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第36話
目を開こうとすると、光が飛び込んできた。
眩しくて、目を細める。
やがて光になれ、目を開くと、ラオとキリンがこちらを見つめていた。
“・・・”
何も言わずに、ただ心配そうにゼロを見つめる。
ゼロなのか、
タナトスなのか、
判断しかねているようだった。
「あ〜・・・俺だ、ゼロだ」
ゼロがそう言うと、
キリンとラオは驚いたように顔を見合わせた。
“・・・まさかこれほどとはな・・・タナトスを倒しよった・・・
ふ・・・ふははは”
ラオは、愉快そうに笑う。
「何がそんなに面白いんだよ?」
頭に疑問符を浮かべるゼロに
“・・・それで、タナトスはどうした?”
と、キリンが問いかける。
「どうもしてない。
・・・まだ、俺の中にいるぜ?」
“何!?
タナトスを消さなかったのか!?”
“ふはははは”
驚くキリンをよそに、ラオは声高らかに笑う。
“面白い・・・実に面白いぞ、ゼロよ!
・・・して、何故に消さなかったのだ?”
「・・・やっぱりタナトスは、憎しみだけで俺に意識を植え付けた訳じゃないみたいだからな。
確かに、憎しみもあるだろうけど・・・それは、まぁ仕方ないことだ」
“ならば、またお主の肉体を奪おうとしたらどうする?”
「させねぇよ。
俺の体は俺の物だ・・・
今までも、これからも」
ゼロの表情に、決意の色が浮かぶ。
それを見たラオは、再び笑い出した。
「お〜い、笑いすぎだぞ〜。
こっちにゃまだ聞きたい事があんだぞ〜?」
“おぉ、すまぬな・・・
で、他に何を知りたいのだ?”
ラオは笑うのを止め、ゼロを見つめる。
「・・・俺が、本当はタナトスって名前で、人間じゃねぇってのは認めるよ・・・
でもよ、そしたら俺が今ここにいる事に説明がつかねぇだろ?
・・・500年前、一体なにがあったんだ?」
そう尋ねると、ラオの表情が真剣になる。
“・・・剣の記憶には触れなかったのか?”
「いや、触れてはみたけど・・・
あれじゃあ何もわかんねぇよ。
それに、言葉が抜け落ちたみたいな所もあったしよ」
ラオは、不思議そうに剣を見つめた。
・・・しばらく考えている様子だったが、何か思いつたように顔を上げる。
“ゼロよ・・・
剣を頭上に掲げよ”
「あ?なんで?」
“なんでもだ。早くしろ”
「?」
訳もわからず、言われた通りに剣を掲げる。
すると、ラオは首を伸ばして、剣に軽く鼻を押し当てた。
“・・・”
何も言わずにに目を閉じて、動かなくなる。
・・・と、思いきや、
ラオはすぐに目をあけて、首をもとに戻した。
“ふむ・・・なる程の・・・”
1人納得し、満足げな顔をする。
「お〜い。
俺はいつまでこうしてりゃいいんだぁ?」
“おぉ、手間をかけたな。
もうよいぞ”
「で、結局なんだったんだ?」
剣をしまいつつ、ゼロが尋ねる。
“その剣の記憶は、随分と薄れているようだな・・・
記憶とは、時と共に薄れ行くもの。剣とて、例外ではない”
ラオは軽く目を閉じて、遠い昔を思い出すように黙り込んだ。
やがて、ゆっくりと目を開く。
“・・・500年前に何があったのか・・・それが知りたいのだな?”
ゼロが黙って頷くと、ラオは語り始める。
“・・・500年前、ドラゴノイドが滅んだのは、竜の暴走によるもの・・・
・・・そのきっかけとなったのは・・・”
言いかけて、とても言いづらそうな様子でゼロを見つめる。
それに気付いたゼロは
「今さら何を聞いても疑わねぇから、言えよ」
言って、軽くため息をついた。
“そうか・・・
竜の暴走の間接的なきっかけとなったのは、お主がこの世に生まれたことだ・・・
お主が生まれる際、お主から発せられた力の波が・・・”
「ちょい待て」
ラオの言葉を遮るように、片手をあげるゼロ。
“どうした?”
「それも聞こうと思ってたんだが・・・力の波って何だ?」
そう言い放ったゼロを見て、ラオはキョトンとする。
“・・・知らぬのか?”
「悪かったな、知らなくて」
“まぁよい・・・
力の波とは、ドラゴノイドが持つ特殊な攻撃意識のことだ。
お主は、ワシらの意志を受け取ることができる。
それと同じで、もともとは送りつけることもできたのだ。
・・・しかし、その能力は徐々に退化し、感情が高ぶった時のみ、強制的にその攻撃意識を送りつけるものとなった。
・・・理解したか?”
ゼロは、腕をくんで首を傾げる。
「・・・ん〜。何となく分かった。
で、その力の波がどうしたんだ?」
“人の赤子は、この世に生まれるとき、純粋な防衛本能を持つ。
ドラゴノイドも、それは同じだ。
・・・しかし、お主は違った。
お主は防衛本能と共に、巨大な攻撃意識を持ち合わせて生まれてきたのだ。
---死にたくなければ戦うしかない---
・・・恐らく、お主は生まれる以前よりこのことを知っていたのだろうな・・・”
「・・・」
ゼロは黙って耳をかたむける。
“力の波とは、脆弱な意志を呑み込む・・・
ワシらのように強固たる意志を持ち合わせない竜は、その巨大な意志に逆らえずに暴走してしまう”
「・・・それで俺が生まれた後、集落に竜が押しかけた訳か・・・」
“いや、そうではない”
ラオはあっさり否定する。
“言ったであろう?
お主は間接的なキッカケだと。
・・・お主の発した力の波を受けた別の者が、更に強い力の波を発して、竜達を暴走させたのだ・・・”
--別の者--
ゼロは、剣の記憶を思い返す。
あのとき、会話の中に抜け落ちた部分があった。
けれど周りの者は、確実にその名を叫んでいた。
まさかと思い顔をあげると、ラオが頷く。
“そう・・・
その空白に埋まる者だ・・・
その名は、ミラボレアス・・・”
「・・・ミラボレアス・・・?」
全く聞き覚えのない単語を耳にして、ゼロは顔をしかめる。
“その様子だと、知らぬようだな”
ゼロは、ウンウンと頷いた。
“・・・ミラボレアスとは、ドラゴノイドと祖を同じとするもの。
だが、進化の段階において、捨てるものが違ったのだ”
「捨てるもの?」
ラオは黙って頷き
“ドラゴノイドは力を求め、竜の姿をすてた。
だが、ミラボレアスは竜の姿を捨てなかった”
「じゃあ、なにを捨てたんだ?」
“・・・意識だ”
「意識?・・・どういう事だよ?」
“・・・やつには知識や自我といった概念すら存在しない。
あるのは本能、それだけだ・・・
故に、お主の力の波に簡単に呑まれた。
逆らうことなどできず、ただ流されるように身をゆだね、巨大な殺意と共に動きだした”
「その時、ミラボレアスの発した力の波に感化されて、竜達も動きだしたって訳か・・・」
“その通りだ・・・
そして、今お主がここに存在する理由・・・
それは、時制止術によるものだな”
またも聞き慣れない単語にゼロは頭を抱える。
「何だよ、その・・・
じせいしじゅつってのは?」
“聞いての通り、時を制止する・・・つまり、時を止める術だ。
時という概念をより深く理解すれば、さほど難しいものではない。
お主の母はお主の時を止め、今の時代に至るまで封印したのだろう。
それを人間の研究者が発見し、連れ帰った”
ラオの説明を聞いて、ゼロの頭に疑問が浮かぶ。
「時を止めたって言っても・・・塔は竜に襲われたんだぜ?
俺の安全で居られる訳がないじゃねぇか」
言い放ったゼロを見て、隣で話を聞いていたキリンが小さく笑った。
「なんだよ?」
ムッとした様子でキリンを睨むゼロ。
“いや・・・汝は母には似ず、時に関する概念に乏しいようだな・・・
とことん父親似だ・・・”
「知るかっつの・・・」
“まぁ聞け、ゼロよ・・・”
ラオに呼ばれ、視線をラオに戻す。
“時を止めるということは、対象となるものをあらゆる干渉から遮断するということだ。
・・・つまり、外部からいかに危害を加えられようとも意味をなさないのだ。
人間の研究者がお主を連れ帰ることが出来たのは、術の効果が切れたから・・・
理解したか?"
「ま、大体な」
"そうか・・・
それはよかっ・・・!?"
言葉を全て発する前に、ラオは急にその長い首を高く持ち上げた。
どこか遠くを、真剣な表情で眺める。
「お〜い!!
どうしたんだ〜!?」
ラオに聞こえるよう、大声で叫ぶ。
ラオは、視線をそらさず
"・・・奴が・・・動き出した・・・!"
と答えた。
「奴って・・・ミラボレアスか!?」ラオは黙って頷く。
「どこだ!どこに向かってる!?」
“汝らの住処すみかだ”
ラオの代わりにキリンが答えた。
そのことに、ラオは目を丸くして驚く。
「街に向かってんのか!?
くそ!ジョン!」
ジョンに視線を向けると、ジョンは岩山に背を預け、寝息をたてていた。
することがないので寝てしまったようだ。
「今すぐ起きろこのボケが!!」
ゲシッ!
「ぐわぁ!?」
ゼロはジョンに跳び蹴りをかます。
「・・・っ!」
ジョンはガバッと身を起こし、ゼロを睨みつける。
「なにしやがんだ!?」
「うるせぇ!
今すぐ街に戻るぞ!走れ!」
そう言って、ゼロは走り出した。
「は!?いや、ちょっと待て!!
説明しろコラ!!」
文句を漏らしつつ、ジョンは慌ててゼロの後を追う。
あーだこーだ叫びながら、ゼロとジョンは走り去った。
ラオは上げていた首を下ろし、キリンに目を向ける。
“代行者よ・・・
神に仕えるお主が、あのような発言・・・
明らかに過干渉だぞ?”
ラオが尋ねるが、キリンはゼロ達の後ろ姿から視線をそらさない
“・・・賢者よ・・・
我々も老いたな・・・
古竜たる我々が、人の身を案ずるなどと・・・”
そう言って、自虐的に小さく笑った。
それにつられるよう、ラオも笑う。
“・・・確かにな・・・
・・・なぁ、代行者よ・・・”
“何だ?”
“ゼロは・・・昔、神によって語られた英雄の詩に出てくる英雄に似ているとは思わんか?”
“・・・確かに・・・”
キリンは少し顔をふせる。
そして、少しずつ思い出すように、詩を読み始めた
“・・・その男は、時の迷い子・・・手には、一本の剣。
遠くで、子の泣く声。
聞けば子は、土に埋もれた親を救い出したいと泣く。
男は剣で土を掘り起こして親を救い出し、剣は折れてしまう。
さらに遠くで、子の泣く声。
子は、竜に襲われ助けを請う。
男は迷うことなく、素手で竜に立ち向かう。
拳が潰れ、どれほど血をながそうと気にも止めずに・・・
さらに遠くで、子の泣き声・・・”
キリンがそこまで口にした所で、続きをラオが読み始める。
“・・・幾度も幾度も人を救い、ついに男は力尽きる。
自分を助ける者などいない。
孤独の死の淵に立たされた男は、最後に神に問う。
自分は一体、何を得たのか?と・・・”
2人を沈黙が襲う。"・・・代行者よ・・・
このままゼロが英雄の詩をなぞるように生きれば・・・"
"あぁ・・・間違いなくゼロは死ぬだろうな・・・
恐らくこの詩は、英雄などではなく、神がゼロに当てはめた詩。
こうなることを、既に予知していたのだろう・・・"
そう言って、キリンは歩きだす。
"どこへ行く?"
ラオが尋ねる。
"さてな・・・我も、こんな感情は初めてだ・・・
何をしでかすのか、我自信にも検討がつかぬ・・・”
“そうか・・・
・・・1つワシの頼みを聞いてはくれぬか?”
“よかろう・・・
して、頼みとは?”
キリンは振り返って尋ねる。
・・・キリンは、ラオの放った一言に、黙って頷いた・・・


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