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この作品は、テーマ小説変小説の提出作品です。他の作家さんたちの作品はより面白い作品でいっぱいです。是非読みになられて下さい。
変態インキュバスに憂鬱
作:宮座頭数騎


 木や草が生い茂る深緑の森。
 それに入り交じる少し大きめのごつごつした灰色の岩石。
 太陽に照らされ、きらきら輝く少し笠が深い緩やかに流れる澄んだ川。
 その川の流れに逆らい浮いているウキはぴくぴくと上下に沈み、浮かび上がる。
 そして――。
「フィーーシュッ!」
 オイラは高らかに声を上げて、釣り竿を引っ張り上げる。激しい水しぶきが飛び、川から大きな魚は釣り上げられて弧を描くように空を舞う。


「やったっすー! 四匹目ゲット〜♪」
 喜びの声を上げながらオイラは、釣り上げた魚をクーラーボックスに入れた。
 オイラの名前は玉藻烈狐丸(たまもれっこまる)
 妖狐の最上級クラス“天狐”と呼ばれる善狐【※善狐とは、人から見て害をくわえない良い妖狐のこと】である。
 オイラは今、山の河辺のキャンプ場で川釣りをしている。
 実はオイラは、訳あって人間の少年の姿に化けて都会で暮らしていたのだが、最近は自然が恋しくなり……てまではいかないけど、久しぶりに自然の空気を吸いたいと言うわけでここに気分を満喫するために来たのだった。
「烈狐丸様、魚を釣り上げるのは構いませんが、ちゃんと川に帰してあげて下さいよ」
 後ろで岩に腰掛けている連れの上級クラス妖狐、“白狐”の式部彩(しきぶさい)がしかめっつらでオイラに告げる。
「判ってるっすよ彩、キャッチ&リリースっす。今日は何匹釣れるか頑張ってるんす」
「……そうですかぁ」
「ん? どうしたんすか彩。元気ないっすね」
 やる気の無い声を出す彩にオイラが尋ねると、彩は深い溜息を漏らした。
「……今日は私の正式な上級クラス白狐への位置付けが決定したと言う祝いの為に、このキャンプ場へ釣りに来たんですよね?」
「そうっすよ、白狐なのに若いから中級の上クラスって言われていた彩も今日でようやく上級の位置付けになるから、祝いとしてここに遊びに来たんすよ」
 浮かない顔で尋ね返す彩にオイラは笑顔で答ながら釣り竿を振るう。
「……そのわりには、祝って上げると言ったのは烈狐丸様だけで、知り合いや妹の楓など全く無関心。そんでもって烈狐丸様は一人で私の釣り竿を使って釣りを楽しんで、私はボケ〜っと烈狐丸様の釣りを楽しむ姿を眺めているだけ……」
 彩は愚痴るように言いながら、不機嫌そうな表情でオイラを見据えていた。
 ――いったいどうしてだろうか? って考えたら原因はオイラだ。
 今日はオイラじゃなく彩が満喫する日なんだよ。つい釣りに夢中になりすぎて、それを忘れてた。
「あ、彩も釣りをやりたいんすか? ごめんっす彩。彩の釣り竿なのに、はいっ」
「へっ?」
 優しげにオイラは釣り竿を彩に渡そうと差し出した。
 意外に思ったのか彩は少しだけほうけた表情だったが、やがてそれは穏やかになり――。
「――ありがとうございます」
 お礼を言って竿を受け取った。

 暫くして――。
「あ! 彩、魚が掛かったみたいっす!」
「わかってますよ! ふんっ!」
 彩は頑張って竿を引くのだが――。
「あっ!」
「い、糸が切れちゃったっす……」
 実は川の奥深くの石に引っ掛かっていたらしく、それを知らず無駄に力を入れた為に糸は切れてしまい、釣りは終了となった。
 結局、呆気ない終わり方だったが、彩の表情はどこか楽しそうだった。
「……烈狐丸様。今日はありがとうございます」
 釣った魚をクーラーボックスから出して川に帰しながら、彩はオイラにまたお礼を言った。ただ、その感謝の意味はオイラが竿を渡してくれたのとは全く違うようだった。
「……彩?」
「……」
 いつも真面目面で不機嫌そうな態度を見せる彩が、この時は不思議なくらい微笑んでいたことにオイラは驚いてしまった。
「ど、どうしたんすか急に?」
 ――なんか気持ち悪いよ、彩がそんな顔するなんて。
 なんて失礼には思いながらもオイラは彩に尋ねてみた。
「烈狐丸様。――私は、どうにも人に嫌われやすい性格と言うか……。他者との付き合いが下手くそで、妹の楓や皆に嫌な目で見られていました……」
 ――うん、知っている。
「今回の里の妖狐達に私が白狐に正式に認めてもらえた時も、皆私を当然そうに見て無関心でした」
 ――そりゃそうだ。彩は幼い内から他の妖狐よりずば抜けた能力と才能を持っていた。白狐になったのが早いのもそれによるものだから、皆は彩を特別視していた。彩本人もいつの間にかエリート意識が生まれた事があってからか、皆への態度は素っ気ないものだった。
 ――だけどオイラは知っている。彩は本当は見栄を張って強がっているだけで、孤独を感じながらもそれに耐えている、まだ脆い純粋な精神の若い妖狐なんだと。
 実際オイラが釣りに行こう何て言い出したのは、その日の彩がどこか淋しげな様子なのが、なんだか放っておけなかったからだ。
「烈狐丸様――あなたは昔から私に構ってくれてますよね。……今日だって突然釣りに行こう何て言ったのは、私の事を気遣かってのことでしょう……だから、感謝してます。今日のことは」
 流れる川を眺めながら浸り顔で彩は話を続ける。
「私は、あなただけは認めているんです。私の気持ちをよく理解してくれているあなただけは誰よりも……。だから、これからもよろしくお願いします烈狐丸様」
 語り終えた彩は、眺めていた川からオイラに視線を替えると優しく微笑んだ。
 妖狐の里や都会では彩が笑う姿は滅多に見ない、嫌、考えたら一度も見たことが無いかもしれない。この日、初めて彩の心の底からの笑顔をオイラは見たのだった。


 それから川を眺めながら歩いていると――。
「んっ?」
 彩が立ち止まり、訝しげに遠くに眼を凝らしているのにオイラは気付いて声を掛けた。
「どうしたんすか、彩」
 不審な様子で彩が見ている方にオイラも目を向ける。すると、同じくキャンプ場に来ている他の釣り人達が川釣りを楽しんでいる光景が映るのだが、問題視するのは彼らがゴミを捨てたままにしているその行為だ。
 マナーの悪い人間はよくいるものだが、そういう人間が原因で自然が汚れてしまうこともよくあることだ。そう思うとさすがにこれは放っておけない。
 オイラが軽く注意しようと一歩踏み出すが――。
「自然を汚す愚者どもめ……」
 そうしようとした矢先、彩が炎弾発射体勢に入っているじゃないか。
「ちょっ! 彩! ストーップっすぅ!」
 これはまずいと思いオイラは急ぎ彩を制止させた。
「な、どうしてですか! あれはどうみてもゴミを捨てる人間達が悪いじゃないですか」
「いやいやいや、だからと言ってそれはやり過ぎっすから」
 オイラは呆れながらも彩に先ずは口で注意しようと説得した。
「――そうですか、少し納得がいきませんが、先ずは口で注意しましょう。ですが、それで反省の色を彼らが見せなかったら、撃ち込みます」
 説得のすえ、不満げながらも彩はオイラの説得を聞き入れてくれたのだった。
 ――とはいえまったく、善狐にして彩は些細な事で人間を悪く見るところがあるのは悪い癖だ。少しは人間を信じてみても良いと思うんだけどなぁ。
 そう思いながら、オイラはタバコをポイ捨てしている釣り人達に歩み寄る。
「そこの人達、ゴミを捨てるのは自然を汚す原因に――」
 オイラが注意しようとしたその瞬間。
「何しとんじゃワレェ!」
 いきなり釣り人がゴミをポイ捨てした川から、片目に傷がある河童が現れたではないか。しかも河童は何故かヤクザ風な口調で、肩にはキュウリを食べている河童の入れ墨が彫られている。
「ひ、ひいっ!」
 当然驚く釣り人達に河童は――。
「ワレェ、川にえらい汚かっしいもん捨ておってからにぃ……。エンコじゃあ済まされんぞゴラァ!」
 すんごく恐い形相と威圧感たっぷりの睨み付けで叫んだ。
「う、うわああああ〜!」
 そのあまりの恐さに、震え上がった釣り人達は悲鳴を上げて逃げてしまった。
 突然の予想外の出来事で、オイラと彩はただ唖然とその様子を観ていたのだった。
「……ま、まあ事態は悪い方にはいかなかったっすから、これはこれでよかったっすかね……はは」
「……そ、そうですね」
 苦笑いしながらオイラ達がその河童の行動を眺めていると――。
「ち、カスが!」
 そう口にした河童は川に浮いたタバコを拾い、どこに所持していたのかライターを取り出して火を付けてタバコをふかし始めたではないか。
「ぺっ!」
 しかも唾を吐いた! 何て柄の悪い河童だ。更には吸い終えたタバコをポイ捨て――。
「――って! コラァー!」
「あー? なんじゃいワレ」
「なんじゃいワレ、じゃないっすよ! 川にゴミをポイ捨てするな言っといて何してんすかあんた!」
 オイラはずかずか歩み寄りながら柄の悪い河童に指差しながら怒鳴り付けた。
「知るかボケェ! ワシのテリトリーで何しようが勝手じゃろが!」
「いやいや、川を汚すな言ったじゃないっすか。何汚しているんすか! 言ってる事とやっていることが全く違うじゃないっすか!」
「ワシに説教たれる気かワレ? この河童の勇気様に?」
 そう凄まじい形相で睨み据える河童の勇気は、次に口の中で何かをうがいのようにがらがら水を濯ぐ音を鳴らす。
「死にさらせー! ププププッ!」
 勇気は言い放つと口から水弾を連射で撃ちだしてきた。
「おわっ!」
 飛んで来た水弾をオイラは右に、彩は左にへと避けた。
 水弾は近くの岩に直撃して、軽自動車並の大きさはある岩は粉々に砕け散った。
 ――凄い破壊力だ。
 そう思いながら間合いを取り、オイラと彩は身構える。
「ち……いっちょ前に避けおってからに、だがまあ、今のは威嚇じゃ。こっからマジでやっちゃる」
 そう言って勇気は身体から緑色の妖気を放つ。
「彩!」
「はい、判ってます」
 オイラ達もこれはまずいと思い、身構えた姿勢を低くし紅色の妖気を放った。いわゆる戦闘体勢に入ったオイラ達は、鋭い眼光を懲らして勇気を見た。
「はっ! やる気かワレェ」
 緊迫した雰囲気が漂い、激しい攻防戦が起きるかと思ったオイラだったが、その予想はあっさりと破られた。
「れっくんにナニすんじゃゴラァー!」
「ぐはぁー!」
 突如空から背中からコウモリの翼を展開させた金髪で碧眼(エメラルドブルーの眼)の男が、河童の勇気の後頭部に急降下を利用したキックを食らわせた。
 それにより河童の勇気は頭の皿を割られて撃沈。少しして浮かび上がるとそのまま川に流されて行ってしまったのだった。
 なんだか拍子抜けした結果になってしまったが、そんなことよりも、オイラにとっては今いきなり乱入してきた奴の方が問題である。
「ハァイ、れっくん」
「く、くくクラウス! な、なななんでここにいるんすか!」
「烈狐丸様、知り合いですか?」
 西洋妖怪、性の悪魔インキュバスのクラウス。オイラが苦手とする変態。そう、奴はインキュバスのくせに男好き、俗に言うホモなのだ。
 しかもあることがきっかけでオイラに一目惚れして以来、必要にオイラを追っかけて来るストーカーだ。
 まさかここまで追っかけて来ていたとは……。

「つれないなぁれっくん。僕も誘ってよ〜一人で行くより二人で一緒の方が、愛が深まるじゃないか〜」
「いや、違うっすから、今日は彩を祝う為に来たんすよ」
「ふふふ、わかっているよ。ここで今日は一夜をすごすんでしょ」
 オイラは冷たく言い放つが、まるで聞いちゃいないクラウス。いや、それどころか勝手な妄想を膨らませている。
 ――てゆーか、彩を眼中に入れろよ。何オイラだけ執拗に眼を愛らしく輝かせて見据えてるんだ気持ち悪い!
 不快な気持ちをオイラは眼で訴えるのだが――。
「どうしたのれっくん。そんな激しく見つめられると僕興奮しちゃうよ」
 逆効果だった。
 何にしてもだ。一刻も早くクラウスから逃げなけねば。コイツといるのは正直別の意味で危険だ。
「あー!」
 そうと決まれば早速オイラは空を指差しながら叫ぶ。
「えっ?」
 ――チャンス!
 彩とクラウスが気になって空に視線を映す間に、オイラは森の奥に全速力で逃げ込んだ。



「――はぁ、はぁ。逃げ切ったっすかね?」
 森の奥にまで逃げてきたオイラは、注意深く辺りを警戒し見回す。彩には悪いが、あの場ではああするしかなかった。都会で生活していた時は何度クラウスに襲われたことか。朝起きたら何故がアイツがいていきなり唇を近付けてきたり、後ろから不意を突くかのように抱き着いてこようともした。他にも数えたらキリがない。
 ――ゾ〜! 考えたらオイラよくこれだけの身の危険を回避できたよ。だいたい性の悪魔インキュバスは本来なら女性に愛情意識を向けるべきだろう。言っちゃ悪いがその点を考えるとアイツはインキュバスとしては変わり過ぎだ。いったい親はどんな育て方をしたんだろうか、いや、もしかしたら別のきっかけが原因で同性愛に目覚めたんだろうか?
 どちらにせよだ。オイラにとってアイツが苦手で危険な存在であることには、まず間違いない。奴から逃げたのは正しい判断だとオイラは思う。嫌、正当化したい。
「――どうやら逃げ切ったみたいっすね」
 ――よかったよかった。
 胸を撫で下ろしてオイラは一安心の溜息を漏らすのだが――。
「誰から逃げ切ったの?」
「そりゃあ、あのインキュ――、……ってギャアアアア!」
 なんと、いつの間にかクラウスはオイラの後ろに立っていたのだ。
「そ、そんな馬鹿な! オイラ全速力で逃げたのに!」
「フフフ、僕の脚力を甘く見ちゃいけないなぁ」
 これでもオイラは普段の力を抑えている人間の姿でも百メートルを三秒内で走り切れるくらい速いのに、クラウスは翼があるくせに走って追い掛けて来たのか。お、恐るべき脚力だ。
「れっくんの為ならたとえ火の中水の中さ」
「そうっすかぁ……」
 ――いい迷惑だよ、こんちきしょう!
「さて、もう鬼ごっこは終わりにして、僕の愛のキ・スを! ウ〜ン〜」
 ――イイイイ! 気持ち悪い、唇近付けるなぁ!
爆炎掌(ばくえんしょう)!」
「ゴファー!」
 オイラは炎を纏った掌打と直撃後爆発を起こす近接打撃技、爆炎掌をクラウスの顔面にぶち込んだ。
「ギャアアアア! アヂイイイイイ!」
 まともに食らったクラウスは顔面を押さえながらごろごろ転がり回る。かなりグロい光景だが、力はかなり抑えて放ったし、クラウスの再生能力は半端ないから大丈夫だろう。
「いい加減にするっすよクラウス! オイラは男と付き合う気はさらさら無いっす!」
 オイラはそう言い捨てるとクラウスを放ってキャンプ場に帰ろうと歩くのだが――。
「あ、あれ?」
 帰路が解らない。どこをどう走って来たのか全く思い出せない。
「これはまずいかもっす。――クラウス!」
 オイラは既に顔面が綺麗すっきり治っているクラウスを起き上がらせてどうやってここまで来たか道順を尋ねた。
 しかし――。
「わかんない。僕もがむしゃらにれっくんを追い掛けて来たから」
 クラウスもオイラと同じく解らずじまい。
 ――こ、これって。
「もしや、遭難した?」
「そうなん、だ」
「………」
 ――わざとらしい! 絶対わざと言ったなコイツ! ニヘラニヘラと愛らしく笑ってるせいもあってか無性に腹が立つ!
 オイラはもう一度爆炎掌を叩き込みたくなったが、ここで怒っても仕方ないと必死に堪えた。
「とりあえず、ここでじっとしても仕方ないっすから、キャンプ場に戻る道を探そうっす」
「ハ〜イ、わかったぁれっくん!」
「………」
 ――何で返事がそんな楽しげなのこの人?
 そう危機感の足りないクラウスを、ただオイラは唖然と眉をしかめて見据えるのだった。



 それから――。
「はぁ、はぁ――お、おかしい! おかしいっす! なんで道路とかに出ないんすか!」
 かれこれ二日間、オイラとクラウスは山の中を歩き続けるのだが、いっこうにキャンプ場に戻る気配はおろか、車が通る道路にすら辿りつく様子すら見せない。同じ道は通っていない。都会暮らしが長いとはいえ、山などで迷う程妖狐の野生の直感は鈍っていないはずなのに。慣れない山だからだろうか?
 どちらにせよ、これはやばいな。キャンプ場においてきぼりにした彩は心配していないだろうか?
「ふふふ、れっくん。なんかこんなに長く一緒だと、二人の愛がより芽生えそうだね」
 ――オイラの心配を余所にコイツは!
「……芽生え無いっすよ」
 ――怒るのも疲れるし逆効果になりそうだ。オイラは出来るだけ冷たく素っ気ない態度で言葉を返した。
「またまたぁ、照れちゃって〜。可愛い。フフフ」
 ――照れてないよ! くそっ! 結局これも逆効果だった。てゆーか、なんでコイツはこんな嬉しそうなの? っと、いかんいかん。ここは無視だ。無視するに限る。
 オイラははや歩きでクラウスから距離を放すが。
「あれ? れっくん。放置プレイかい? れっくんってけっこうSなんだね」
「なんでそうなるんすかぁ!」
「でもそういうれっくんも好きだよ。とっても可愛いから」
 駄目だ。結局コイツはオイラが何をしても喜ぶのだ。しかし、だからと言って諦めたらおしまいだ。
 どうにかクラウスに諦めてもらわねばと歩きながら腕を組んで考えていたら、いきなりもの凄い突風が吹き荒れた。
「うわっ!」
 あまりの突風に、オイラ達は飛ばされないように必死に踏み止まる。



「――風が止んだよ?」
「いったい今のはなんだったんすか?」
「はーはっはっはー!」
 風が止みはじめたと同時に、どこからか高らかな笑い声が聞こえてきた。
「いったいどこから? ――あ!」
 オイラは眼で相手を捜し、そして捉えた。
 笑い声の主は、太い木の上で偉そうに腕を組んでいる山伏の服装をした真っ白い長髭天狗だった。
「さっきの突風はあんたが巻き起こしたんすか?」
「そのとぁーり! わしはこの山の全てを護る大天狗。ミツルーギであーる!」
 外見らしいもっともな口調で大天狗ミツルーギは肯定と言い張るとオイラ達を指差し。
「自然を汚す悪狐と悪魔め! わしが、あ! 成〜敗してくれ〜るぅ〜!」
 何故か歌舞伎口調と動作でオイラ達に身に覚えの無い言い掛かりを付けた。
「ちょっと待つっすミツルーギさん! ただでさえ今、遭難しているオイラ達がいつ自然汚すような事をしたんすか!」
 オイラが問い掛けると予想外の返答が返って来た。
「貴様らのBL(ボーイズラブ)が、自然の生き物達に悪影響なのだぁー!」
 ――なんじゃそりゃあ! 明らかにどうでいい理由じゃないか! てゆーか、明らかに根本的な誤解を招いているぞ! まずオイラはそっちの趣味は無い! 百パーセントあんたの誤解だよこれは!
 変な誤解で成敗されるなんてごめんだ。説得しなけねば、オイラは温厚におうびんに済ませようとうかがい出た。
「ちょっと、ミツルーギさん。オイラは男と付き合う趣味は無いっす、それはこの変態インキュバスが勝手に――」
「僕とれっくんの愛が――悪だと! 取り消せ! 汚らわしい髭男! 僕とれっくんの愛はどんな汚れをも浄化する! だから髭男! 明らかに君のは偏見だ! 判ったか糞髭男!」
 ――コラー! 何悪化させかねない事を相手に指差してかっこよく発言してんの! しかもなにげに酷い文句言ってるしね。
 あ、ミツルーギがぶるぶる奮えている。明らか怒っているよ。
「き、貴様らー! わしの髭を馬鹿にするなぁ〜!」
 泣いているよ! けっこうショックだったんだ髭を馬鹿にされたこと! しかもオイラも馬鹿にしたやつに入れている!
 ミツルーギは情けない怒り声で叫ぶと、背中に背負っていた大きな団扇を取り出すと深々と振り上げた。
「吹き飛べぇーい!」
 言い放つと共にミツルーギはオイラ達目掛けて、勢いよく団扇を振り下ろす。
 すると、とてつもなく激しい疾風が巻き起こる。
 凄い風だ。周りの木がめきめき軋む音を立てて曲がりくねりへし折れ吹き飛んで行く。
「うわっ!」
 オイラも踏み止まる事が出来ずに吹き飛ばされ、へし折れなかった太い大木に激突してしまった。
「あうっ!」
 背中を強打したオイラは苦痛でうめき声を上げ大木に背もたれる形で腰を落とした。
「れっくん!」
 心配そうにクラウスがオイラに駆け寄る。
 呻くオイラを見て、クラウスはふるふると怒りに震えながら唇を噛み締める。
「れっくん――」
 そしてきりりと鋭い目付きになりミツルーギに振り向いて睨み据える。
 奮える拳を胸まで上げるとびしりとミツルーギをかっこよく指差してこう言った。
「貴様ー! よくもれっくんを殺したなー!」
「えっ! 生きてるっすよ!」
 ――なんて事を言うんだコイツは! せっかくただの変態じゃない格好いいやつと見直したと思ったらそれかい……。
「がはは〜。貴様もすぐに死んだ悪狐の後を追わせてやるわ〜」
 生きてるよ! そんな高いところから見て普通に解るだろ! 平然と立ってんだろオイラ! どんだけ目が悪いんだよ!
「うおおお! れっくんの仇ー!」
「コラー! 生きているっすよ! 勝手に殺すなぁー!」
 そう涙を流しながら角や牙がはえて蝙蝠の翼を展開させて本来の姿になるクラウス。オイラの声など聞こえてない様子で跳躍してミツルーギに紫色の魔弾を放つ。
「甘いわっ!」
 ミツルーギは白い翼を広げ、魔弾を飛んで回避した。魔弾はミツルーギがいた木に直撃して爆発を起こした。
「食らえい!」
 ミツルーギは団扇を振り上げたまま素早くクラウスを下駄をはいた足で蹴り飛ばし、団扇を振り下ろす。
 蹴り飛ばされたクラウスは更に強風の力も加わり、勢いよく地面に激突する。普通なら即死だが、クラウスは高い再生能力があるからしぶとい。
「くぅ、痛たた」
 案の定、クラウスは平然と立ち上がった。
「フフフ、やりおるな。だが、次の一撃で終りにしてやる」
 そう言うとミツルーギはいままで以上に団扇を大きく振り上げた。多分最大の風を喰らわせる気だ。
「ってストップ! そんな事したら自然がめちゃくちゃになっちゃうっすよ」
「ヒハハハ〜! 死ねぇい!」
 ――駄目だ聞く耳持たずと言うか周りが見えていない!
 仕方ない、あんまりこの姿になるのはあまりに危険だからならなかったが、背に腹はかえられない!
 そうと決まればオイラは妖狐の姿に戻った。
「な、なんじゃあこの妖気と巨体はー!」
 う〜相変わらず巨体故か山でも窮屈だ。しかし何にしてもだ。先ずはミツルーギを止めねば。
「悪いけど、少し痛い目にあってもらうっす!」
 オイラは口から炎を吐き出した。
 そして次の瞬間には、大天狗の悲鳴が山中に響いたのだった。


 ――後日。
 都会にどうにか帰って来たオイラだったが、クラウスは未だにオイラから離れないでいた。それどころか、大天狗を止めたのが自分を助けたと勘違いして余計にオイラに惚れてしまったのだった。
「はぁ……クラウス。頼むからついて来ないでっす。あんたといるとろくな事が起きないっす」
「大丈夫だよれっくん。どんな障害があろうと僕達の愛は何だって乗り切れるさぁ」
「はぁ〜」
 全く理解してないクラウスに、オイラは溜息を漏らすしかなかった。
「にしても……。オイラ何か忘れているような……あっ!」
 ――彩を忘れてた!


 キャンプ場から離れた山奥。
「烈狐丸様〜!」
 服装がボロボロになりながらもオイラを捜す彩の姿があった。
「う〜。いったいどこにいったんですかぁ。烈狐丸様ぁ〜!」
 彩がオイラはとっくに都会に帰ったのを知ったのは一週間後にミツルーギに出会った時だったと言う。





どうも、一月ぶりの参加です。てゆーか、マジですみませんテーマ小説使ってシリーズ短編出すの。自分の執筆や限られた文字制限を纏める為の向上目的もかねてやらせてもらってます。楽しんでもらえた方々には感謝。迷惑だと思われた方々には謝罪の言葉でいっぱいです。では













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