第24話 リーブラ、ゲットだぜ
【この世界の武器】
この世界は、大体現実世界にある近接武器なら一通り揃っています。
蛇腹剣などの架空武器も普通にあります。
また、アーチャーの上位クラスにガンナーとかある気がするので、多分銃火器も200年前は沢山あったと思われます。(尚、現在は貴重品の模様)
ファンタジー世界に何故か存在する、やたら性能のいい銃火器は基本です。
無事リーブラを大人しくさせた俺は、これからどうするかを悩んでいた。
このまま下にいけば間違いなくジャン達に疑惑を持たれる。
特にリーブラをこのまま持ち帰るなんて彼等は納得しないだろうし、最悪壊せとか言い出すかもしれない。
勿論俺としてはリーブラを壊す気なんぞないので、そうなれば彼等と敵対せざるを得ない。
敵になったところでジャン達など相手にもならないのだが、面倒臭いのは確かだから出来ればそれは避けたい。
かといって上手い言い訳など思いつかない。
まあ、最悪気絶させて逃げればいいかな……。
というかそれ以外方法がなさそうだ。
そんな事を考え、少し憂鬱になりながら俺は下へと降りた。
「あ、ルファス様」
「お帰りなさい。無事リーブラ様は確保出来たようですね」
下に降りるとアリエスとディーナが笑顔で俺を出迎えてくれる。
だがそれに反し、ジャン達4人は微動だにしなかった。
目はまるで此処ではない何処かを眺めているようであり、生気というものがない。
「ディーナ、そやつらはどうしたのだ?」
「ああ、言及されて面倒だったので少し暗示をかけたんですよ」
「暗示?」
「ちょっと記憶操作と偽りの記憶を植え付けてですね……最初から私達とは出会わなかった事にしちゃいました。
ついでにこの王墓も彼等が攻略した事にしましたので、しばらくの間は私達から目を逸らせますよ」
サラッととんでもない事を言ったディーナに俺は笑みを引き攣らせた。
ああ、そういやこいつ記憶操作出来たっけ。
便利なんだが恐ろしい奴だ。味方でよかったと本気で思う。
しかしこれで、俺の最大の懸念はあっさり払拭されたわけだ。
「リーブラ様に関しては到着した時点で既に大破していた事にしました。
前に来ていたという調査隊が刺し違えて壊したというストーリーです。
これでリーブラ様への注目もある程度は逸らせるかと」
「其方もしや、最初からそのつもりでジャン達を同行させたのか?」
「足手まといをわざわざ連れて行く理由が他に?」
「……恐ろしい女だな、其方は」
「ルファス様の為ならば鬼にもなる。それがディーナという女なのです」
えへん、とドヤ顔で胸を張るディーナに軽い戦慄を覚えつつ俺は冷や汗を拭った。
まあいい。ならば後は保管されている物をいくつか持ち出すだけだ。
メグレズとの約束もあるし、もう使わないような物に関しては残しておくとしよう。
というか攻撃力+100の装備とか今更持ち出しても売るしか道がないし、それくらいなら使って貰った方がまだいい。
「よし。では最上階へ行くぞ」
「はーい」
「は、はい」
ジャン達を106階に放置し、俺達は最上階へ向かう。
果たして到着した最上階は、何と言うか物凄い派手な部屋だった。
天井、壁、床の全てが黄金の目がチカチカするその場所はお世辞にも落ち着ける場所とは言い難い。
これでもかとばかりに宝石や金貨が積まれ、剣や調度品が綺麗に並べられている。
いや、これ墓じゃないだろ、どう見ても。
むしろこれが墓とか俺嫌だぞ。絶対落ち着いて寝れない。
そのはずなんだが……何故だろう。これを見ていると身体がウズウズする。
何故か知らんが、理由もなくこのピカピカを全部持って帰りたい衝動が身体から沸き上がるのだ。
「ルファス様、落ち着いて下さい」
「落ち着いている……落ち着いているが、何故か落ち着けん。これはどういう事だ」
「ああ。ルファス様、昔から光る物大好きで、よく集めてましたもんね」
アリエスの言葉に俺は硬直した。
え? マジで? 俺そんな設定付けた覚えないぞ?
光る物が大好きで集めるとか、俺はカラスか!? いや、確かに翼は黒いけど。
「とりあえずルファス様が乱心する前に必要な武器などを持ち出しましょう」
「ディーナよ、乱心とは心外だな。余とて何が必要かくらい弁えている」
「では、とりあえずその手に抱えた何の使い道もない金の塊を置きましょうか」
ディーナに指摘され、俺は始めて自分が宝石やら何に使うのかよく分からない光ってるだけの謎の物体を抱えている事に気付いた。
……やばい、完全に無意識でやってた。
いや、うん、こんな金の塊なんて本当に興味ないはずなんだよ俺。
そんな成金趣味もないし、どっちかというと暗色系の落ち着いたシックな方が俺の好みだ。
なのに、何故こんなにもウズウズするのだろう。
「アリエス様。ルファス様は今回ただのカラスと化していますので、私達で必要なものを選びましょう」
「はい、わかりました!」
あれ? 俺役に立たないどころか邪魔になってねこれ?
とか思いつつも気付いたら変なものを手にしてたりする。
アカン、自分で自分が止められない。
光る物があると自然と身体がそっちに行ってしまう。
「ルファス様! それただの見栄えだけの儀礼用のアイテムです! 何の役にも立ちません!
そんなのそこらに捨てて下さい!」
「ルファス様、それ光るだけの鑑賞アイテムです!」
「あ、うむ」
ディーナとアリエスに怒られて俺はすごすごと部屋の隅に退散した。
ちゃうねん……こんなはずじゃないねん。
本当は真面目に武器とか探したいんだけど、身体が言う事を聞かないんだ。
その後も気付いたら用途不明のアイテムを手にしている俺を尻目にディーナとアリエスが俺がかつて使っていた武器を次々と集めていく。
槍、大剣、ナイフ、ハルバード、ジャマダハル、トンファー、パイルバンカー……こうして見ると俺、色々な武器に浮気してたんだな。
ちなみに一番好きな武器は蛇腹剣だ。
「とりあえずこんなところでいいでしょう。他のは昔ルファス様が使っていた武器のようですが、どうせ今となっては使わないはずですし、置いていきます。
こんな物でも、今の世界にとっては貴重でしょうしね」
「ゴーレムはどうしますか?」
「ああ、それも私が塔に持って行きますよ。
ルファス様、倒さなかったゴーレムを全部ここに集めてもらっていいですか?」
部屋の隅にいた俺だが、どうやら出番が来たようだ。
しかしその出番が結構なハードワークな気がする。
ここまでに倒した振りで済ましたゴーレムを全部回収か。
いや、まあそうしないと次の犠牲者が出てしまうだろうからやるしかないんだろうけど。
「わかった。しかし少し時間を貰うぞ」
とりあえず俺がここにいても役に立たない。
ならば出来る事をやっておいた方がいいだろう。
……今回、威厳ないなあ俺。
*
結局ゴーレムを全部回収するのにかなりの時間かかってしまった。
というかこの墓広すぎるんだよ。誰だ、こんな墓作ったの。
とりあえずAI高めのゴーレムは全部集め、武器防具と一緒にディーナに預けた。
無機質なら一緒に転移出来るらしく、全部纏めてマファール塔行きだ。
余談だが、全自動攻撃マシーンと化したアホゴーレム達は俺が全部叩き壊した。
「よし、では退散しましょう」
「ジャン達は放っておいていいのか?」
「しばらくしたら目を覚まして、自力でここまで来たと思い込むようにしてあります。問題ありません」
ジャン達はこれで起きれば棚ぼたで王墓攻略成功の英雄になるわけだ。
もしかしたら宝のいくつかは着服するかもしれないが、そこは俺の知った事ではない。
今の俺には持ちきれない財産など邪魔にしかならないし、欲しければ勝手に持っていけというのが本音だ。
俺としてはいくつかの有用そうな武器とゴーレム達、そしてリーブラを回収出来ただけで充分なのである。
しかしまあ、仮にも俺の墓だったものがこれから荒し尽くされると思うと何だか複雑な気分だ。
地球でもそうだったが、派手で宝が沢山眠っている墓なんて盗掘される為にあるようなものだ。
仮に盗掘を逃れても今度は学者とかが『貴重な歴史的発見がうんたらかんたら』言いながらやっぱり墓荒しした挙句死体を博物館に展示したりするので、全くもって墓に適していない。
もし本当に死ぬ事があれば、俺は地味で誰も寄り付かないような墓に埋めて欲しいもんだ。
墓から出た俺達はそのまま林に止めてあった田中の所へ戻る。
それから錬金術でリーブラの新しいメイド服を用意し、ついでに薄汚れていた身体を綺麗に磨いて服を替えた。
まあ、身体を磨くのは例のごとく俺ではなくディーナがやったんだがな。
それから待つ事数時間。
いつまで経ってもリーブラが起きないので俺が試しに『起きろ』と命令したらあっさりリーブラの瞼が開いた。
「……視界良好、各部チェック……異常なし。起動します」
目に光が灯り、リーブラがゆっくりと身体を起こす。
それから俺を見付けると立ち上がり、優雅な動作で一礼をした。
どれ、折角だしリーブラのステータスでも見ておくとするか。
【12星天リーブラ】
レベル 910
種族:人造生命体
属性:金
HP 120000
SP 0
STR(攻撃力) 6500
DEX(器用度) 6900
VIT(生命力) 7020
INT(知力) 1300
AGI(素早さ) 5100
MND(精神力) 1350
LUK(幸運) 1600
うむ、俺の記憶の中のステータスと全く変化なし。
SPが0になっているが、これは全ゴーレム共通だ。
ゴーレムはスキル使用の際にSPを消費せず、代わりに使える回数が決まっている。
そしてその回数は24時間経過するまで決して回復はしない。
だからブラキウムも1回しか撃てないし、SP消費制の技を覚えさせても全く意味がない。
その代わり素材によってはHPが普通のキャラと比べてかなり高くなる。
特にこいつは素材がよかったのか、HPがボスクラスに踏み込んでるチートゴーレムだ。
もっとも、回復方法がアルケミストのスキルしかないので、HPが高いからといって必ずしも打たれ強いとは限らないのが難点でもある。
例えばアリエスなんかはリーブラよりもHPが大分低いが、自動HP回復スキルがあるので、あれで案外粘る。
まあこの二人が実際に戦ったら粘る前に先制ブラキウムで一撃死だが。
「おはようございます、マイマスター・ルファス様」
「うむ、身体に違和感はないか?」
「問題ありません。お気遣い感謝致します」
先ほどまでの壊れかけたようなラジオのようなノイズ混じりの声ではなく、流暢な美声だ。
どうやら本当に大丈夫なようだな、と思いホッとした。
リーブラは次にアリエスを見付けると、こちらにも一礼をした。
「お久しぶりです、アリエス。相変わらず外見と性別が一致しませんね」
「200年ぶりの再会で第一声がそれ!?」
いきなり外見の事を弄られて涙目になっているアリエスを他所に今度はディーナへ向き直る。
そしてこれまた優雅に一礼をした。
「初めまして、見知らぬお方。この度は迷惑をかけた事を深くお詫び申し上げます」
「またこのパターンですか!?」
うむ、実に予想通りだ。
墓にいた他のゴーレムがディーナを識別しなかった時点で予想はついていたが、リーブラもディーナを覚えてなかったらしい。
俺とアリエスは共にディーナを忘れていた者同士、奇妙な親近感をリーブラに覚えた。
「リーブラ。そやつはディーナといって余の参謀だ。
影は薄いが200年前にもいた奴だぞ」
「……!!? なん……ですって……?
この私のメモリにすら残らないステルス性だと言うのですか……!?」
「いくら何でも私そこまで影薄くありません! 私そろそろ泣きますよ!?」
もはやディーナは半泣きだ。
リーブラの肩を掴むと、ズイ、と顔を近づける。
「ほら、私ですよ私! よく見て下さい!
こう、メモリの中に残ってたりしませんか?」
「…………いえ、該当メモリが存在しません。
しかし200年の経年劣化により一部破損データを発見しました。
恐らくディーナ様のメモリはここに格納されていたと予想されます」
うーむ、ゴーレムであるリーブラならディーナの事もちゃんと覚えてるかもしれないと密かに思っていたんだが、ディーナも運が悪いな。
よりによってメモリ破損があって、その中にディーナのデータが入ってるとかもう嫌がらせの域だろう。
「修復には数ヶ月要しますが、復旧は可能です。
それまではディーナ様を暫定で参謀と記憶します」
「暫定!?」
何ともマイペースに話すリーブラにディーナがますます打ちひしがれたような顔になるが、リーブラはまるで気にした様子がない。
というか基本無表情なので何を考えているのかいまいち分からないというが実情だ。
しかし、だからといってあんなになるまで墓を守護してくれていた彼女の忠誠を今更疑うような事はしない。
氷のような鉄仮面だが、きっとその内には熱い魂が宿っている……はずだ。多分。
「リーブラ、一つ聞くが他の12星について何か知らないか?」
「申し訳ございません。ずっと墓の防衛に就いておりましたので、外界の情報は存じておりません」
リーブラに問いを送るが、その返答は予想通りのものだった。
ずっとあの墓にいたのなら、外の情報など入るはずもない。
幸い、まだディーナの知る6人中4人が残っているし、情報収集を急ぐ必要はないだろう。
「で、ディーナ。次の12星は何処にいるのだ?」
「次は……そうですね。
少し遠いですが、ここから2000kmほど西に渡った所で『乙女』のパルテノス様が山の麓に小さな集落を作って隠れ住んでいます」
「集落?」
「はい。力の無い魔物や木々などを外敵から守る結界を構築して、外に関わらずに暮らしているようです」
おお、凄いマトモだ。
何と言っても積極的に他者に迷惑をかけていないというのが素晴らしい。
引きこもりみたいな事になってるのが少し気になるが、これは後回しでもいいんじゃないかな?
少なくとも放って置いてもアリエスやリーブラみたいに犠牲者が増える事はないだろう。
「それで、ですね……その山、ルファス様の生まれ故郷なんですけど、そこに元々住んでいた天翼族を全員追い出して無人の聖域に変えて占拠しています」
前言撤回。
やっぱり困った事やらかしてた。
ジャン「こいつは凄いぜ、俺は最強の剣を手に入れたのだ!」
聖魔剣・ルシファーブレードエクセリオンΩ
攻撃力+150
※昔ルファスが酒に酔った勢いで作ったナマクラ剣。
この剣の名前を叫びながら攻撃すると凄く恥ずかしい。
しかしこの時代基準だと普通に名剣にカウントされてしまう。
デザイン的には、お土産でよく見かける剣のキーホルダーみたいな感じ。
子供の頃、つい買いたくなってしまう、ドラゴンとかが鞘に巻き付いているようなアレ。
実は私も真魔剛竜剣みたいなキーホルダーを一本持ってます。
地上でただ一つ、竜の騎士のパワーに耐えうる剣なのだ! グゥオオオ!