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★第3話は全体に性描写があります、苦手な方はパスして下さい。
       第3話
『ここなら誰も来ない』
『待ってください。私には仕事があるんです』
 カチャ……カチ。――ドアが閉まり、ノブの内鍵を締める音がした。
『こうすれば誰も入って来れない。なあ、いいだろう。今朝も恵美子とケンカした……もう限界だ。助けてくれ』 
『稔さま』
『辛いんだ。もう、僕はダメかも知れない……』
『そんなことありません。大丈夫……しっかりして下さい』
『君は……僕を拒否したりしないだろう? 受け入れてくれ!』
 その直後……荒い息と唾液の絡む音が室内に広がった。
 
 何と、先客がいることも知らず、飛び込んできたのは、聡の二歳下の弟・一条稔いちじょうみのるだ。彼は実家の家政婦、三沢亮子みさわりょうこと愛人関係にあった。
 
 夏海には音だけだが、聡の高さだとドアに付けられた換気用の小窓から一部始終が見えてしまう。ただでさえ十何年ぶりに持て余しそうな感情を抱えているのに……。聡は舌打ちして視線を逸らした。すると、耳まで真っ赤になった夏海の首筋を見てしまい、今度は慌てて上を向く。

 
 先客の思惑など露知らず、飛び込んで来た二人は貪るようにお互いの唇を求め合い、身体をさぐり合っている。稔はネクタイを解き、Yシャツのボタンを二つほど外すと、今度は亮子のエプロンを押し下げた。そのまま彼女の胸をはだけ、素肌に口づける。そして、ブラジャーの肩紐を外し、露になった乳房に口を寄せ吸い上げるのだった。
『ああ……ダメ……稔さま』
『どんな危険を冒しても、僕は君を抱きたい。亮子……君だけだ』
 稔は、忙しなく亮子のスカートをたくし上げショーツを引き下ろす。
『ねえ、待って……ほんとに、ココで?』
『もう止められない』
 稔は、ベッドメイクもされていないむき出しのマットレスの上に亮子を押し倒したのだった。


 部屋中に亮子の嬌声が響き渡り、突き上げるリズムに合わせてベッドの揺れる音がする。
 それらは、奥のウォークインクローゼットにいる二人には想定外の状況であろう。女嫌いと言われる聡だが……あまりの出来事に思考が停止しそうだ。
 
 夏海にとっても、それは信じられない経験であった。真面目な性格が災いしてか、恋人もおらず……セックスどころかキスすら経験がなかった。
 だが、二十三歳の女として、当然、恋にもセックスにも興味はある。
 多分、顔は真っ赤で息も荒いだろう。……ふと気付くと、客間で行われている情事に集中してる自分がいた。細かな息遣いや衣擦れの音にすら、息を止め、聞き耳を立てている。
 
 夏海が、ハッとして顔を上げた時、聡も同時に下を向いた。お互いが――心を見透かされたようで、恥ずかしさの中に、妙な興奮と緊張が走り…… 
 そのまま、そうっと聡の顔が夏海に近づいた。それは、あまりに自然な動作で、当たり前のように、二人の唇は重なった。
 その瞬間――背中に電流が突き抜けたような衝撃を受ける。

 唇は、次第に相手を求めて、強く……更に強く押し付け合った。無意識のうちに、二人の身体もぴったりと寄り添っている。ドアのすぐ近くに立っていた聡は、左手で夏海の背中を、右手で腰を掴み、自分の身体に引き寄せていたのだ。
 夏海も彼の首に手を廻し、抱きつくようにもたれ掛かった。
 やがて……キスはエスカレートして行く。聡の舌が入ってくるのを、夏海は必死に押し戻そうとして……自然と舌が絡み合い、それは彼女が知った初めてのキスであった。

 聡にとっても、これほどまでに官能的で濃厚なキスは初めてだった。三十五年間に経験したどんな女性とのセックスより扇情的で、これだけで達してしまいそうだ。

 二人は、急速に点火した恋の炎に煽られるように、熱いキスに夢中になって行くのだった。

 
 クローゼットの様相とは逆に、稔と亮子の情事はそう長いものではなかった。
 お互いに服を着たまま、勢いに任せて激しい律動を重ね、あっという間に稔は燃え尽きる。
 亮子のほうも仕事が気になるのか、
『私、もう行きませんと……』
 自らは手早く身支度を整え、稔のズボンのベルトをはめてネクタイまで締めてやる。
 子供を持つ母親のせいか、それとも元来が世話女房タイプなのか……それすらも心地良さそうに、稔は何もかも亮子に甘えていた。
『今夜連絡する。今度はゆっくり会えるようにするから』
『……はい。でも、無理なさらないで下さいませ』
『判ってるよ。でも、僕には君だけだ。見捨てたりしないでくれ、絶対だ』
 再び、艶かしいキスを交わして、稔はようやく亮子から身体を離した。そのまま二人は急いで部屋を後にする。自らの不倫の恋に夢中で、クローゼットから聞こえる小さな息遣いなど、気付くはずもないのだった。


 夢中になってるのは、中の二人も同様で……。
 客間が無人になったことにも気付かず、聡と夏海の燃えるようなキスは続いていた。夏海が気がつかないうちに、スーツのボタンは外され、ブラウスの裾から聡は手を差し込む。
「……ぁ!」
 不意に声が出そうになる……そんな夏海の口を聡は唇で塞いだ。
 彼女の押し殺したような小さく可愛い声を聞いた途端、聡は自分の下半身に全身の血液が集中するのを感じた。
 そのまま、夏海の背を壁につけると、ゆっくりと一緒に腰を下ろす。その間も、真っ白い首筋に、聡は唇で赤い刻印を押して廻った。そして、彼女の身体を抱き締めたまま、クローゼットの床に横たわる。
 ブラウスもブラジャーも上まで捲り上げ、露になった胸の先端を聡は口に含む。柔らかい……それでいて弾力のある二つの乳房を夢中になって愛撫した。

 この時の夏海は、普段の彼女からは想像も出来ないほど大胆なものだ。
 男性は苦手だし簡単に体を許すつもりもない……そう思い続けてきた。それなのに……今、自分が何をしているのか、理性が全く働かない。ただ、声を出しちゃいけない、そんなことを考えながら――夏海は、長く空想の中に描いていた運命の男性に、とうとう出逢えたと思ったのだった。

前章は次の4話まで、5話から本編(この3年後)となります。
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