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8.勇者と魔王

 ものすごく背の高い彼に子ども抱っこされて見る景色は、正直に言おう。

 キブンいぃ〜!

 愚民どもよ、頭が高ぁい!! とかって独裁者ごっこしたくなる、視界の高さ。

 いいなあ、あたしもせめてあと二十センチ高くならないかな。
 親父は百八十センチあるけど、ママは今のあたしよりちょこっとだけ上って背丈だったし。……あまり期待できないかもしんない。


 彼はそのままあたしを抱えて草木を掻き分けて進んでいく。と、唐突に森が開けた。

 そして、目の前に現れたのは、

「うおお! お城っお城っ!!」

 館っていうから、うちみたいな洋館をイメージしてたのに。
 立派な、石造りの古城だった。

 某黒ネズミが支配する国のお城のような、メルヘンかつ乙女チックな物じゃないけど、丸い塔が両脇にあって、しっかりした造り。どっちかっていうと、砦?のような。四階建てくらい。

 のけぞるくらい上を見上げてキョロキョロするあたしのためにか、お城の前で彼は少し立ち止まって説明してくれた。

「四百年ほど前に建てられた物らしい。生活する上の不便はないので大丈夫だ。部屋は何室も空いているので好きに使えばいい」

 って、泊めてくださるの?

 宿屋のわけないし、本当なら一応あたしも若い娘さんなので警戒した方がいいんだろうけど。そういう心配まるで必要ないでしょう、この人は。
 お人好しとか親切とかそんなのじゃなくて、なんていうかなぁ、そう、そこにあるから。みたいな。

 あるがままを、受け入れている。

 あたしが彼を不審に思ったり、まったく警戒せずに抱き抱えられたままなのは、この人があたしをちゃんと見てるからだ。
 あたしを呼び出した彼らは、そのあたしの言葉を全然聞いてくれず、自分たちの言葉ばかり投げた。
 この人は、あたしが漏らした何でもない愚痴だってひとつひとつ拾って、ちゃんと応えてくれた。

 だから、なんだと思う。


 黙ったまま自分を見つめるあたしにどう考えたのか、僅かに首を傾ける。

「……お前を呼び出した者たちのところへ帰る方がいいか? 望むなら送ってやるが――」
「イヤーッ! あんなイッちゃってる目ぇした人たちのトコ戻ったら何させられるか分かんないじゃんッ! こっちのほうがいいっっ」

 ギュッと目の前のローブにしがみつくあたしを見て、無言のまま眉を寄せる彼。

 こ、困ってる?? あまり表情がないから分かりにくいけど、図々しいかな、あたし。

 ちょっと心配になってぽそぽそ付け足した。

「や、カーディナル、さんが、良ければだけどー……」
「――私はお前が良いのならば構わない。……つくづくアリスト家の者は変わっている」

 親父の実家がなにさ。

「なんでよ。なんでヘン?」

「本来ならば魔王を倒すべき役割の勇者であるにもかかわらず、私に剣を向けないのはお前と先代くらいだ」
「だぁからぁ、あたしこの若さで殺人犯には……にゅ?」

 今なんかおかしな単語があったような。

「まおうってナニ」

 あたしの疑問を違う意味にとったらしい彼が、説明してくれる。

「お前のいた世界には存在しないのか? 世界を滅するチカラを有すものとことわりで定められた存在のことだ」

 はあ、ほほう。

 地球っ子のあたしからすると、魔王って言ったらゲームで頭の悪そうなモンスターを配下にしてて不便極まりないトコに城があったりしてそれ結局勇者鍛えてんじゃんてな罠を張り巡らして、ラストでけちょんけちょんに殺られちゃうアレなんだけど。

 そうか、あたしが勇者って言うならワンセットで魔王もいるだろう。
 ルガート一味(格下げ)もなんか言ってた。東の――?

 片手であたしを抱えたまま、カーディナルは空いた方の手で扉を開く。美人な見かけによらず力持ち。

 冷えた石のしんとした匂い、時が止まったような空気。
 こんなに広いお城なのに、人の気配がまるでない。――と、いうか、誰も住んでいるような様子もないって、何。
 冷え冷えとした暗闇が広がる石の広間に、寒くないはずなのに震えてあたしは彼の腕をギュッと掴んだ。

「――ねえ、親父…と、ええっと、先代のアストラルスを知ってるって言ったよね。別世界に送ったとも。どゆこと?」

 ひそめる必要もないのに、あたしはささやくように言葉を紡いだ。

 カツン、カツン、石の床に響く足音。
 高いところにある小さな窓からうっすら外の星明かりが漏れる、届く光はそれのみの真っ暗闇の中、だけど彼の足取りに迷いはない。

「ああ。――あの男が私を倒しに来たときに。何故か剣を使わず、私に取引を申し出てきた」

 取引、とあたしはつぶやく。

「私のことは放っておいてやるから、自分をどこか遠くへ……勇者でない自分でいられる場所に行かせてくれ、と。
 異世界にヒトを送るのは初めてだったが、お前がこうして生まれているということは成功したようだな」

 無茶苦茶だなあの親父。だけど、クスクス笑う少女のような懐かしい声があたしの耳に蘇った。

 ――ライさんは、ママに出逢うために、この世界に来てくれたんですもの――

 なんだ。あたし知ってたんじゃん。最初から。繰り返されていた母の言葉の意味がやっと分かって、なんとなくスッキリする。ママのためってのには異論があるけど。

 いやいやそうでなく。

「さっきからさ、剣を使うだとか倒すとか、物騒なこと言ってるけど。なんで?」

 カツリ、と一番奥に立ちふさがっていた木の扉の前で、カーディナルが立ち止まる。
 片手を当てたまま、腕の中のあたしを見下ろす。

「私が魔王だから」

 キイ、と軽い音を立てて扉が開かれる。
 ふわりとあたしの髪を揺らす、ロウソクの暖かい灯かり、清い薬草の香り。



「東の魔王イーザーラゥド―――それが、私という存在を表す名だ」




サブタイトルが…っ、引き続き苦悩しております…。あああそのまんま。


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