは、感慨深げにため息をつくのであった。

 ゲルタにとっては、アルの存在はふたつの意味がある。
 ひとつは言うまでもなく、モンスターとして存在しているレイスである。
 もうひとつは、レイスのようにモンスターとして存在しているわけではなく、様々な目的を持って存在している霊体だ。
 まだふたつの文章を見ただけでしかないが、イネスだけに見えて自分には見ることができないという特異性を持っているのと、きちんとヴァンパイアの文字を使って会話が成り立っていることからも、後者の存在である可能性が高い。
 言い伝えとしては聞いていたが、ゲルタはまさか自分が目の当たりにする(?)とは考えていなかったのである。
 ちなみに、シュレインの時代になると、後者の幽体の存在は普通に認められるようになっていたりする。

 ゲルタが考助たちとの会話の手段を得たことで、ゲルタにとっては誰もいない、イネスが示した場所に視線を向けた。
「まず最初に聞くが、其方らは何者だ?」
《何者だといわれてもの。其方たちは、自分が何者かきちんと答えられるのかの?》
 直球なゲルタの質問に、シュレインは見えないとわかっていても苦笑しながら、そう答えた。
 ちなみに、口調(?)はいつも通りでいいと了解を得ている。
「そういうことを聞きたいわけではない。其方らが我らに害をなす者であれば、それなりの対応をせねばならん」
《なるほどの。じゃが、あまりそれはおすすめしないぞ?》
「どういうことだ?」
 訝し気な顔になるゲルタに、シュレインは少し間をあけてから答えた。
《やろうと思えば、この程度の里など一瞬でつぶせるからの》
 考助がアイテムボックスにしまっている道具を使えば、本当にそれくらいのことはすぐにできる。
 だからといって、いきなりそんなことをするほど考助もシュレインも馬鹿ではないのだが。

 沈黙をするゲルタに、シュレインはさらに続けた。
《イネスの性格から考えれば、其方は敢えて脅すようなことを言っているのだと思うのじゃが、無意味じゃからやめておいた方がよい。それよりも、少しでも建設的な話をした方がいいのではないかの?》
 シュレインは、ゲルタがわざと先ほどのような質問をしてきていると考えていた。
 里のことを考えてのことだとわかるだけに、むやみに悪感情を抱いたりはしない。
 なぜなら、もしシュレインが同じ立場になれば、同じことをするからだ。

 シュレインの言葉に、しばらく沈黙していたゲルタはやがて諦めたようにため息をついた。
「・・・・・・やれやれ。どうにも私は悪役になりきれないな。・・・・・・それで? なにを聞きたい?」
 イネスは気付いていないが、ゲルタはなぜ考助たちが里にまで来たのか、きちんと気付いている。
 シュレインはいつでも里をつぶせると言ったが、そんなことをしなくとも、逃げようと思えばいつでも逃げれるのだ。
 敢えてそうしないということは、なにかほしい物があるということになる。
 幽体になっている考助たちが、食事を必要としているのかはわからないが、それなら最初からイネスに食べ物を求めているだろう。
 そうしないということは、それ以外のなにかが欲しいのだということまで、ゲルタは推測していた。

 ゲルタの態度に笑みを浮かべたシュレインは、さらさらと次の質問を紙に書き始めた。
《この里は、流浪の地かの?》
「いや、違うが?」
 この問いかけに、ゲルタは一瞬訝し気な顔になったが、シュレインは気付かなかったふりをした。
 もっとも、そんなことをしてもゲルタには見えていないので、あまり意味はない。
 ただ、一応イネスもこのやり取りは見ているので、念を入れてのことだ。
 ・・・・・・呆けた顔をしてふたりのやり取りを見ているイネスを見る限り、それに意味があるかどうかは不明なのだが。

 そんなイネスを置き去りにして、シュレインとゲルタの会話(?)はさらに続いていた。
《この里の周辺に、他種族の里や村はあるのかの?》
「・・・・・・いや、ないな」
《この里の名前は決まっているかの?》
「・・・・・・・・・・・・始まりの地、と」
 そのゲルタの答えに、シュレインの筆が止まった。
 ゲルタには見えていないが、シュレインは天井を仰ぎ見たのだ。

 
 少しの間、天井を見たあと、シュレインは考助を見て言った。
「コウスケ、大体の年代がわかったぞ」
「・・・・・・その顔を見る限りでは、あまりよくない結果かな?」
「いいか悪いかはわからないが、思っていた以上、と言っていいじゃろうな」
「なるほどね。それで、どれくらい?」
「百年単位ではすまんの。さすがに万を超えてはいないようじゃが」
 その答えに、考助も先ほどのシュレインと同じように天井を見た。
 その顔は、嘆きというよりも呆れているといった感じになっていた。

 考助とシュレインの会話は、イネスがしっかりとゲルタに通訳している。
「其方らは、もしかしなくとも時の旅人か。しかも、先の」
《まあ、そういうことじゃの》
 ゲルタの言葉に、シュレインが反応してきちんと答えを返した。
 別に自分たちが未来から来たことを隠すつもりはない。
 ただ、大っぴらに広めてしまうとどんな影響を与えるかわからないので、自分たちが未来から来たことを多くの人に広めるつもりはない。
 イネスやゲルタくらいであれば、言っても構わないと考えている。

 シュレインの返答を見たゲルタは、僅かに沈黙した後、大きくため息をついた。
「それはまた。随分と数奇な巡り合わせだな」
《そうじゃの》
「それで? このあとはどうするつもりだ?」
《さて。それを知りたいがために、わざわざこうして話をしておるのじゃが》
「この里で話を聞けば、それがわかると?」
《それも含めての確認、ということじゃの》
 シュレインのその答えで、ゲルタは大きく頷いた。
「なるほどな。少なくとも其方たちの目的はわかった。一応確認するが、いま聞いた話は、里の長老にしてもいいのだな?」
《勿論じゃ。だが、吾らの存在は、あまり広めないようにした方がいいと思うがの》
「それは当然だろう。・・・・・・イネスもわかったな?」
「ひゃっ、はい!」
 突然ゲルタから話を振られたイネスは、少しだけ飛び上がりながらそう答えた。
 その様子を見たゲルタは苦笑し、考助とシュレインは顔を見合わせて笑うのであった。
筆談開始!
ちなみに、シュレインの筆談ですが、文章中では「そうじゃの」とかの短い文章は会話のひとつとしていますが、イネスが口頭で伝えている場合もあります。
一々書くのは面倒ですからねw
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