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第41話
ここは、街の東門の外。
そこにゼロはいた。
地面に剣を刺し、柄を握って、何かを待ちかまえるように仁王立ちしていた。
時折やわらかな風が吹き抜け、髪を揺らす。
ゼロは1人浮かない顔をして、なにか考えこんでいた。
ーーー恐い
これほどの恐怖はいつ以来だろうか・・・
ミラボレアスと戦ったあの時、自分は全てを知った。
ーーーミラボレアスに吹き飛ばされたあの時、頭の中で不思議な声が聞こえた。
タナトスとは違う声。
その声は、自分に現実を叩きつけた。
そして空を仰ぎ見れば、血のように赤い空。
空はこれから起こることを指し示すように、どこまでも深く、赤い空だった。
もはや笑うことしかできなかった。
・・・自分は、知らないはずの事を、鮮明に思い出した。
それは多分、体に刻み込まれた血の記憶・・・
だからこそ、これから起こること、その果てにある結末・・・
それを考えると、体が震えてきた・・・
ギリッ・・・と、悔しそうに歯を噛む。
「・・・しっかりしろ、俺・・・」
視線を落とし、自分に言い聞かせるように呟くと、もう一度視線を上げて前を見つめた。
日はとっくに沈み、夜が訪れている。
ゼロはひたすら耐えるように、立ち尽くしていた。
そこへ・・・
「ドロォップキィック!」
ズドン!
「※♂♀&☆!?」
体がくの字に折れ、訳の分からない叫びをあげながらゴロゴロと地面を転がる。
「〜・・・っだ、誰だ!?
てか何すんだよ!?」
バッと体を起こし、ゼロが叫ぶ。

「・・・って、お前ら・・・
何でこんな所に・・・?」
ゼロは指を差して驚く。
ゼロの指の差す方向・・・
そこには、アルとミリアとジョンがいた。
おまけに全員フル装備。
ちなみに、ゼロにドロップキックを浴びせたのはジョンである。
「そういうアンタこそ、“こんな所”で何してんのよ?」
ミリアはジト目でゼロを睨む。
「・・・別に、何もしてねぇよ」
「ウソね。
・・・まったく、どれだけ探したと思ってるのよ」
ハァ・・・と、呆れきったようにため息をついた。
「探したって・・・俺をか?
・・・何で?」
「・・・ゼロって、肝心な時に隠し事がヘタクソなんだから」
苦笑混じりにアルがそう口にする。
「お前が考えてる事なんてお見通しってことだよ」
そう言って、ジョンはケラケラ笑う。
「俺は、別に何も・・・」
「隠してないってか?
それがウソだって、みんなもうわかってるんだよ、バーカ」
言って、ジョンはゼロの額にデコピンをくらわす。
ふぅ・・・と息をはいて、ジョンの顔から笑みが消えた。
そして、まっすぐな目でゼロを見つめる。
「・・・で、今から何が起ころうとしてるんだ?」
ジョンのその一言で、場の空気が張り詰めた。
・・・一体ゼロから、どのような言葉がでるのか・・・
それを聞き逃すまいと、3人はゼロに視線を向けた。
・・・ゼロはしばらく黙っていたが、やがて観念したように口を開く。
「・・・わかったよ・・・
話せばいいんだろ、話せば・・・」
一度ガクリとうなだれて、今度は真剣な顔で視線を上げた。
「・・・今からここに、何百・・・いや、何千という数の竜達が襲ってくる」
『!?』
アル達は、目を丸くして驚く。
「な!?
それ、本気でいってるの!?」
「ああ・・・残念ながら本気だ・・・
間違いなく、ここに来る・・・」
『・・・』
沈黙。
ゼロは嘘をついていない。
それが分かるからこそ、言葉が見つからない。
「・・・一体、どうして?」
アルが絞り出したような声をだすと、ゼロは辛そうに視線を落とす。
「・・・俺の、せいなんだ・・・全部、俺が・・・」
軽くため息をついて、空を仰ぎ見る。
「以前、クシャルダオラが来たときの事、覚えてるか?」
ゼロの言葉に、3人は黙って頷く。
「・・・クシャルダオラを倒したあの時、俺は破壊衝動に支配されていた。
アルには、俺の言ってる意味が分かるな?」
ゼロが視線を向けると、アルは一瞬戸惑って、そして弱々しく頷いた。
「・・・そう、俺はあの時発狂し、クシャルダオラを倒した。
・・・けど、話はここで終わらない・・・
その後、アルが捕まって、俺達は救出に向かった。
そして、俺はそこで2度目の発狂をした」
軽く目を閉じて、ゼロは3人に視線を向ける。
「・・・賢者に・・・さっきの馬鹿でかい奴に聞いた話だが、俺は感情が高ぶると力の波ってやつを発するらしい。
意思の弱い竜達は、その波に簡単に呑まれちまうんだとさ・・・
そして、それは二度目の時点で相当危なかった。
・・・キリンが雪山に現れたのは、波の発信源を確認するためだったらしい」
「そうか・・・だからクシャルダオラが倒された後、すぐにキリンが現れたのか・・・」
ジョンは、どこか納得のいった表情でうんうんと頷いた。
「そして、その波に真っ先に感化されたのはミラボレアスだった・・・」
『ミラボレアス?』
3人は同時に首を傾げる。
「ああ、そうか。
お前らは知らなかったんだよな。
ミラボレアスってのは、さっき砦を襲撃したアイツの事だ。
・・・で、感化されたミラボレアスは波の発信源である街に向かってきたんだ」
「そして、お前がそれを倒した」
ジョンが確認するように言うと、ゼロは頷く。
「あぁ、そうだ。
けど、ただで倒せたわけじゃない」
ゼロがそう言うと、3人は息をのむようににゼロを見つめた。
「・・・そう。
3度目の発狂をした・・・
何ならミラボレアスの死体を見てこいよ。
俺が発狂したんだって、バラバラ死体が語ってくれるぜ?」
ーーーまともな人間にあんな真似が出来るわけがない。
ミラボレアスの死に様を思い出しながら、ゼロはそう思った。
「・・・でも・・・!」
沈黙を破って、アルが口を開く。
「でも、本当に竜達が暴走したのかどうか分からないでしょ!?
・・・もしかしたら、まだ大丈夫かもしれないじゃない!」
必死に言葉を吐き出すアルを見て、ゼロは自嘲したような笑みを浮かべる。
「・・・あぁ。
それはいい考えだな。」
「なら・・・!」
「けど、残念ながらそれはない。
わかるんだ、俺には。
・・・ズレっていうか、大きな歪みみたいなのが、ここに向かって来てる」
「・・・っ!」
アルは、悔しそうに口を閉ざした。
それを見たゼロは、先程と同じように剣の柄を握り、遠くを見つめる。
・・・4人を静寂が襲った。
ゼロ以外の3人は俯いて、チラチラと視線を交わす。
そして、同時にため息をついた。
「しょーがないわねぇ・・・
まさかここまで重い話だとは思わなかったわ・・・」
「そうだな。
まさに予想外」
「・・・でも、最後まで一緒にいるからね」
それぞれ自分の気持ちを口にして、ゼロの横に並んだ。
「まさか、ここで帰れなんて言わないよね?」
アルは、ニコニコしながらゼロの顔を覗き込む。
「あぁ、言わねぇ」
そう言い放ったゼロを見て、ミリアは目を丸くした。
「ちょっと、今回はやけに素直じゃない。
・・・拾い食いでもした?」
「まさか、お前じゃあるまいし」
「私はそんなはしたない真似しないわよ!!」
「へぇ。
人は見かけによらないんだな」
「・・・殺す・・・」
ゼロとミリアのやりとりを見て、アルはクスクス笑い出した。
「アルちゃん・・・?
なにがそんなにおかしいのかしらぁ・・・?」
フラフラと、ゾンビのようにアルに詰め寄る。
「あ、いや!
な、なんでもないですよ・・・?」
「じゃあ何で笑ってたの・・・?
私は拾い食いするように見えるかしら・・・?」
「そ、そんなんじゃなくてぇ・・・」
「問答無用よ!覚悟!」
叫んで、アルに飛びかかった。
「うわわわ」
そのまま倒れこんで、ミリアが馬乗りになる形になる。
「笑ったのはこの口か!
くぬ、くぬ」
ミリアはアルの頬を引っ張り、こねくり回した。
「いひゃいれふ〜。(いたいです〜)
ごえんなは〜い。(ごめんなさ〜い)」
ドタバタとじゃれあうアル達を、ゼロはキョトンと見つめる。
「・・・ぷっ!」
いきなり、ゼロが吹き出す。
「はっ・・・あはははは!!」
ついには、腹を抱えて笑い出した。
今度はゼロ以外の3人がゼロを見つめる番になる。
「お前・・・大丈夫か?」
ジョンがそう言うと、ゼロは無理やりに笑いをこらえて顔をあげた。
「だ、大丈夫だ。
た、ただな・・・くくっ」
『ただ?』
3人は同時に首を傾げる。
「ただ可笑しくなっただけだ・・・
・・・ちょ、ちょっと待て・・・」
そう言って3人に背を向けると、ゼロはまた笑い出す。
・・・しばらくして、落ち着きを取り戻したゼロがゆっくり振り向いた。
よほどおかしかったのか、その目には笑いすぎでうっすら涙すら浮かんでいる。
「あ〜、おかしかった・・・」
ふぅ・・・と、軽く息をはいて、空を仰ぎ見る
「・・・なんかさ。
お前ら見てたら、いろんなこと考えてた自分が馬鹿らしく思えてきた・・・
・・・そうだよな・・・何も迷う事はない・・・」
「なにに迷ってたのよ?」
「あぁ、いやいや。
こっちの話だ・・・」
ゼロはどこか納得のいったような表情をする。
・・・が
「・・・けど、何よりもおかしかったのは、お前らの緊張感の無さだな」
そう言って、ゼロはまた笑い出した。
「こ、これから大変な事が起こるっていうのに、い、いきなりドタバタし始めやがってよ・・・くくっ・・・
・・・ほんっと馬鹿だな」
「馬鹿って何よ!?
馬鹿はアンタの方でしょ!」
「あぁ・・・そうかもしれねぇな・・・」
ははは・・・と、ゼロは笑った。
・・・少し控えめな、けど、ぎこちなさはない、本当の笑み。
それを見たミリアは、呆れたようにため息をつく。
「・・・まぁいいわ。
・・・で、ゼロ?」
「なんだ?」
「これから大量の竜達が襲ってくるんでしょ?
作戦はあるんでしょうね?」
そう尋ねるミリアの目の前に、ゼロはVサインを突き出した。
「我に秘策あり!」
笑いながらそう言うと、ゼロはジョンに視線を向ける。
「ジョンとミリアはここに並べ」
『は?』
ジョンとミリアは同時に首を傾げる。
「立ち位置が関係するのか?」
「あぁ、するする。
むしろ重要だぜ?
いいから早くしろよ」
ゼロに急かされ、ジョンとミリアは横に並び、その後ろにゼロは回り込む。
「・・・おい。
一体何・・・」
トス!トス!
「・・・を・・・?」
軽い音が2回聞こえて、同時にジョン達の視界が揺らぐ。
「お前・・・何・・・しやが・・・」
ジョンが言葉を言い終わる前に2人の意識は途絶え、地面に倒れ込んだ。
・・・ゼロは、2人の首の辺りに手刀を叩き込み、気絶させてしまった。
「・・・悪いな。
もともと、お前らを戦わせる気はねぇんだよ」
ゼロは、倒れた2人を見下ろしてそう言うと、今度はアルに視線を向けた。
その拍子に、アルの体がビクリと硬直する。
「ちょ・・・ゼロ、何を・・・?」
何が起きたのか理解出来ずに戸惑うアルに、ゼロはゆっくりと近づき始めた。
アルは、見えない何かに押されるように後ずさるが、やがて街を囲んでいる外壁に突き当たり、後がなくなる。
そして、ゼロが目前に迫った。
・・・ゼロは、しばらく黙ったままアルを見つめていた。
「・・・ゼロ・・・?」
不思議に思ったアルは、ゼロの顔を覗き込む。
「・・・お前も、こんな気持ちだったか・・・?」
「え?」
突然尋ねられ、何のことか分からずにアルは首を傾げる。
「・・・あの夜、あの森で俺を追い詰めた時、こんな気持ちだったのか・・・?」
ハッと、アルは目を見開いた。
そして、もう一度ゼロの顔を見つめ
「・・・うん・・・
多分、同じ気持ち・・・」
そう答えた。
言わずとも、ゼロの気持ちが手に取るように分かる。
あの時の自分と同じ。
表情は変わらないのに、凄くつらそうに見えたから。
「・・・そうか・・・」
ゼロは短くため息をついて、アルの肩に片手をのせる。
「・・・俺、いつかの返事をまだしてなかったな・・・」
「返事・・・?」
アルが聞き返すと、ゼロは肩にのせた手をアルの頬へとすべらせた。
「・・・こんな時に言うなんて、凄く自分勝手なのは分かってる・・・
でも、どうしても言っておきたい・・・」
一度視線を落とし、やがて決心したかのように視線を上げる。
「・・・前に、俺の事が好きだって言ってくれたよな・・・
・・・俺も・・・お前が好きだ。」
突然の告白。
「小難しいことは言えないから凄くありきたりだけど・・・
世界中の誰よりも、お前を愛してる」
ゼロは、上手く言葉に出来ない分、言葉にありったけの気持ちを込めた。
「え・・・ちょ・・・
い、いきなり言われても・・・」
アルは、顔を真っ赤にして俯く。
ゼロはそれを見て、クスクスと笑った。
「わ、笑わなくたっていいでしょ!?」
アルは、ふてくされたように頬を膨らます。
「はは・・・悪い。
お前に言いたいことはそれだけだ。
・・・あとは、お前からリリスに謝っといてくれ。
“嘘ついてゴメン”ってな・・・」
「え・・・?
それって・・・」
トス・・・
「・・・あ・・・」
ジョン達と同じく、軽い音と共にアルの視界が揺らぐ。
そのまま、ゼロにもたれかかるように気絶した。
「・・・あとは頼んだぜ・・・」
そう呟いて、ゼロはアルの体を担ぎ、ジョン達の所に戻る。
そして、ジョンとミリアの体も抱えて、門に向かった。
・・・ゴゴゴゴと、重い音をたてながら鋼鉄の分厚い門をこじ開け、街の領域内にアル達の体を寝かせる。
「じゃあ、元気でな」
届かないと分かりながら、ゼロは別れの言葉を残す。
そして扉は、まるで明暗を分けるように閉ざされたのだった・・・


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