愛の為に恋を消す
正直、思うわけだ。
ゲームだろうが、漫画だろうが、アニメだろうが、女性用の逆ハーレム男性陣というのは二次元だから良いのであって、現実にしたら誰も彼もがただのマジキチでありDQNでありド変態であるということを。
何でもないことに嫉妬して、一方的に怒鳴ったりアテつけるような態度を取ったり無視したり暴力を振るったり無茶な要求を突き付けたり監禁したり拘束したり性的な…………とにかく、最低と、くたばれと、感じるはずだ、誰でも。
恐ろしく未熟な愛ひとつを免罪符に、これでもかとやりたい放題。
クレイジーにもほどがある。エネマ穴開発されろ。
だからこそ、私は決めたのだ。
可愛くて優しくて家庭的でおちゃめで努力家で健気で素直でとにかく可愛くて可愛くて可愛い間違って地上に産まれてしまった天使のような主人公を、表面的なスペックだけが無駄に高くて内面は総クソ男子共の汚らわしい魔の手から絶対に守り抜こうと。
そして、そんな奴らに渡すくらいなら、いっそ私が彼女の恋人になってしまおうと。
出会って、接して、決めたのだ。
私は今住んでいるこの世界が別の世界で少女向けの創作物として存在していたことを知っている。
なぜなら、私はその別の世界に生きて死んだ記憶を持つ、前世もちの転生女子高生だからだ。
今世での名前は諏訪丙。
ていうか、男名ですやーんってある程度年齢のいった人なら思うらしい微妙な名前だけど別に嫌ってはいない。
容姿、成績は中の上。
いざという時に主人公を守れるよう、日々合気道の道場に通っている。
で、当の少女向け創作物の主人公だけど……名前は桜田恵瑠。
小学生時代に前世の記憶を取り戻した私は高校に入学してからというものの、とかく彼女を守るべく、そして恋人となるべく粉骨砕身、努力に努力を重ね、結果、高校二年秋現在において不動の親友ポジションを獲得している。
さすがにたった一年半でノーマルの同性相手に恋人関係まで持っていくことは不可能なので、そこは長期戦覚悟だ。
まぁ、メグちゃんだから女でもイケると思っただけで、私も基本はノーマルだからちょっとばかり足踏みしているって事実もないわけじゃあない。
逆ハー男子に対する妨害の成果も上々で、さすがに幼なじみ枠のような事前に知り合っているパターンは無理だったけれど、その他の俺様生徒会長や腹黒メガネ風紀委員長、ヤリティン種馬同級生にナイフみたいに尖った下級生、童顔天然あざとい系先生などなど総クソ共とのイベントは軒並み潰し尽くした。
おかげで現在主人公と逆ハー男子たちはお互いに面識がないか、例えあったとしても知り合いレベルにすら達していない状態だ。
私、グッジョブである。超良い仕事した。
幼なじみ枠のゴミ野郎だけは未だ主人公に懸想しているようだけれど、同じクラスだから動向を見張るのも接触を邪魔するのも印象操作するのもそれほど苦じゃあない。
だから、きっと近い未来に勝利の狼煙を上げる日が訪れてくれる。
そう、信じていたのに……。
「……告白された?」
「う、うん」
うわぁ、頬をほんのり桃色に染めて照れるメグちゃん可愛いぃー……じゃないッ!!
馬鹿なっ! 誰だ誰だ誰だ!
主要キャラは当然、端役キャラにだって警戒を怠らなかったはずだ!
幼なじみ枠は特に警戒しているし、とにかく奴らでは有り得ない!!
くそっ、一体どうなってやがる!?
っは! それとも作中に出演の無かった全体集会レベルにのみ登場するモブの中の誰かが!?
ザケんな! 身の程知らずってレベルじゃねーぞコラぁッ!!
誰だ誰だ誰だ誰だぁーーーーーッ!!
「……えっと、メグちゃん。
その相手って、私が聞いてもいいのかな?」
「うん。あの、ヒーちゃんに相談に乗って欲しくて」
はい、モジモジ上目使い来ましたーーーーーー!
おほぉーー! かんわいひぃーー! ぐわわぃひぃぃいよほほおおおおお!
丙お姉さんが何でも聞いてあげるよぉおおおおおお!!
ああーーメグちゃんマジ天使ぃーーーーーーッ!!!
はぁはぁ、エンドルフィンも出ちゃうよぉぉ。
とは言え、表面上は心配そうに繕いましょうね。
いやぁ、ここ数年でものすっごい演技力ついたなぁ私。
「相談って、何か困るような相手なの?」
「やだ、違うよぉ。ええっと、あのね?」
「うん」
「クラスメイトの……山川君、なん、だけど……」
…………。
………………。
……………………。
…………………………。
………………………………えっ。
やまか…………えええ!?
「……ヒーちゃん?」
「っばああ負けたぁああああああああ!!」
ッターン! ドガラ! ガシャ! グワラ! ゴロロ! ガタガタ! パリグラバタドターーーーーッ!!
「きゃああ! ヒーちゃーーんっ!!」
ぐぎぃぃ痛ぁああ悪夢じゃなかったのかひょーい!
ああああああんなん勝てるわけねーべ!!
真面目な努力型で本好きで物静かででも人当りは良くてさりげないフォローが得意でむしろ心配になるくらいのお人好しで女子を立てることにも抵抗ないっぽくて年頃男子特有の下品な話題には困ったように笑っちゃうようなそんな恋人にするには刺激が足りなくてあーあの人良い人ではあるんだけどねーで終わったりするけど年齢を重ねて家庭を持つ段階になると超優良物件化する地味系男子山川君がしかもメグちゃんに直接告白したっぽいところから見て意外と要所要所ではしっかりしていて度胸や根性もあるらしいし更に倍率ドン来ちゃってるじゃないですかー! やだー!!!
ヤバい、自分でももう何言ってるか理解不能だけど、とにかく負けたーッ!
完敗やぁーーッ!!
「ヒーちゃん! ヒーちゃん、大丈夫!?」
見える、私には未来が見えるでぇー! 地味だけど最高に幸せな家族がー!
そう。大きくはないけれど、庭付きの一軒家。
気弱で嫁の尻にしかれながらも、会社では目立たない割に地味に信頼が高くて安定した地位にある夫。
おませでおきゃんな姉に小生意気でシスコンな弟。
子どもたちが拾ってきた犬や猫をペットに、賑やかで楽しい毎日を送る。
休日にはベタに遊園地だのピクニックだのに出かけ、連休には国内旅行で思い出作り。
やがて娘が結婚式を迎えた日には開始前にしみじみと語って泣かせて化粧が落ちると怒られて、息子が連れてきた嫁ともほのぼの仲良しこよし。
独り立ちした子どもたちを誇らしく思いながらも、二人きりになってしまった家で寂しくなったねぇとか呟いてみちゃったりなんかして、でも久しぶりに恋人気分でウキウキデートに出かけたりなんかもしちゃって、いつまでもおしどりラブラブ夫婦で。
子が孫なんか連れて来ちゃった日にはもうデレデレ溺愛、よーし、じーじ何でも買ってあげちゃうぞー状態。
きっと年を取ってお互い老人になっても手をつないで歩いたりするのだろう。
私には分かる、ヤツはそれだけのポテンシャルを秘めた男だ!!!
ああん、ちくしょー! 順風満帆にも程があるだろがーーーー!!
安心して任せられすぎてハンカチ噛むわー、もーーーっ! もーーーっ!
「ねぇ、ヒーちゃん! しっかりして、ヒーちゃーーん!!」
その後、泣く泣くメグちゃんに山川君との交際を勧め、二人は初々しくも可愛らしく微笑ましい私基準校内ベストワンカップルになった。
血涙滂沱。
悲しいけど、彼お似合いなのよね……。
その裏で彼女をスッパリ諦めることのできなかった私は、放っておけば二人の邪魔でもしそうな幼なじみ枠を強引に巻き込んで日々こそこそとストーカー行為に励んだ。
そして、一年後。
なぜか私とそのクソ幼なじみ枠がカップルになった。
えー…………どうしてこうなった。
おまけ~私と幼なじみ枠のある日の会話~
「ちょっと、腐れ粘着男」
「お前、いい加減その呼び名やめろ」
「なによ、何年何年も女々しくメグちゃんに劣情を向けてたクソ変態野郎にはぴったりでしょう。
まぁ、どうしても嫌なら『純なる天使を堕天せしめんとする醜悪なる亡者』でもいいけど」
「更にひどくなってんじゃねーかっ」
「いいからホラ! 天使見守り隊、出動よ!」
「嫌だよ。何でわざわざアイツらの仲良いとこ見せつけられに行かないといけないんだよ」
「ド低能なの?
あれだけ可愛らしいカップルなのよ?
どこでどんな底辺種族に絡まれるか分かったものじゃないでしょうが」
「だからって、こんな出歯亀みたいな……」
「ちょっと、出歯亀だなんて失礼ね! これは立派なストーカー行為よ!!」
「犯罪じゃねーか!!!」
「やぁだ、本気にしちゃって。冗談に決まってるじゃない」
「いやいや、騙されねーよッ!?」
「とにかくっ!
もし二人が絡まれたとして、相手の人数によっては私一人じゃ捌けないわ。
アンタ柔道そこそこ強いんでしょうが、協力しなさいよ」
「そこそこって、俺一応初段なんだけど」
「何言ってんの。アンタの年齢なら二段だってゴロゴロいるでしょうが雑魚助」
「ゴロゴロはいねーよ!」
「帯ギュとか柔道部〇語とかコータ〇ーまかりとおるとかには沢山いたわよ」
「現実と創作を一緒にすんな!
っつーか、いつの時代の漫画だよ! お前ぜってー年齢詐称してるだろ!」
「分かるアンタは何なの?」
「そりゃ、俺は柔道部だし」
「かー…………ぺっ!!」
「ぐあー! おっ前マジむかつく!!」
「って、ああああ!
アンタがウルサいせいで二人を見失っちゃったじゃない馬鹿馬鹿三倍馬鹿ぁ!
きぃーーー責任取りなさいよぉおおお!!」
「いってぇええ馬鹿! 手の指左右に裂くなぁーーー!!!」
おまけSS↓
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