第6話
アルは街を歩いていた。がっくりと首を落とし、肩をすくめている。 一度、問題のあった宿屋に戻ってみたが、すでに人だかりはなくなっており、ゼロの姿も見あたらなかった。アルは、あの場から逃げ去った自分が後ろめたく感じ、ゼロの家に向かうことも出来ずに、途方にくれていた。と、そこへ。
「あら?アルちゃんじゃない!どうしたの?暗い顔して」
声をかけてきたのはミリアだった。ジョンも一緒である。 「あ、ミリアさん・・・ジョンも・・・」
アルは、一瞬顔を上げるが、すぐに視線を下におとす。アルの様子を見て、ジョンとミリアは何があったのか悟った。
「・・・まぁ、立ち話も何だから、飯でも食いに行こうぜ」
「そうね。行きましょう、アルちゃん。」
アルは無言でジョンとミリアについていった。3人は人気のない店に入って、適当に注文をとる。
「・・・で、アルちゃん。ゼロのことをどこまで知っちゃったの?」
突然の質問に、アルは驚いたが質問に答える。「その・・・ゼロが生まれた時のことと、ゼロが普通の人間とは違うことと、名前の理由と・・・」
アルはそこまで言って口ごもる。
「それと?」
ミリアが聞く。「・・・ゼロが牢を抜け出して恨みを晴らすために沢山の人を殺したこと・・・」
そこまで言ったとき。 ドン!と物凄い音がした。音の方を見ると、ジョンが拳を握り締め、机を殴り、立ち上がっていた。「あいつらそんなこと言ってやがったのか・・・許せねぇっ・・・!」
ジョンは怒りを露わにしている
「落ち着きなさい。あんたが熱くなってもしょうがないでしょ。」
「うるせぇ!ミリアは何とも思わないのかよ!?」「思わないわけないでしょ!・・・でも、私達が今熱くなって行動したら、ゼロは今以上に立場が悪くなってしまうわ。それに、ゼロは自分のことに私達を巻き込みたくないと思ってるはずよ。それなのに、私達が行動してゼロが喜ぶと思う?」「・・・くそっ!」
ジョンは悔しそうに椅子に座る。
「ごめんなさい、アルちゃん。見苦しいとこをみせたわね」
「いえ・・・」
「アルちゃんはゼロが、人を殺したって聞いたとき、何を思った?」「・・・私は、ゼロがそんなことするはずないって思いました。いえ、言い聞かせてました。なのにゼロは否定しようとしなくて・・・。なにがなんだか分からなくなって・・・その場から立ち去ってしまいました・・・」「そう・・・。ゼロをおいて1人で逃げちゃったわけね。」
アルは何も言わず、黙って頷く。
「アルちゃん・・・。あなたはゼロにとって凄く残酷なことをしたわ」「え・・・?」
「あなたは、街の人達とある意味同じことをしたのよ。・・・その場から逃げることで、現実から目を背け、ゼロを置き去りに・・・つまり孤立に追いやってしまったの。」「あ・・・」
アルは何も言えずに下を向く。
「アルちゃん。あなたは始め、ゼロが人を殺したって聞いたとき、そんなことないと思ったのよね?今ではどう思ってる?」「・・・今は、そんなことは、あって欲しくないって思ってます。」
「そう・・・。でも、残念だけど、ゼロが人を殺したのは事実よ」
「そんな・・・」「でも、あなたが聞いたのは少し違うわ。ゼロは恨みを晴らすなんて小さな理由で人を殺めたりしない。」「え・・・?」
アルが少し不思議な顔をすると、ジョンが口を開いた。
「昨日、ドスランポスを狩りにいったときゼロがいったセリフ覚えてるか?」いわれて、アルは思い出す。
「そう、あいつは人々が忌み嫌うモンスターを殺すときにも心を傷めてる。多分、自分に当てはめて考えてしまうんだろうな。だからあいつは生き物を殺すとき、大事かどうか見極めてるんだ。ただ単に、嫌われたから殺されたって言うんじゃあまりにも酷すぎるだろ?」「じゃあ、ゼロは何で人を殺したの?」
この質問に、今度はミリアが答える。
「生きるためよ。」
「生きる・・・ため?」アルは、ゼロのセリフを再び思い出す。そしてあることに気付く。そう、ゼロは"生きるために殺す・・・・・・"と言っていた。「親の愛情もしらず、望むことすら知らなかったゼロが、生まれて初めて望んだこと、それが“生きたい”ってことだったの。・・・酷い話よね。」
「そういえば・・・ゼロの両親はゼロが檻に入れられるのを黙って見てたんですか?」「ゼロの両親は、ゼロを研究するチームの中心人物だったの。」
「・・・!」
アルは驚きのあまり、言葉を失った。
「ゼロの両親は、ゼロを研究対象としてしかみてなかった。そして、満月の夜・・・ゼロに殺された」「1つ・・・聞いてもいいですか?」
アルが口を開く。
「満月の夜、何があったんですか?何故、ゼロは人を殺さなきゃいけなかったんですか?」
ミリアは少しためらったが、静かに口を開く 「満月の夜・・・ゼロは研究所で危険分子として、処分・・・つまり殺されることになったの。両親の提案でね・・・。それを知ったゼロは、生きたい一心で檻をこじ開け、逃げだそうとしたの。でも、研究員達はゼロを処分しようと、それぞれが武器を持ってゼロに襲いかかったの。「ゼロも最初は手を出さなかった。どんなに斬られても逃げ回ったの。」
アルが黙って聞いている横でジョンが口を開いた
「アルは知らないだろうけど、ゼロの体にはその時の無数の傷跡が残ってるんだ」ミリアはジョンが話終わるのを確認して話を続ける
「そして、ゼロは追い詰められた。大勢の人間に囲まれて、ついにゼロは反撃することを選んだの。あとはもう、アルちゃんの知ってるとうり、ゼロは一晩のうちに沢山の人間を殺したの。」アルは愕然としていた。
「でもね、アルちゃん。ゼロは、いろんな傷みを抱えているけど、本当の優しさを知っているわ」
「本当の優しさ?」「そう。ゼロがアルちゃんにこのことを隠してたのはアルちゃんのためだと思うの。」
「私のため?」
アルは首を傾げる。 「アルちゃんはゼロの所に居候しているんでしょう?ゼロは多分、自分のことを知ったあなたが、家に帰りづらくなることが分かってたんじゃないかしら。だから、あなたが安心して“ただいま”って帰ってこれる所を作りたかったんだと思う。たとえ自分のことを隠してたことについて、あなたがゼロに失望したとしてもね」「・・・」
アルは黙っている。
「あまり関係のない話なんだけどよ・・・」
ジョンが突然口を開く 「俺は一回、ゼロに名前ぐらいなら変えてもいいんじゃないか?って昔言った事がある。そしたらあいつは“この名前と傷跡は自分が罪を犯した事への罰だ。だからこのままでいい”って断りやがった。あいつは、生きて人々に忌み嫌われながも、人々にモンスターによる恐怖を少しでもなくすことを償いとしている。せめてアルだけでもゼロを許してやってくれ」アルは無言で下を向いている。
「私達もゼロにあいに行くわ。だからゼロの家にいっしょに帰るわよ、アルちゃん。」
「はい」アルは吹っ切れたような表情を見せた。 3人は店を出て、ゼロの家へと向かった。 3人がゼロの家についた時、日は西の空に、赤く浮かんでいた。アルが家の中に入ると、ゼロが晩飯を作っていた。ゼロはアルの姿をみて少し驚いた。 「アル・・・。驚いたな。もう帰ってこないと思ってたからな。」「ゼロ・・・ごめん…。」
「何でお前が謝るんだよ。謝るのは俺のほうじゃねえか。その・・・俺の正体を隠してて悪かった。」
「いいの。ゼロが何者だろうと、私達の中で、ゼロはゼロなんだから・・・」「そうか、ありがとな・・・って、私たち?」
ゼロは首を傾げる。
「よぅ!旨そうなもん作ってるじゃねぇか!」
「本当。ちゃんと私の分はあるんでしょうね?」「ミリア!?ジョン!?なんでここにいるんだ!?」
「アルちゃんと今まで話してたのよ。アルちゃんだけ仲間はずれは可哀想でしょ?」「アルに・・・話したのか?」
「まぁね〜。」
「いいじゃねぇか。アルも分かってくれたし。俺らはこれからも仲間ってことだ。」
ゼロはそのセリフをきいてとても嬉しそうだった。「腹もへったし!今日はゼロの家で食ってくか!」
ジョンがそう言って皆は準備を始めた。 「お前らは・・・あったけぇな・・・」
とゼロは小さくこぼす。「ん?何か言ったか?」
「何でもねぇよ。早く準備しちまおうぜ。」
準備を済ませ、食事をとった。ゼロ達はその日、次の朝日がのぼるまでずっと騒いでいた。
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