第87話 ルファスのきあいパンチ カルキノスはたおれた
投稿し終えてから気付く事実――しまった! 今日は土曜日だ!
という事で今回だけは土日投稿とし、月曜は投稿しません。
やってしまった……orz
「ごめんなさい」
目の前で土下座する馬鹿三人――アイゴケロスとスコルピウス、カルキノスを前に、俺は頭を抱えたくなった。
一体何から話せばいいものやら……とはいっても、そう長い話にはならないだろう。
まずそうだな、スコルピウスと一緒に『射手』を探していた所から説明しよう。
まあ、これといって語る事はない。情けない話だが俺達は結局何の手掛かりも得られなかったのだからな。
で、とりあえず一度皆と合流しようと考えた時に、山からあの水が流れてきたわけだ。
そこまでは別にいい。いや、全然よくないんだがぶっちゃけあの程度はどうとでもなる事だ。
錬金術で壁を造ってもいいし、拳の風圧で吹っ飛ばす事だって出来る。
ま、あれだ。魔神王さんと戦った時に空振りで海が割れたりしたが、あれの応用だな。
問題は水を消す為に周囲のマナを取り込んでアイゴケロスが巨大幻影を出した事に端を発する。
更にアリエスが巨大化したのも不味かった。
それを見たスコルピウスが何やら対抗心を燃やして意味もなく巨大化し、更に森にいたカルキノスも一緒に巨大化した。
何故わざわざここで大きくなったのかを問うてはみたが、帰って来た答えがこれだ。
「つい、ノリで」
俺はカルキノスを思いきりド突いた。
そんなわけでドラウプニルにでかい蟹と蠍と山羊と羊が登場する大惨事になってしまい、俺は慌てて現場に急行してこのアホ共を叱ったわけだ。
いや本当、どうするんだよこれ。ドラウプニルの獣人の皆さんが完全に怯えてるじゃねーか。
アイゴケロスなんか無意味に天候まで変えてくれやがって、せっかくの晴天だったのを今や禍々しい暗雲が覆っている。
どうでもいいがこれは月属性魔法の『ムーンリットナイト』といい、ゲームでは昼夜を逆転させるという設定の魔法だった。
エクスゲート・オンラインは現実の時間とリンクして早朝、朝、昼、夕、夜、深夜の六段階に明るさが変化し、時間帯によってイベントや出て来る魔物の種類が変わったりする。
あるいは同じ魔物でも出現地点が変わったりな。
例えば日中は活発で夜になると寝静まるなんて設定の魔物は夜になるといくら草原や森を探しても見付からず、洞窟の中に出てきたりするわけだ。
ついでにそういう奴は大体戦闘開始して最初のうちは寝ているので夜のINは狩りが楽になるというメリットもある。
で、プレイヤー側に一種類だけこの時間帯の影響をモロに受ける種族が存在した。
そう……夜の貴族『吸血鬼』だ。
彼等は夜のINだとアホみたいに強いのだが、朝や昼だとステータスにマイナス補正がかかってしまう極端な連中で、当然のように運営へ「このクソ仕様どうにかしろよ」とのクレーム……もとい要望が殺到した。
そりゃそうだ。いくらアバターが吸血鬼だからってプレイヤーは吸血鬼じゃない。
これに関しては、そもそも吸血鬼を選ぶ方が悪いという意見もあったんだが他にもIN出来る時間が限られているプレイヤーにとってもこの仕様は面倒だった。
リアルの事情でどうしても昼しかIN出来ないとか、夜しかIN出来ない奴ってのはいるからな。
で、運営が仕方なくアップデートで加えた修正が昼夜逆転の魔法やアイテムなわけだ。
勿論本当にゲーム内の時間帯が変わるわけじゃない。
そんな事してたら何人ものプレイヤーが何度も何度も昼夜を入れ替えるせいで昼と夜が頻繁に入れ替わる大混乱を起こしてしまうし、そんな事をやってたらサーバーの負荷もやばい。
要するにこれは実際に昼夜が入れ替わるわけじゃない。あくまでそれらの時間帯の効果を得られるってだけの話だ。
例えば昼にこれを使えば本来は夜しか出てこない魔物が付近に出易くなったり、吸血鬼なら昼でもマイナス補正がかからなかったり、だな。
――もっとも……この『ゲームの知識』ってやつは最近どうも信用出来ない。
語っている俺自身、実のところこれおかしいんじゃないか? とは薄々は思っている。
だって、なあ……? ありえるのか、こんな滅茶苦茶なゲームって。
……っと、話が逸れたな。一度考え始めると長々と余計な事まで補足してしまうのが俺の悪い癖だ。
ともかく本来は昼夜が入れ替わるはずもない魔法なのだが、やはりこの世界にそんなゲーム内の常識は通じないらしい。
アイゴケロスはマジで世界を夜へと変えてしまい、空はこの世の終わりのような暗黒で包まれている。
てーか、あれだな。星の回転とかマジにどうなってるんだこの世界。
一瞬で昼夜が入れ替わるって事はつまり星が凄い速度で回転したって事なわけだが、自転速度変えるってやばいだろ……常識的に考えて。
そもそも惑星の自転は慣性の法則で回っているわけで、一度速度を変えたらずっとそのままになると思うんだがな。
例えば地球なんかも、昔は一日が五時間しかなかったという説もあるが、あれは除々に自転速度が緩んでいき、今の二十四時間になっているらしい。
だから遠い未来には更に一日の時間が延びるかもしれない……っと、また脱線したな。
ま、あれだな。やっぱこの世界、物理法則さんが全然仕事してねーわ。
頭の悪い俺でも解るくらいに色々おかしい。流石ファンタジーだ。
それとスマン。最初に『そう長い話にはならないだろう』と言ったがありゃ嘘だ。少し長くなっちまったな。
「仕様のない者達だな……で、リーブラ。何故其方まで頭を下げている」
俺は風でめくれてしまったローブを戻しながらリーブラへと尋ねる。
俺が現在叱っているのは巨大化した三馬鹿であってリーブラではない。
しかし何故か彼女は俺に頭を下げており、それが疑問を誘った。
「いえ、こうした方が絵になると思いまして。あそこで見ている勇者一行への牽制にもなりますし、マスターの強大さをアピールする事も出来ます」
「ちょ!?」
リーブラに言われ、俺は慌てて遠くを見た。
マジだ。本当にいるよ、勇者一行。何か凄い怯えた顔でこっち見てるよオイ。
これ完全に俺等侵略者じゃねーか。勇者一行の前に突然出てきた敵キャラ集団にしか見えないだろこれ。
アイゴケロスのアホがさっき余計な事口走ったせいで獣人達もすっかりびびってるし、また俺のイメージが悪化したじゃないか。
んー、これどうするかな……敵じゃないよ、怖くないよって言っても説得力ないよなあ。
「んん?」
そんな事を考えていた俺だが、ふと妙な事に気が付いた。
いや、妙な事と言う程でもないのだがやはり客観的に俺達を見れば『彼』の行動は妙なものだろう。
何故か勇者一行の中にいた勇者らしき少年がこちらへと歩いて来ているのだ。
何だ? まさかここで俺に挑むつもりか?
少年よ、そりゃ悪いが勇気じゃなくて無謀だぞ。いくら相手が勇者でも流石にレベル30ちょっとじゃ負けようがない。
まあ、とりあえず出方を見るかな。もし本当に斬りかかって来ても今の実力差ならまだ全然問題ないし。
その時は軽く流して気絶でもさせてやろう。
*
心臓が五月蝿い。
手に汗が滲んで、まだ何もしていないのに息が切れる。
仲間達の制止を振り切って瀬衣が訪れたのは魔神王と並び立つと呼ばれるミズガルズの巨悪、ルファス・マファールとその配下達の目前。
幸いにして今の所、覇王はこちらを殺す意志がないと解る。
もしも彼女がその気ならば、自分の首はもう胴体と繋がっていないはずだからだ。
突然のルファスの出現に、正直に言って瀬衣は怯えた。
今更取り繕う事など出来るはずもなく、心底恐れた。
だがかろうじて彼を踏み止まらせたのは、そもそもここに来た目的が覇王の情報を集めるため……つまり彼女と会う事だったからだ。
そうだ、メグレズに言ったではないか。あの賢王が教えてくれたではないか。
ルファス・マファールは敵ではないと。
ならば……ならば逃げるな。相手から逃げて和解は有り得ない。
こちらから歩み寄らなければ何も変わりはしないのだ。
「……ルファス・マファール……さん、ですね?」
「ふむ。どうやら既に気付かれているようだな。ならば顔を隠す意味もないか」
瀬衣の絞り出すような問いにルファスは何の緊張もなく答え、顔を隠していたローブを外した。
すると黄金の髪がこぼれ、絶世の美と呼んで過言ではない顔立ちが露になる。
見た目は……そう、見た目だけは本当に美しい女性だ。
華奢で、麗しく、男なら守ってやりたくなる。
だがそう思わせないのは、彼女が纏う強者のオーラのせいか。
外見と存在感が一致しない。まるで幻か何かで美しい女性を見せられているだけで、実際はあの巨大悪魔などよりも更に巨大な大怪獣か何かと対面しているのではないかと錯覚させられる。
なまじ、半端に強くなってしまったからこそ以前より鮮明に解る。解ってしまう。
これが覇王。これがレベル1000。これがミズガルズにおける強さの最高峰!
改めて、覇王打倒の為に自分を呼び出したレーヴァティンの判断が根本から間違えていると確信出来る。
これと戦うなど、正気の沙汰ではない。
仮に自分ではなく、現代日本の自衛隊を全武装をセットで召還したとして果たして勝負になるかどうか……否、無理だ。それでも勝てる図が思い浮かばない。
この女は単騎の暴力だけで地球の一国が保有する軍事力すら易々と上回っている。
核兵器ですら殺せるかどうか……。
比喩ではなく、一人で全世界を敵に回せるのがルファス・マファールなのだ。
しかも部下である覇道十二星まで集まっており、確実に全盛期に戻りつつある。
(……呼ばれたのが……俺でよかった)
今、心底思う。召喚されたのが自分でよかった。
勇者には相応しくない臆病者の自分でよかった。
もしも他の誰か……ルファスと戦う道を選んでしまう『勇気』ある者、即ちこの世界にとっての正しい真の意味での勇者を召喚してしまっていたならば、確実に世界は終わっていた。避けようもない破滅の未来が確定していた。
女神と魔神族と覇王。この三勢力を同時に敵に回して人類が生き残れるわけがない。
あの召喚はきっと大失敗だったのだろうが、失敗したのが結果的にはよかった。
今のミズガルズに巨悪に勇敢に挑む勇者など、呼んではならない。
(ま、贅沢を言うなら俺なんかじゃなく、もっと頭が切れて冷静で、場を見極められて交渉力もある……そんな奴が呼ばれた方がよかったんだろうけどな)
瀬衣は思う。客観的に見て自分は恐らくベターといったところだ。
最悪ではないが最善でもない。呼ばれてはならない人間ではないと思いたいが、呼ばれるべき人間でもない。
ともかく、呼ばれてしまったのは自分なのだ。
ならば自分は自分にしか出来ない事をしなくてはならない。
この世界の人間ではきっと考えもしないだろう、ルファス・マファールとの和解。
それを行う義務が己には生じている。
「異界の子よ。そう固くならずともよい。
こうして余の前に単身出向くとはなかなかどうして、見所がある」
「!」
瀬衣は思わず息を呑んだ。
開幕にルファスが口にした『異界の子』という言葉に驚かずにはいられない。
一体何故なのかは分からないが、自分の正体がいきなりバレている。
やはりこの女は底が全く読めない。
「さあどうした? 話したい事があってここまで来たのだろう。
何でも問うてみよ。余は今、気分がよいのだ。大抵の事には馬鹿のように答えるぞ」
ルファスがクスリ、と妖艶に哂う。
試されているのか、それとも本心なのか。
どちらにせよ、せっかく問いを発する権利を貰えたのだ。
ならば気が変わる前に尋ねてしまうべきだろう。
「で、では、お言葉に甘えて……」
ゴクリ、と唾を飲み込んで必死に頭の中で質問内容を纏める。
ただ纏めるだけでは駄目だ。それを口にした結果まで予想し、ともかく不興を買って殺される結果だけは避けて通る。
だが安全策ばかりでは重要な情報は得られないし進展もしない。
だから考えろ。今自分が使える武器はこの出来の悪い脳味噌だけだ。
他の武器など何一つとしてルファスには通じない。
忘れてはならない……目の前のこの美しい女は、その気になれば戯れで人を肉塊に変えてしまえるのだという事を。
「では、まず……貴女達は、これからこの国で、一体何をしようとしているのでしょうか?」
さあ、ここからが本番だ。
そう強く心に言い聞かせ、瀬衣はいつ落ちてもおかしくないギリギリの綱渡りを一人で行う決意を固めた。
リーブラ「ところでディーナ様、今回冗談抜きで空気でしたね」
アイゴケロス「台詞どころか名前すら出なかったな」
カルキノス「背景さんマジ背景さん」
ディーナ「じ、次回は喋りますから! ちゃんと出ますから!」
【IF・もしも瀬衣曰くの『真の勇者』が召喚されていたら】
1
つかう>つるぎ
しんのゆうしゃ『 わたしは つるぎの はを ひだりむねに ついた。
…ドクドクと ちが わきでてくる!! ああ!! なんて おろかなのだ。
じぶんの いのちを じぶんで たってしまうとは!!
…わたしなきあとの せかいは やみに つつまれて しまうであろう…。
ざんねん! わたしのぼうけんはこれでおわってしまった!!』
ルファス「…………(゜Д゜)」
ディーナ「…………(゜Д゜)」
2
いどう>川の中
しんのゆうしゃ『ドッボーン!! わたしは いきなり かわのなかへ とびこんだ。
ひえーっ!! つめたいっ!!
あまりの みずの つめたさに わたしの からだは たちまち マヒしてしまった。
おもうように からだが うごかない!! もがけば もがくほど しずんでいく!!
ふかい!! そこなしのように ふかい かわだ。
ざんねん! わたしのぼうけんはこれでおわってしまった!!』
ルファス「…………こいつは先程から何なんだ?」
ディーナ「わ、私にも分かりません。いやガチで」
3
つかう>たいまつの炎>油
しんのゆうしゃ『あぶらに ひを つけた。 …あぶらは たちまち ほのおに かわった。
うおーっ!! もえあがる ほのおの いきおいで
たいまつを もつ てに ひが!!
いったん ひがつくと もう ふせぎようがない。 このまま ほねまで やけこげてしまうだろう…。
ざんねん! わたしのぼうけんはこれでおわってしまった!!』
ルファス「…………さ、次の街へ行くか」
ディーナ「そうしましょうか」
――BAD・END 和解ルート消滅