第43話〜最終話〜
「・・・ちゃん・・・ルちゃん・・・」
何だろう?
体がすごく揺れている。
「起きなさいアルちゃん!」
「ぅ・・・ん・・・?」
ミリアに揺さぶられ、アルはようやく目を覚ました。
「はぁ・・・やっと起きた・・・」
「ミリアさん・・・?」
慌てた様子のミリアを見て、アルはキョトンとする。
辺りはまだ薄暗い。
体を起こして辺りを見渡すと、此所が門の前であることに気付いた。
「私・・・なんでこんな所、に・・・」
全て言い終える前に、アルは少し前の出来事を思い出す。
眠気が覚めるのは一瞬だった。
「ゼロ・・・?
ゼロ!?」
「待ちなさい!」
慌てて立ち上がり走り出そうとするアルを、ミリアが止める。
「今ジョンが街の奴らと一緒に門を開けるわ。
だから少し落ち着きなさい」
「でもゼロが・・・!」
「だから落ち着けって言ってるでしょ!」
軽くパニクるアルに言い聞かせるようにミリアが大声をあげる。
「いい!?
あの門は人間一人じゃ開けられないの!
あなたが今慌てても何も出来ないし、何も変わらないわ!
分かる!?」
ミリアに圧倒され、落ち着きを取り戻したアルは無言で頷いた。
「・・・はぁ・・・
ならいいわ。
・・・怒鳴ったりして悪かったわね」
ミリアはバツが悪そうに謝る。
・・・落ち着けと言ったミリア自信、相当に慌てていた。
少しイライラした様子で、落ち着きが無い。
そこへ
「またせたな」
と、ジョンが駆け寄って来た。
「今から街の奴らが門を開くぞ」
ジョンがそう言うと、門が重厚な音を出して動き始める。
門の隙間から朝日が差し込み、アル達は一瞬目を閉じた。
やがて光に慣れ、ゆっくりと目を開く。
ーーーー紅
最初に飛び込んできた光景がそれだった。
視界をうめ尽くすほどの竜達が、一匹残らず紅に彩られている。
「な・・・なによ、コレ・・・?
こんな事って・・・」
目の前の現実をにわかには信じられず、3人は唖然とする。
・・・たちこめる血の匂い。
竜達を染め上げているものが血であると認識するのは、一瞬で十分だった。
・・・その血の海の真ん前に、異形な物が座り込んでいる。
朝日を背に受け、力強い翼を広げたそれは、よく見れば人の形をしていた。
・・・それは紛れも無く
『ゼロ!!』
3人はその名を叫び、同時に駆け出した。
・・・近寄れば近寄る程、絶望が込み上げて来る。
やがてゼロのもとへたどり着いた3人は、言葉を無くした。
・・・体に外傷は無く、まだ生死を確認したわけでは無い。
しかし、3人は一目で確信した。
ーーー死んでいる、と・・・
傷一つ無く、なんの異常も無い、純粋な死だった。
念のためと、ジョンがゼロの生死を確かめるが、ジョンは無言で首を横に振った。
・・・それは、至極当然の事。
ゼロは生を放棄し、自ら死となった。
"死"なる者が、生き長らえる・・・
そんな矛盾、有り得はしないのだから・・・
「・・・この馬鹿野郎がぁ!!」
悔しそうに叫んで、ジョンは地面を殴り付ける。
「なんでコイツなんだよ!?
なんでコイツばかりがこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!?
なんで・・・なんでここまでするんだよお前はぁ!?」
叫んで、何度も地面を叩く。
ミリアは何も言わず、ただ俯いていた。
そんなミリアの後ろから、アルがフラフラとゼロに歩み寄る。
ペタリと、力無くゼロの前に座り込み、虚ろな瞳でゼロを見つめる。
「・・・こんなの嫌だよ・・・」
消え入りそうな声で呟く。
「・・・ズルいよ・・・
自分の言いたい事だけ言って、勝手に死ぬなんて・・・」
当然、呟くアルにゼロは返事などしない。
「・・・何か言ってよ・・・
私1人で馬鹿みたいじゃない・・・」
必死に語りかけるアルの姿は、痛々しかった。
「・・・アルちゃん・・・」
見かねたミリアが声をかける。
「・・・気持ちは分かるけど・・・ゼロはもう・・・」
「そんな事わかってるわよ!!」
突然、火がついたような激しさで叫んだ。
が、すぐに落ち着きを取り戻す。
「・・・スミマセン・・・
けど、後少し・・・後少しだけ、こうさせて下さい・・・!」
そう言ったアルの頬を、一筋の涙が流れた。
アルの普段みせない態度に、ミリアは戸惑いを隠しきれない。
それを見たジョンは、スクリと立ち上がり、ミリアの肩に手を乗せる。
「・・・今は、放っておいてやろうぜ・・・」
そう言うと、ジョンは目に涙を溜めながらその場を後にする。
ミリアも続き、名残惜しそうにその場を立ち去った・・・
・・・アルは、ゼロの翼にそっと手を差し伸べる。
「・・・もう翼をたたんでいいんだよ・・・
・・・ゆっくり休んでいいんだよ・・・」
そう言ってゼロの翼をたたむと、ゼロの体を寝かせ、膝枕をした。
「・・・あれ、見える?」
アルは街へと視線を向ける。
「あの儚くて脆い街を、ゼロが守ったんだよ。
・・・そして、私達の命も・・・」
そう口にして、今度はゼロに視線を向けた。
・・・その顔は安らぎに満ちた、とても穏やかなものだった。
「・・・そう・・・
色々なものと闘って、今ようやく、その闘いが終わったんだね・・・
・・・それはそれでよかったのかもしれない・・・」
ーーーーそれなのに
「・・・どうして・・・」
ーーーーその顔を見てると
「・・・こんなにも、胸が苦しい・・・!」
・・・
・・
・
不思議な感覚に包まれ、ゼロは目を開けた。
「ここは・・・?」
そこは、辺り一面を暗い闇に覆われた世界。
闇以外は、何もない世界だった。
「ようこそ、生と死の狭間へ」
突然、闇の中から声が聞こえ、タナトスが姿を現した。
「お前・・・タナトス・・・
・・・そうか・・・俺は死んだのか・・・」
ゼロは自分の死を悟り、どこか落ち着いたような表情をする。
「あ〜あ。
結局、お前は神の予知通りに死んじまったか」
つまらなそうに言ったタナトスをみて、ゼロは首を傾げる。
「なんだよ?
その神の予知ってのは」
「あ?
お前英雄の詩って知らねぇのか?」
そう言われて、ゼロはキリンやラオが同じようなことを言っていたことを思い出した。
「あ〜・・・
まぁ、知らないこともないけど・・・詩の中身は知らねぇな」
「知らねぇんじゃん。
しょうがねぇ、教えてやるよ」
タナトスは英雄の詩を1から詠い、ゼロに教え始めた。
・・・
・・
・
「・・・んで、男は最期にこう尋ねるわけだ。
自分は一体何を得たのか、ってな。
・・・理解したか?」
一通り詩を聞かされたゼロは、顔をしかめていた。
「・・・それ、本当に俺に当てはめた詩か?」
ゼロがそう尋ねると、タナトスは不思議そうな顔で肯いた。
「あぁ、そうだ。
・・・何かおかしいところでもあったか?」
「最後だよ、最後。
え〜と、“自分は一体何を得たのか?”だったよな?
・・・俺がその英雄なら、そんな馬鹿な質問しねぇぞ」
そう言って、笑みを浮かべる。
「何を得たのかなんて、俺以外の誰にも分かりはしない。
そして、俺は色々なものを得ている。
だからそんな質問はしない」
キッパリと言い放ったゼロを見て、タナトスはニヤリと笑う。
「じゃあ、お前ならどんな質問するんだよ?」
「俺か?
そうだなぁ・・・俺なら・・・」
う〜ん、と首を傾げ、しばらく思考していたが、何か思い付いたゼロはパッと顔を上げた。
「俺が尋ねることはズバリ、“俺の逝き先は天国と地獄のどっちだ!?”だな!」
自信満々で答えたゼロを、タナトスはポカンとした表情で見つめる。
「ぷっ・・・!
あははははは!
いい!いいぜその質問!採用だ!」
タナトスは腹を抱えて笑い出した。
・・・しばらくそうしていたが、やがて落ち着いたタナトスは顔を上げる。
「よし!
その質問には俺が答えてやるよ!」
そう言って、愉快そうにゼロの背中をバシバシ叩く。
「ぶっちゃけてしまうと、お前の逝く所は天国でも地獄でもないんだよな、これが」
「ハァ?
なんだそりゃ?」
首を傾げるゼロを尻目に、タナトスはある物を取り出し、ゼロに手渡した。
紐状のそれは、どこかで見た事のある物だった。
「・・・感謝するんだな。
そいつが、お前とあっちの世界を繋いでくれてる」
そう言って、タナトスはスッとゼロの背後を指差す。
振り向くと、そこには眩い光が差し込んでいた。
「よかったな。
お前はまだ死ねないみたいだぜ?」
「ハァ!?
さっきお前は俺が死んだって言ったじゃねぇか。
死人が蘇るなんてことがあるわけないだろ?」
ゼロはすかさず尋ねるが、タナトスはクスクスと笑う。
「あぁ、そうだな。
・・・けど、それは人間の話だろ?
お前の肉体は死から蘇る程の蘇生力をもってた。
何より、お前は最後の最後で神の予知を超えた。
・・・その内容が“天国か地獄か?”ってのは笑えたけどな」
言って、またクスクスと笑い出す。
ゼロはそれでも、納得がいかない様子だった。
「・・・まぁ、とにかく。
お前は神の予知を覆す事で、死を凌駕したんだよ。
もっと喜べ」
そこまで言われても、ゼロは納得しない。
そんなゼロを見て、タナトスは呆れ顔でため息をついた。
「・・・まったく・・・
わからねぇ野郎だな・・・・
誰がなんと言おうとお前は生き残り、またあいつらとすごせる。
それでいいじゃねぇか」
言われて、アル達の姿が頭をよぎる。
途端に、ゼロの表情が和らぐ。
「・・・あぁ・・・
そりゃいいな」
そう言ったゼロを見て、タナトスはハァ・・・と2度目のため息を吐き、ゼロに背を向けた。
「じゃあな・・・
俺はもう行くぜ」
「もう行くって・・・
どこ行く気だよ?」
ゼロが尋ねると、タナトスは振り返らずに手をヒラヒラと振る。
「俺は本来の責務に戻る。
・・・お前の中に居たんじゃ人間への復讐なんてできっこねぇし、何よりそんな事どうでもよくなっちまった」
「じゃあ、ここでお別れってやつか?」
「・・・あぁ、その通りだ」
言って、タナトスはゆっくりと振り返った。
・・・その表情は、死神にはあるまじき優しさに溢れていた。
「・・・お前の中で過ごした時間は、割と悪くなかったぜ・・・
じゃあ、お前が本当の意味で死にやがったら、会いに来るからよ」
すぅ・・・と、息を吸い込んで、タナトスは最後の言葉を紡いだ。
ーーーー“またな”、と・・・
そう言い残して、タナトスの姿は闇に溶けた。
それと同時に、差し込んでいた光がその大きさを急激に増やし始める。
「・・・俺も進まなきゃな・・・」
上を仰いで、アル達を思い浮かべる。
ーーーーお前達とーーーー
・・・
・・
・
「・・・もっと先へ・・・」
そう呟いて、ゼロは目を開けた。
・・・そこには、涙をボロボロと流すアルの顔があった。
アルは、今目の前で起きた奇跡を受け止めきれずに、目を丸くする。
「よう、泣き虫」
意地悪く笑って言うと、ゼロはゆっくりと立ち上がった。
「え・・・ちょ・・・
ゼ・・・ゼロ・・・?」
パチパチと何度もまばたきをしたり、目をこすってみたりするが、ゼロの姿は視界から消えない。
「な・・・だ、だって・・・た、確かに死んで・・・」
「足ならあるぞ?
ホレホレ」
ゼロはわざとらしく足をぶらぶらさせてみせる。
アルはしばらく呆然とゼロの姿を眺めていたが、現状を理解するやいなや、いきなり立ち上がる。
「・・・こ・・・」
「こ?」
「・・・このバカァ!!」
突然走り出し、ドン!と、ぶつかるようにゼロに抱きついた。
「大バカ!バカの王様!犯罪的バカ!とにかくバカ!」
「そ、そんなにバカバカ言わないでもいいだろ!?」
「・・・」
バカと、物凄い勢いで連発したと思うと、今度は急に大人しくなる。
「アル・・・?」
「う・・・くっ・・・」
次に聞こえてきたのは、嗚咽だった。
喉をしゃくりあげて、まるで子供のように泣きじゃくる。
ゼロは、なにも言わずにアルの頭を撫でた。
「・・・すまねぇな・・・
悲しい思いさせちまってよ」
「本当、よ・・・私の涙、返して・・・」
「いやぁ、それは俺に言われても・・・
・・・あ、そうだ。
俺、お前に返さないといけないものがある」
そう言って鎧の内側に手を突っ込み、ゴソゴソと何かを探る。
「お、あった・・・」
ゼロはそれを掴み、アルの前に差し出した。
・・・それは、タナトスに手渡されたもの。
ゼロと世界を繋いでいたもの。
・・・その正体は、ほんの些細な約束だった。
「返すって約束だったからな。
返すよ、この"リボン"」
そう、リボン。
アルがゼロを襲った夜、ゼロの傷口に巻かれた物だった。
確かにあの時、ゼロは返すと約束していた。
・・・どこにでもある、とても小さな約束。
その小さな約束が、ゼロの命を繋ぎ止めたのだ。
「・・・こいつが、俺とこの世界を繋いでくれた。
そのおかげで、俺は今ここにいる。
・・・助かったぜ」
差し出されたリボンを受け取って、アルはゼロの顔を見つめる。
「・・・大バカ・・・」
そう呟いて、まるでそうするのが当然のようにゼロの唇に自分の唇を重ねた。
ゼロは驚いて一瞬固まるが、その固まりはすぐに解け、両の腕でアルを抱き締める。
さらにその上から、翼でアルの体を包み込んだ。
「・・・」
・・・名残惜しそうに離れる2人の唇。
それと同時に、ゼロの翼が光りだした。
ポツリ、ポツリと、ゼロの翼から青白い光りの粒が舞い上がり、その度にゼロの翼は薄れるように消えて行く。
・・・やがて光りの粒が辺りを満たす。
その光景はあまりにも幻想的で、美しかった。
・・・2人は何も言わず、ただその光景を見つめていた。
最後の一粒が消える、その瞬間まで・・・
三か月後・・・
「うわぁ〜!
寝坊した〜!」
ゼロの家は賑やかな朝を迎えていた。
「何回も起こしたのに・・・
もう少し早起きの習慣つけたら?」
玄関から溜め息混じりにアルがそう言うが、ゼロには聞こえていない。
ゼロは騒がしい音をたてて家中を走り回り、あれこれと準備を進める。
「え〜と、後は・・・
あれ?
俺のポーチどこだ〜!?」
慌てるゼロの横から、スッとポーチが差し出される。
「・・・お兄ちゃん、コレ・・・」
「おお!
グッジョブだリリス!」
ゼロはリリスからポーチを受け取ると、玄関まで駆け出した。
その後を、リリスがトテトテついていく。
「よう!
お待たせ!」
「本当よ。
あんまり遅れるとミリアさん達怒っちゃうよ?」
「わかってるって!
・・・それじゃあ行って来る!
ちゃんと留守番してるんだぞ?」
そう言って振り返ると、リリスが心配そうにゼロ達を見つめていた。
「・・・気をつけてね・・・」
呟くように言ったリリスを見て、ゼロは微笑む。
「任せとけって!」
クシャクシャっとリリスの頭を撫でて、ゼロ達は家を出る。
リリスは、乱れた髪を指で撫でながらゼロ達を見送った・・・
・・・
・・
・
ゼロとアルは街に向かって走っていた。
「やばいやばい!
これ以上遅れたら何を言われるか分かったもんじゃない!」
「も〜!
だったらもっと早く起きればいいのに〜!」
「わ〜っはっは!
それは無理だ!」
キッパリ断定するゼロを見て、アルは深い溜め息をはく。
そうこうしてる内に、ゼロ達は街にたどり着いた。
・・・街に入ると、すぐさまジョンとミリアに遭遇する。
「ゼロ!
アンタ遅いわよ!」
第一声がそれだった。
「俺だけかよ!?」
すぐに突っ込むが、ミリアは、フン、と鼻で笑う。
「どーせ、原因はアンタの寝坊でしょ?
アルちゃんは被害者よ」
「う、うるせー。
狩りに行くなんざ三か月ぶりなんだ。
しょーがねーだろ」
ゼロがそう言うと、アルは思い出したようにジョンに視線を向け、あーだこーだと言い合うゼロ達を尻目に口を開く。
「そう言えばまだ聞いてなかった。
今回は何の問題が起こったの?
・・・ここら辺の竜達はゼロがやっつけちゃったのに・・・」
アルがそう尋ねると、ジョンは軽く首を傾げた。
「問題に関しては、行方不明の奴が急に増えたからその調査にいくんだが・・・俺もいまいちよく分からないんだよな。
ただ、ここ最近は竜の目撃情報もちらほら増えてるらしいし・・・他の所からやって来てるって噂もある。
多分、そいつらの犯行だと思う」
「分かった。
なら、早く集会所に行こう」
「あぁ、そうだな。
おい、お前らもさっさとしろ」
ジョンは、まだ言い合いを続けていたゼロとミリアにそう言うと、集会所に向かって歩きだした。
他の三人も、ジョンに続いて歩きだす。
・・・そのとき、ゼロの頭上を1羽の鳥が通り過ぎていった。
ゼロは、何となく空を見上げた。
「いい天気だ」
素直に、思ったことを漏らす。
・・・空は高くて、雲一つない。
「へ・・・悪くねぇな」
ーーーーこの暖かい世界に自分は居る。
そして、これからもここで生きていく。
「・・・あいつらと一緒に・・・」
ーーーーーー“モンスター・ハンター”としてーーーーーー
END
つ、つ、ついに完結しました〜〜〜〜! 自分はもうなきそうです! この小説が完結できたのは、読者の皆様が居てくれたからこそです! 今まで読んでいただいて、本当にありがとうございました!! また、これからもスローニンをよろしくお願いします!m(_ _)m
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