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番外編―いつか誰かを守るため(後編)―

 母に事情を話すと、母は父を呼んでくるので先に行くように言われた。
 悠は急いで芝滑りが行われているゲレンデに向かう。

 すると、そこには険悪なムードで三人の中学生くらいの少年に囲まれ、中央に真が立っていた。
 小学五年の真も大柄だ。すでに一六〇センチは超えている。悠に比べるとスポーツ万能な点が父に似ていて、体格もしっかりしていた。
 そのため、一見すると中学生四人が睨み合っているようにも思える。
 悠の姿を見て飛んできた桜の説明によると……。

 桜が真を呼びに来た時、『もう一回だけ』と言って走って行ったらしい。
 桜は渋々待っていたそうだが、しばらくして、中学生三人組が順番を無視して列に割り込んだのだという。
 ここは無料のアトラクションのため、小学校低学年以下は親が付き添って利用可となっていた。ちなみに上限は中学生と書かれてある。常駐する関係者はいないようだ。
 真はその不正が我慢ならず、
「中学生だろ? 順番守れよ」
 と言ったらしい。
 真の並んでいた列は子供ばかりであった。他の列の大人は厄介ごとに関わりたくないのか、我が子を抱えるとそそくさと立ち去ってしまう。
 その事態にビックリした桜が、慌てて悠に電話してきたのだった。

「まったく、あいつは……しようがないな」
 それほど好戦的でない悠だが、弟妹を守るためなら果敢に立ち向かう勇気を持っていた。
 中学生相手に面倒なことはしたくないが……。そう思いつつ、荷物を桜に預け、真の側に行こうとしたとき、肩を掴まれたのだ。
「まあ待て。もう少し、待ってやれ」
「父さん!」
 引き止めたのは父であった。

 高校一年の夏に身長は追い抜いたが、それ以外は乗り越えるのが中々大変そうな父だ。悠が一番似ていると言われる分だけ、彼にとってはプレッシャーとなっていた。

「どうして止めるわけ? じゃ、父さんが」
「真は真なりに、正しいと思ったことをしてるんだ。大怪我をしそうな場面じゃないし、しばらくあいつに任せよう」
 父はのんびりと構えて様子見を決め込んでいる。
 逆に、悠のほうがハラハラして心配が顔に出ていた。これまで、何か困ったことがあるとすぐに頼られてきた。そんな弟の面倒をみることは煩わしくもあり、嬉しくもあった。
「でも……反対に、あいつが誰かに怪我でもさせたら。係員とかやって来て、騒ぎになったら? まだ十一歳なんだ。助けてやらなきゃ」
「歳は関係ないんだよ、悠。あいつが正しいと思って立ち上がったなら、父さんはそれを尊重してやりたい。そうやって、人は誰かを守ることを覚えていくんだ。最初からお前が出て行ってしまったら、真は守られたままだろう?」

 父にそう言われた瞬間、悠自身が親から任せられてきた責任を思い出した。
 弟妹に対して、様々な責任を負ってきた。彼らを守ることは悠の使命だったのだ。でも……。

 ゲレンデの上部で三人が真に手を出し始めた。だが、多少小突かれたくらいじゃ、真はビクともしない。一人が真の腕を掴んだ瞬間、悠は走り出したくなった。だが、父はそんな悠の肩から手を放さない。
 すると、誰かが係員に通報したらしく……。
 係員が来た途端、真の周囲の子供たちが何か騒ぎ始めた。たちまち、三人の中学生はおどおどし始めて、芝滑りのゲレンデから居なくなったのである。


~*~*~*~*~


『あ! ほら、あのお兄ちゃんだよ。超カッコよかったぁ。ヒーローみたいだった!』
 
 園内にあるバイキングレストランに家族で入ったとき、近くのテーブルから女の子の声が上がった。
 どうやら先ほどの小学生らしく、ゲレンデでの真の勇姿を家族に話しているらしい。

「ヒーローだってぇ。モテるじゃない、真くんてば」
「姉さん、うるさいよ」
 桜のひやかしに、真は照れながらそっぽを向いた。
 だが、真にすれば得意満面である。
「別に係員とか来なくても平気だったけどね」
「まことお兄ちゃんカッコいい~」
 紫にも褒められて鼻高々だ。
 
 そのとき、父が厳しい声で真に言った。 
「正しいことをするのはいいが、自分や周囲に怪我がないように気を使いなさい。困ったときは人の力を借りることは恥じゃないんだ。その証拠に、さっきだって真を支持してくれた子供たちの力で、中学生たちは立ち去ったんだろう?」
 皆が係員に、彼らが悪いと声を揃えて言ったそうだ。

 父は真の行動を認めながらも手放しでは褒めない。第一、父の指示で係員を呼んできたのは母だったという。父はそのことを桜や真たちには言わなかった。

 
 父が席を離れた隙に、真は悠に問い掛ける。
「あのさ……父さんて、僕のこと嫌いなのかな? 兄さんみたいに勉強が出来ないから……」
 真を見ていると何年か前の自分のようだ。
 父が自分には特別厳しく感じ、悠の場合は両親の結婚時期から、『実の父じゃないのかも』と悩んだこともあった。
「そんなことないさ。父さんは、真にもっと強くなって欲しいんだ。いつか……本当に大切な誰かを守るときのために」

 真だけじゃない。桜だって紫だって、いずれ誰かに守られ、そして大切な誰かを守るときが来るんだろう。そしてそれは悠じゃない。
 悠は少し寂しい気持ちになりつつ、よく考えから彼自身も、両親や弟妹以上に大切な誰かが出来るはずなのだ。

「僕……美月ちゃんのこと守ってあげたいな」
 ちょっと恥ずかしそうに真はボソッと言う。
「藤原の? 一年だけで転校したんじゃなかったっけ?」
 一年のとき『お嫁さんにする!』と大騒ぎしていたが、二年になる春に父親の都合で転校してしまった同級生の名前であった。悠は随分久しぶりに聞いた気がする。
「去年の春にまた戻ってきたんだ。美月ちゃんの家は結構ゴタゴタしてるからさ。助けてあげたいけど……僕より成績は良いし、足も早いんだよなぁ。それに、従兄の結人としょっちゅう一緒にいるし……」
 まさか、七つも年下の弟から恋の相談をされるとは思わなかった。
 悠は軽く落ち込みながら、
「まあ、その、なんだ……がんばれ」
 真の肩を叩きながら、『自分も少しは頑張れ』と励ます悠であった。
 
 このとき、悠の心の片隅に弟を惑わす“美月ちゃん”の名前が小さく刻み込まれ――。



「あの……ね、何て言ったらいいのか……あなた達に話があるんだけど」
 食事も終わりかけた頃、母が言いにくそうに口を開いた。

(まさか!?)

 俄かに、悠の胸に既視感デジャビュが浮かび上がる。

「実は……今年で結婚して丸十五年になるんだけど。この夏休みに、お父さんが二人きりで旅行に行こうって言ってくれて。お母さんたち新婚旅行に行ってないのよね。駄目……かな?」
 悠はホッとしつつ、二人きり、という点に引っ掛かった。
「僕はいいけど……紫は?」
「お兄ちゃんは受験勉強があるから一人でいいとして、三人とも、静叔母さんのところで預かってくれるって言うんだけれど」
「ゆかり、お兄ちゃんと一緒がいい!」
 紫が一番に声を上げた。すると、
「あ、じゃあ、私も家にいるわ。お兄ちゃんが一緒なら平気だし」
 と桜も言う。
「僕だけ叔母さんの家に行っても仕方ないし……。四人で留守番してるよ。いいよね? 兄さん」
 あっさり真も同意した。
「一週間だけだから、ね? お願い、悠くん」
 この母の『ゆうくん』には弱い。どうやら父も『お願い、聡さん』と名前で呼ばれると、見事KOされるようだ。
「母さんのご指名だぞ。悠、頼りにしてるからな」
 九割方、いってらっしゃい、と言い掛けている悠に、父は笑いながら言う。

「判ったよ。でも、一つだけ……五人目を作るための旅行じゃないよね?」
 
 悠の言葉に母は赤くなって「もうっ! 悠ったらそんなことばっかり!」と怒り始める。
「いいじゃないか、母さん。悠はどうやら、もうひとり弟か妹が欲しいらしい」
「もう無理です! 来月には四十一なんですからね」
「まだまだ、三十一歳でも通るよ、夏海は」
「そんなこと言って……」
 父の言葉に母はまんざらでもない表情になる。

(頼む……本当に頼むから、カンベンして下さい)

 相変わらずいちゃいちゃする両親を眺めつつ、幸福な時間に思わず顔が綻ぶ悠だった。


                          ~fin~
    
御堂です。ご覧いただきありがとうございます。

サイト100万前後のキリ番で乙女ちゃん様からリクエストをいただきました……
「愛を待つ桜の4人目が生まれた直後の楽しい家族の様子、お兄ちゃん達の可愛がる様子など、ハッピーなお話を」

とのことだったんですが、すみませんっm(__)m
直後が3年後になってしまいました(^^;)
でも悠くん、14歳年下の妹・紫ちゃんにメロメロです。
ちなみに前編に出て来た「(美馬)忍ちゃん・(藤原)立志くん・(宗)幸仁くん」は紫ちゃんより皆1つ上になりますね(笑)
5人目は…しつこく言うと作るぞ、と言われてしまいそうです。

次はサイトトップのカウンター【1234567】を予定しています。
別画面が開きますので、そこからのリクエストをお待ちしております、ぜひお越し下さいませ。
どうもありがとうございましたm(__)m

御堂志生(2011/7/15)
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