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0.プロローグ


 月のない夜空にはお星さま。


 星明かりが、こんなに明るいだなんて思いもしなかった。
 頭上を覆う木々のすき間から射すその明かりだけを頼りにあたしは必死で走る。
 道なんかない、森の中。

 体力には自信のあるあたしだけど、さすがにでかい荷物を抱えての全力疾走はキツくて、しかもでこぼこした土塊や木の根が張り巡らされた足場を探りながらだから余計に疲労する。

 両腕に抱えたコレを手放せば少しは楽になるんだろうけど、今となっては着ているものを除けばこれだけがあたしの持ち物、その辺に投げ捨てるわけにもいかない。

 忙しなく呼吸するあたしの背を追う獣の気配は、どんどん近くなっている。


 一見して、それは犬に見えた。

 形だけなら。

 でも、あたしの知ってる犬はこんなにでかくないし目だって三つもない。ないったらない。


 想像してみてください。


 自分の身の丈より大きい、黄赤に光る三つの目を持った犬。
 それが自分を目指して真っ直ぐに追ってくるの。

「ふぎゃああああっ!!」

 飛び掛かってきた一匹の牙を辛うじてかわす。
 運動神経にも自信のあるあたし。
 とか自慢してる場合でもなく、進行方向を塞ぐように着地したデカ犬――もうオオイヌでいいか、は身を低くして唸りながらあたしを狙っていた。

 そして近づくもう二匹。

(ってか何であたしがこんな目にあわなきゃなんないんだよう!)

 脳裏をよぎる、憎々しい身内のヘラヘラ笑いに殺意が芽生える。

(あ・の・ク・ソ・オ・ヤ・ジ! 呪ってやる祟ってやる!)

 ジリジリとあたし包囲網を縮めてくるオオイヌどもに、絶体絶命大ピンチ、十四年と三ヶ月の人生にサヨナラを告げる覚悟をした、ときだった。


『 ――――、 』


 音律が聴こえてきて。


 光の檻のようなものが獣どもを包み。

 最後の音が消えた瞬間、空気が弾けるような感覚がして――光の檻もオオイヌも、消え失せてしまった。


 今のナニ?

 何がどーなったワケ?

 とにかく、

「うにゃあぁ……」

 へにょへにょとその場に座り込む。
 助かったよう、何がなんだかわかんないけどー。

 半分腰抜かし状態だったあたしのすぐ側で、草を掻き分ける気配がして、そちらに首だけ向ける。


 あたしを見下ろす、背の高い青年。
 身の丈ほどもある紺色の黒髪、夜色の瞳、静かな美貌。


「――今回は随分と、」

 さっきあたしを助けた声。

「情けない勇者が来たものだな……」



 白く淡く輝く星明かりの下。夜の化身のような彼が呟いた。






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