第30話
「うっへ〜。見事に岩ばかりだなぁ・・・」
ゼロ達は、岩山が立ち並ぶ荒野を歩いていた。
日は暮れかけて、景色はオレンジ色に染められている。
巨大な岩山に辺りを囲まれていて、植物は極端に少ない。
人どころか、生物の気配すら希薄である。
「・・・そろそろ頃合いじゃねぇか?」
ゼロは足を止めて、顔だけをジョンの方に向ける。
ジョンは無言で頷く。
「・・・確かに、時間的にそろそろ厳しいな・・・」
言って、ジョンも足を止めた。
「・・・今日はここに野宿だな」
「あぁ・・・見たところ、植物が少ねぇから、必死にならねぇと日没までに獲物を見つけられなそうだぞ」
「そうだな・・・こんな所に生き物がいればいいんだが・・・」
ジョンは辺りを見渡す。
・・・ものの見事に植物が少ない。
それは、それを糧にする草食動物が少ないことを意味する。
さしあたって、草食動物を糧とする肉食動物も少ないと言うことだ。
そしてこの険しい地形。
・・・獲物の発見は困難を極めそうだ・・・
「とりあえず・・・」
ゼロが口を開く。
「とりあえず、しらみつぶしに探そうぜ。・・・こんな所で日が暮れちまったら、本当にお手上げだ」
「ああ、そうだな」
ジョンは頷き、2人は手分けして探し始めた。
ーーーーー
「・・・本当になにもいねぇな・・・」
獲物を探し始めて、30分が過ぎようとしていた。
辺りは、みるみるうちに暗くなってくる。
「おいおい・・・晩飯抜きだけは本気で勘弁だぜ・・・」
ゼロはぶつぶつ独り言を呟いて、たらりと冷や汗を流す。
無理もない。
獲物を捕まえるどころか、未だにその姿さえ目にする事ができないでいた。
日は、本格的に沈み始める。
「・・・こりゃ駄目か?」
ゼロが諦めかけたその時
「お!・・・獲物発見・・・」
ゼロの視線の先。
約10メートル前方に、1匹のケルビが姿を現した。
「よし、あいつを・・・」モソモソ・・・
「ん?」
ケルビの足元で何か動いた。
「なんだありゃ?」
ジ〜・・・と、目を凝らす。
・・・よく見ると、それはケルビの子供だった。
まだ乳離れできていないようだ。
「・・・やめとくか・・・」
言って、ゼロはその場を離れる。
今、あの母親ケルビを殺してしまえば、植物が少ないこの状況で子供ケルビが生き延びられる可能性は皆無だろう。
「子供まで死なす訳にはいかねぇしな・・・つくづく甘いなぁ、俺・・・」
ハァ・・・と、ため息をつき、ポリポリ頭をかきながら別の獲物を探し始める。
そこへ、ぴいぃ〜と、指笛の音が鳴り響く。
これは2人にとって、どちらかが獲物を確保したことを意味する。
「お・・・ジョンが何か捕まえたか・・・弓ってのは便利なもんだなぁ・・・」
うんうん・・・と、ひとりで納得しつつ、ジョンと別れた場所まで戻っていった。
ーーーーー
ジョンと別れた場所に戻ってくると、ジョンは一足先に戻ってきていた。
手には、1匹のケルビが握られている。
「よう、お疲れさん」
ゼロが声をかける。
「お疲れ・・・って、お前、獲物は捕れなかったのか?珍しいな」
「あ〜、いや・・・一応見つけたんだけどな・・・子連れだったから逃がした・・・」
ゼロがそう言うと、ジョンは小さく笑いをこぼす。
「まぁ、大体そんなとこだろうと思った・・・お前、ハンターやってるくせに大甘な所があるからな・・・」
「だってかわいそうだろ?・・・問題起こしてるならまだしも、ただ生活してるだけなんだからよ・・・」
「あぁ、そうだな」
口ではそう言いながら、クックッ・・・とジョンは笑う。
それを見て、ゼロは少し拗ねる。
「何がおかしいんだよ?」
「いやいや・・・気にするな・・・」
ジョンはやっとの思いで笑いをこらえている。
「・・・ほら、拗ねてないで晩飯作るぞ」
「あ、そうそう」
ゼロは何かを思い出し、ポケットの中をゴソゴソ探る。
「ほら、これ・・・」
差し出された手には、色々な草が握られていた。
「そこら辺に生えてた野草だ・・・獲物無しじゃ悪いから、適当に食えるやつ採ってきた」
「そ、そうか・・・あ、ありがとよ・・・クククッ」
いよいよ腹を抱えだした。
「さっきから何がおかしいんだよ、お前は?」
「あ〜・・・いやいや、大したことじゃない・・・。ほら、さっさと準備しちまうぞ」
「な〜んか気にくわねぇなぁ・・・」
ゼロは口を尖らせながら、ジョンは腹を抱えながら、焚き火の準備を進めていった。
ーーーーー
・・・パチパチと、焚き火の音が辺りに響き渡る。
それ以外の音は無い。
ゼロ達は食事を終え、何も言わずに揺らめく炎を見つめていた。
「・・・なぁ、ジョン・・・」
突然、ゼロが口を開く。
「お前さっき、何であんなに笑ってたんだよ?そろそろ教えてくれてもいいだろ?」
「あぁ、あれか・・・」
言って、空を見上げる。
ゼロも、ジョンにならって空を見上げる。
・・・岩山のせいで空が狭い。
その隙間から、大量の星が見てとれた。
・・・岩山は星の光に照らされて、青く輝いている。
・・・これはこれで、なかなか幻想的な景色だった。
「・・・ゼロ・・・こうしてると、昔を思い出さないか?」
「昔ぃ?昔って言われても・・・あ」
思い出して、ポカンと口を開ける。
「・・・やっと思い出したか?」
ジョンはゼロに向き直り、また笑い出す。
「あ〜・・・そうかそうか・・・だから笑ってたのか・・・」
ゼロは上を見上げたままため息をついた。
「あぁ・・・お前は変わんないなと思ってな・・・」
「全く・・・俺のまわりには、よくよく昔話好きがそろったもんだな・・・」
もう一度ため息をついて、ゴロンとその場に寝転がる。
「もう寝る・・・お休み・・・」
言って、ゼロは目を閉じる。
ジョンも寝転がり、そのまま目を閉じた。
ーーーーー
・・・体が揺れる。
地震でもあったのか?
「おい・・・おきろ・・・」
起きろ?
やなこった・・・まだ眠い。
あと半日は寝たい・・・
「・・・起きんかいこのボケ〜!!」
「うぉあ!?」
ガバッ!と、ゼロは飛び起きる。
「・・・うぉ〜・・・耳がキンキンしやがる・・・」
「そりゃ生きてる証拠だ。ありがたく思うんだな」
「・・・もっと優しく起こせよなぁ・・・」
ぶつぶつ呟いて、まだ覚めきらない頭を抱えて立ち上がる。
「こんな地べたでよく熟睡出来るな、お前・・・」
ジョンは呆れた様子でゼロを見る。
「そりゃ、最近家じゃあベッドに寝れることの方がまれだからな・・・床と地面はそんなにかわらん」
「そうかよ・・・」
ため息をついて、ジョンは頭を抱える。
「・・・とにかく、先を急ぐぞ」
ジョンがそう言うと、ゼロは無言で頷く。
そして、スタスタと歩きだした。
・・・・・・
歩き始めて、2時間程たった。
辺りは、いつしか濃霧に包まれていた。
「おい、あれ・・・」
ゼロが前方を指差す。
その先に、大きな岩山があった。
「なんだよ・・・岩山じゃねぇか・・・期待させやがって・・・」
ガックリと、ジョンは肩を落とす。
「馬鹿!よく見ろ!」
ゼロが岩山に駆け寄る。
ジョンも、それについて行く。
・・・岩山に近づいて、それが他とは違っていることに気付いた。
古ぼけたような赤色をしている。
「これだけ赤いな・・・」
「それだけじゃねぇ・・・見ろ・・・」
言って、ゼロは上を指差す。
・・・そこには、岩山から巨大な棘がのびていた。
「めっちゃ尖ってね?」
「あぁ・・・めっちゃ尖ってる・・・」
「なんなんだこれ?」
ゼロは恐る恐る手をあてた。
・・・ゴゴゴゴゴ・・・
ゼロが手を触れた途端、音と共に地面が揺れだした。
「うぉ!?・・・なんだなんだ!?」
「ゼロ!お前なにしやがった!?」
「馬鹿いえ!俺がどうこうしたとかのレベルじゃねぇだろ、これは!」
慌てるゼロ達をよそに、ダンゴ虫が開くように岩山が動き始める。
そして、岩山から長い首がひょろっと伸びてきた。
「コイツ・・・竜・・・なのか?」
ゼロ達は目を丸くする。
ついに、その岩山は竜へと姿を変えた。
超規格外サイズ。
それを前にすると、ゼロ達は蟻のように見える。
「デ・・・デケェ・・・」
ゼロとジョンは、揃ってアホ面をする。
そんなゼロ達を、巨大な瞳が見つめる。
そして
“我を起こしたのはお主らか・・・?”
と、声ならぬ声を発した・・・
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