2.皐月ちゃんと親父
あたしの家は街の一番高台にある古い洋館。
体が弱くて外に出ることが叶わなかったママのために、少しでも外の景色が見渡せるようにと資産家だった祖父が手に入れたもの。
いつの間にやら壁には蔦がはびこり庭の草木も茂りに茂り、お化け屋敷だなんて言われちゃってるけど。
だって夏なんだもん。どんなに草刈りしたって数日たてばまた伸びちゃってるんだもん。と言い訳したりして。
一人じゃ手が回んないんだよね。季節ごとに植木屋さんに来てもらってるけど、かなりメチャクチャに植物が植えてあるからなぁ。
そろそろまた手入れをお願いしなきゃなんないな、と荒れてきた庭を眺めながら門に手をかけて、アレって思う。三階のママの部屋の窓が開いている。朝はちゃんと閉めてたのに。
ってことは。
「皐月ちゃーん? 来てるのー? たっだいまー!」
足音を弾ませて玄関を開けた。
ママの弟皐月ちゃん(つまりあたしの叔父さんなんだけど)は、ママとそっくりな美人でやさしくてカッコよくて血が繋がってさえいなきゃ無理矢理にでもお婿さんに貰ったのにってくらいの良い男のひと。
ママが亡くなったあと、ダメ親父に代わって実質上あたしの保護者になってくれたひとでもある。
あたしが中学に上がった辺りからファッションデザイナーとしての仕事が忙しくなってきて、珠にしかこっちに戻ってこれなくなったけど、少しでも時間が空いたときはこうしてあたしの様子を見に来てくれるんだ。
「皐月ちゃんー?」
キッチンをヒョイと覗き込んだ時だった。
死角から空を鳴らして振り下ろされた棒を右手に持っていた通学鞄で受ける。
とっさに体を捻って回し蹴りを放つ――が、わしっとその足を掴まれて攻撃を塞がれた。と同時にあたしは鞄を撥ね上げて掴まれた足を力点に飛び、逆の膝を対峙した相手の鳩尾に叩き込んだ。
あたしの全体重を片手で支え損ねたバカがグラリとよろめき。
「っギャー! 離しなさいよこのバカ親父っコケるんなら一人でコケろーーー!!」
ビタンと振り回した鞄をアホ面にぶつける。
それがトドメになった。
「だあっ」
「うにゃあっ」
地響きを轟かせてあたしとバカ親父は廊下に倒れ込む。
あああ老朽化進んでるのにっっ。
「ってー。バカ娘、太ったんじゃねえの」
「成長期よバカアホ親父ッ! テメェこそ年食って鈍くなったんじゃねえのっ」
半年前から五センチも伸びたんだ。それでもまだ平均よか低いんだけどっ。
親父の上に乗り上げたあたしはその太い首をぐいぐい絞める。
年頃の娘に向かって太ったとは何事よー!
「ぐ、テメ、お父様に向かって…」
第二バトルが始まろうとした瞬間。
ガンガンガン!!
容赦なく打ち鳴らされたフライパンとお玉の即席ゴングによって、あたしと親父の動きはピタリと止まる。
「……二人とも。やるんなら外でやりなさい外で」
美人なお顔に青筋を立てた皐月ちゃんが、大迫力の怒り笑顔をまとってあたしたちを見下ろしていた。
「全くもう。ライさんもりらちゃんもフツーの再会は出来ないわけ」
ドン、と炒飯が山盛りになったお皿を親父の目の前に置きつつ、ため息を漏らす皐月ちゃん。
「だってりらが」「だって親父が」
同時に言葉を重ねたあたしと親父は再び睨み合う。
「ほんっとーーに二人とも似た者親子だね」
「イヤアアァ! 皐月ちゃんまでそんなこと言わないでえぇえッ!!」
絶叫するあたしにニヤニヤ笑って親父。
「俺様の優秀な遺伝子だ。ウレシかろー」
「違うもんママ似だもん皐月ちゃんともホーラこんなにそっくり!!」
あたしの分のミントティーをテーブルに置いた皐月ちゃんの腕にしがみつく。
ニヤニヤ笑いを深くした親父は更に憎たらしいことを言う。
「顔だけな〜。色気は完全にサツキが勝ってるな〜」
むきーッッ!!
「てゆーかいったい全体何で居るワケ! あと半年は帰ってこないと踏んでたのにっ」
「サツキの顔見に〜。俺似の娘には別に会わんでも良かったんだが」
「ライさん。そうゆうコトばっかり言ってると、姉さんの天罰下るよ」
呆れた皐月ちゃんの言葉に親父は遠い目になった。
「化けて出ないかな〜、ユリノ〜」
ちなみに百合乃とはママの名前だ。アホ親父め。
冷たいあたしと皐月ちゃんの視線に怯んだ親父はゴホゴホと咳払いして、壁に立て掛けてあった長い物を手に取った。
布でぐるぐる巻きにされた、十字架みたいな形態のそれをあたしに放って寄越す。
ぎゃ。
身の丈あるほどのブツの重さを考えて、受けとる瞬間身構えたあたしだったけど、意に反してソレはとても軽かった。
「冗談は置いといて。一応、お前も俺の子どもだ、渡しておこうと思ってな」
「なによコレ?」
あたしが親父の子どもであることがどう関係するのだと訝しく思いつつ、包みをほどく。
出てきたのは。
白銀に鈍く光る、装飾を施された―――剣。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。