第106話 勇者一行のへんしん
【前回のあらすじ】
※感想欄
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投げたブーメランを読者の皆様から一斉に投げ返されたレオンさんの図
_人人人人人人人_
>レォォォォン!?<
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亜人達が暮らす里はティルヴィングから南西に数キロ離れた位置に存在している。
彼等の王都がティルウィングである事は間違いないが、そこは今戦時下にあり、非戦闘員にとって決して暮らしやすい場所ではない。
その為、戦争が終わるまでの間はこうしてそれぞれの種族がティルヴィング誕生以前から暮らしていた里で過ごしているのだ。
広大な森に覆われたその場所には主にケンタウロス、蟲人、植物人の三種族が人類の目から逃れるようにして暮らしている。
その森から見て一キロ程離れた位置で鈴木を停車させ、そして瀬衣達は森へ向かう為の準備を整えていた。
これから向かう場所は亜人達が暮らしている場所で、当然人類にいい感情など抱いていない。
そこに瀬衣達が堂々と向かいなどすれば、無駄に彼等の警戒心を煽ってしまうだろう。
ルファスやリーブラ達は最初から戦闘を前提に置いていた為、逃げも隠れもせずに正面から馬鹿のように堂々と突撃してしまったが、瀬衣達の目的はあくまで調査だ。
加えて言うと彼等はルファス程の脳筋ではない。
ならば然るべき準備を取るのは当然の事で、その為の手段はカストールが持ち合わせていた。
「皆、これからは徒歩で里へ向かうわけだが、その前にこれを飲んで欲しい」
カストールが懐から出したのは人数分の小瓶だ。
それをメンバーに振り分け、そして効果を説明する。
「水属性魔法に『イリュージョン』という姿を偽る魔法がある。
それほどレベルの高い魔法ではないから知っている者もいるだろう。
これは、その魔法と同じ効果を持たせた魔法薬で、約三時間程姿を変える事が出来る」
「あ、あの、よろしいのですか? 聞く限り、かなり貴重な魔法薬のようですが……。
というか魔法の効果を持たせた薬など、大半が昔に失われて今では僅かな数が残るばかりだというのに……」
「ああ、心配は要らない。確かに今の時代では貴重品なのだが、私達にとってはそうでもないんだ。
遠慮せずに使ってくれ」
どうやらこの世界では魔法の効果を持つアイテムというのはそこそこ貴重な品らしい。
瀬衣の知るRPGなどではむしろ定番中の定番なのだが、そういえば確かにここまでの旅でそんな品を見たことがなかった。
いや、厳密に言えば一つはある。ウィルゴが持っている剣がそれだ。
これまではただの凄い剣くらいにしか考えていなかったが、どうやらかなりの業物らしい。
まあ、よく考えれば彼女もルファス側だ。そして鈴木を見るにルファスはかなりの過保護である。
ならば武器くらい強いのを渡すか。そう考えて瀬衣は妙な納得を覚えた。
クルスがブツブツと呟きながら薬と睨めっこしている間にジャンとガンツが何の躊躇もなく薬を飲み干し、それに続いて女騎士と虎も薬を飲み込む。
瀬衣もまた、多少の躊躇は感じたものの一気に飲み込み、ウィルゴも意を決して薬を飲んだ。
そして起こった変化は顕著なものであった。
まず瀬衣は額に角が生え、肌の色が赤く変色する。
勿論本当に変わっているわけではなく、あくまで幻影だ。
まるで鬼だな、と思いながらとりあえずこの姿の詳細をカストールへ尋ねてみる事にした。
「あの、カストールさん。これは?」
「ああ、それはオーガと呼ばれる魔物の一種だ。
人にかなり近い外見をしているから祖先は人間だろうと言われているんだが、詳細はよく分かっていない。やや攻撃性が強いせいで人類ではなく魔物に分類されているが一応会話は成立する生物だ」
そんな魔物もいるのか、と瀬衣が考えている横でウィルゴの変化も終わった。
彼女の方はほとんど変化もなく、背中の翼が白い蝶の羽根に変わっているだけだ。
「ウィルゴに飲ませたのは半蟲人のバタフライタイプに化ける薬だ。
まあ実際は蟲人と子供を設ける人間なんていないから希少種どころか絶滅危惧種なんだがね。
けど、それだけに人間社会に馴染めないわけだから亜人の里に来てもさほど違和感はない」
カストールの説明を聞き、そんなのもいるのかと改めてこの世界の種族の多様性に驚かされた。
何というか、よくもまあそこまで多岐に分布出来るものだ。
生物の種類の多さならば地球も大概だが、一体どちらの方が多いのだろう、などと考えてしまう。
ともかく、人間以外に化ける薬と聞いて身構えてしまったがちゃんと外見は考えてくれているようだ。
瀬衣もウィルゴもそこまで大きく変貌しているわけではなく、これならばちょっとしたコスプレのようなものだろう。
そう思いながら他の面々を見る。
「ほー、こりゃあ大したもんだ。触ってみねえと幻影って事すら分からねえ」
「ちょいと変な気分だな。見た目は下半身が馬なのに俺自身の感覚は二本足のままってのは」
「我輩、これはちょっとどうかと思うのだが」
ガンツはカブトムシを思わせる鎧のような外皮に全身を包まれ、頭からは角が生えている。
一方ジャンは上半身がそのままで下半身が馬のケンタウロスとなっていた。
どちらも妙に似合っていて何だか吹き出してしまいそうだ。
そしてカイネコに至っては完全な猫になってしまっており、下手に亜人として取り繕うよりもそのまま飼いならされた魔物扱いとしてしまうらしい。
次に瀬衣はフリードリヒへと視線を向け……そこで固まった。
虎としての見た目はそのままに頭部からはクワガタのような角が飛び出し、下半身は馬。
そして背中からは蛾のような黒い羽根が生えている。
何だ、この合体事故。
「あの、カストールさん?」
「あ、ああ、すまない。どうやら間違えたようだ。
あれは蟲人とケンタウロス、蛾の特徴を併せ持ったパーティー用のお遊びアイテムだ」
「……どうするんですか、あのクリーチャー」
「……どうしようか」
とりあえず、こうなってはルファスのように上から布でも被ってもらうしかないだろう。
羽根だけ出しておけば亜人の仲間と思って貰えるはずだ。
瀬衣は最後に女騎士を一瞥し、そして目を逸らした。
女騎士は上半身がそのままで下半身が蜘蛛のアラクネと呼ばれる亜人と化してしまっている。
それは別にいいのだが、元々の容姿が容姿なだけにゴリラと蜘蛛の合成に見えてしまうのだ。
最後にクルスは、二足歩行のバッタ怪人と化していた。
バッタの怪人というと日本の国民的ヒーローが思い出されるも、あんなに恰好いいものではない。
何というか、普通にバッタだ。恰好よくデフォルメされたものでもなく、リアルにバッタなのだ。
「何ですか、セイ。その残念そうな顔は」
「い、いえ、何でもないです」
これじゃあバイクを乗り回したり、恰好よくバッタキックを決めたりするのは無理そうだな、などと勝手に残念さを感じながら瀬衣は目を背けた。
そして考えるのは、いつ頃ルファスに黄金の林檎の話を切り出すかだ。
ドラウプニルでそれを口にしなかったのは向こうからのイメージの問題がある。
初対面で出会って早々に『黄金の林檎下さい』などと言えば、それはまるで最初からそれ目当てで近付いたように思われてしまうかもしれない。少なくとも自分がルファスの立場ならばそう思う。
いや、それが目当てというのもあながち間違いではないのだが優先順位がここでは重要だ。
まずはルファスとの和平、共闘が何よりも重要であり、ここを疑われてしまうのは極めて不味い。
だから瀬衣はあえて林檎の話を一切出さなかった。
考えてみて欲しい。和平を結びたいなどと言って近付いてきた奴がその日のうちに林檎下さいと言い出す、その不自然さを。
どう見てもそれ目当てとしか思えない。物欲が優先してしまっている。
ましてやルファスは過去にも一度仲間に裏切られているのだ。
だからこそ慎重になるべきだと瀬衣は考えた。
強さは確かに欲しい。この世界で生きる以上、自分と親しい者達を守るだけの力は必要だ。
だからといって、それを欲するばかりに最も重要な事を見失ってはならないのだ。
(林檎の話はもう少し後にしよう……とりあえずまずは、今回の目的を達成して信頼を勝ち取る事から始めないと)
彼はまだ知らない。
昔はさておき、今のルファスは林檎下さいと言えば特に何も考えずに「いーよ」と譲ってくれるくらい能天気だという事を……。
*
瀬衣達が亜人の里に近付くと見張りらしき蟲人が数人現れる。
槍を携えた、蜜蜂のような顔をした亜人だ。
これがスズメバチの顔ならばただのモンスターでしかなかったのだろうが、蜜蜂はよく見れば可愛いと言えない事もない顔をしている。
勿論それが人間大サイズになれば怖い事には違いないのだが、それでもスズメバチのような凶悪フェイスでなかった事は喜ぶべきだろう。
彼等は瀬衣達をいぶかしむように見ていたが、自分達は居場所のない亜人で安住の地を求めてきたとカストールが語ったらあっさりそれを信じてしまった。
この時一番疑われたのはカストールだ。
彼の種族は妖精であり、正真正銘人類ではないのだが、その外見が完全に人間だ。
その為、信じてもらうのに少しばかり手間取ってしまった。
「さて、まずは早速だがケンタウロスの集落を探そう。
そこにサジタリウスがレオンに協力している理由があるはずだ」
カストールの言葉にここで否定を返す者などいない。
瀬衣達全員が頷き、並んで歩き始める。
この森の中は亜人の共同生活圏であるが、種族が違う以上それぞれの文化がある。
つまりはある程度棲み分けていると考えるのが自然だ。
地球の虫だってそうだ。同じ森の中に何種類もの動物や虫が共生する事はあっても、蜂の巣の中に蟻がいる事はない。
サイズは違えど、そこは同じのはず。つまりはこの森の中の何処かにケンタウロスが纏まって暮らしている集落があるはずなのだ。
ならばまずは、そこを見付けるのが目的達成への第一歩となる。
「探すとは言ってもどうするんですか?」
「そうだな、とりあえずまずは適当に集落を探し、道を尋ねてみるさ」
「あの、それ……何も集落を探さなくても入り口にいた蜂の人達に聞けばいいんじゃ」
「なるほど、それは名案だ。うっかりしていたよ」
はっはっは、と爽やかに笑いながら元来た道を引き返すカストールに、瀬衣は何だか嫌な予感を感じていた。
先程は渡す薬を間違えていたし、今回はすぐに気付くような事に気付かずに前進したり……そういえば初めて会った時も回復薬を持っていたのにボロボロのまま森を徘徊していた。
……この人、もしかして見た目に似合わず結構抜けてるんじゃないのか? 瀬衣はそう思ってしまった。
この疑問に答えを返す者はいない。
だがあえて語るならば、それは全くの正解であった。
例えばカストールは魔神王に敗れ、その後に瀬衣達と出会っているわけだが実はこの間、かなりの間が存在する。
その間に彼が何をしていたのかといえば、何かこれといった理由があるわけでもなく、単に道に迷っていただけなのだ。
カストールは十二星では珍しい人格者であり、良識と常識を兼ね備えている。
だが彼は何というか――少し、ほんの少しだけ抜けているのであった。
良く言えば大らかなのだが、悪く言えば細かい事を見落としてしまうのだ。
「よし、では入り口の蜂人達に道を聞いて、その後にケンタウロスの里を探そう」
誤魔化すように言いながら前を歩くカストールを見つつ、瀬衣は考える。
覇道十二星――ルファス・マファールに従う人知を超えた怪物達の集まり。
その力は単騎で一国に匹敵し、最早歩く災害とまで呼ばれる恐怖の象徴。
そう聞かされてはいたが、実際はどうだろう。
少なくとも隣を歩くウィルゴからはそんなイメージなど全く抱かないし、アリエスも巨大化時はともかく普段は大人しそうであった。
そしてカストールも、今の所は少し抜けた気のいい兄さんという感じしかしない。
(もしかして、そんなに怖い存在じゃないのか?)
聞いた事と、実際触れ合う事はまるで違う。
そのイメージの差を思いながら、瀬衣は自分の中の十二星への恐れが少しだけ減っているのを自覚していた。
アイゴケロス「せやな」←地獄の魔王
スコルピウス「せやな」←既に国を滅ぼした後
レオン「せやな」←超問題児
リーブラ「せやな」←追跡殲滅兵器
瀬衣「」
【どうでもいい設定】
・この世界におけるレベル1000へ至る道は主に三つです。
パターン1 生まれつき
生まれた時から絶対強者として生まれた者達。
特定の地域を支配する為などに女神が配置したいわばボスキャラ。
この世界における悪役としての役割を担っている可能性が高く、大体が人類の敵。
主な達成者:五龍、魔神王、テラ、レオン、竜王等
パターン2 女神補正
後天的に女神に力を与えられた者達。
その時代その時代における魔を討つ勇者や、聖域の守護者などがこれに該当する。
主な達成者:パルテノス、アイネイアース、その他歴代の聖域守護者達
パターン3 黄金の林檎
禁断の果実を口にし、女神のシナリオを無視してレベル1000へ至った者達。
尚、ルファス本人は先祖の影響で最初から林檎を食べた時の特性を備えていた。
(マナを吸収しやすい体質)
主な達成者:一部の例外を除く七英雄、十二星等
Q、あれ? ベネトは?
A、何の理由も補正もなく自分一人の意思力と執念だけで限界の壁を突き破ってレベル1000になりました。
ついでに勢い余ってシステムの壁まで突き破ってレベル1500までいきました。