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シルキーボイス
作:出雲そら



第1話:旅立ち


 小高い山の上、誰もいない墓地でひとり手を合わせる少女がいる。

 真夏の陽射しが容赦なく照りつけ、少女の額から汗が滴り落ちる。
            「父ちゃん、ホントに今までありがと。ちょっとこれからは遠くなっちゃうけど・・・夢を叶えるために、あたし、行くね!見守ってて」

 少女の頬をつたうのは汗か涙か、それはきっと彼女にしかわからない。


 すっくと勢いをつけて立ち上がった少女は、少し吹っ切れたような笑顔で、眩しい空を見上げた。
 少女の名前は、星野るい。この春中学を卒業したばかりの16歳だ。
 ちょうど半月ほど前の7月24日が彼女の誕生日だったが、過去16回の中で、一番淋しい誕生日となった。 るいの父、洋二が7月22日、交通事故で亡くなったのだった。 突然最愛の父を失ったるい。
 その悲しみは海よりも深く、その小さな胸の奥に刻まれたことだろう。 幼いころから、歌うことだけが好きだったるい。
 まるで絹のようにしなやかで、優しい声は村でも評判だった。
 身長が150cmあるかどうかの小柄で華奢な体で、村民ホールいっぱいに響き渡る声を、中学2年の時に行なわれたフェスティバルで披露したこともある。
 夏という季節に似つかわない、透き通るような白い肌。決して美人とは言えないが、どこか愛らしいオーラを持った少女だ。
 小さなバッグとマンドリンケースをその小さな手で握り締め、るいは墓地をあとにし、駅へと向かった。

 田舎の小さな駅には、本当にまわりに何もない。

 るいが改札を通過しようとした、その瞬間大きな自転車のブレーキ音が鳴り響いた。

「るい!」 

「丈くん!」


「どうしても行くのか?」
「うん・・・やっぱり夢を追いかけたいの」

「淋しくなるけど・・・がんばれよ!またメールとかくれよな」

「うん、もちろんだよ」

「これ、持ってて欲しいんだ」

 早瀬丈はポケットからギターピックを取り出して、るいの右手を包み込むようにして渡した。

「あ、これ・・・」

 るいの瞳が瞬間に潤んだ。
 そこには丈の夢も託されているようだったからだ。

 丈はるいと組んでいたポップスバンド〈ブローバック〉のギタリストだった。
 しかし丈はるいを襲った通り魔と争った時、左手に大怪我を負った。
左手の神経が戻らず、プロミュージシャンを目指せるほどのプレイは出来なくなったのだ。

 その丈がいつも愛用していた〈CLAYTON〉のピック、そこにはるいの歌声に寄せる思い、丈の夢、色々なものが詰まっているようだった。

「ありがとう。大事にする。きっと夢を叶えるよ。
丈くんのためにも」
「オマエのためにだけがんばればいいんだよ」

「うん」

 彼女は小さく頷くと、バレエのターンのようにしなやかに、素早く振り向いた。
 そのまま彼女は振り返ることはなかった。

 ホームに向かうるいの目にはひとすじの涙が伝っていた。

 田舎の2両の電車があっという間に、丈の視界からるいを消し去ってしまった。 時の流れがまるで、DVDプレーヤーのスキップのように、あまりにも速く感じた。

 立ちすくむ丈の背中に、真夏の太陽が、ただ照りつける、ただ照りつける。












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