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第53話 れんきんじゅつのちからってすげー!

※お知らせ※

いつも『野生のラスボスが現れた!』をお読み頂きありがとうございます。

いよいよ明日、2/15に発売となりますので、もしよろしければ打ち切られてしまわない程度に買ってあげて下さい。

 ミズガルズの建造技術は一部において地球のそれを上回る。

 地球にはない錬金術というファンタジーな力が存在する故の優位であり、普通に考えれば無理だろうと言いたくなるような物だろうと錬金術ならば建造可能だ。

 例えばあの無駄にでかい王墓だって錬金術があったからわずか十年で建造されたが、もし同じものを地球で造ればもっと時間を要しただろう。

 とはいえ、何事にも限度というものがある。

 いくら錬金術でも、何でも出来るわけではないのだから出来る事の限界というのは存在するはずだ。

 しかし、世の中には天才と呼ばれる天災が稀に誕生する事も事実であり、そうした連中は時に常識を無視して盛大なコースアウトを決めた挙句、誰も予想していなかった領域へと着地してしまう。

 つまりはあれだ。ミザールという男もまた、その類だったのだろうと……俺はそう、思い知らされていた。


 田中で移動する事数日。

 俺達が辿り着いたそれは巨大な……というか巨大過ぎる城らしき建造物であった。

 高さは天まで届くほどに高く、長さはどう見ても1キロは超えている。

 いや、というか城か? あれ。

 何かあちこちから砲門出てるし、あれじゃまるで戦艦だ。

 それを見て呆然とする俺に、ディーナが声をかけてくる。


「見えて来ましたよ。あれが次の目的地である『機動王都ブルートガング』です」

「……機動……王都?」

「はい。鍛冶王ミザールの最期にして最大の作品。それがブルートガングです。

全高300m、全長1100m、全幅400m。オリハルコンを使ったあのゴーレムのレベルは770に達し、魔神族の侵攻を全て跳ね除けてきました。

中は十五階層に分かれ、居住区や商業区などがあるそうです」


 王都そのものが巨大兵器とか、何それ怖い。

 本来ならば侵略対象である王都が自ら攻撃してくるとか、誰が想像するんだよ。

 しかもレベル770の課金アイテム仕様とか洒落にもならん。

 というかミザール、お前だけ世界観間違えてないか?

 どっちかというとあれ、宇宙で戦争とかしてるロボットアニメに出て来るべきゴーレムだろ。

 何でファンタジーで超巨大戦艦作ってるんだよ、あいつ……世界観考えろよ。


「王都そのものをゴーレムにするか……レヴィアにも驚かされたが、あれはそれ以上だ。

ここは流石鍛冶王というべきかな」

「ふわあ……お、おっきいですね」


 俺の隣でウィルゴが口を開けて呆けている。

 純白の翼がせわしなく動いており、どれだけ興奮しているかが簡単に見て取れる。

 アリエスやアイゴケロスは既に知っている事なのか無反応であり、リーブラは心なしか得意そうに見えた。

 ああ、そういやミザールはこいつの親みたいなもんだったか。


「まあ見ての通りのゴーレムですので、物理的な攻めには滅法強いです」

「確かに。あれではアリエスやリーブラでも倒すのには苦労するだろう」

「有事には人型形態に移行しますので殴り合いも出来るそうですよ」

「もはや何でもありだな」

「ええ。ですがスコルピウスとの相性は……」

「最悪、というわけだな」

 

 ブルートガングはゴーレムだ。だから毒など通じないし、そういう意味ではスコルピウスに対して有利だ。

 しかし中にいる国民達はそうもいかないだろう。

 いかにブルートガングが強固だろうと中の住人が毒で全滅すればそれはもう実質的な敗北だ。

 むしろゴーレムの中などという閉鎖空間では逃げる場所すらなく、簡単に毒は充満してしまう。

 どうやら、急いでここまで来たのは間違いではなかったらしい。


「ルファス様、お召し物はどうしますか?」

「ドワーフ達の寿命はそう長くなかったな。ならば翼を隠せば問題ないだろう。

今回はメグレズから貰った方の衣装で行こう」


 リーブラの問いに、俺は以前メグレズから貰った衣装をセレクトする。

 外に出る際の俺の服装は外套による不審人物モードか、メグレズから貰った包帯で翼を隠して堂々と出るかの二択だ。

 前者は翼が見られる事はほとんどないが、その代わりどう見ても不審人物なので初見で怪しまれる。

 後者は一見すると不審者に見えないが、俺の顔を覚えている奴と出会うと不味い。

 どちらも一長一短で、使い分ける必要がある。

 だが相手が俺の顔を覚えていないならば、下手に危機感を煽る外套ガードよりは翼を隠して堂々と行った方がいい。

 不審者というのはコソコソするから逆に怪しいのだ。

 アイゴケロスに後ろを向かせてから着替えを始めると、慌てたようにアリエスも後ろを向く。

 あ、やべ、こいつも♂だった。見た目が完全に女の子だから忘れてたわ。

 不思議そうにするウィルゴに、リーブラが「あれは雄ですよ」と説明している。


「あ、ルファス様。田中に乗ったまま進んで大丈夫ですよ。

ブルートガングにはゴーレムを収納するドックもちゃんとありますから」

「ほう、それは便利だな」


 ディーナに言われるままに今回は田中から降りずに前進する。

 そうして城の前まで行くと、ガシャガシャと音を立てながら歩く鎧が城から出てきた。

 多分ブルートガングの警備ゴーレムだろう。

 パッと見たところ、平均レベルは大体50ってところか。こいつらはミザール製ではないな。


「止マッテ下サイ。来国理由ト通行証ノ提示ヲ、オ願イシマス」

「自由商人のディーナでございます。商売の為に参りました。通行証はこちらに」


 ディーナが答え、通行証を警備ゴーレムの目の部分に翳す。

 するとゴーレムの目の部分が青く光り、ピーッ、という間抜けな音が出た。

 通行証のスキャンでもしているのだろうか?


「通行証ヲ確認シマシタ」

「続イテ、ごーれむノ中ノ確認ヲシマス」


 警備ゴーレムがそう言うと同時にディーナは田中から降り、俺達全員を手招きする。

 中の確認が終わるまでは外に出ていろという事か。

 ここは反発する理由もないので、全員が素直にディーナに従った。


「ゴーレムの中を点検して、危険物を持ち込まないようにしているんですよ。

強固な守りを誇るブルートガングの最も警戒すべき事は魔神族や、その手の者が内部に侵入する事ですからね。

それと、ユピテルみたいに人間に変装してくる輩も大体ここで捕まります」

「なるほど。しかしそれだと、リーブラが引っかからないか?」


 リーブラは見た目こそメイドだが、その中身は武器庫もビックリの兵器だらけだ。

 機関銃などは元より、リーブラ自身が内蔵している武装なども余裕でアウトだろう。

 いわば歩く危険物そのものであり、どう考えても入れるわけがない。

 と思ったのだが、警備ゴーレム達がリーブラに対し何かを言う事はなかった。


「ご安心下さいマスター。私と彼等とでは出来が違います。

表面しかスキャン出来ないような粗悪品のゴーレムでは私の武装を見破れません」

「そ、そうか」


 うん、やっぱこいつ危険物だわ。

 何が怖いって、こういうチェックにも引っかからないからこそ怖い。

 しかし引っかかりそうなのはリーブラだけではない。

 アイゴケロスは影の中なので特に何も言われないだろうが、問題はアリエスだ。

 しかし警備ゴーレム達はアリエスに対しても何も言わず、通行許可を出してしまう。

 その事を俺が不思議に思っていると、ディーナがドヤ顔をしている事に気付いた。


「ステータスの隠蔽を使ったか?」

「いぐざくとりー」


 どうやらディーナがチートを使って上手く誤魔化してくれたらしい。

 やっぱこいつ、こういう場面だと本当に頼りになるな。

 ゴーレム達に見送られながら俺達を乗せた田中はゲートを通り、ブルートガングの中へと進んで行く。

 360度くまなく鋼鉄に囲われたゲートを潜ると、道の先で案内役だろう、作業服を着たドワーフにハンドシグナルで止められた。


「おっと、ゴーレムはこっちで預からせてもらうぜ。王都の中はゴーレムでの移動禁止だ」

「わかりました。皆さん、ここからは徒歩で行きましょう」


 ドワーフに田中を預け、俺達は王都へ続くのだろう巨大な扉の前に立つ。

 するとドワーフが扉の隣に付いていたスイッチらしきものを操作し、扉が重い音を立てながら解放された。

 巨大な扉が左右に分かれ、ブルートガングの内部を俺達に晒す。

 そこにあったのは、見紛う事なき街であった。

 本物の空を真似て描かれたのであろう青く塗装された天井に、そこから降り注ぐ人工の光。

 面積は縦1100m、幅400mくらいで決して広いとは言えないが、所狭しと建物が並び、大通りや公園、店と思しき物すらある。

 天井もかなり高く、目視で見た感じ20mはあるだろうから、圧迫感や閉塞感はあまりない。

 それどころかアパートやマンションのような集合住宅も見られ、ここがゴーレムの中だと忘れてしまいそうなほどだ。

 好奇心を抑えられずに周囲を見回す俺に、珍しくディーナではなくリーブラが説明を始めた。


「ブルートガングの全十五階層のうち、八階までは全て居住エリアとなっております。

それぞれの街の呼び名は第一(かい)、第二(かい)というように呼称され、九階から十階までが商業エリア。様々な店舗が並びます。

十一階から十三階がオフィスエリア。ブルートガング内における会社などは全てここに集約され、主に工場や物流倉庫が大半を占めます。

十四階は王室エリア。王族か、彼等が認めた者のみが入る事を許される場所です。

そして十五階はブルートガングのメインとなる操縦室があり、極一部の者しか立ち入る事は出来ません。ミザール様の造った高レベルゴーレム達もここに収納されています」

「詳しいな」

「ブルートガングは私にとって弟のようなものですから」


 でかい弟だな、おい。

 そう突っ込みたくなるのを何とか抑え、相変わらず無表情のリーブラの横顔を見る。

 大きさも造りも違えど、リーブラもブルートガングもミザール製という点では共通している。

 恐らく彼女なりに何か思う所があるのだろう。


「で、この王都のどこかにカルキノスがいると……それは間違いないのだな?」

「はい。今度こそ間違いなく」


 俺の問いに、ディーナがわざわざ『今度こそ』を強調して話す。

 前回はパルテノス健在と言っていたくせに、いざ到着してみたら死んでいた。その事をディーナも少しは気にしていたのだろう。

 俺としてはディーナと言えど決して完璧ではないという事が分かって逆に親しみのようなものを覚えたのだが、わざわざそれを言う必要もないか。


「ふむ。とりあえずまずは腹ごしらえと行こうか。

幸い、居住エリアにも飲食店はあるようだしな」

「初期の頃は飲食店も商業エリアに設置されていたようですが、移動が面倒だという住民からの苦情があり、今のように飲食店や一部の雑貨屋は居住エリアに移ったようです」


 リーブラの説明を受けながら、街中を歩く。

 今まで見てきた街などと比べると、建物なども含めてかなり近代的だ。

 勿論現代日本とかに比べればまだ古臭い感じは否めないが、それでも中世という感じではない。

 そうだな……近世ってところか?

 18世紀から19世紀くらいのロンドンの町並み……ってのが一番イメージに近いだろうか。

 勿論全てがそうってわけじゃない。あくまで俺の知識と照らし合わせて、一番言語化しやすい例えにしただけだ。

 だから当時のロンドンみたいに橋があちこちにかかっているわけじゃないし、そもそも橋が必要なほど大きい池や湖なんてものはない。小さいのならあるがな。

 建物の大きさも天井の高さという限界があるから、どうしても小ぢんまりとしてしまう。

 ま、それはいい。ともかく今は何か食べたい。

 別に食べてないわけじゃないんだが、旅という性質上、どうしても田中に積む食料は保存性に優れた物が大半になってしまう。

 一応冷蔵庫もどきもあるにはあるが、本物には届かない。

 そもそも俺が冷蔵庫の仕組みをよく知らないから、適当に密封性の高い箱作って、そこにディーナが水魔法で創った氷をブチ込んでるだけだし。

 これじゃ冷蔵庫じゃなくてクーラーボックスだ。

 無いよりはマシだが、何か違う。コレジャナイ。

 そんなわけで、街や村に寄る事があったらなるべくそこで食べて行く方がいいわけだ。

 美味い物を食べた方がストレスも溜まらない。必然の道理だ。


「あ、ルファス様。こことかお洒落でいいんじゃないですか?」

「ふむ。余としてはその向かい側にある蟹の看板の店も捨て難いが」


 ウィルゴが指差したのは、この街では珍しい木造りのお洒落な店だ。

 店の前には植木鉢が並び、いい感じのアクセントとなっている。

 しかし俺としては、こんなゴーレム内にも関わらず海の幸であるはずの蟹の看板を掲げている建物が気になって仕方ない。

 とはいえ、せっかく仲間になったばかりのウィルゴが自己主張しているのだし、ここは俺が折れてやろうか。

 蟹の方はまた今度、機会があった時に行けばいい。


「しかし、こちらの店も確かに悪くないセンスだ。

今回はこちらに行くとしよう」

「やった!」



 ウィルゴは子供っぽいという点ではアリエスに似ているが、アリエスと違って大分明るい性格のようだ。ハキハキとしており、実に微笑ましい。

 むしろアリエスは少し内気すぎるので、彼女を見習ってもらいたい。

 そんな事を考えながら俺は店のドアを開け、中へと入って行った。

 さて、変な料理が出てこないといいが。



【機動王都ブルートガング】

鍛冶王ミザールが全盛期に遺した最期の作品。

全高300m、全長1100m。人型形態移行時は全高1100m、全長300mへ変化する。

200年前に己の精神異常を察したミザールが正気を保っているうちに全霊を注いで造り上げた、『己が弱体化、死亡した後の為の護り』。

無理矢理詰め込めば数百万人を収容出来るスペースと自給自足も可能な農業プラントを備え、王都自らが緊急時には自ら移動しての戦闘、あるいは撤退を行う。

中にはドワーフ達が造ったゴーレム部隊の他にミザールが造った平均レベル300超えの超ゴーレム部隊が存在し、いざとなれば魔神族の総攻撃すら跳ね返す(魔神王とその息子は含まない)。

追い詰められた時の切り札として、リーブラ製作のノウハウを流用した量産型リーブラまで待機している。

英雄こそ不在だが、その保有戦力は間違いなくミズガルズトップクラス。


【量産型リーブラ】

リーブラそっくりの模造品。髪の色がオリジナルと異なり、白髪。

武装は左の天秤or右の天秤のどちらかを内蔵し、飛行能力と追尾能力、銃火器を備えている。

全4体存在し、そのレベルは全員がレベル700。

ブルートガングでも手に負えない敵が現れた時の為の、ブルートガング最終兵器にして最終防衛ライン。

元々は5体いたらしいが、1体は魔神王との戦いの際にミザールが持って行き大破している。



Q、何でレベル300程度のゴーレムばっかなの? ミザールなら700まで造れるでしょ。

A、ブルートガングと量産リーブラ造るのが精一杯だったと思われる。

多分ゴーレム部隊は魔神王に負けて力を失った後に「ないよりゃマシだろ」くらいの気休めで造ったのかもしれない。

Q、メグレズみたいに自然からゴーレム造れ

A、ゴーレムは鉄製しか認めん!byミザール

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