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塔の管理をしてみよう 作者:早秋

第2章 錫杖の変化

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(9)錫杖の震え

 クラーラのどんな権能が発現するかはわからないと結論付けたシュレインは、当分の間、錫杖の習熟に努めることにした。
 といってもそんなに高度なことをしていたわけではない。
 普段行っているヴァンパイアの儀式や適当な魔術の行使など、普段から錫杖を持ち歩いて、使える場面で使い続けただけだ。
 幸いにして、普段使いの場合は、錫杖も暴走することなく利用することができた。
 最初に使ったときは緊張もしていたが、いまでは硬さも取れて、改良前と変わらないように使えている。
 そんなことをしながら錫杖の改良を行ってから半月ほどが経ったある日、そろそろ新しい儀式でも試してみるかと考えていたシュレインのもとに、珍しい客がやってきた。

「おや。ワンリではないか。なにかあったかの?」
 部下に呼ばれて向かった部屋で、ワンリが待っていた。
 管理層ではちょくちょく会うことはあっても、ワンリがヴァミリニア城まで来ることは非常に珍しい。
「うん。お兄様が、シュレインお姉様に聞くのが良いんじゃないかって、言ってたから」
「コウスケが? なにがあったのじゃ?」
「それは――――」
 ワンリが話し出した内容は、要するに狐のお宿で出す料理の幅を広げたいということだった。
 考助がシュレインを指名したのは、宿場町を運営しているシュレインであれば、料理人の手配もできると考えたためだ。

 ワンリの話を聞いたシュレインは納得したように頷いた。
「なるほどの。確かにそれなら吾に聞くのが一番いいじゃろう」
 シュレイン以外の管理層のメンバーは、基本的に引き籠っているので、外に知り合いが多くいるわけではない。
 それなら、最初から宿の調理を担当しているヴァンパイアやイグリッドを頼ったほうがいい。
 シュレインの様子を見て、ワンリはホッとした表情になっていた。
 それを見たシュレインは、苦笑を返す。
「なんじゃ? 吾が断ると思っていたのかの?」
「そ、そうじゃなくて・・・・・・!」
 シュレインの言葉に、ワンリが慌てたように首を左右に振った。

 なんでもシュレインのいるヴァミリニア城に向かうときに、考助から最近のシュレインは忙しそうにしていると言われたそうだ。
 なんのつもりで考助がそんなことを言ったのかはわからないが、それを聞いたシュレインは、不機嫌そうな顔になった。
「・・・・・・まったく。可愛い妹の頼みを、吾が断るわけがないじゃろうに。コウスケはどういうつもりじゃ?」
「あ、あの。お兄様を責めないで。私が勘違いしただけだから・・・・・・」
 考助はあくまでもシュレインが忙しそうだと言っただけで、頼みごとを聞いてもらえないかもとは一言も言っていない。
 ワンリが余計なことを考えて、勝手に不安に思っていただけだ。
「わかっておる。それにしても言い方というものがあるじゃろうに」
 ワンリの性格は、考助だって十分にわかっているはずだ。
 そう考えて思わずそう言ってしまったシュレインだったが、困ったような顔になっているワンリを見て、ごまかすようにして笑った。
「まあ、それはいまはどうでもいいかの。それよりも、誰を派遣すべきか選ぼうか」
「は、はい!」
 あとで考助をしっかりと締め上げようと心の中で決意しつつ、シュレインがそう言うと、ワンリは素直に頷くのであった。

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 狐のお宿に派遣する料理人は、特に難航することなくすんなり決まった。
 というのも、宿場町の全体を統括しているなかでも、料理全般を請け負っているイグリッドのひとりが、自分が行くと言い出したのだ。
 能力的にも全く問題なく、相手が狐であることも気にしないということで、ワンリもその場で即決していた。
 具体的な話も終わり、実際に料理を教え始めるのは翌日からということになって、担当のイグリッドはすでにその場から去っている。
 そして、あとはワンリが狐の拠点に帰るだけとなったそのとき、シュレインが思ってもみなかったことが起こった。

 ワンリが階層を移動するときは、足が速いということで狐型になっている。
 当然このときも、拠点に戻るために狐の姿に戻った。
 すると、それに呼応するように、シュレインの傍に置いてあった錫杖が反応した。
 具体的には、脇に立てかけてあった錫杖が、小さく震え出したのだ。
「ワ、ワンリ、ちょっと待つのじゃ!」
 何気なく震える錫杖を見つけたシュレインは、錫杖のことにはまったく気付かずに部屋を出て行こうとしたワンリを慌てて呼び止めた。

 部屋を駆けだそうとしていたワンリは、シュレインの呼びかけにすぐに足を止めて、どうしたのという感じで近寄ってきた。
「ああ、すまないの。少し確認したいことがあっての」
 シュレインはそう言いながら錫杖へと手を伸ばした。
 錫杖が震えたのは一瞬で、すでにいつも通りの状態に戻っている。
 それだけを見れば先ほどの変化は目の錯覚とも思えたが、間違いなく錫杖は震えていた。
 ここ最近、ずっと錫杖に触れ続けていたシュレインだったからこそ、気付けたと言ってもいい。

「いったい、なにに反応して・・・・・・。いや、ここで考えていても仕方ないかの」
 一瞬思考の渦に巻き込まれそうになったシュレインだったが、おとなしく待っているワンリに視線を向けた。
「すまないが、もう一度人型になってもらってもいいかの?」
 申し訳なさそうに言ったシュレインだったが、ワンリは特に嫌がることなくすぐに人型に変化した。
 すると、やはり先ほどと同じように錫杖が少しだけ震える。
「・・・・・・やはり間違いではない、ということかの」
 ワンリが変化するときに錫杖が震えていることは間違いない。
 だが、それがなぜ起こっているのかまでは、見当が付かなかった。

 少しの間考え込むシュレインを見ていたワンリは、数分ほど経ったところで話しかけることにした。
「シュレインお姉様、どうしたのですか?」
 ワンリのことを一瞬忘れてしまっていたシュレインは、その声でハッとしたように錫杖から視線を外してワンリに戻した。
「いや、すまないの。ワンリの変化に、この錫杖が反応しているようじゃ」
 そう前置きをしたシュレインは、もう少し詳しく錫杖の震えについてワンリに説明をした。

 シュレインの説明を聞いたワンリは、少しだけ考え込むように首を傾げて、
「お姉様、お時間がよろしければ、私たちの拠点に行きませんか?」
 ワンリがそう言って提案したのは、他の狐の変化でも錫杖が同じように震えるかを確認するということだった。
 もし、他の狐でも震えるようであれば、狐の変化に錫杖が反応していることになり、そうでない場合は、ワンリの変化だけに反応していることになる。
「それはむしろ吾が頼みたいのじゃが・・・・・・いいのかの?」
「構いません。それに、私ももしかしたらと思うところがあるので」
 ワンリは頷きながら、首から下げている勾玉を指した。
 ワンリはワンリで、錫杖の震えが勾玉に反応しているのではと推測しているのだ。

 ワンリの仕草でその考えを理解したシュレインは、一度だけ頷いてから答えた。
「そうか。それが一番確実そうじゃの。済まないが、いまから頼むのじゃ」
「はい。それでは行きましょうか」
 そう言ったワンリはくるりと振り向いてからもう一度狐の姿に戻る。
 やはりそのときにも震えたので、シュレインもすでに錫杖がワンリの変化のなにかに反応しているのは間違いないと確信していた。
 そしてシュレインは、狐の姿に戻った(?)ワンリのあとについて行き、狐がいる拠点へと向かうのであった。
ワンリ登場! モフモフ。
ついでに神器の勾玉も久しぶりに登場ですw
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