第105話 レオンのほえるこうげき
【前回のあらすじ】
※感想欄
ババ バババ ババババ
バババ ∧_,∧ ババ ∧_∧ バババ
∧_∧バ( ´・ω・∧_∧ (・ω・` ) ∧_∧
(´・ω・)=つ≡つ);;)ω(;;(⊂≡⊂=(・ω・`)
(っ ≡つ=つ (レオン) ⊂=⊂≡ ⊂)
/ ) バ∧_∧| x |∧_∧ バ ( \
( / ̄∪バ ( ´・)∪ ̄∪(・` )ババ ∪ ̄\ )
ババババ/ ) バババ( \ ババババ
バババ `u-u'. バババ ババ`u-u'
_人人人人人_
>もうやめて遊戯<
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
ルファス「レォォォォォォン!!?」
それは突然だった。
確かに終わっていたはずの勝負。付いたはずの決着。
だがそれは盤面の外からの不躾な第三者の手によって覆される。
レオンの全身から彼らしからぬ神聖な輝きが溢れ、ヒステリーを起こしているスコルピウス以外の全員が同時に危険を察知した。
「不味い! 離れて下さい、スコルピウス!」
リーブラが忠告するも暴走した蠍は止まらない。
レオンの変化に気付きもせずに鋏を幾度も叩き付けるが、それは最早レオンに通じてはいなかった。
スコルピウスに殴られながらもレオンの身体が膨張し、人としての姿を捨てる。
紅蓮の髪は鬣へと代わり、全身が毛で覆われて、スコルピウスよりも尚巨大にして獰猛な魔物の王の本性を露にする。
かつて竜王、吸血姫、魔神王と並び称された最強の魔物、獅子王レオン。
その威圧感に十二星達が固まっている前で、面倒くさそうに前足でスコルピウスを払いのけた。
それだけで巨大な蠍は容易く吹き飛び、街並みを潰しながら地面を滑っていく。
「グゥゥゥ……オオオオオオオオオッ!!」
理性を感じさせない獣の咆哮が響き、殺意に漲った瞳を十二星へと向ける。
それと同時にリーブラが全砲門を向けて一斉掃射。レオンを爆炎で包み込んだ。
だが煙が晴れるのも待たずにレオンが飛び出し、咄嗟に間に割り込んだカルキノス諸共リーブラに突撃。
リーブラとカルキノスの二人を弾き飛ばし、続いて背後から迫ってきたアイゴケロスの幻影を後ろ脚の蹴りで霧散させ、その足元にいた本体を踏み潰した。
「この! メサル……」
跳躍してメサルティムを発射しようとしたアリエスを蟲でも見るかのように一瞥し、尻尾で払い飛ばす。
ディーナの放った金色の閃光が直撃するも微動だにせず、一睨みにすると青髪の少女はそそくさとゲートを開いて逃げ出した。
――手に負えない。
それがレオンと対峙している十二星全員が抱いた、共通の感想であった。
何が起こったかは分かる。以前にもあった事だ。
スコルピウスの時と同じく、恐らくは女神が何らかの手を加えたのだろう。
だが問題は、今回強化されたのがレオンで、ここにルファスがいないという事だ。
ただでさえ強いレオンに女神の力までもが上乗せされ、その力は完全にここにいる十二星全員を凌駕してしまっていた。
リーブラの砲撃にも怯まず、カルキノスの防御すら容易く砕き、しかもスコルピウスから受けたはずの毒すらもが消えてしまっている。
レオンは大きく息を吸い込むと、眼下の十二星――リーブラ、カルキノス、スコルピウス、アイゴケロスへ狙いを定める。
アリエスだけは違う方向に飛ばしてしまったので射程に入らないが……まあ、どうでもいい。
あの程度の雑魚モンスターなど残しても何ら障害にならないだろうし、あれを障害と思う事はレオンのプライドが許さなかった。
開いた口から恒星の如き熱量を誇る吐息が吐き出され、十二星を襲う。
いかに十二星でもこんなのを喰らえば一たまりもない。
だから、それはまさしく命拾いだったのだろう。
「皆、掴まれ!」
咆哮が届く直前、そんなサジタリウスの叫びが聞こえた気がした。
そして灼熱が通り過ぎ、その後は岩すらもが溶けた凄惨な跡だけが残される。
だがそこに十二星の死体はなく、全員が何らかの手段で難を逃れた事を意味していた。
残されたのはレオンと、そしてアリエスだけだ。
「ちっ、サジタリウスの野郎……俺を裏切りやがったな」
忌々しそうに舌打ちをし、それからアリエスを見る。
彼はレオンへ強気な視線を向けるも、しかし立ち上がろうという気配がない。
分かってしまっているのだ。相手と自分との間にある力の差を。
そして本能で怯え、腰が引けてしまっている。
その姿を見てレオンは鼻で哂った。
「似合いの姿だなァ、アリエス。テメェは所詮クズモンスターだ。
そうやってビビッてンのが在るべき本来の姿だよ」
「何を……!」
「本当の事だろうが? ルファスに拾われて、ルファスに鍛えられて、ルファスに与えられた。
何一つテメェの力じゃねェ。反吐が出るんだよ、テメェみたいなカスが俺達と同格面してんのがなァ」
「……ッ!」
立ち向かう事も出来ないアリエスから興味を失ったのだろう。
レオンは言うだけ言うとその場から跳躍し、後には立ち向かう事すら出来なかった臆病な羊だけが残された。
アリエスは悔しそうに俯き、拳を握る。
何て……何て情けない。レオンに言われるまでもなく自分で自覚してしまっている。
立ち向かえなかった事が何よりも、自分で許せない。
それでも震えは収まらず、それがより一層彼を惨めな気持ちにした。
*
時刻は再び遡り、アリエス達がレオンと接触する前の事。
ルファス達と別行動を取る事となった瀬衣一行はキャンピングカー型ゴーレム『鈴木』に乗り、ケンタウロスの里へと向かっていた。
車内は流石に田中ほど充実してはいないが、それでも旅という事を考えれば従来からは考えられない快適さを瀬衣達に齎し、ルファスの錬金術の腕前がいかに常識外れかを否応にも思い知らせる。
自分達で歩く必要もなく勝手に、それも時速60㎞を超える速度で目的地へ向かってくれるだけでも十分に有り難い。
だというのに鈴木の中はベッドやソファまで備え付けられ、簡易なものではあるが風呂やトイレ、キッチンまで用意されている。
貴族でもここまで贅沢な移動手段など持ってはいないだろう。
レーヴァティンには王族専用の亜竜車という、荷台を馬ではなく捕獲した亜竜に牽引させる移動手段がある。
内装も王族専用らしく豪華なものに仕上がっているのだが、構造の問題からどうしても荷台の中はそれほど広くはならない。
亜竜に力がないというわけではなく、単純に大きすぎるとカーブが効かずに危険なのだ。
しかしこの鈴木は違う。馬車や亜竜車のように動物に牽引させているわけではなく自らが曲がるのだから、そのフットワークはまさしく段違い。
勿論あまりに狭すぎる場所は曲がれないという点は変わらないが、少なくとも馬車などと比べれば遥かに細かな旋回を可能としていた。
……というかこの鈴木は通れない場所があれば飛んで避ける。
信じられない事だが、一度どうしても通れそうにない岩の間に差し掛かった時、鈴木は勝手に翼を展開して飛んで岩を超えてしまった。
ついでに魔物も勝手に撃退してくれる。
一度魔物が出た際、一行は外に出て迎え撃とうとしたのだが、鈴木が何やら大砲らしき物を発射して爆殺してしまったのだ。
つまりは、この鈴木より弱い魔物であれば戦う必要すらないという事らしい。
ちなみに鈴木のレベルは350であり、ウィルゴすら上回っている。
それはどういう事かというと、そもそも鈴木で勝てない魔物ならば瀬衣達でも勝てないという事でありカストール任せになるという事だ。
つまり、どのみち彼等の出番はなかった。
「す、凄いですね、このスズキという名の乗り物は……。
王室専用の亜竜車よりもずっと早いし快適だ。
ブルートガングには自立走行するゴーレムがいると聞いていましたが、それだってここまでの完成度ではないでしょう」
「ああ、しかも中には風呂にトイレにキッチンに寝床ときた。まさに至れり尽くせりだな。
俺は今まで傭兵として世界各地を旅してきたし、馬車やら亜竜車やらにもよく乗ったもんだが、こんな楽な旅はした事がねえ」
クルスが鈴木の完成度に偽りのない賛辞を述べ、ガンツもしきりに感心している。
どうやらキャンピングカーという存在は彼等にしてみれば未知の、そして想像すらした事がない超高等技術で造られた乗り物なのだろう。
実際それは間違いではなく、本来ならばミズガルズよりも遥かに技術の進んだ地球で生み出された乗り物だ。この世界が自力でこのレベルに到達するには後数百年は足りていない。
……まあ、ブルートガングを造ったミザールという例外中の例外を計算から省けば、の話だが。
ルファスをしてミザールだけは『あの錬金チート、頭おかしい』と言うしかない変態なのだ。
「なあクルスさんよ、これ俺等で買い取れないかな? ルファスさんは多分、造ろうと思えば同じの造れるわけだし、100万エルくらい国から出してさあ……。これがあれば今度の旅の難易度が段違いだぜ」
「いえ、ジャンさん。これだけの物となると恐らくルファス・マファールといえどそう簡単には造れない、恐らくは最高傑作に等しい物のはず。100万程度ではとても……1000万なら……いや、しかし予算が……」
ルファス作の移動ゴーレムに感心しきりの一行だが、そんな中で瀬衣だけが険しい顔をしていた。
確かに凄い事は凄い。快適かと問われれば間違いなく快適だ。
だが……だが、何故キャンピングカー?! 何故地球にあるはずの代物がこちらで再現されている?
そして名前……鈴木はないだろ、鈴木は。
クルス達は鈴木という名を馬車や亜竜車と同じようなこの乗り物の識別名だと認識している。
だが違う、これの名前はキャンピングカーで、ルファスもそれを理解しているはずだ。
実際瀬衣が質問した時も普通に答えていたし、それどころか『トラックの方がよかったか?』などという問いまで返してきた。
そう、彼女は彼女自身も言っていたように明らかに地球の事を知っている。地球の技術を知っている。
その上で、何故か鈴木という変な名前を付けているのだ。
(い、いや、落ち着け俺。突っ込み所はそこじゃない!)
問題は名前ではない。
正直突っ込み所満載で、ひょっとしてギャグでやっているのかと問いたくなるがそこはいい。
問題は、何故ルファスがそれを知っているかだ。
ルファスには地球の知識がある。つまりはそれを知る機会がこちらの世界にあり、彼女がそれを得ているという事。
瀬衣が昔見た物語などでもこういうシチュエーションはあった。
主人公達が異世界で様々な敵と戦う物語で、終盤に出てくる大ボスは地球の事を知っており、最終的には地球に侵攻しようと目論んでいた。
そう考えた時、瀬衣の顔色は自然と青くなっていた。
いや、まさか、と思う。ルファスは敵ではないとメグレズも言っていた。
だが……何せ前科持ちだ。彼女が悪か善かの議論はさておき、実際に二百年前に世界征服を目指して覇道を突き進んだ過去は確かな物として歴史に刻まれているのだ。
ならばあるいは。あるいは、彼女の標的には地球すらも含まれていたのではないだろうか?
彼女がミズガルズを憂いて力による統一を目指した事はメグレズから聞かされているが、逆を言えばミズガルズの為ならば多少乱暴な手段であろうと選んでしまえる人物だという事も意味している。
ならば有り得るのではないか? ミズガルズを発展させ、豊かにする為に地球の技術力に目を付けて狙いを定めていたという最悪のシナリオも。
そこまで考え、瀬衣は首を振った。
どうにも一度考え始めるとどんどんと思考が悪い方向へと逸れて最悪のケースばかりを想定してしまう。悪い癖だ。
「瀬衣君、大丈夫? 顔色がよくないけど」
「えっ、うぇ!?」
そこに、彼の様子がおかしい事に気付いたウィルゴが心配そうに声をかけた。
慌てて顔を上げると、こちらを見詰めるウィルゴと目が合う。
ふわりとした桃色の髪に、大きな瞳。白い肌に純白の翼。
その姿はまさに天使そのもので、瀬衣はどぎまぎしてしまう。
何度見ても見慣れるものではない。それほどに常識外れに整っているのだ、彼女の顔立ちは。
むしろ慣れれば慣れるほどに逆に耐性が減っているような気さえする。
「本当? 無理しないでね?」
「あ、ああ、大丈夫だ、問題ない」
耐えろ、耐えるのだ俺の理性。今こそ鋼の強度を見せつける時。
瀬衣は必死に己を律し、ウィルゴに見惚れる男の本能を強靭な意志力を以て捻じ伏せる事に成功した。
しかし彼の脳内では必死に固めた鋼の理性の前に筋肉モリモリのマッチョマンが現れて『男は獣だぜ?』とかほざきながらハンマーでせっかくの理性をぶっ壊してくれた。
いや、誰だよお前。
瀬衣は脳内の妄想ワールドに自分を登場させるとマッチョマンを掴み、天高く投げ捨てる。
そして急いで理性を修理し、無理矢理取り繕った。
だがそこに無情にもウィルゴの追撃が入り、彼女の柔らかな手が瀬衣の額へと触れる。
「熱は……ないよね」
何だこれ? 何だこのラブコメお馴染みの『何回使い古されてるんだよ、このシチュエーション』というベタベタな流れは。
死ぬのか? もしかして俺は今日、ここで死ぬのか?
人生の幸運を使い果たして今から不幸続きで死んでしまうのか?
そんな事を思いながら否応にも高まる心臓の鼓動を自覚する。
おいやめろ、マジで離れて下さいお願いします。冗談抜きに惚れてしまいそうです。
だがその瞬間、瀬衣達には見えないが鈴木のライトがギラリと輝いた。
『マスターより与えられた最重要指令に接触。リア充排除モード起動』
突然鈴木の天井が開き、瀬衣の乗っていたソファが勝手に飛んで瀬衣を車内から屋根へと移動させた。
そして屋根が閉まり、瀬衣はそこに一人ポツンと取り残されてしまう。
勿論屋根の上にもちゃんと快適に過ごせるようにソファなどが備え付けられているので快適という点では変わらないが、しばらく車内には戻れないだろう。
これぞ過保護なルファスが鈴木に与えた命令の一つ、『ウィルゴに粉かける奴がいたら一定時間屋根の上に排除しておけ』というリア充排除モードだ。
ただ、これには欠陥があり人間の心の動きなど詳しく知らない鈴木はウィルゴの方からアクションを起こしたとしてもこの行動に移行してしまう。
おかげで瀬衣は、彼自身は何も悪い事をしていないのに屋根に追い出されるという何だか可哀想な事になっていた。
「お、俺が何したあああ!?」
瀬衣の叫びを乗せながら鈴木は進む。
向かうは、ケンタウロス達が暮らす亜人の里。
その姿を、森の中にある巨樹の上からアシダカグモの亜人が見ているとも知らずに。
Q、何でレオン、ここまでアリエスを嫌ってるの?
A、例えるなら竜王、シドー、ミルドラース、デスタムーア、バラモス、キラーマジンガという錚々たる顔ぶれで構成されているPTに一匹だけスライムが紛れ込んで同格であるかのように並んでいるのが十二星におけるアリエスです。
仮にも最強と呼ばれ、魔物の王とまで言われていたレオンにしてみれば「俺、こんなのと同格扱いかよ」となるわけで我慢出来ません。