1.りら
あたしの名前は坂崎りら。春生まれ、現在十四歳と三ヶ月。
天然茶金髪のくるくる巻き毛と国籍不明な顔立ちは五年前に亡くなった母ゆずり。
母は、日本人とロシア人のハーフだった祖父と、日本人とイギリス人のハーフだった祖母の間に生まれた混血も混血の娘さんだったんだ。
あたしはその母と瓜二つだとよく言われるし、自分でもそう思う。
ただし。
「りらってば喋ったり動いたりすると小父さん似って感じなんだよね、やっぱり」
そう言うのは十年来の幼なじみである小笠原紅子。クールにズバリと要点をついてくるのでムカつく。
紅子の発言を受けて、クスクス可愛らしく笑うのは、中原佳奈美、これまた幼稚舎からの幼なじみだ。
「目がそっくりだもんね、小父さまとりらちゃん」
「色だけでしょお〜」
あたしの親父の眼の色は少し変わってて、金をツヤ消ししたみたいな琥珀色なのだ。イヤな事にその色がそっくりそのままあたしに遺伝している。
ま、とりあえず、髪だけ見て遊んでるって思われても、次の瞬間、眼の色で異国の血が入ってるんだってわかってもらえるけども。
あたしがふてくされて、似てないから、と強く言うと大笑いされた。何よー?
「外見はお母さま似なのに、実際会ったらどうしてみんなお父さま似だって言うかわかる?」
そうなのだ。顔立ちとか、形だけならあたしはママ似なのに、どうしてだか親父に会った後は、みんな口を揃えて『お父さんにそっくり』と言うのだ。
「眼の力がね、フツウじゃないの」
「“強い”んだよね。あんた男だったらモテたよー。ってか、小父さんも近所の奥様方にモテモテだもんね」
「やめれ! あの遊び人親父と一緒にされたかないしっ」
あたしがチカラいっぱい全否定するのを軽く流して二人は続ける。
「今はどこにいらっしゃるの? 小父さま」
「長いことお会いしてないわ〜。お話しした〜い」
ハートマークが飛び交いそうな声にあたしは目をすがめた。
お前らもか……。
「皐月ちゃんには連絡してるみたいだけど。あたしは半年前に会ったきりだよ」
どーでもいいよ、タコ親父のことなんてー。
モノゴコロついてからとゆーもの、親父がうちにいる姿を見たことは片手で数えるくらい。
それでもまだ、ママが生きてた頃はちゃんとマメに連絡してきてたし、帰ってきてしばらくはママの傍にいた。
ちっちゃい頃あたしはよくママに言ったものだ。
「ままっ! なんであんなタコ親父とケッコンしたのっ」
あちこちフラフラして帰ってこない親父に対してあたしがそう怒ると、にこっと笑ったママが言うのはいつも決まって同じ。
「だって、ライさんはママに出逢うためにこの世界に来てくれたんですもの。いろんな所へ行って、いろんなものを見て、ここを動けないママにいろんな事を教えてくれるのよ」
それにね、とベッドに半身を起こしたママは少女のように微笑う。
「ライさんが帰ってくるところは、ママのところだけだもん。だから、いいの」
あたしは、ゼッタイ各地に現地妻がいるに違いないと睨んでいたんだけど、ヘタに口出しすればものすごいのろけ返しがくることはわかっていたので、黙っていた。
ママがそれで幸せならいっか、と。
――そうして、騙し騙し動いていたママの心臓が動きを止めたとき。
帰るところが無くなって、まさに糸の切れた凧になった父は、一年に一度顔を見せれば良い方、といった失格親父と成り果てた。
いいんだけどね。別に家に居られてもウザイだけだし、今さら父親らしいことされても気持ち悪いし。皐月ちゃんがいてくれる方がずっといいもん。
「でもりら、小父さんの他には身内って皐月さんだけでしょ? その皐月さんも最近忙しいみたいだし、あのオバケ屋敷で一人って危なくない?」
「人ん家をオバケ屋敷ゆーな。アレでもセキュリティはしっかりしてんのよ、不法侵入しようとしたら一発で捕まるわ」
「りらちゃん、お嬢さまじゃないけど遺産持ちだもんね」
「……ケンカ売るなら買うよ」
笑い声が初夏の空に弾ける。
気心の知れた友人たちと、可もなく不可もないありふれた日常を送る、それがあたしの世界だった。
――この日まで。
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