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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第3章 過去へ訪問

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(6)伝達手段

 イネスが庵の奥に入ってから二時間が経った。
 その間、考助とシュレインは待ちぼうけになっていたのだが、特に文句も言わずに待っていた。
 それもそのはずで、そもそもイネスは、急病の患者が出たからこそ薬の材料を求めて森に入っていたのだ。
 そのイネスが森から戻ったということは、急いで薬を作って、さらにそれを投与しなければならない。
 その間、患者が優先になるのは当たり前のことで、それに対して不満を持つはずもない。
 さらにいえば、ふたりが待っている間、ずっと今後についてどうするのかを話していたわけではない。
 普段、塔の管理層にいるときには話したことのなかったようなことも、ゆったりと話していた。
 そのことが、考助とシュレインにとっては新鮮で、思っている以上に時が過ぎるのが早かったのである。

 三人がのんびりと話をしていると、パタパタと足音を立てて慌てた様子でイネスがやってきた。
「ごめんなさい! お待たせしました!」
「いや。いいんだよ。お疲れ様」
 イネスが忙しいことはわかり切っていたので、考助は気にしないようにと右手を振った。
「それで? 患者さんは助かったの?」
「はい! 薬さえ間に合えば、大変なことになるような病気ではないので」
「それは良かったの」
 イネスの答えに、シュレインが笑顔になって頷いた。

 シュレインに向かっても「はい!」と答えたイネスは、次いで申し訳なさそうな顔になった。
「あの、それで・・・・・・。お師匠様におふたりのことを話したら、すぐに連れて来なさいと言われてしまって・・・・・・いいでしょうか?」
「ああ、それは勿論だよ。勝手に中に入るわけにもいかないし、主の許可が取れているんだったら、ぜひお願いしたいね」
「そうじゃの。吾らも確認したいことがあるからの」
 考助とシュレインの答えに、イネスはホッとした表情を見せつつも首を傾げた。
「確認したいこと、ですか?」
「うむ。・・・・・・できれば杞憂であってほしいのじゃがの」
 そう言って少しだけ顔を曇らせたシュレインに、イネスは疑問の表情になるのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 考助とシュレイン(ミツキも)は、イネスの案内で庵の中に入った。
 庵といっても中はかなりの広さで、玄関のようなものまでしっかりと用意されている。
 その玄関から垂れ幕のような物をどけてさらに進むイネスに、考助たちがついて行った。
「ゲルタ師。連れてきました」
「おお。そうかそうか。・・・・・・・・・・・・それで? どこにいる?」
 考助たちには部屋の中央に座っている老女がしっかりと見えたが、やはりというべきか老女――ゲルタには考助たちが見えないようだった。
「えっ!? どこって、ここにいるじゃないですか!」
 慌ててイネスが考助のいる場所を示したが、ゲルタは首をかしげるばかりだった。

 イネスの様子を見ていたシュレインが、なんともいえない顔で助言した。
「イネスよ。どうやら吾らの姿は、其方にしか見えていないようじゃが? 里の門でもそうじゃっただろう?」
「そ、そうなのですか!? 門ではてっきり私がいるから、なにも言わなかったのかと・・・・・・」
 初めて気付いたと言わんばかりに、イネスは目を大きく見開いた。
「・・・・・・イネスって、もしかしなくてもおっちょこちょいなところある?」
「そんなことありませんよ!」
 思わず考助がぽつりとそう呟くと、イネスは耳を真っ赤にしてそう答えた。

 イネスの様子を見ていてなんとなくやり取りがわかったのか、ゲルタは苦笑をした。
「具体的になにを言っているのかはわからんが、大体わかるというのは、イネスらしいところだな」
「お師匠様!」
「ほっほ。否定はできまい。・・・・・・それよりも、いちいちイネスに訳してもらうのも面倒だな」
 どうしたものかと考え込むゲルタに、イネスは不思議そうな顔をした。
「お師匠様は、信じるのですか? 見えていないのですよね?」
「アムの存在を否定するヴァンパイアは、ひとりもいないだろうさ。それに、もしいなかったとしたら、其方が狂人ということになるだろう? ついさっきまでまともに働いていた弟子を疑うほど耄碌はしておらんよ」
 きっぱりとそう言い切ったゲルタに、イネスは感謝の表情を向けた。
 ちなみに、ヴァンパイアはアルに対する抵抗感も薄い。
 自分には見えないものが他人に見えたとしても、嫌悪の感情を抱く者は少ない。勿論、まったくいないわけではないのだが。

 師匠と弟子の会話を聞いていたシュレインは、考助のほうを見た。
「どうにかならんかの?」
「どうにかって言われてもなあ。・・・・・・あ」
「なにか思いついたかの?」
「うん、まあ。直接言葉を聞かせることは無理だけれどね。――イネス」
 シュレインとぼそぼそと話をしていた考助は、未だに耳を赤くしたままのイネスに声をかけた。
「は、はい!」
「なにか、書く物はない?」
「書く物、ですか。ないことはないですが、あまりたくさんは使えませんよ?」
 そのイネスの言葉を聞いて、考助は難しい顔になった。
 いまいる時代が、紙や筆が高価であると理解したのだ。

「そうなると、自前の物を使わないといけないんだけれど・・・・・・アイテムボックスは使えるかな?」
 この時代に来てから一度もアイテムボックスを使っていなかったため中の物が取り出せるかは、やってみないとわからない。
 早速使ってみた考助だったが、問題なく動いたのを見て安堵のため息をついた。
 そして、中から紙と筆(インク付き)を取り出した考助は、それをイネスに差し出した。
「ちょっとこれに文字を書けるか、試してみて」
「え? あ、はい」
 イネスは首を傾げつつも、考助から紙と筆を受け取った。

 素直に考助から紙と筆を受け取ったイネスだったが、使い方を知らなかったのか、考助に聞いてきた。
 考助は実演しながら使い方を教えつつ、別のことをイネスに聞いた。
「――こんな感じで書けば、文字が書けるから。それよりも、ミギリの葉はないかな?」
「ミギリ・・・・・・ですか?」
 首を傾げるイネスに、シュレインが助け舟を出した。
「この時代だと、恐らくサユと呼ばれているのではないかの?」
「ああ、サユの葉であればあります」
 薬師であれば常用しているだろうと考えての考助の問いかけだったが、それは間違っていなかったようだ。
 時代によっては使っていない葉もあるので、ない場合もあったのだが、今回は幸運が働いたことになる。
 シュレインがたまたま違う呼び名を知っていたことも、運が良かった。

 考助から筆を受け取って、文字を書き始めようとしたイネスの利き手(右手)に、考助がミギリ(サユ)の葉を乗せてちょっとした呪文を呟いた。
 それに合わせるように、ミギリの葉が光り、思わずイネスは「ひゃっ!?」と声を上げた。
「ああ、ごめんごめん。これで大丈夫なはずだから、今度こそなにか書いて」
「は、はい」
 考助に促されたイネスは、頷きながら二言三言、紙に文字を書きだした。

 それまでイネスの不思議な行動を見ていたゲルタは、いきなり机の上に紙が現れたのをみて目を丸くした。
 ゲルタには、イネスが持つ筆や紙が見えていなかったのだ。
「どういうことだ、これは!?」
 驚くゲルタに、今度はイネスが不思議そうな顔を向けた。
「え? 言われた通り、紙に文字を書いただけですが?」
 イネスは、ゲルタには紙や筆が見えていないとは考えていなかったため、そう言うことしかできないのであった。
傍から見れば、不思議な行動をしているイネス。
幸いにもきちんと(?)見られているのは、ゲルタだけですw
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