第42話
門を閉じ、元の位置に戻って来たゼロは、地面に突き刺していた剣を引き抜いた。
その表情に曇りは無く、ただ前だけを見つめている。
その視線の先には、異種混合の無数の竜達が巨大な砂煙をあげながらこちらに向かって来ていた。
"そろそろだぜ。
覚悟はできたのか?"
頭の中にタナトスの声が響いた。
ーーーー言われるまでもない
「・・・おい、タナトス」
視線はそのままで、タナトスに呼びかける。
「俺の力、抑制するのをやめろ」
"・・・"
返事はない。
「おい、聞こえてんのか?」
ゼロが尋ねると
“・・・いいのか・・・?”
控えめな声が返ってきた。
「当たり前だ。
お前が聞いただろ?
覚悟ならもうできてる」
“・・・もう、あいつらとは居られなくなるぞ?”
一瞬、アル達が頭の中をよぎった。
ゼロはフッ・・・と、短く笑う。
「いいんだよ。
・・・あいつらの輝きは、俺には眩しすぎる。
でも、あの眩しさは嫌いじゃねぇからな。
それを守るためなら、何だってしてみせる」
"・・・そうか"
「そういうお前こそいいのかよ?
・・・人間、嫌いなんだろ?」
ゼロがそう言うと、タナトスのため息が聞こえてきた。
"あぁ、嫌いだ。
・・・なのに、なんでだろうな・・・
お前を見てたら、それも悪くねぇなって思える・・・
死神であるはずの俺が、嫌いな人間の味方をするなんて・・・
お前の馬鹿さが移ったか?”
「失礼な野郎だな。
・・・まぁいい。
協力するならさっさとしてくれ」
“言われなくてもしてやるよ”
そう言い残して、タナトスの気配が消える。
しかしそれは一瞬で、すぐにタナトスの気配は蘇った。
“言われた通りにしたぞ。
もう、お前を抑えるものは何もない
・・・お前が領域までたどり着けるかどうかだが・・・
まぁ、俺としてはどうでもいいことだがな”
「言ってろ。
方法はあの化け物と殺りあった時に全部思い出してんだ」
そう言って、ゼロは目を閉じた。
「・・・今この時より、我は生を放棄する・・・」
ゼロがそう唱えた途端に、風が止んだ。
「・・・それを対価とし、我は求む・・・・我が眼前に立ちふさがりし愚者共を、等しく葬り去る力を・・・!」
大気が震え、大地が揺らぐ。
・・・竜達は目前に迫っていた。
しかし、ゼロは止まること無く呪を紡ぐ。
「我は奉ず・・・
我が血、我が肉、我が命・・・
我は誓いを結びて、ここに我が身の昇華を成す!!」
目を見開くと、瞳が蛇のように細長く引き絞られ、それと同時に風がゼロを中心に吹き荒れ始めた。
・・・それは、ゼロから漏れた力の波。
その力の波が、物理的な力を持つまでに高められている。
波は地表をめくりあげながら真っ直ぐ竜達に向かって行き、目前に迫った竜達の突進を妨げ、停止させた。
「ぐ・・・ぅぅ・・・」
波の中心でゼロが蠢く。
「ぅうおぁああぁあああぁぁあ-ーー!!」
獣の雄叫びとも、痛みに耐える叫びともとれる声をあげると、ゼロの両目の下に赤い線が刻まれだした。
ミラボレアスを倒した時は一本だったが、今現れた線は2本。・・・それは、力の現れ。
自らの力を示す紋であり、敵を倒すまで倒れないという誓いのタトゥー。
これが刻まれたからには、もう倒れることは許されない。
「まだ、まだぁぁ!」
苦しそうに叫ぶと、鎧の背部がボコリと隆起する。
バコン!と鎧を突き破り、ズルリと姿を現したのは、漆黒の翼。
竜のそれによく似ていて、大の大人が5人分ほどの、大きな翼だった。
バサリと、風を打ち払うように翼をはためかせると、風が止んだ。
・・・その姿は、神々しくもあり、禍々しくもある。
それは、禁じられた誓いの姿、ドラゴノイドの最終戦闘形態。
・・・しかし、この領域にたどり着くものはドラゴノイドの歴史上、ゼロが初めてだった。
何故なら、まず他の者はこのこと知り得なかった。
仮に知ったとしても、変化に対応しきれず肉体が滅んでしまうのだから。
"本当に、この領域にたどり着くとはな・・・"
タナトスの驚きの声が頭に響いた。・・・ゼロは、落ち着いたように軽く息を吐く。
「・・・もっと、狂ってしまうと思ったんだがな・・・」
ゼロがそう言うと
"狂う訳がない"
と、タナトスが答える。
“今までのはただの暴走。
そして今は覚醒、つまり目覚めだ。
そこにお前が狂う道理はない”
「そうか・・・」
呟いて、ゼロはギロリと竜達を睨みつける
・・・竜達は、停止したままだった。
それはまさに、蛇に睨まれた蛙。
今の竜達に、自由はなかった。
「・・・お前らに、この剣の真の姿を見せてやる・・・」
ゼロはそう言って空を仰ぎ見ると、おもむろに剣を投げ上げる。
剣は何もない空間に吸い込まれ、消えた。
それを見たゼロは、片手を前に突き出す。
「・・・生とは、多くの試練に身を置き、それに立ち向かうこと・・・
・・・剣が示すは白き闇・・・
アライブ!」
ゼロが叫ぶと、空が水面のように揺れ、一本の白い剣が姿を現した。
アライブと呼ばれたその白濁色の剣は、ドスンという重い音と共に、ゼロの目の前に突き刺さる。
ゼロは、次いで呪を口ずさむ。
「・・・死とは、虚無に抱かれ、次の生へと霊磨くこと・・・
・・・剣が示すは黒き光・・・
デッド!」
ゼロが叫び、先程と同じように剣が現れ、黒い半透明な剣が地面に突き刺さった。
ゼロは、剣を引き抜くことなく言葉を続ける
「剣よ・・・舞え!」
突き出した手を横に振ると、2本の剣は地面をガリガリ削りながら左右に走りだす。
そして、両手を横に広げると、その手に吸い込まれるように、2本の剣が舞い戻ってきた。
2本の大剣を手にしたゼロは、翼をはためかせ宙に浮かび上がると、剣の走った跡に視線を向ける。
跡は、街を取り囲むように残されていた。
「・・・この線の向こうは、俺にとってのサンクチュアリ(聖域)だ・・・
貴様ら愚者共が、この線を超える事はない・・・俺が許さない・・・」
ゼロがそう言った途端、爆音と共に火球がゼロに襲いかかった。
それは、竜達の中にいたリオレイアから放たれたものだった。
ゼロは面倒くさそうに手を振って、その火球を横へ弾き返す。
「無駄だ・・・貴様らに俺を傷つけることは出来ない。
貴様らが“命”である以上な・・・
・・・俺は、もう既に個ではない。
いうなれば、現象。
俺はお前らにとって、"死"そのものだ」
・・・ゼロの口から放たれた呪に含まれていた言葉。
“我は生を放棄する”
・・・つまりはこういう事だった。
“生”を放棄し、自ら“死”となることで、敵を残らず滅ぼす力を得たのだ。
「俺の前に、力の大小や数は問題じゃない。
俺の前では、強き者、弱き者、全てが等しく死に絶える。
・・・今の俺がこうして存在する以上、貴様らの死は確約されている」
そう言って、空を仰ぎ見る。
・・・空では、綺麗な満月がゼロ達を見下ろしていた。
「綺麗な月だ・・・
大量の命を殺すには、もったいない程に・・・」
一度軽く目を閉じて、竜達に視線を向けた。
「・・・花は、自らが散ると知りつつも、命の限り咲き誇り、生を謳歌する。
だからこそ、美しい・・・
貴様ら命もまた然り・・・」
ゼロの体から、殺気が漏れはじめる。
「・・・この真円を描く月の下で、命尽きるまで足掻き、輝いてみせろ。
・・・そして嘆き、叫び、奏でるがいい・・・」
バサリと、力強く翼を広げ
「・・・貴様ら自身へのレクイエムをなあぁぁ!!」
叫んだ。
大気が割れてしまいそう・・・そんなイメージを持たせる叫び。
その叫びを合図に、ゼロと竜達の両者は同時に動き動きだした。
火球や熱線、水鉄砲などがゼロ目掛けて飛来する。
しかしゼロには当たらない。
全て紙一重でかわしながら、ゼロは直進する。
竜達が目前に迫ると、ゼロはぐるりと体を回転させ、直進の勢いを殺さずに数匹の竜の首を落とした。
そのまま、ゼロは群れのど真ん中に着地する。
ギシァァ!と、フルフルがゼロに噛みつこうとゼロ背後から首をのばしてきた。
ゼロはそれをヒラリとかわし、真横に剣を振りぬく。
その一太刀で、フルフルは顔面の上半分を永久に失った。
しかし、今度は2匹のガブラスが上空からゼロに襲いかかる。
「無駄だ!!」
ゼロは、手にしていた剣を上に投げつけ、その剣はガブラスを死に至らしめた。
次の瞬間には、ゼロは飛び上がっていた。
ほんの一瞬遅れて、地面からディアブロスが飛び出す。
ゼロは、飛び出してきたディアブロスの双角をわし掴みにすると
「ハアァァアア!!」
叫んで、ディアブロスを縦に振る。
そして、その向かいにいたイャンクックの頭部にディアブロスの尾がめり込み、イャンクックは脳漿を撒き散らして絶命した。
打撃に適した尾を持つディアブロスを、その巨大ごと振り回し、周りにいたランポスを一掃する。
「くたばれ!!」
グラビモスを殴りつけたのを最後に、ディアブロスの角は根元から折れてしまった。
ゼロはディアブロスを竜の群れに投げつけ、手を横に広げる。
「戻れ!!」
ゼロが叫ぶと、先程と同じように2本の剣がゼロの下に戻って来た。
ゼロは剣を手にすると、クルクルと回転しながら弧を描くように飛び下がる。
門の前まで下がったゼロは、地面スレスレの所でバサリと翼を広げた。
「ウオォオオオオォ!!」
雄叫びを上げながら地を這うように飛行し、また竜達に向かって行く。
そりて、雄々しく舞うように剣を振り回し、そのたびに命を刈り取っていった。
・・・
・・
・
数時間後、既に竜達の数は3分の1ほどに減少していた。
辺りには血の臭いが充満し、目の前には紅い海が広がっている。
「・・・そろそろ幕引きか・・・」
そう呟くと同時に、水鉄砲がゼロの顔面を直撃した。
一瞬のけぞり、放たれた方向をギラリと睨むと、そこにはガノトトスがいた。
「・・・フン・・・」
つまらなそうな息を吐いて、プフ!と先程口に含んだ水を吹き出す。
それを見たガノトトスも水鉄砲を吐き出すが、意味は無かった。
ゼロの吹き出した水弾はガノトトスの吐き出した水鉄砲を突き破りながら直進し、やがてガノトトスの顔面まで到達する。
「爆ぜろ!」
ゼロが叫ぶと同時に、パァン!!とガノトトスの顔面は砕け散った。
それを見たゼロは
「汚ねぇ野郎だな」
と呟いて、竜達全てが視界に収まる位置まで後退する。
「・・・こんだけ減らせば充分だろ・・・」
言って、剣を持つ手をダラリと下げる。
「・・・悪いな。
後は一気に行かせてもらうぜ」
スゥ・・・と、ゼロはゆっくり目を閉じた。
「・・・誇るがいい。
貴様らは十二分に足掻き、輝いた。
・・・後は、虚無に抱かれて眠れ・・・」
言って、またゆっくりと目を開く。
「・・・究極剣技・・・」スラリと剣を構え、竜達を見据える。
「虚無」
・・・それは、全てに終わりを告げる言葉。
一瞬、ゼロの体がブレて、次の瞬間には竜達をまたいで正反対の位置に力無く立っていた。
「・・・終わった」
ズシン!と、2本の剣を地面に突き刺すのと同時に、ゼロの背後で紅い噴水が噴き上がる。
ブシャァァ!!と、豪快に鳴り響くそれはゼロの背後を紅く染め上げ、それが止むことによってこの殺戮に終止符が打たれたことを告げた。
「・・・へっ・・・
・・・少し、疲れたな・・・」
ゼロは剣に背を預け、その場に座り込む。
そして、目の前にある街を見つめた後、空を仰ぎ見る。
「・・・おいタナトス・・・
お前の嫌いな人間を守りきったぜ・・・
ざまぁみろ」
少し意地悪そうに笑って、ゼロは目を閉じた・・・
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。