Dance2 其の6-1
(この男もエーテル使い! この近くだけで四人のエーテル使いが集まってる! どうなってんのよ、この街は!?)
リタは臨戦態勢に入った。充分な情報を得るまでエーテル使いとの戦闘は避けたいところであったが、こうなっては致し方ない。
「おっと、そんなに身構えるなよ、お嬢さん。そんな眼で見られたら……。
――イジめたくなっちまう」
ズォオオォ……!
男の体からエーテル・エネルギーが滲み出る。そのエネルギーが男の周りでゆらゆらと揺れ、地面に不気味な影を作り出す。
そのエネルギー量から悼矢とリタは相手がただ者ではないことを本能的に感じ取った。
「あんた、どっちの味方?」
不意にリタが男に問うた。
(……っ! この状況でもリタは冷静だ……! 相手から情報を引き出そうとしている……!)
悼矢はリタの機転の良さに拳を握る。
(しっかりしろよ、俺! ビビってる場合じゃねーだろ!)
「そうだ! どっちの味方なんだ!? 場合によっちゃ戦う必要はなくなる!」
「ヒャハハ! どっちにつくかなんてないね。俺は戦いたい奴と戦う。いわば中立だ。合界派だの別界派だの関係ねェ」
(合界派と別界派……! それがエーテル使いが対立してる原因か……!)
「ちなみに今は……うまそうな獲物がいるからなァ……。お嬢さん、名前なんてんだ?」
「あんたに答える必要はないわね」
男の舐めつくような視線にひるむことなくリタが凛として答える。
「カカカ……! 気に入ったぜ! マスターを殺して俺のものにしてやるよ! やるぞ、カリエラ!」
男の背後からすっと女が出てきた。
マスターと打って変わって青い長髪の清楚そうな女性。歳のころは二〇代半ばだろうか。白いワンピースでも着せれば女神かと見間違うかもしれない。しかし彼女が着ている服は真っ黒のワンピースだった。それが黒に染められた堕天使を彷彿とさせる。
ふと青い髪のエーテルの手元にエーテル・エネルギーが収束していく。
「悼矢、下がって」
言われ悼矢はリタから距離をとる。
光が形を作りカリエラの手に真っ黒のハープが現れた。そのU字型の黒い弦楽器にカリエラの白い手がそえられる。
「……“調弦”」
女が呟いてハープの糸を弾く。
ティン。
その刹那! 音が波動となり空間を揺らす!
ズガンッ!
リタの真横の床が抉れた。それを見たリタの頬に脂汗が滲む。
(音による攻撃……!? 見えない攻撃だなんて厄介ね……!)
カリエラはきゅっとネジを回してハープの糸の張りを調整する。そして手をそえるともう一度弾いた。
「……“調弦”」
トゥン!
空気が割れる!
同時にリタは横に跳んでいた。
ズガゥン!
リタが立っていた場所が不可視の力で削れ飛ぶ!
「調弦完了。……いきます。“子犬のワルツ”……!」
カリエラはハープの弦を軽やかに弾き始める。どこかで聞いたことのあるような曲が流れ始めた。
そのまるで子犬がじゃれあっているような弾んだ明るい曲の一音一音にあわせて、次々とあたりの地面が抉れる!
リタの右前が抉れたと思えば次は真後ろが抉れる。かと思えばカリエラの目の前が抉れたり、悼矢の真横の壁が抉れたりする。
それはまるでランダム、予測不能の攻撃!
ズガ、ズガズガ、ズガンズガッ!
(攻撃は見えない……! でも微妙な空気の流れなら……感じられる……!)
リタはこちらに向かってとんでくる音の波動を読み取って回避する!
ズバァン!
「ククク……カリエラの攻撃を避けるとはますます欲しい……!」
(大丈夫! 避けれる! 全身の感覚を研ぎ澄ませれば……!)
リタは右へ左へ、飛んでくる波動を交わし続ける!
「ハハハ! 踊れ、踊れ!」
カリエラのマスターが腹を抱えて笑っている。
(でもこのままじゃいつかはやられる! あの演奏を止めないと!)
リタは上空に跳んだ!
「バカが、焦ったな! 空中で移動なんてできないだろ! 狙い撃ちだ、カリエラ! エーテル・カード、オープン! “ラフィルズの激励”!」
男が持つカードが光った。するとカリエラの体に赤い陽炎が灯る。
「エーテル・カード!? 強化系カードか……!? リタ……!」
悼矢は上空のリタを見上げた。
「……いきます……! “ワルキューレの行進”……!」
曲が勇ましいものに変わったその刹那、ハープからワルキューレを象った黒い光の塊が飛び出す!
「なっ!?」と眼を見張るリタ。
ばさっ!
漆黒のワルキューレが大きな翼を広げる。
辺りにはらはらと黒い羽根が舞った。
そしてワルキューレはスピアを構えるとリタへと滑空した! |