今回は外伝です。ゼロとジョンの幼い頃の話、楽しんで頂けたら幸いです。
第31話〜外伝〜
ゼロと別行動をとり始めて、そろそろ30分が経った。
獲物が見つからない。
「・・・本当に何もいないな・・・」
ガックリと、ジョンは肩を落とす。
ガサッ・・・
「ん?今の音・・・」
ジョンは岩の陰に身を隠す。
そして、音の方へ視線を向けた。
「・・・やっと見つけたぜ・・・」
ジョンは弓を引き絞る。
その矢の先。
そこには一匹のケルビがいた。
少し大きめのケルビが、食べ物を探しながら辺りをキョロキョロと警戒している。
「お前に恨みはない・・・許せよ・・・!」
言葉と同時に、引き絞られた矢を解き放った。
ヒュゥ!と、風を切る音がなる。
ケルビは、その音に気付いて逃げようとしたが、すでに手遅れ。
身を翻す間もなく、首に矢が突き刺さった。
鳴き声もあげず、トサリと、軽い音と共に倒れる。
「よし・・・」
ケルビが倒れるのを確認したジョンは、岩陰から身を乗り出す。
そして、足を掴んで持ち上げた。
「・・・2人分はあるかな?」
ケルビの大きさを確認したジョンは指をくわえ、ピィィィ!と、指笛をならす。
「・・・これでゼロも気付いただろ・・・俺も戻るとするか・・・」
言って、ジョンはゼロと別れた所まで戻って行った。
ーーーーー
戻って来ると、そこに人影はなかった。
ゼロはまだ戻っていない。
「何やってんだ?・・・まぁ、待つか・・・」
ふぅ・・・と、ため息をついて、体の力を抜く。
程なく、ゼロがテクテク歩いてきた。
・・・手ぶらで。
「よう、お疲れさん」
ゼロが声をかける。
ジョンは、少し首を傾げて
「お疲れ・・・って、お前、獲物は捕れなかったのか?珍しいな」
まさかコイツ・・・
そう思いながら尋ねると、ゼロは気まずそうに目をそらし、ポリポリと頭をかく。
「あ〜、いや・・・一応見つけたんだけどな・・・子連れだったから逃がした・・・」
あぁ、予想通りだ・・・
昔から変わってないな、コイツは・・・
そう思ったら、少し笑えた。
「まぁ、大体そんなとこだろうと思った・・・お前、ハンターやってるくせに大甘な所があるからな・・・」
「だってかわいそうだろ?・・・問題起こしてるならまだしも、ただ生活してるだけなんだからよ・・・」
「あぁ、そうだな」
・・・真剣に言うゼロを見て、余計におかしくなってくる。
「何がおかしいんだよ?」
少し拗ねた様子でゼロが聞く。
「いやいや・・・気にするな・・・」
これで野草とか出してきたら爆笑ものだな・・・
そう思いながら、ジョンはゼロに晩飯を作るよう促す。
すると
「あ、そうそう」
おい・・・まさか・・・
「そこら辺に生えてた野草だ・・・獲物無しじゃ悪いから、適当に食えるやつ採ってきた」
きやがった・・・この馬鹿やろう・・・
「そ、そうか・・・あ、ありがとよ・・・クククッ」
耐えきれず、ジョンは笑いをこぼす。
・・・ゼロは、いろいろ成長してはいるけど、心はいつも変わらない。
真剣な顔で、ガキの頃と同じことを言う。
そんなゼロを見ていると、どこか安心感が持てた。
あれは、いつだっただろう・・・と、ジョンは昔を思い出す。
・・・
・・
・
それは、今から7年前の話。
暑い日差しの中を、1人の子供が歩いていた。
ボロボロで、ブカブカな服を引きずりながら
「あついよ〜・・・腹がへったよ〜・・・」
肩を落とし、力なくダラダラと歩く。
そんな子供の目の前に、大きな屋敷が現れた。
「いいなぁ、お金持ちは・・・着たい服着て、食べたい物食べて・・・。毎日贅沢してるんだろうなぁ・・・うらやましい・・・」
子供は、じ〜っと、うらやましそうに屋敷を眺めていた。
すると、2階の窓に人影が見えた。
「だれだろ?」
子供は目をこらす。
・・・そこには、子供と同い年位の子供がいた。
なにか満足のいかない顔をして、うつむいている。
「あいつ・・・金持ちのくせにつまらなそうな顔しやがって・・・ゆるさん!」
そう言って、子供は塀を超えて屋敷に侵入する。
そして、足下にあった石を、2階の窓に向かって思いっきり投げつけた。
ガシャァン!と、勢いよくガラスが割れる。
「何!?だれかいるの!?」
中から、お金持ちの子供が顔をだす。
そして、窓の外にいる子供に気が付いた。
・・・下にいる子供がゼロ、お金持ちの子供がジョン。
共に10歳、初めての出会いである。
「・・・君、だれ?」
「やい、金持ち!」
質問に答えず、ゼロは大声で叫ぶ。
「お前、人がこんだけ大変なのに、何で金持ちのお前がそんなつまんない顔してるんだよ!?いっぺん降りてこ〜い!」
ゼロは、腕をぐるぐる回して、むちゃくちゃなことを言う。
「そんな、むちゃくちゃだよ・・・それに僕、今は屋敷の外に出られないんだ」
「なら、俺がそこまでいってやる!待ってろ!」
そう叫んで、壁にしがみついた。
そして、壁の僅かな凹凸を頼りに壁をよじ登る。
「んぎぎ、ぎ・・・」
後少しで窓に手が届きそうになった、その時
ズルッ!
「へ?・・・わぁぁぁ!」
ベシャリと、地面に叩きつけられる。
「ちくしょ〜・・・もう一回・・・」
そう言って、ゼロは上を見上げる。
それと同時に、シュルシュルとロープが降りてきた。
「それに掴まって」
そう言われて、ジョンに視線を向けると、ジョンが心配そうな表情でゼロを見つめていた。
「これに掴まればいいのかぁ?」
「うん、僕が引っ張り上げるから」
ゼロはロープを握って壁をよじ登り、それをジョンが引っ張り上げた。
・・・
・・
・
「ふぃ〜、疲れた〜・・・」
登り終えたゼロは、疲れた様子でため息をつく。
「ところでさ・・・」
ためらいがちに、ジョンが口を開く。
「・・・君、何をしに来たの?」
ジョンが聞くと、ゼロは思い出したように
「あ、そうだ!お前がつまらなそうな顔してたからわざわざ来たんだよ!お前、なんでつまらなそうな顔するんだよ!?」
「だって・・・」
ジョンは少し顔を伏せる。
「・・・だってつまらないんだもん。・・・友達もいないし、僕に話しかけてくる人はみんな僕じゃなくて、お金しかみてない・・・」
「なんだ、そんなことかよ」
「そんな事って・・・」
「うるさい!俺なんか、友達もお金ももってないんだ!」
う〜、とうねって、ゼロはくるりと回れ右。
「帰る!」
一言そう言って、窓から身を乗り出す。
「待って!」
ジョンがゼロを止める。
「・・・だったら、僕と友達になろうよ」
少し嬉しそうに言ったジョンに対し、ゼロは疑わしい目でジョンを見つめた。
「お前・・・名前は?」
「ジョン。ジョン・エリックだよ。・・・君は?」
ジョンが尋ねると、ゼロは即答せずに、まじまじとジョンの顔を見つめた。
そして、ようやく口を開く。
「・・・ゼロ・・・」
そう言って、恐る恐るジョンに視線を向ける。
・・・そこには、告げられた名前に驚愕するジョンの姿があった。
「ゼロ・・・って、あの・・・?」
今にも泣き出しそうな顔でゼロを見つめる。
・・・その時
「何を騒いでいるの?」
ガチャリと、控えめに扉が開いた。
そして、1人の若い女性が中に入ってくる。
・・・優しい顔をしたこの女性は、ジョンの母親、ルーシュ・エリックである
「お母さん!」
ジョンは、入ってきたルーシュの後ろに隠れる。
「あらあら、どうしたの、ジョン?」
おっとりとした口調でジョンに尋ねる。
「お母さん、ゼロが・・・ゼロがいるよ」
言って、ゼロを指差す。
「ゼロ・・・?」
ゆっくりと、指差す方向に目を向ける。
そして、ようやくゼロに気づいて、驚いた様子もなくゼロを見つめる。
「怖いよ、お母さん・・・早く追い出してよ・・・」
ルーシュの後ろで怯えるジョンを見て、ゼロはため息をついた。
「・・・やっぱりお前も同じかよ・・・」
悲しそうに、顔を伏せる。
「そうやって、みんな俺から離れていくんだ・・・」
もういい、と言って、ゼロは後ろを向く。
「ちょっと待って、ゼロちゃん」
今度は、ルーシュがゼロを止めた。
ゼロは振り向かずに、何?、と言う。
「お洋服がボロボロよ?・・・新しいお洋服を用意してあげるから少し待って」
そう言って、ゼロに歩み寄る。
「近付くな!」
振り向かずに、ゼロが叫んだ。
「お前だって俺が怖いんだろ!?気持ち悪いんだろ!?・・・それなのに優しくするなよ!」
ぎゅっと、悔しそうに拳を握る。
・・・そんなゼロを、後ろからルーシュが優しく抱きしめた。
「怖くなんてないわ。気持ち悪くもない」
・・・そんなの嘘だ
嘘じゃないなら偽善だ・・・
「・・・なんだよ・・・俺のこと知らないわけじゃないだろ!?」
「いいえ、何も知らないわ」
「な!?」
ゼロは、思わず驚く。
・・・この街で自分のことを知らない人間はいない。
なのにコイツは知らないと言う。
ゼロが理解できずに戸惑っていると、ルーシュが優しく語りかける。
「私とゼロちゃんはまだ出会って間もないわ。それなのに、あなたの何が解ると言うの・・・何も解らないわ・・・何も解らないまま、あなたのことを怖がったり、気持ち悪がったり出来ない・・・」
「・・・嘘に決まってる・・・そんな、こと・・・」
そう言って、ゼロの体が小刻みに震える。
それを見たルーシュは
「ゼロちゃん、こっちを向いて・・・」
「・・・」
言われてた通りに、ゼロくるりと振り返った。
・・・ゼロの顔は、涙で濡れていた。
ポロポロと涙を流し、その涙が頬をつたう。
そんなゼロを見て、ルーシュは微笑んだ。
「見て、ゼロちゃん・・・あなたは、こんなにも綺麗な涙を流してる。こんなに綺麗な涙を流すあなたの、どこが気持ち悪いと言うの?・・・綺麗な涙は、心も綺麗じゃないと流れない。・・・あなたの心はとても綺麗よ・・・だから、もう悲しまないで・・・」
・・・なんでこんなことを言うんだろう?
なんで、俺なんかに笑いかけてくれるんだろう?
なんで、この人といるとこんなにも温かいんだろう?
なんで?
なんで?
・・・ゼロは、わけも分からずに、ただ泣いた。
そんなゼロを、ルーシュは何も言わずに抱きしめた。
「ゼロちゃん・・・あなたのことが、少しだけ解った気がする・・・あなたは、人と接するのが不器用なだけの男の子。あなたは、人の優しさに慣れていないだけ・・・だからこういう時、どうしていいか分からなくなる・・・」
・・・まさにその通りだった。
何故、こんなにも温かいのか。
何故、こんなにも安らぐのか。
・・・生まれて始めての優しさ・・・
ゼロにはまだ、それが何なのか分からなかった。
「でもね、ゼロちゃん・・・」
ルーシュが口を開く。
「あなたは、人より辛い思いをした分、人の優しさに敏感なはず。・・・そして、辛い思いをした分、人に優しくなれるわ・・・」
そう言われて、余計に涙が溢れてきた。
気が付けば、自分からルーシュに抱きついていた。
・・・ルーシュは、自分の腕の中でひたすらになくゼロを見て、心がいたんだ。
こんなに小さい子が、こんなに苦しんでいる。
この子をここまで追い詰めたのは、間違いなく大人達である。
こんなに苦しんでいる子供に、僅かな愛情すら注いでやれない大人達の不甲斐なさが情けなかった。
「・・・ジョン、よく見て・・・」
口を開いて、顔だけをジョンに向ける。
「・・・この子とあなた、特別に違う所がある?この子は、追い出さないといけないくらい怖い?」
そう聞かれて、ジョンは首を横に振る。
「そう、その通りよ・・・この子は、私達と何も違わない・・・特別な力を持っていたとしても、それは1つの大事な個性よ・・・その個性を、踏みにじるようなことをしてはいけない・・・何が言いたいか、分かるわね・・・?」
今度は、首を縦に振る。
「そう・・・いい子ね・・・なら、あなたが今しなければならないことも、分かるわね?」
ジョンは頷いて、ゼロに歩み寄る。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「・・・ごめんなさい・・・」
ゼロに向かって、素直に謝罪の言葉を口にする。
「・・・もういい・・・許す・・・」
そう口にして、ゼロは顔を上げた。
「・・・いいお友達ができたわね、ジョン」
ルーシュは微笑んで、ゼロとジョンの頭を撫でる。
「さてさて・・・2人が仲直りした所で、お着替えと食事にしましょう。・・・今日はお父さんがいなくてよかったわ・・・あの人がいれば、何を言われるか分からないもの」
嬉しそうにそう言って、ジョンの部屋を後にする。
ゼロとジョンも、それに続いて、部屋を後にした・・・
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