第130話 アリオトの剣の舞
前回までのあらすじ
サジタリウス「主の最大魔法が弓なせいで俺の存在価値がマッハな件。
もうルファス様が『射手』でいいのではないだろうか。
……ん? となると俺は何になるんだ? 空席になった黒翼の覇王か?
俺は……黒翼の覇王……俺はルファス様だった……?」
リーブラ(相当ダメージを受けているようですね……)
「其方等は……」
余は今、少しばかりの驚きと強い懐かしさを感じていた。
眼前に立つ四人の男はそれぞれ、人間、獣人、小人、ドワーフの四種だ。
剣を余に向けるその姿は見覚えがないはずだが、記憶の中の『ルファス』は彼等を知っていると主張する。
そして同時に感じるのは、身を焦がすような怒りだった。
余は咄嗟に理性を総動員して怒りを抑え込むが……彼等の姿を見ているだけで拳に力が入ってしまう。
別に彼等に敗れた事を怒っているわけではない。恨んでいるわけではない。
だが、何故だ。何故、彼等の惨めな姿を見ているだけで怒りが止まらない。
生気のない瞳で操られるその姿に、何故こんなにも失望を感じる。
「っ!」
地を蹴り、剣士――アリオトが一瞬で俺の前へと踏み込んで来た。
振り下ろされた剣を手刀で受け、刀身が手に食い込んで血が溢れる。
ちいっ……! 流石に剣王と言われるだけはある。大した切れ味だ。
余は腕を薙いで剣を弾き、自身の黒い翼から羽根を一本引き抜いてアリオトの眼へと投げつけて刺した。
そうして一度バックステップで距離を取り、手の傷を治療する。
アリオトも何事もなかったように羽根を抜き、目の傷が再生していた。
「誰かと思えば薄汚い裏切り者共じゃあない……!
そう、アンタ等またルファス様に歯向かうっていうのね? 一度ならず二度までも……!
殺す……殺す、殺す、殺す殺す殺す殺すッ!」
怒りの叫びをあげ、余の横を通過して英雄達に飛びかかったのはスコルピウスだ。
いや、彼女だけではない。
アリエスやアイゴケロスも怒りの形相で飛び出し、それぞれがフェクダ、ドゥーベ、ミザールと衝突した。
不味い……連携が崩れた!
「落ち着け其方等! 相手の思う壺だ!」
「ふふ……攻守交替ですわね」
余の焦りを嘲笑うようにポルクスが哂い、アリオトが余へと飛びかかって来た。
それを避けるも、今度は竜王の首の一つが余を呑み込もうと大口を開ける。
かろうじて避けるも竜王の首は一つではない。残る九つの首が同時にブレスを吐き、余を覆いつくした。
無論黙って喰らってやる義理などない。
翼を己を覆うように畳み、一気に広げる。するとその風圧でブレスが消し飛び、一気に竜王へと切り込んだ。
だが竜王へ攻撃を当てる瞬間、またもアリオトが割り込んで余の一撃を止めてしまう。
これは少しばかり分が悪いか? 『アルカイド』を発動している今の余でも竜王と女神のバックアップを受けたアリオトの相手は厳しいものがある。
「ルファス様!」
「おっと。貴方達は引き続き彼等の相手をして頂きましょうか」
リーブラ達は……駄目か。アルゴナウタイの相手で手一杯だ。
むしろあの数を相手にしている彼女達こそ援護が一番必要かもしれない。
ならば手は一つ。速攻でアリオトと竜王を始末する他ない。
強く羽ばたいてアリオトの側面へと回り、爪の一撃でその首を獲ろうとする。
だがその刹那、余の脳裏に夢を語り合う昔の『ルファス』とアリオトの姿が過ぎった。
「……ッ!」
絶好の機会を逃し、余は止む無しにアリオトから距離を取る。
くそ……何だ今のは……。
まるで余の身体がアリオトを殺す事を躊躇しているような、そんな感じがした。
いや、あるいはその通りなのか?
大分混ざってきてしまったからこそ分かる事だが……『ルファス』は多分、身内には滅茶苦茶甘い性格をしている。情が深いと言っていい。
恐らくは幼年期に父の愛を得られなかった反動だろう。自身が身内と認めた相手にはとことんまで甘くなるし、多少のヤンチャも許してしまう。
これは最初は『俺』自身の性格と思っていたが、どうやらルファスもそうだったらしい。
だからどうしても一瞬、攻撃を躊躇ってしまうのだろう。
しかしこのレベルの戦いではその一瞬が致命的。大きな隙となる。
俺達の戦いにおいて一瞬の間を与えるというのは、ゲームで言う所の一ターンを丸々相手に渡すに等しい。
こりゃあ、かなりやばいか?
「あの時と同じですね。本気でやれば勝てるのに、本気を出せない。
貴女の唯一と呼んでいい弱点です」
「……そうらしいな」
ポルクスの言葉に、思わず自嘲気味な笑みが零れる。
いやまさか、余にこんなアホみたいな弱点があるとは思わなかった。
自分を知らないというのは大きなハンデだな。おかげで、こんなヤバイ時に自分の欠点が浮き彫りになってしまった。
知らなかったよ……余という奴はどうやら、情の移った相手には弱いらしい。
そこに大きな実力差があれば、それも左程問題にはならないのだろうがアリオトは雑魚ではない。
「ルファスゥゥゥゥゥゥ!」
今度は竜王が怨嗟の声をあげながら余へ飛びかかって来た。
自我はないくせに余への憎悪だけは残ってますってか? 面倒臭い奴だな。
170mの巨体から繰り出される突進は流石に効く。だが、受け止めきれない程でもない。
余は竜王の頭を押さえながら後ろへと運ばれ、地面を削りながらもその突進を食い止めた。
「ぐ……おおおッ!」
そして片手の握力で竜王の角を掴み、力任せに振り回して空中へと放り投げる。
だが竜王は空中で制止すると十の口から一斉にブレスを吐き、反撃してきた。
ブレスは混ざり合い、一つの閃光となって余目掛けて降り注ぐ。
回避――いや、駄目だ。あんなのが地面に直撃したらミズガルズが吹っ飛ぶ!
仮に無事で済んだとしても、間違いなく人類の生存圏が全て消し飛ぶ!
「ッおおおお!」
拳を握り、ブレスを正面から殴る。
跳ね返したブレスを竜王が避け、七つの属性を組み合わせたエネルギーの塊は空の彼方へと消えた。
何とか弾く事には成功したが、流石の威力だ。
手の皮が焼け、血が溢れ出す。
治療術を使えば完治は出来るし痛みなどを気にしている場合でもない。
だが、仮初とはいえ隕石すら砕いて無傷だったこの拳が傷付くとはな……ちょいと自信って奴に罅が入った気分だ。
「はあああッ!」
だが考えている暇などないらしい。
今度はアリオトが余との距離を詰め、上段から剣を振り下ろしてくる。
それを避け、余はエクスゲートを開いてマファール塔から愛用の蛇腹剣を呼び出した。
愛剣でアリオトの斬撃を防ぎ、反撃の刃を振るう。
――連続攻撃スキル、『クイックレイド』!
攻撃力を下げる代わりにモーションの隙が少なく、上手く使えば何度も連続でヒットさせる事が出来るスピード優先の攻撃スキルを使い、アリオトへ斬撃の嵐を放つ。
だが奇しくもアリオトの発動したスキルも全く同じものだ。
余とアリオトの剣が無数に衝突し、その威力と手数から互いの中央に重力場が発生する。
だが威力、速度共にこちらが上だ。このまま押し切れる。
そう、押し切れるはずなんだ……だから……昔の事など思い出させるな。
在りし日の笑顔など、今は剣を鈍らせるだけだっていうのに……頭にこびり付いて離れない!
「ぐっ!?」
押し切られたのは余の方だった。
アリオトの剣撃に押され、剣を弾かれて身体ごと吹き飛ばされる。
そこに追い打ちをかけるように竜王の足が迫り、振り下ろされる。
余は咄嗟に腕をクロスして超重量ののしかかりを受け止めるが、そのあまりの威力に地面が陥没する。
腕は……大丈夫だ、折れていない。
しかしこの体勢は不味い。何が不味いって完全に動きが封じられているから、次のアリオトの攻撃を防げないって事が何よりヤバイ。
「オオオオオ!」
アリオトが剣を引き、余へと突進する。
あれを受ければ流石に深手は免れないな。
ならば、ダメージ覚悟で竜王の踏みつけを喰らいつつ防ぐしかない。
HPはまだ余裕がある。かなりの痛手にはなるが致命的ではない。
よし……タイミングを合わせて何とか……。
――瞬間、何かが竜王を吹き飛ばし、そのまま勢いを殺さずに俺とアリオトの間に割り込んで剣を素手で受け止めていた。
「……は?」
それはまさに一瞬の閃光。
銀色の輝きが奔ったと思った次の瞬間には、彼女は俺の前にいた。
なびく髪は白銀。
そのローブは漆黒。
肌は新雪のように白く、その身長は決して大きいとは言えない。
だが、微動だにせずにアリオトの剣を指先で挟んでいるその姿は何よりも巨大なものに見えた。
「……マファール、貴様一体何をしているのだ?
私に勝っておきながら、今更こんな過去の亡霊などに手こずるなど……」
「其方は……」
振り返ったその瞳は深紅。
口元からは牙が覗き、その顔には己の力への絶対の自信が溢れている。
彼女はまるで道端の石でも蹴るかのようにアリオトを蹴り飛ばし、責めるように俺を睨む。
「言ったはずだぞ。他の誰かに敗れるなどという事があれば、冥府から戻ってでも貴様を殴り飛ばすと。
貴様を殺すのはこの私――吸血姫ベネトナシュの役目だ。それを忘れるな」
女神の誘惑すらも振り払った気高い吸血姫が、あの時と変わらぬ姿そのままで余の前に立っていた。
*
アリエスは、苦戦の只中にあった。
元々彼のステータスは決して高くはない。
いかにレベル1000へ引き上げられようと、相手は同じレベルならばルファスとすら同格の七英雄の一人、獣王ドゥーベなのだ。
理性なき獣は白目を剥き、涎を垂らしながら獣性を剥き出しにした猛攻をアリエスへとかける。
「BEAAAAAAAAAッ!!」
獣の膂力に物を言わせた連撃。
だがその攻撃は決してただの力任せではなく、半分人だからこその技術も伴っている。
しかしアリエスも退く気はない。他の誰を許せても、七英雄だけは許せない。
主から信頼されておきながら、それを裏切った事を忘れはしない。
「はあああああ!」
アリエスとドゥーベの腕と足が高速で交差し、幾度も衝突して火花を散らす。
拳打、裏拳、肘打ち、膝蹴り、回し蹴り……二人の間で超高速の格闘戦が展開され、ダメージが蓄積されていく。
メサルティムは使っている。
こうして近付いているだけで間違いなくドゥーベはダメージを受け、全身に火傷を負っていく。
だがそれにまるで気付いていないように爪を振るい、アリエスの身体に傷が刻まれていた。
「BEAAAA!」
ドゥーベの剛腕を屈んで避け、足元を蹴りで払う。
体勢が崩れた所を蹴り上げ、空中へと跳んで追いかけた。
飛んでいくドゥーベを追い越して回転。足を鞭のようにしならせて炎を纏った踵落としを放つ。
だが直撃の瞬間にドゥーベの姿が消え、一瞬にして背後に回った獣王の蹴りがアリエスを吹き飛ばした。
「がっ!?」
地面に衝突し、更にそのまま地面に穴を空けて地中へと飛び込んでしまう。
しかしアリエスはすぐに気を取り直すと、そのまま地面を泳ぐように掘り進んで着地したドゥーベの背後へと飛び出した。
そのまま反応し切れないドゥーベの後ろ頭を掴み、地面へと叩き付ける。
だがドゥーベは恐るべき膂力で無理矢理に立ち上がり、そのまま後ろに倒れ込んでアリエスを下敷きにした。
地面が砕け、アリエスの口から血が零れる。
しかし今度はアリエスが反撃に移る。
ドゥーベを羽交い絞めにし、背中へ何度も蹴りを叩き込んだ。
今度はドゥーベの口から血が溢れ、だが直後にまるで背負い投げのようにアリエスが投げ飛ばされた。
慌てて立ち上がろうとするも、ドゥーベの足がアリエスを踏みつけ、鈍い音が響く。
更に二度、三度、四度。
地面が陥没するほどの膂力で踏みつけられ、次第にアリエスの抵抗が弱くなっていった。
そして止めの第五撃目。
振り下ろされる足をアリエスは呆然と見つめ、だが次の瞬間、彼の視界の中からドゥーベが吹き飛ばされた。否、殴り飛ばされた。
「……え?」
アリエスの前に立つその背中は筋肉質な大男のものだ。
その髪は紅蓮のように赤黒く、全身を覆うのは黒いボディスーツ。
丸太のような腕には血管が浮き出し、ドゥーベをも上回る獣性を隠しもせずに発露している。
「よォ、随分チンケな戦いしてんじゃねェか……アリエス」
アリエスの前で嘲笑うその男の名は……覇道十二星、『獅子』のレオン。
奇蹟のカーニバル
開 幕 だ
n: ___ n:
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f「| |^ト ヽ  ̄ ̄ ̄ / 「| |^|`|
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ヽ ,イ / ̄ ̄ハ ̄ ̄\ ヽ イ
ルファス、ポルクス(女神憑依)、竜王、アリオト、フェクダ、ドゥーベ、ミザールが集ったこの戦場。
ここに集わずしていつ集う。
ベネトナシュとレオンもぶちこむ……っ! 圧倒的参戦……っ!
争え、争え……高レベル勢よ……!
レーギャルンの町「俺の側で戦うなァァァァァァァァ!!!」
瀬衣「一人でもヤバイのが大集合……\(^o^)/」