表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/201

第52話 野生のラスボス、おさらいをする

 突然だが一度、俺の目的と今までにやってきた事を整理しようと思う。

 時々、こうしておさらいするという事はなかなか重要だ。

 そうしないと知らないうちに行動と目的がズレて、気付けば本筋と全く違う事をしていた、という事もありうるのだ。

 まず俺の当初の目的はこの世界を見て回る事。しかし現状そんな事はもう言ってられないし、ある意味今も旅しているのでこれはもう目的から除外する。

 次に十二星の回収と七英雄と会う事。

 これは現在までにアリエス、リーブラ、アイゴケロス、パルテノス……は森に残ったのでヴィルゴ、ときて4人まで達成している。

 ディーナは最初に六人まで居場所を掴んでいると言っていたので、彼女の情報を当てに探し出せるのは後二人までという事になるが、同時に彼女は『六人中二人は魔神王の軍門に下っている』とも言っていた。

 この二人というのはアイゴケロスと『蠍』で間違いないだろうから、つまりディーナの持つ情報の六人中五人は判明しているわけだ。

 つまり彼女の情報を元に探す事が出来るのは後一人だけという事になる。

 しかしパルテノスの情報により『双子』、『水瓶』、『牡牛』の場所も分かった。

 後は、『獅子』がベネトナシュと戦争中だったか。

 つまり、四星が手元におり、五星の居場所が判明しているのが現状だ。


 回収完了:牡羊、天秤、山羊、乙女。

 位置把握:双子、水瓶、牡牛、蠍、獅子。

 行方不明:射手、魚、蟹。


 解りやすく書くとこんな感じか。

 少し先が思いやられるな。

 7英雄との再会はメグレズ、メラクとは再会したので後はベネトナシュだけだ。

 しかしこのベネトナシュがかなり厄介だ。

 どうも全盛期の力をそのまま保っているらしいし、魔神王との戦いには不参加とも聞いた。

 しかも、どうやら俺の事を完全に敵視しているらしく、極めて危険な存在だ。

 まあ、予想出来ていなかったわけではない。

 元々七英雄は俺を倒した過去があるわけで、本来ならば俺と敵対関係にある。

 ならばむしろ、友好的なのが不自然だったのだ。

 なまじ前の二人が俺に対して結構友好的だったので油断していたが、ある意味ではベネトナシュの方が正しい感情とすら言える。

 少なくとも、倒しておいて後悔されるよりは余程わかりやすい。

 わかりやすい……が、やばい。多分今までで一番厄介な相手だ。

 全盛期のままという事は即ちレベル1000なわけで、しかも七英雄のレベル1000はそこらのレベル1000とはわけが違う。

 数多の魔物を血肉へと変える事で自らを徹底的に磨き上げた恐怖の廃人ドーピング勢だ。

 更にベネトナシュは能力合計値がゲーム中で俺に次ぐ二位であり、吸血鬼という種族の強さも相まって極めて手強い。

 時間帯が朝や昼ならば俺がほぼ勝つが、夜になれば多分あちらが上だろう。

 しかも俺の首を狙ってるって事は……多分中身はプレイヤーじゃない。

 暫定ではあるが、これで七英雄は全員がこの世界の人間と考えていいだろう。

 つまり、俺とディーナしか『向こう』の人間はいないわけだ。


 で、そのベネトナシュと今戦争してるのが十二星最強の『獅子(レオン)』。

 最悪なのは、どっちも俺を敵視してるって事だ。

 つまり下手にノコノコと近付くと、俺は獅子(レオン)吸血姫(ベネトナシュ)の二人を同時に相手にしなくてはならなくなる。

 流石に無理だ。冗談じゃない。


 ……しばらく、ベネトナシュには近付かないようにしよう。


 次に勇者。

 俺は一度、このままでは勇者が殺されると判断してレーヴァティンまで引き返した。

 だが実際のところ魔神王は勇者を眼中にも入れておらず、むしろ狙いは俺だったわけだから驚きだ。

 つまり、少なくとも勇者は放置しても当分は大丈夫という事だろう。

 七曜が狙う可能性もなくはないが……勇者の近くにはレベル100オーバーの虎の獣人もいたし、他の二人もそこそこ強かった。

 物影にはレンジャーらしき人影がかなり隠れていたし、七曜が連携さえしなければ何とかやりあえるだろう。

 まあ、もしもの時の為に勇者護衛用のゴーレムを作っておくのも悪くないかもしれん。


 そして最後に本命。

 この世界に元々いた『ルファス』の目的と真意を探り、俺を好き勝手に巻き込んでくれた女神の『シナリオ』に亀裂を入れる。

 その上で女神を引きずり出し、俺を巻き込んだ真意を問う。

 女神が一体何を考えて俺をルファスに入れたのかは分からない。

 俺に何をさせたかったのかも不明のままだ。

 だが……いや、だからこそ俺は知りたい。知らなければならない。

 知らなきゃいつまで経っても前へ進めない。同じ場所で足踏みを続けるだけだ。

 足場も定まらないまま、地に足も付かないまま、落とし所も目的地も分からないままに足踏みを続けるのはいい加減飽きた。

 だからまずは降りる。スタート地点に立つ。

 これは、そのための女神への反逆だ。


 この世界に来てよりずっと進行してきたルファスとの同調に、今は感謝しよう。

 きっと『俺』のままだったら、この考えにすら至らなかった。

 楽観的で馬鹿で、物事を考えず、ただ浮かれていただけの『俺』のままじゃ、きっと今でも大した疑問も感じずに『やったー! 念願のゲームの世界だ!』とかほざきながら、相変わらずこの世界をエンジョイしていた事だろう。

 MMOの世界に突然来てしまったというのに、困惑しているようで歓喜し。

 明らかに他人の身体を乗っ取っているのに罪悪感もなくそれを受け入れ。

 現実を見ているようで逃避しかしていない。元の世界に帰る手段の一つも探しはしない。

 やる事と言えば己を誇示する事だけ。目指す事といったら周囲を、自分に都合のいい誰かで満たす事だけ。

 面倒ごとは嫌いだと口先では語りながら面倒事に嬉々として首を突っ込み、面倒くさい面倒くさいと語りながら、本心では面倒事を望み続けている。自分が格好よく活躍する舞台を待ちわびている。

 褒められたい、認められたい、崇められたい、崇拝されたい、持ち上げられたい、尊敬されたい、格好いい自分に酔って思う存分に夢の世界に入り浸りたい。

 ああ何たる荒唐無稽。平和な日本で衣住食に困らずゲームをする余裕すらある、そんな、ミズガルズの住民から見ればまさに夢の世界のような現実にいながら、『こんなつまらない世界よりゲームの世界に行きたい』なんて、どうかしている。まるで前を見ていない。

 そんなどうかしている奴が――俺だ。

 ああ、認めるよ。俺は扱い易い、女神にとって何とも都合のいい奴だった。

 ならばやはり、俺は『ルファス』を封じ込める蓋としてはそこそこ適任だったのだろう。

 だが悲しいかな、この(おれ)は少々ルファスを抑えるのには力不足だった。

 ま、当たり前だわな。

 平和な日本でこれといった苦労もなくゲーム三昧で暮らしていた俺と、ミズガルズの世界で日夜戦いに明け暮れていたルファス。

 その自我と意識の強度に明確な差があるのは至極当然。思案にすら値せぬ自明の理だ。

 蓋はもう開きかけている。自分で解るんだ。

 多分、この状態はもう、そう長続きしないって事がな。

 ……こりゃ、早い所女神と会って俺を取り除いて、そんで元の世界に帰してもらわないと今度は俺がルファスという蓋に封じ込められかねないな。

 それは流石に……俺でもちょっと勘弁だ。


 よし、おさらい終わり。

 こうして考えると、俺って奴は本当にどうしようもねーな。

 ルファスとの同調が進んだ事で、ようやく自分がかなりやばい位置に立っていると自覚するとか救いようがない。

 だが、そのおかげでようやく前が見えてきたのだから、笑えるほどに皮肉で滑稽だ。

 というか、実際自分でも顔が笑みに歪んでいるのがわかる。


「……ルファス様?」


 俺の隣に座っていたアリエスが、遠慮するように声をかけてくる。

 どうでもいいが上目遣いはやめろ。男と分かってても結構破壊力あるから。

 そんな事を考えながら、俺は視線だけを彼へと向けた。


「何だ?」

「いえ、あの。何か考えてました?」

「何故そう思う?」

「ええと……お顔が」

「顔?」

「はい。……その、最近のルファス様は昔と比べて凄い穏やかというか、のんびりしてたというか、そんな感じだったんですけど、今のルファス様の表情は、何だか昔のルファス様みたいでした」

「……そうか」


 おや、ついに顔にまで『ルファス』が出るようになってきたか。

 こりゃいよいよもって、やばいかな。

 今はまだ俺の意識も残っているが、これじゃそのうち本当に消えかねない。

 俺に残された時間がどれほどかは分からないが、ヴァナヘイムへ行った事が時間を急速に縮めたのは間違いないだろう。

 そして恐らく、これからもルファスの記憶と真意を取り戻すと同時に俺は薄れて行くはずだ。

 だが、そうしないと俺を巻き込んだ奴への手掛かりすら掴めないときた。

 消えるのを恐れて何もしないのでは、それこそ女神の思う壺だろうし、多分俺は本来その為にここにいるんだと思う。

 何だこのクソゲー。クリアに近付けば近付くほどにゲームオーバーも近付いてくるぞ。

 延命は出来るが、それをすると今度は黒幕さんの思い通りだ。

 本当に、とんだクソゲーだ。

 ともかく、今は残りの十二星や『蠍』を回収する事に専念しておこう。

 ……結局、やる事は今までとそう変わらないな。


「アイゴケロス、スコルピウスが次に狙う国は分かるか?」

「はっ。奴は次にブルートガングを落とすと言っておりました」


 ブルートガング……ミザールが建国した国か。

 この国は当然、七英雄不在の国なのでスヴェルやギャラルホルンに比べれば攻略難度も低いと思われる。

 しかも世界中の工業製品を扱っている職人の国という事で、重要度は高い。

 フロッティを滅ぼした事といい、どうやらスコルピウスは弱い所から先に落としていくつもりらしい。


「ディーナ。其方が把握している最後の十二星は?」

「『蟹』のカルキノス様です」


 カルキノスか。こいつは確か、十二星の中で最も防御能力に秀でた奴だ。

 とにかく耐久が高く、固く、味方を庇う『カバーリング』というスキルでひたすら盾になり続けるという完全な壁特化だ。

 しかし反面、攻撃スキルは一つしか持っておらず、それすらもカウンター専用技という酷い効率の悪いキャラでもあった。

 まあその唯一の攻撃技である『アクベンス』は敵から与えられたダメージの半分を敵に与えるので結構強いんだけどな。

 例えば『ブラキウム』に対して『アクベンス』を行えば、最終ダメージ数値に5万がプラスされるわけだ。

 敵が強ければ強いほどに威力が増す、といえば強いスキルなのかもしれない。

 ただし『蠍』との相性は最悪。毒ダメージは敵からの攻撃にカウントされないからカウンターが出来ないので、一方的に削られてしまう。

 勿論毒ダメージに防御力なんか関係ないのでガンガン削られる。

 よくも悪くも相性が出やすい奴だ。


「現在地は?」

「ブルートガングに」

「位置が重なったか。これは好都合と取るべきなのかな」

「不都合かもしれませんよ」


 カルキノスとスコルピウスが同じ場所にいる。いや、スコルピウスは目指しているだけだから、まだ同じ場所ではないが直に二人の位置が重なってしまうだろう。

 それは、俺としては移動の手間が省けて一度に二星を回収出来る好機と言える。

 しかし二つの星が遭遇したとして、それで何も起こらないというのは楽観に過ぎる考えだ。

 今までだって問題を起こしていなかったのはパルテノスくらいのもので、アリエスやアイゴケロスは問題行動を起こしていたし、この二人が遭遇したら勝手に戦闘を開始した。

 つまり同じ十二星であっても、「久しぶり! 元気だったか?」とならずに殺し合いに発展してしまう可能性があるという事だ。

 いや、今回の件で言えば意気投合も不味い。流石に蠍と蟹のタッグではブルートガングが一日で滅ぼされかねない。

 鉄壁の防御で敵を通さない蟹と、それに守られて毒を散布し放題の蠍……想像するだけで最悪のコンボだ。


 こりゃ、俺達もブルートガングに急ぐ必要がありそうだな。


ベネト「よし、マファールはヴァナヘイムを出たな。

そろそろこちらに来る頃か? 迎え撃つ準備をせねばな。

そうだ、会った時の台詞を考えておかねばな。しかし待っていたと思われるのは癪だから、まずは興味ない振りをしてだな……」ソワソワ

側近「ブルートガングに行くらしいっすよ」

しばらくベネトナシュには近付かないようにしようbyルファス

ベネト「(´・ω・`)」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ