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★前半、性描写があります。苦手な方はパスして下さい。
★これ以降、しばらくはありません。
       第4話
 次第に、聡の指は下に向かって進み、夏海の体を無防備にして行く。
「あ……あの、私……」
「私を信じて、身を任せてくれ……君が欲しい」
 理屈も理由もない。その言葉だけを、夏海は信じたのだった。

 聡は急いで自分自身を窮屈な中から解放すると、夏海の脚の間に身体を沈めた。薄めの茂みが目に映る。そして、その奥の誰も踏み込んだことのない場所へと彼は腰を下ろした。
「あ! やっ……やだ」
「黙って……もう、止められない」
 十二年ぶりのセックスだ。女を欲しがることもなくなり、自分の中の男は死んだと思っていた。だが、彼女に出逢った瞬間、運命を感じた。抱かずにはいられない……そんな想いで、彼女の腰を掴んだ指先に力を込め、強引に押し込んだ。

 その瞬間、夏海はきつく唇を噛み締めた。――会ったばかりの男性の……受け入れてしまった。通過した一瞬、引き裂かれるような痛みが襲う。小さな声を上げ、聡の腕にしがみ付いた。

「き、君は……まさか……」
 聡も驚きを隠せない。キスだけで、経験は少ないだろう、と思っていた。だが、まさか、処女だなんて……。
「すまない。もう……引けそうにない。決して、このままにはしない。だから、私に全てを許してくれ」
 瞳に涙を浮かべて、小さく肯くのが見えた。それを確認して、聡は奥まで達すると、ゆっくり……そして少しずつ……夏海の身体を愛撫しながら、悦びへと誘うように腰を揺らし始める。
 繋がった部分から、じんわりと、快感が全身に広がって行った。夏海も痛みが治まったのか、流されるままに身を委ねている。
 三帖程度しかないクローゼットの中で、愛を交わすなど、信じられない経験だ。だが、それだけに、快感も半端ではなかった。聡は、夢中になって腰を突き上げそうになるのをどうにか抑える。
 彼女に負担を掛けないように、急ぐまいと必死だ。だが、抵抗むなしく、限界はかなり早く訪れる。
 快感が全身を貫き、熱い血となって駆け巡る……夏海の身体を抱き締め、聡は最後の瞬間を迎えた。


〜*〜*〜*〜*〜
 
 数時間後、夏海は実家近くに借りてるコーポに戻り、急いでシャワーを浴びていた。
 自分のしてしまったことが信じられない。

 全てが終わった後、四月の冷たい風に素肌が晒され、夏海は我に返った。慌てて、ブラウスの前をかき寄せ、聡に背中を向ける。
「あっと……君、あの、なんと言えばいいのか……」
 聡は震える夏海を落ち着かせようと肩に手を置いたのだが、それが余計に夏海をパニックに追い込んだ。
「イヤッ!」
 訳も判らずクローゼットから飛び出し、そのまま廊下や階段を駆け回り……。
 ようやく見つけた婦人用のトイレに飛び込むと、個室で下着を整えた。顔を洗い、鏡を見た時、そこには『後悔』の二文字が映っていた。
 ――初対面の名前も知らない男性と、なんてことを!!
 しかし、夏海を襲ったショックはそれだけでには止まらなかったのだ。その男性の名前を知ったときの驚きといったら……。

 トイレを出た夏海は大急ぎで両親を探した。そして、一刻も早く御暇おいとましようと、リビングの社長夫妻に挨拶に行った時のこと、
「ああ夏海さん、次男の稔さんはご存知よね? こちらが長男の聡さんと、長女のしずかさんです。静さんはあなたと同い歳じゃないかしら、ねえ?」
 社長夫人にそう紹介された瞬間、心臓が止まった気がした。
 初対面にも拘らず、信じられないほどの熱い時間を過ごした相手が、常務の長兄だったのだから。

 あの後、何を話し、何処を通って家まで帰ったのか……ほとんど覚えてはいない。

〜*〜*〜*〜*〜

 
 その数日後――
 夏海が帰宅するとコーポの前に人影が……。
「夏海、さん?」
 階段脇の暗がりに聡は立っていた。
「ど、どうして、ここが……」
「調べたんだ。父や匡に聞くわけにはいかないし……少し時間が掛かった」
 最初に逢った時と同じ、優しく穏やかな微笑を浮かべて言った。
 あの日と同じように、夏海は彼の声を聞くだけで胸が締め付けられる。
「もう……逢えないかと……思って、ました」
 聡の顔を見た途端、切なさと愛しさに涙が零れた。
 そんな夏海を見る聡の瞳には、間違いようのない愛が溢れていて……
「このままにはしないって言ったろう? 人を愛するのに多くの時間は必要ないと、君に教わった……広い場所もね」
 
 満開の桜のように、目の前にしただけで嬉しくなるような恋に出逢えた瞬間だった。
 それからひと月余り、二人は恋のもたらす幸福に満たされ、引き合わされた運命に感謝し、人生の喜びを味わった。

 
 だが、不安はあったのだ。社長は、夏海が匡との縁談をそれとなく断わるたび、再考を促してきた。そのせいで、聡との関係を言い出せずにいたのだった。
 それを見かねた聡は、自分から社長に話すと言ってくれた。
「もし、そのせいで会社に居辛くなったら、うちの事務所に来ればいい。どのみち、近い将来そうなるんだ。私は君と離れる気はないよ。夏海、愛してる」

 しかし……夏海が、聡の「愛してる」を聞くのは、この時が最後になったのだった。


次話から第1章で3年後からお話が始まります。
よろしければ明日もこの時間にお越しくださいませ。
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