可哀想なヒト
企画【五枚】第二回参加作品です。五枚というキーワードで他の参加者さんの作品も探せます。
僕とユウくんは親友なんだ。学校から帰って来ると、毎日一緒に遊ぶんだ。
「あ、リョウくん、いらっしゃい」
「カズちゃん、こんにちは」
カズちゃんはにっこり笑って、ユウくんを呼びに行ってくれた。
「リョウくん、今日は公園行こうよ」
「よし、どっちが先に着くか競走だよ」
「毎日元気ね、ふふ。車に気を付けなさいよ」
カズちゃんはにっこり笑って手を振ってくれる。僕もユウくんも一緒に手を振る。
二年生だから、まだ自転車は勝手に乗っちゃいけないんだ。お父さんかお母さんが一緒なら乗ってもいいんだけど、僕たちは走るのが速いから、自転車じゃなくてもいいんだ。
信号に引っかかっちゃった。赤だと危ないって先生は言ってたけど、僕はそんなの怖くないんだ。ユウくんに見せてあげようっと。
「はい、信号無視」
赤信号の横断歩道を、手を挙げてゆっくりと歩いて行く。
ものすごい音がして、僕は慌てて走った。
「馬鹿野郎! 死にたいのか!」
お父さんが乗ってるみたいなトラックから、お父さんみたいに怖いおじさんが顔を出した。
「ごめんなさい、リョウくん、もうしないよね」
僕が何も言えなくて、ユウくんが代わりに謝ってくれた。僕は、泣きそうなのを我慢して、うんってやってみせた。
「信号無視が怖いってわかったろ。もうするなよ」
僕は、おじさんの顔を見れなかったけど、もう一回うんってやってみせた。
「リョウくん、信号無視はいけないんだよ」
「……知ってたよ。でも、ごめんね。もうしないよ」
ユウくんが笑ったのを見て、僕も怖いのは治まってきた。
「よし、リョウくん、ここから本番だよ」
「今ユウくんに助けてもらったから、ちょっとだけ先に行っていいよ」
ユウくんを追いかけて走る。かけっこはいつも僕たちが一番と二番。僕が一番の方がちょっとだけ多いかな。でも、運動会のリレーには絶対二人とも選ばれるんだ。
「やったぁ! リョウくんに勝ったぁ!」
「もうちょっとだったのになぁ。ユウくん、速くなったよね」
ユウくんは嬉しそうに笑ってる。そうすると、僕も嬉しくなって笑っちゃう。いつも二人で笑うんだ。
公園にボールが落ちてたから、二人でサッカー勝負をした。キーパーなしだからロングシュートも入り易いんだけど、頑張るとボールに追いつけるんだ。サッカーは勝つぞ!
昨日の雨で地面がぐちゃぐちゃだったから、二人とも泥だらけ。
「疲れたけど楽しかったね」
「うん。サッカーは僕が勝ったから、今日の勝負は引き分けだね」
お風呂で泥を流したいから、ユウくんと一緒に僕んちに向かって歩きながら、色んな話をした。漫画とか、ゲームとか、宿題とか。
「ただいまー」
「リョウくん、鍵持ってるの? すげー」
「僕は一年生から持ってるんだよ。いいでしょ」
ユウくんがすげーって言うと、嬉しい。僕もユウくんにすげーって言うけど、今日は僕が言われた方が多いかな。やった。
お風呂に一緒に入るのは何か楽しい。今度からいつもユウくん呼ぼうかな。
「リョウくんちのおじさんとおばさんはいないの?」
「お母さんは晩御飯の時に帰って来るよ。お父さんは仕事終わるとパチンコ行くんだ」
「パチンコは嫌いってお母さんが言ってたよ。おじさんはおばさんに怒られないの?」
「お父さんはお土産持って来るからいいんだと思う。僕はいつもチョコもらうんだ。お母さんはタバコもらうよ」
「いいなぁ。お母さんはタバコも嫌いって言うよ。僕もチョコ欲しいなぁ」
「じゃあ、今度からユウくんの分ももらうよ。ユウくんもおじさんにお願いしてみるといいよ」
「僕んちはお父さんいないからなぁ」
「そうなんだ。変だね。だからおばさんが二人いるの?」
「たぶん。でも、夜に仕事行く方のお母さんはあんまり好きじゃないから、お願いできないよ」
「いつも怖い顔してるもんね。僕もあんまり好きじゃないんだ」
一緒に入ると話ができて楽しいから、いつもより長く入っちゃった。
ウチにいてもつまらないから、ユウくんちまで一緒に行ってバイバイ。
「リョウくん、お風呂ありがとね」
「うん、また一緒に入ろうね。ユウくん、バイバイ」
「リョウくん、気をつけて帰ってね」
ユウくんと一緒に、カズちゃんもにっこり笑って手を振ってくれる。うん。やっぱり怖い顔のおばさんよりカズちゃんの方が好き。
晩御飯の時に今日の話をしたら、お母さんがユウくんは可哀想って言った。何でかわからなくて教えてって言ったけど、お母さんは大人になればわかるって。何か聞くといつもそうやって言うんだよね。
僕は、ユウくんちのおばさんに、可哀想って言われたことがある。カズちゃんは言わないのに。
ユウくんはお兄ちゃんもお姉ちゃんもいっぱいいるし、弟も妹もいっぱいいる。僕は一人っ子。だからかなぁ。でも、僕は寂しくなんかないもんね。ユウくんといつも一緒に遊んでるし。ユウくんもいつも楽しそうだし、チョコは僕があげればいいんだもんね。
どっちも可哀想じゃないよ。
勉強しながら愉しむという企画ですので、どうぞ、ご指導よろしくお願いいたします。
第二回の制限事項は、【登場人物が三名以上】と【同情をテーマに書く】でした。