Dance2 其の10-2
「いつまでそうやって隠れている気だい? このままじゃ朝になってしまうよ?」
そう土の壁の向こうに語りかける。が、返事は返ってこない。
(……? 何か策を練っているのか?)
と、その時だった。
土の壁がザアァァと砂になって崩れる。カードの効果が消えたのだ。慌ててカードを構えるがそこに悼矢の姿はない。
(!? しまった……! 煙のどさくさに紛れて姿を隠したんだ……!)
辺りを見回す。しかしここは暗く闇の濃い上に倉庫が立ち並ぶ場所だ。隠れる場所には困らないだろう。
(くそ……どこだ……! どこに隠れた……!)
どくん……どくん……。
静かな夜に自分の心臓の音が高鳴る。
と、そこに一人の男がやってきた。
「あぁん? こんなところで突っ立って何してんだ、幹久ァ」
いきなり声をかけられ幹久と呼ばれた青年はエーテル・カードを男に向ける。
「お、おィ、よせ! 俺だ、俺!」
幹久は出てきた男の顔を見てカードを持つ手を下ろした。
そこにいたのは顔半分に刺青を入れ、パンク系の服装を着た男。
「なんだ……驚かせないでくれよ、藤島」
男――藤島マサキは肩をすくめた。
「そっちが勝手に驚いたんだろォ?」
「藤島、男を見なかったかい? 僕と同じ歳くらいの男だ」
幹久の問いに藤島は何かを思い出そうとするようにとんとんとこめかみをつつく。
「そういやァ人影を見たなァ、二人。駅前の方に向かって走ってったけどよォ」
「駅前だって……! まさか逃げたのか!?」
まんまとしてやられた。今からじゃ追いついたとしても人ごみの中だ。
「くそっ!」
がつんと壁をぶつ幹久。
「おいおい、まさか戦ってたのかァ?」
「そうだよ。だけど逃したみたいだ」
「ハッ。お前がかァ? ギャハハハ! いつものねちっこい性格はどうしたんだ、おい?」
「……ワクナ」
「はい、マスター」
ワクナは怒気のこもった返事とともに藤島の首筋に鎌をそえる。その表情からは伺えないが主が侮辱されて腹を立てているらしい。
「おいおいおい、冗談だろォ? キレんなよ」
藤島は両手をあげて降参のポーズをとった。
「……フン」
幹久は鼻を鳴らしてそっぽを向く。
そんな幹久を見て藤島はギャハハと笑うと馴れ馴れしく肩に腕をまわした。
「ところでよ、幹久。うっとおしい奴らが俺を追いかけててよォ。ちょっと手を貸してくれねぇか?」
「…………。……目的を忘れてないだろうね。みんなが組んでいるのは助け合うためじゃないよ、“角笛”さん……。“風の冬”に怒られたって僕はフォローしないからね」
「ったく、その呼び名はやめろよ格好悪ィ。
そりゃもちろん目的は忘れちゃいねェさ。けどよォ、目の前をちょろちょろされたらウザってぇだろ? なあ、“ヘズ”」
“ヘズ”と呼ばれた幹久は腕を組んでため息をついた。
「うっとおしい奴らってAESSのことかい?」
「AESSとその犬たちだ」
「賞金稼ぎだね。誰?」
「八神きづな」
その名前を聞いた幹久の顔が引き締まる。
「“拒絶された子”……か。確かにそれは面倒だね……。分かった。手を貸すよ」
「ギャハハ! そうこなくっちゃなァ!」
「それで僕は何をすればいいんだい?」
「そのことなんだが……俺に良い考えがあるんだァ」
藤島はにやりと笑った。
◇◇◇
「ここまで来れば大丈夫だろ……」
幹久と戦っていた男と悼矢は駅前まで逃げてきていた。
「すまなかったな。助けてくれたこと感謝する。おまえは命の恩人だ」
男は暗い顔でだが握手を求めてきた。悼矢はそれに応えて男の手を握る。
「人が人を殺すところなんて見たくなかったからな……。でもあんたらどうして戦ってたんだ?」
「俺はこう見えてAESSの人間でな。淡川原を確保するのが俺の任務だった」
(淡川原……さっきの男のことか……)
悼矢はさきほどの青年を思い出した。エーテル使いとの戦いをゲームだと言って笑う青年。
そんなことが許されるわけがない。
「あの男は危険だ。既に何人ものエーテル使いを殺している。AESSとしては奴を放っておくわけにはいかない。だから俺は奴を確保する任務に出たんだが……。ミイラ取りがミイラになってしまうとこだったな……」
「あんた、AESSの人だったのか」
「まあな。俺はもう行くがおまえも淡川原には気をつけろよ」
悼矢は真剣な表情でこくりと頷く。それを見ると納得したのか男は人の波に混ざって去っていった。
その背中はどこか哀しそうだと悼矢は感じた。
それもそうだろう。自分のエーテルが消滅してしまったのだからショックを受けないわけがない。
(もしリタが俺の目の前でやられたら……)
悼矢はぶんぶんと頭を振った。そんな場面は考えたくもない。
悼矢はポケットからカードを取り出した。自分の危機を救ったカード。先ほどは冷却期間に入っていてカードの色が褪せていたが今はもう色を取り戻している。どうやら四、五分ほどでエーテル・カードは冷却を終えるようだった。
(……戦闘中じゃ乱発はできないな……)
とその時だった。悼矢は自分の手が震えていることに気づいた。
(くそっ。今頃になって怖くなってきやがったか……)
震える手を開いたり閉じたりする。
しかし同時に悼矢は自分の中に興奮や高揚感があることに気づいた。
淡川原とのエーテル・カード対決を思い出す。
(戦える……俺でも……! リタのサポートをしてやれる……!)
悼矢はぎゅっと拳を握ると歩き出した。
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