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第35話
気が付けば、意識はもとの世界に戻ってきていた。
“戻ったようだな・・・”
「・・・」
ラオが声をかけるが、ゼロは黙っている。
“どうした?”
キリンが尋ねると、ゼロはようやく口を開いた。
「もう一度聞くけど・・・タナトスってのは・・・俺なのか?」
キリンは、軽く首を傾げた。
“?・・・確かに、汝の本当の名はタナトスだが?”
「そうじゃなくて・・・」
ゼロは頭をポリポリかく。
「その・・・死を司ってる方のタナトスだよ」
“・・・何故、そう思うのだ・・・?”
突然、キリンとラオは険しい目をするが、ゼロは無視する。
「・・・お前が見せた記憶の中に、俺がいた・・・そこで、そいつは命に死を与えてたんだ・・・」
ゼロがそう言うと、キリンとラオは同時に目を見開き、顔を見合わせる。
“・・・確定、だな・・・”
ラオが言って、キリンは無言で頷いた。
「なにが確定なんだ・・・?」
ゼロが聞くと、キリンは少し考えて
“以前・・・我らの意思疎通の仕組みを教えたはずだが・・・覚えているか?”
「あぁ・・・確か、お前らの意思を俺の脳が理解できるように読み取ってるってやつだろ?・・・それがどうした?」
“そこが問題なのだ・・・先程、我が見せた映像の仕組みは、我らの意思疎通のそれとなんら変わらない・・・”
「だから、なんだよ?」
“・・・まだ、分からんか?”
そう言って、キリンは目をふせる。
“・・・先に見せた映像の中の汝・・・それは間違いなくタナトスだ・・・だが、それが汝と同じ姿だった・・・それは、タナトスは汝自身だと汝の脳が理解した、という事に他ならない・・・”
「・・・じゃあ、やっぱり俺はタナトスだってことか?」
“そうであって、そうでないのだ・・・”
と、ラオ
“・・・命は、お主が生まれてなお、死を迎え続けている・・・お前がタナトスであるならば、今ワシらとこうしている時間すらないだろう・・・”
「つまり・・・タナトスはいまだに死を与えてるってか?」
キリンとラオは黙って頷く。
「じゃあ俺は何なんだよ?」
ゼロがそう聞くと、ラオは少しためらいがちに語る。
“・・・お主には・・・タナトスの意識のみが植え込まれている”
「タナトスの・・・意識?」
とりあえず復唱するが、さっぱり訳がわからない・・・
そんなゼロをみて、ラオが語り始める
“・・・タナトスは、あの子供に出会い、そして捨てられた・・・しかし、それでもタナトスは人に対する興味を失わなかった・・・興味は憧れとなり、嫉妬となり、やがて憎悪へと形を変えた・・・そしていつしか、タナトスは世界の全てを憎むようになった・・・しかし、やつが神である以上、世界への過干渉は許されない・・・”
「・・・」
“やつは、その剣に物理的な力を与え、その意識を2つに分けた。・・・神とは肉体をもたぬ意識体、精神体だ・・・義務的に死を与える、という意識を切り離し、その他の意識を全てお主に植え付けた・・・半信半疑であったが、お主がタナトスを自分自身と理解したのならば、もう疑う余地はない・・・すなわち、タナトスは人間に復讐するすべを手に入れたのだ"
・・・これが、ラオの態度が曖昧な理由だった。
タナトスは、世界から居なくなった訳ではない。
けれどもう一人のタナトスは確実にゼロの中にいる。
・・・ここで、ゼロの頭に1つの疑問が浮かび上がった。
「じゃあ、俺の力が異常なのもタナトスのせいなのか?」
ゼロが尋ねると、ラオは首を横に振る
"それは違う・・・お主の能力は、あくまでお主の生まれ持った能力・・・むしろ、タナトスはその能力に惹かれてお主をえらんだ・・・タナトスの意識を内包できる肉体、精神力を併せ持つ者など、この星が始まってからこれまでで、お主だけだろう・・・しかし、お主は能力を出しきってはおらん・・・恐らく、お主の優しさと、タナトスの存在がそれを妨げるのだろう・・・”
「じゃあこの剣は・・・?」
“その剣には、意思がある・・・自ら持ち主を選び、持つ者の意思に呼応して、能力を変える・・・お主が生まれる前、ドラゴノイドの中でも屈指の戦士になら、持ち上げる程度の事はできた・・・しかし、お主が生まれてからは、近付くことすらできなくなった”
その話を聞いていたのかいなかったのか、ゼロは何か複雑な表情をしていた。
“どうした?”
見かねて、キリンが語りかける。
「いや・・・タナトスは、本当に人間を憎んで俺に意識を植え付けたのか?って、疑問に思ってな・・・」
“・・・他に理由があると?”
キリンが尋ねると、ゼロは頭を抱え
「それがよくわからねんだ・・・ただ、憎いだけでこんなことをするようなやつじゃないと思うんだよな・・・」
“ならば・・・確かめるか?”
その言葉を聞いて、ゼロは顔をあげる。
「できるのか!?」
“出来なくは無いが・・・下手をすれば戻ってこれぬぞ?・・・それでもいいのか・・・?”
「戻ってこれない?」
“・・・先も言った通り、タナトスは確実に人間を憎んでいる。タナトスと出会えば、戦闘になるのはまず間違いないだろう・・・もし負けてしまえば、お前の意識は消え、その肉体はタナトスの物となる・・・”
そう言われて、ゼロは少し考える
「・・・よく分からねぇが・・・ま、なんとかなんだろ」
そう言うと、キリンは小さく笑った。
“無鉄砲な奴だ・・・だが、そういうのは嫌いではない・・・よかろう、目を閉じろ”
軽く頷いて、言われた通り目を閉じた。
・・・途端、奇妙な感覚がゼロを襲った。
引っ張られるようで、押されているよう・・・
吸い込まれているようで、吐き出されているような、奇妙な感覚・・・
・・・
・・

目を開けたら、古の塔の頂上にいた。
ただ、何故かそこは違う場所に思えた。
・・・音が・・・そして風がない。
それどころか、鳥のさえずりも聞こえない。
不思議に思い、空を見上げる。
・・・空は、雲一つない快晴だった。
けれど、いつもなら心地よいはずの快晴は、今はとても不気味に思えた。
・・・まるで、世界には自分しかいないようだった。
・・・視線を戻すと、やや離れた位置に、いつの間にか自分が立っていた。
・・・でもこいつは自分じゃない・・・
「・・・よぅ・・・」
軽く声をかける
---こいつは---
「・・・タナトス」
・・・タナトスは、ニヤリと笑って
「・・・何しに来やがった?」
「お前に会いにきたんだよ」
そう言うと、タナトスはクスクス笑う。
「俺に体を譲る気にでもなったか?」
「それはゴメンだな・・・っつーかお前、随分口が悪ぃんだな」
「お前のが移ったんだよ」
ふぅ・・・と、タナトスは軽くため息をついて
「で?体を譲らねぇなら何しに来たんだよ?」
「お前が俺に意識を宿した理由を聞きてぇんだよ」
タナトスは苦笑したまま口を開く
「代行者やら賢者から聞かなかったか?・・・ただ世界が憎いからだ・・・だからお前の体を頂いて復讐してやるんだよ・・・お前は甘すぎる・・・せっかくの能力をいかしきれてない。せっかく俺が内側から囁いてやったのに、お前は抵抗するばかりだ・・・」
「・・・本当にそれだけか?」
ゼロの目に殺気がこもる。
けれど、タナトスはひるまずに
「あぁ・・・だったらどうする?」
楽しそうに、邪悪な笑みを浮かべる。
「もし本当にそうなら・・・俺が、この場で消してやる・・・!」
「はっ!・・・おもしれぇ」
短く笑って、タナトスは片手を上に掲げる。
すると、何もない空間から、生と死を司る剣が出現し、地面にささる。
「・・・この剣なら、意識体である俺を殺す事ができるぜ・・・だが、剣は1つ。そして、コイツは持ち主を選ぶ。しかし、今主人は2人いて、コイツは迷ってる。・・・つまり、コイツに選ばれた方が・・・」
「生き残る・・・って訳だな?」
「その通りだ・・・」
ゼロとタナトスは、同時に身を低く構える。
「お前が相手なら・・・俺は手加減なんて出来ねぇからな・・・」
ゼロがそう言うと
「それは俺も同じだぜ・・・」
と、タナトスも緊張の混じった笑みを浮かべた。
『・・・行くぜぇ!!』
叫んで、剣に向かって同時に走り出す。
・・・速さは全くの互角。
しかし、剣はややタナトスに近い位置にあり、一瞬早くタナトスが剣を握る。
「おらよっ!」
ヒュッ・・・と、タナトスは剣を横に振る。
それをゼロはバック転でよけた。
「まだだ!!」
体制を立て直した所に、間髪入れず二撃目がとんでくる。
ゼロは真上から襲い来る刃を紙一重でかわすと、タナトスの腕を掴み
「うぉらぁ!」
思いっきり上に投げ上げた。
タナトスの体はグングンと高度を上げる。
そのまま、タナトスは下を見るが、そこにゼロの姿はなかった。
「あいつ、どこに・・・!?」
キョロキョロと首を振る
「こっちだ!」
頭上から声がしたと思うと、衝撃がタナトスを襲った。
「くらいやがれ!」
ゼロは、タナトスの体を蹴り落とす。
その衝撃で、タナトスの手から剣が離れた。
バコンッ!と、派手な音とホコリを巻き上げて、地面に衝突する。
「チィ・・・!」
タナトスは慌てて上を見上げる。
そして、ゼロが剣を構えて落下してくるのが見えた。
それを、横に転がり回避する。
顔の真横に剣が突き刺さり、軽く頬を切られたが気にせず立ち上がる。
「そこだぁ!」
立ち上がった所に、ゼロは剣を突き出す。
・・・が、剣はむなしく宙を貫く。
ゼロの一撃をかわしたタナトスは、ゼロの頭を鷲掴みにし、地面に叩きつけた。
「ぐが・・・あ・・・!」
何度も何度も叩きつけ、最終的には後ろに投げ捨てた。
2人の間に距離ができ、その中央にゼロの手をはなれた剣は刺さった。
『・・・ッ!!』
2人は、剣に向かって駆け出す。
『ぅおおあぁぁぁぁ!!』
一瞬・・・
まさに一瞬の世界
相手より一瞬でも早く剣を握ろうと、必死に駆ける。
・・・しかし、ゼロは僅かに出遅れた。
一秒に満たないほどだったが、致命的だ。
タナトスは剣に手をのばす。
---取った---
タナトスの頭に勝利がよぎった。
・・・その時である。
ピシャァ!
「な!?」
タナトスは目を丸くして驚く。
・・・あろうことか、タナトスは剣に弾かれてしまったのである。
そのまま後ろに吹き飛び、二転三転してようやく止まる。
「くそが・・・!」
立ち上がろうと腕に力を込める。
そこに・・・
「俺の勝ちだ!」
タナトスの喉元に剣を当てて、ゼロが勝利を告げる。
・・・そう、ここで試合・・・いや、死合終了である。
剣は、タナトスではなくゼロを選んだ。
「・・・」
ゼロは、何も言わずに、タナトスを見下ろす。
「・・・お前の勝ちだ・・・殺せ・・・」
小さく呟いて、目を閉じる。
「・・・」
ゼロは、しばらく動かずに停止していた。
「どうした?はやくしろよ・・・」
「・・・」
・・・ゼロは、大きく振りかぶり、ためらいなく振り下ろした。
・・・ギィィン・・・と、硬質な音をたて、剣は地面に突き刺さった。
・・・目の前には、驚きと苛立ちを含んだ2つの瞳がゼロを見つめていた。
・・・ゼロは、タナトスにトドメをささなかった。
「・・・テメェ・・・なんで殺さねぇんだよ!?」
タナトスは、苛んだ声で叫ぶ。
「情けでもかけたつもりか!?そんなのいらねぇんだよ!さっさと殺せ!」
「・・・俺は最初に言ったよな・・・お前が、憎しみだけで俺に意識を宿したのなら消すと・・・」
「だから、その通りだって言ってるじゃねぇか!」
「違う・・・お前が剣に弾かれたのを見て、違うと思った。・・・お前は、剣と同じで何かに迷っている、だから、剣に弾かれた・・・そうだろ?」
「そんなこと・・・!」
口では否定するが、タナトスは顔を背け、態度で肯定してしまう。
「・・・お前が俺に意識を宿した理由・・・お前は、人を憎むと同時に、信じてたんだろ?・・・俺に最後の希望を託し、人を信じていたかっただけなんだろ?・・・お前と戦ってる内に、なんとなく分かっちまった・・・」
・・・確かに、その通りだった。
最後に、もう一度だけチャンスがあるならば、自分は人を信じたかった・・・
「・・・だったら何だってんだよ!?」
・・・見事に見透かされて、なんだかバツが悪い・・・
そんなタナトスが叫ぶと、ゼロは優しく微笑む。
「別に・・・ただ、お前を消す理由が無くなっただけだ。・・・そうゆうことなら、俺の体に居させてやる」
そう言って、手を差し伸べる。
「今からダチだ」
“お友達になってよ”
「・・・」
・・・こいつの姿が、あの子供とかぶる。
だからこそ、コワい。
また捨てられそうな気がしてならない。
「・・・誰がお前なんかと!」
バシッと、ゼロの手をはねのけた。
「・・・つれねぇなぁ・・・」
ゼロは弾かれた手をさすりながら
「・・・まぁ、ゆっくりでいいぜ。・・・そのトラウマを克服したら、呼んでくれ」
そう言って、ゼロは手を引っ込めた。
そして、今度は申し訳なさそうに
「なぁ・・・戻るにはどうしたらいいんだ?教えてくれ」
タナトスは、少し照れた様子で顔をふせる。
「・・・目を閉じて、お前が元いた場所をイメージしろ・・・そんだけだ・・・」
「そうか。ありがとよ・・・じゃ、またな」
またな、か・・・また、こいつと会う日があるのだろうか・・・
その時自分は、どうするのだろうか・・・
そんなことを考えながら、消えていくゼロを見送った・・・


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