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第182話 アロヴィナスのものまね

【この作品における不遇枠その1】

覇道十二星『水瓶』のアクアリウス


人の名前を覚えないという欠点こそあるものの、頭の回転は決して悪くなくルファスやポルクス不在の際にはチームの頭脳を担当する事が出来るだけの判断力を持ち、高い戦闘能力と反則染みた特殊能力も併せ持つ強キャラ……のはずだったのだが、参戦時期があまりに遅すぎた。

知略系キャラで水属性であり、更に金属性との二重属性持ちで特殊能力もチートだったディーナという上位互換が最初期からパーティーにいたのが一番の不幸。

最強技である『アブソリュート・ゼロ』は絶対零度の冷気を凝縮して発射するというとんでもない技であり、その威力は直撃すれば竜王すら短時間行動不能にし、溢れ出続けるマグマすら半永久的に閉じ込め、オマケに命中精度まで高い。

高威力、高命中、超射程の三拍子揃った強魔法であり、更に高確率で発生する凍結の追加効果込み。ぶっちゃけかなりの壊れ技。

しかし初披露の相手がよりにもよって龍だったせいで、何だか大した事のない技のような扱いに……。

彼女は決して弱くない、というか強い。ただ初戦闘の相手が悪すぎただけなのだ。



【この作品における不遇枠その2】

覇道十二星『魚』のピスケス


何故か揃って不遇枠に入ってしまった水属性十二星。

強さ的にはアリエス同様に全体的に高い能力を持ち、運以外の全てのステータスがアリエスより上という完全上位互換キャラ。

離れてよし、近付いて良しのオールラウンダーであり、更に敵に憑依して操る事も出来れば味方に憑依して強化に貢献も出来る。

ミズガルズ最大の支配圏を持ち、女神の息子と設定にも恵まれ、更に初期位置も海で他のメンバーのように変に拗らせていないのでルファスが声をかければ、それこそ初期から味方入りして無双する事も不可能ではなかった。

が、何故かルファスにひたすらスルーされてしまい、参戦は遅れに遅れての終盤。

しかも初戦闘の相手が邪神で、その次の相手が龍と相手にも全く恵まれない。

彼もアクアリウス同様決して弱いわけではない。というか超強い。ただ相手が悪すぎただけである。


アクアリウス「扱いの向上を要求する!」

ピスケス「そうだそうだ!」


尚、もう最終話近いので活躍の機会は来ない模様。


「決着の時が近付いて来たな」


 私は終わりへと近付きつつある四つの戦いを見ながら、女神(ディーナ)へと語りかけた。

 土龍と天龍は死亡。火龍も半死半生であそこからのベネト達の敗北はほぼない。

 もはやベネト一人でも問題なく勝ててしまうだろう。

 そして木龍はオルムとポルクス達を同時に相手にする事になっており、そこにもアリエス達が既に向かっているのでこちらも勝負が付くのは時間の問題だ。

 しかし女神(ディーナ)の表情は未だ余裕のまま。当たり前だ……何せ、一番肝心な存在がまだ無傷でここに残っているのだから。

 いや、そもそもここでディーナを私が倒した所で奴の余裕は崩れないだろう。

 所詮奴にとってこの世界の全てがゲーム。負ければ悔しいだろうし、二度とプレイするものかと憤りもするだろう。だがそれだけだ。

 ゲームの中で自分の操作キャラがいくらやられようと現実の自分には傷の一つすら付きはしない。

 だからこそ私は、奴と対等になる為に一度この宇宙(ゲーム)を破壊する必要がある。

 そうしなければ奴とは戦いにすらならんし、顔を合わせる事すら出来ない。

 無論、ここで遅れを取るなど論外だ。まだ私はアロヴィナスとの戦いの場にすら辿り着いていないのだから。


「不甲斐ない者達です。しかしその快進撃もここまで。

いかに貴女といえど私には勝てません」

「違うな、それはディーナの身体だ。其方はまだ戦場に立ってすらいない」

「なるほど、その通りです。しかし……貴女程度ならば、これで十分なのですよ」


 言うと同時に女神(ディーナ)から放たれる圧力が増した。

 ――来るか!

 この星の外側でマナが胎動しているのが分かる。

 ミズガルズのマナなどというチンケなものではない。

 宇宙そのものを構成しているマナを集めているのだ。

 そう、この宇宙は奴の魔法。ならばマナなど無限に存在している。


「さあ、おいでなさい。汝、天空の支配者。

星々をも砕く破壊の雷霆……ケラウノス!」


 空が割れ、そこから雷光が降り注いだ。

 今更雷撃など児戯にも等しい……と言いたい所だが、当然のようにそれは普通の雷などとは桁が違う。

 秘められた電圧や電流がどれほどのものかなど知る由もないが、天文学的にして物理的に有り得ない数値に達している事だけは間違いないだろう。

 奴自身が言ったように星すらも焼き尽くし、抹消するだけの力はあると見ていい。

 私は頭上に手を翳し、シールドで雷光を受け止めた。

 空気層を作り電気を通さぬ絶縁体としているが、当然そんなものはすぐに破壊された。

 ゴムだの純水だの空気の層だの、そんなもので防げる領域ではない。

 物事の道理、摂理、常識、理屈、理論、法則……その全てが悲しいほどに無力だ。何の意味も持ちはしない。

 だが向こうが力で押し通すならばこちらも力だ。シールドの出力を上げ、道理を無視した雷を更に道理を無視して防ぎ切る。

 四散した雷光が天空へと飛び散り、遅れて空で輝く星がいくつか減ったが、ミズガルズは未だ健在のままだ。


「切り刻め、剣の冬!」


 今度は私が攻勢へと転じる。

 いつぞやのベネトとの戦いで使った寝惚け半分の剣の冬とはまるで違う、全力でのスキル発動だ。

 女神(ディーナ)の足元から刃が無数に飛び出し、天空までもを貫く。

 女神(ディーナ)は微笑を浮かべたまま更に遠くへと跳ぶが、私はそれを追うように腕を薙いだ。

 すると刃が動き、女神(ディーナ)を追い詰める。

 しかし彼女はまるで躍るように刃の檻を抜け、傷一つ負う事なく高く跳躍した。

 逃げる女神(ディーナ)を追って私も跳躍し、空中で対峙する。


「汝、破壊の化身。千の異名を持つ者。

万物を破壊する究極……マハーカーラ!」


 女神(ディーナ)を中心とし、炎が四方八方へと飛散する。

 私はそれに絶対の『死』を予感し、やや臆病とも思える後退を余儀なくされた。

 そしてその予感は正しかったとすぐに理解させられる。

 私の錬成した刃が問答無用で破壊され、消し炭となっていくのを見ればあれがただの熱ではない事は一目瞭然だ。


「絶対破壊、か?」

「いいえ、即死攻撃です。生物、非生物問わずの」


 女神(ディーナ)の言葉に私はなるほど、と呟いた。

 恐らくは耐性貫通も当たり前のように乗っているのだろう。

 なるほど、恐ろしい技だ。当たりさえすればな。

 だが込められた効果はともかく、炎そのものは大した事がない。

 少なくとも太陽熱などと比べれば至って脆弱……吹けば飛ぶような弱火だ。

 軽く拳を放ち、その風圧で消し飛ばして女神(ディーナ)の目の前へと接近した。


「アルデバラン!」


 私の拳が女神(ディーナ)の脇腹に突き刺さり、吹き飛ばす。

 すまんなディーナ。後でちゃんと治療するから許してくれ。

 ポルクスの時はこれで正気に戻った。アルデバランはあらゆる力を破壊して無効化する。

 だが女神(ディーナ)は……未だ憑依が続いたままだ。

 まあそれはそうだ。別に女神はスキルなどでディーナを操っているわけではない。

 最初からアバターとして生み出された者を使っているだけで、あれは何の力も働いてはいないのだ。

 ディーナ自身から聞いた話では、女神が憑依する時にはそれ専用のスキルを使わされるという話だが、これも持続型ではなく一度使えばそれまでのスキルでは意味がない。

 無駄ですよ、と女神(ディーナ)は嘲り、次のスキルを使用する。


「汝、冥府の女王。神産む神。

さあおいでなさい、イザナミ!」


 女神(ディーナ)の号令に従い、周囲のマナが一斉に人の姿を象り始めた。

 どこか和風の、強い力を感じる男女が私を取り囲み、武器を構える。

 随分と温い事をする。何だこれは、どうぞ倒して下さいという事か?

 今更数を集めたところで私には及ばん事くらい奴も分かっているだろうに。

 ならばここは、このスキルで纏めて片付けてやろう。

 神の門番は戦いの場に相応しくない者を悉くに排除する――選定の天秤。


「ブラキウム!」


 私を中心に破壊の極光が渦巻き、顕現した者達を纏めて塵へと返した。

 ブラキウムは限界ダメージ値を固定で与えるスキル。

 そして今の私のダメージ限界値は――999999999……ま、約十億といったところだ。

 諸共に巻き込んだ女神(ディーナ)にも甚大なダメージを刻みつつ、周囲全てを薙ぎ払う。

 これでも奴のHPからすればほんの千分の一のダメージでしかない。

 私が言うのもあれだが、全く呆れたステータスだと言う他ない。


「最初はギリシャ神話、その次はインド神話。そして今度は日本神話か。

節操がないな。全て向こうの神話ではないか」

「ああ、そういえば貴女は知っているのでしたね。

ええそうですとも。向こうの世界というのは様々な物語で満ちていて実に面白い。

人の空想の自由さには驚かされますよ」


 女神(ディーナ)は可笑しそうに話ながら、両手を広げる。

 それはまるで自慢の玩具を語って聞かせる子供のようであり、彼女の狂気染みた無邪気さが垣間見えた気がした。


「次はどの神話がいいですか? エジプト神話、中国神話、バビロニア神話、北欧神話、どれでも好きな物を答えて下さって構いませんよ。

それともどの神話とも異なる漫画や小説の神などがお好みですか?」

「ほう、言うではないか。つまりあれか、其方はその気になれば向こう側に存在する神話を含めた物語上の、空想の能力全てを使えると?」

「全てとまでは言いませんが、まあ人が想像し得る程度の事は」


 女神(ディーナ)の答えに、私は以前から抱いていた疑問の一つが氷解した事をハッキリと感じた。

 所詮は猿真似……そして先程の神産みで生まれた神々の出来損ない具合。

 間違いない、やはりこいつ……。


「再現出来ない力というのは、命を生み出す類の力だろう?」


 私が確信をもって問うと、女神(ディーナ)のドヤ顔が凍り付いた。

 まるで言われたくない事を言われた、そんな感じの反応だ。


「猿真似の限界だな。出来ぬ事が分かり易すぎる程に浮彫になっている。

この世界自体、向こうの神話を継ぎ接ぎして創られたような歪なものだが、特に酷いのが生き物だ。

完全なオリジナルというものが一つもない。独自の進化や変異を遂げた生き物は数あれど、そのルーツを辿れば必ず地球の生物へと辿り着く」


 例えば犬のような魔物がいる。

 例えば猫のような生き物がいる。

 爬虫類のような亜人がいて、虫のような怪物がいる。

 魚のような人々が海で暮らし、鳥と似た特徴を備えた私達がいる。

 『~のような』、『~と似た』、『~に酷似している』。この世界の生物は全てそうした形容詞が付いてしまう。

 犬を犬のようだとは言わない。猫を猫のようだとは言わない。何故ならそれがオリジナルというものだ。

 仮に地球の生物全てを知っている生物学者を連れてきたとしても、きっとその者が本当の意味で見た事がない未知の生物というのはこの世界には存在しないだろう。

 何故なら全てが盗品だからだ。


「人が想像出来る程度の事は全て出来るだと? 違うな、人が想像出来る程度の事しか出来ないんだろう?

本当の意味での未知を創り出す力など其方にはない」


 このミズガルズのルーツは全てが地球にある。

 もしかしたら未知を生み出す力そのものは奴にもあるのかもしれん。だが発想力がない。

 奴の発想や想像の源が地球にあるせいで、どうしても何処かしら地球に似た部分が出てしまう。

 そしてここから導き出されるのは一つの解答。

 確証があるわけではなく、推論の域を出ないが私の心はこれこそが正解だと声高らかに叫んでいる。

 そもそも創造神だの創世神だのと名乗っておいて命を生み出せぬというのがまずおかしい。


「アロヴィナス。其方は創世神などではない。

其方が神となる以前から世界は存在していた……違うか?」

「……面白い事を言いますね。なるほどなるほど、確かにその展開も悪くない。

私の裏に本当の黒幕である創世神がいる……ふふ、貴女はそう言いたいわけですね?」

「そんなわけがなかろう。阿呆か?」

「なっ!?」


 女神(ディーナ)が何やら有り得ない妄言で私を惑わせようとするが、そんなものに意味などない。

 正真正銘こいつが黒幕で一番上で、この世界の頂点だ。裏などないしこいつより上も存在しない。

 だがこいつの他に創世神が存在した(・・)という事もまた間違いではないだろう。

 問題はそいつが恐らくはもう存在していないという事だ。

 一体何故そんな事になってしまったのかは皆目見当もつかないし、私には事実を確認する術もない。

 だが一つだけ分かる事がある。


「アロヴィナス。其方は恐らくは元々こちら側だ。

何らかの理由で元いた世界から引き離され、何らかの理由で神に挑み、そして成り代わった」


 そう、ここまで来れば答えは一つ。

 このミズガルズという歪な世界。それを構成する生き物達。

 継ぎ接ぎだらけの神話。

 向こうの世界の食文化の真似事に、向こうの世界の文明の真似事。

 そして何より、ここまで好き勝手にしておきながらアロヴィナスが何故か地球には一切の手出しをしていないという事実。

 まるでそこだけが不可侵の聖域か何かであるように。

 そこにディーナが潜んでいる事にすら気付けぬ程に、奴は地球を……向こうの世界を特別視していた。

 だから物語の主役にすら向こうの世界の人間を起用したがる。

 どう考えても戦いに向かないであろう少年を引っ張り込んで、優遇しようとする。

 それは何故か? ……知れた事よ。


「そう――其方は地球人(にんげん)だ、アロヴィナス。

全知全能でもなければ、神でもない。神に成り代わり神を気取っているだけの、三流脚本家。

それが其方の正体だ」


 きっと奴は不死に限りなく近いのだろう。歳など取らぬだろうし、永遠に近い時間を生きてきた事は間違いない。

 その力も圧倒的でこの宇宙すらも破壊してしまえるだけのものだ。

 それを考えればなるほど、確かに奴は神と呼んでもいいのかもしれん。少なくともそう呼ばれるに相応しいだけの力を有している。

 だが奴の根本は私達とそう変わらない。

 神というには余りにも人間臭すぎるし、失敗が多すぎる。


「…………」


 私に正体を指摘され、女神(ディーナ)の心に一瞬の空白が生まれた。

 まさか言い当てられるとは思っていなかったのだろう。

 無理もない、私は完全にミズガルズの人間だ。本来ならば向こう側の知識など有するはずもなく、故に絶対に解答には辿り着けない。

 しばし呆然とし、やがて彼女は乾いた笑みを浮かべた。


「ふ、ふふふ……ふふふふふふ……。

私を人間と呼んだ者は一体いつ以来でしょうかね。

数億年単位で遡っても少し記憶にありませんが……随分と懐かしい響きです。

確かに私はかつて、そう呼ばれていた時があった。

……どれだけ昔の事なのか、私自身思い出せませんがね」


 そう言い、女神(ディーナ)は笑みを消して私を見た。

 それは今までのような、遊び心が入り混じったものではない。

 今、奴は初めて私を『敵』として認識したのだ。


「ゲームはここまでですね。

貴女は少し、入り込んではいけない領域に踏み込み過ぎた。

……幕を降ろしましょう。せめて主人公(ゆうしゃ)の手によって」


 女神(ディーナ)が腕を振るう。

 すると龍を構成していたマナが急激に集まり出し、一点へと向けて飛び出した。

 向かう先は箱舟……否、その中にいる一人の少年か。

 アイゴケロスが集めていたマナすら無理矢理に奪い、全てが経験値として瀬衣少年へと流れ込んでいる。

 恐らく火龍も、そして木龍もいずれは経験値として消えるだろう。

 私の支配下にあるオルムだけはかろうじて難を逃れるだろうが、それでも瀬衣少年は私と戦うに十分な力を得るはずだ。


「ああ、幕はじきに降りる。勇者の手によってな」


 私は女神に同意するように答え、箱舟を見た。

 もっとも、幕を降ろすという言葉の意味は私と女神では全く異なるだろう。

 アロヴィナスよ、其方はまだ分かっていない。

 あの少年は主人公などではない。

 主人公の座を降りてでも、正しい道を捜せる者だという事を。


 幕はもうじき降りる。下らぬ喜劇のカーテンコールだ。

 そしてその時こそ、観客には見せられぬ舞台裏での殴り合いが始まるだろう。

Q、地球にアロヴィナスの人間時代がいるって事でおk?

A、いません。神とは全世界全時代で唯一無二の存在なので、アロヴィナスが神となった瞬間に人間だった頃の彼女は完全消滅し、生まれなかった事になっています。

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