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第27話
「ここが・・・古の塔・・・」
古の塔に到着したゼロは、その光景を目の当たりにしてあっけにとられていた。
・・・冷たく澄み切った空気が辺りを包んでいる。
そこに流れる滝や川など、何でもないはずのものが、どこか神聖さを感じさせる。
辺りに生えている植物や、川を泳いでいる魚は見たことのないものばかり。
見たところ、かなり原始的な生き物であることは分かる。
・・・まるで、この空間だけ時間が流れていないようだ。
・・・なのに、見たことも聞いたこともない場所であるはずなのに、何故か懐かしさを感じずにはいられない。
「・・・」
すぅ・・・と、新鮮な空気を肺に流し込む。
空気が冷たいおかげか、それで頭が冴え渡り、余計な考えが消えていく。
「よし・・・いくか・・・」
そう言って、ゼロが塔に入ろうと歩き出す。
・・・その時である。
“やはり来たか・・・”
「っ!!」
突然の事に、ゼロは驚く。
直に頭に流れ込んでくる声ならぬ声。
分からない訳がない。
「でてこいよ・・・キリン」
ゼロが名を呼ぶと、崩れた柱の影からキリンが出てくる。
「やっぱりかよ・・・で、何の用だ?」
“用、という程の事ではない。・・・ただ、汝がどうするのか気になってな・・・確認するだけのつもりであったが、やはり気になってな・・・”
言って、ゼロのもとに駆け寄って来る。
“ついて来るがいい・・・ここからは我が案内人となろう”
「え?」
キリンの放った一言に、ゼロは困惑する。
何故、古竜であるこいつが自分の味方をするのだろう?
何か罠があるのだろうか?
でも、そんなセコい真似をする奴じゃない。
じゃあ何で・・・?
頭の中は混乱する一方である。
ゼロは、思い切ってたずねる。
「・・・お前、古竜だろ?俺の味方なんかしてもいいのか?」
ゼロがたずると、キリンはくるりとゼロを向き直る。
"我は神の代行者・・・我は神の変わりに、汝を見極めねばならならい。汝が、この時代にふさわしいかどうか・・・いかなる者にも我が行動を咎めることはできない・・・"
それを聞いて、ゼロは首を傾げる。
「なぁ・・・お前の言う神ってのはどんな奴なんだ?」
“それは教えられぬ・・・たとえ汝の脳が我が声を聞けたとしても、この概念を理解させることは不可能だ・・・”
「そうか・・・だが、1つだけ言っておくことがある」
“なんだ?”
「たとえその神とやらが俺の存在を認めなかったとしても、消えてやるつもりはさらさらねぇからな」
そう言い放ったゼロを見てキリンは、フ・・・と、小さく笑う。
“・・・そうだ。それでいい。たとえ神がお前を否定しようとも、お前は確かに実在する。・・・そこに、神などという不確かな存在が介入する余地など全くない”
それを聞いて、今度はゼロが笑いをこぼす。
「お前・・・神の代行者とか言ってる割にはひどい言いようだな。一体どっちの味方なんだよ、お前は?」
“さてな・・・両方の味方か、あるいはどちらの味方でもないのかもしれん・・・”
「・・・古竜ってのも、案外適当なんだな」
“あぁ・・・そうかもしれんな”
ゼロとキリンは揃って苦笑する。
「なんか・・・俺はお前を誤解してたみたいだな・・・ドラゴノイドがお前らと仲良くしてたのも、なんとなく分かる気がする」
“そうか・・・だが、我も人間とやらを誤解していたらしいな・・・人間は愚かしき生き物ではあるが・・・中にはまともな者もいるようだ・・・汝を見ていて気がついた・・・”
「そうだな・・・不思議な生き物だ・・・」
ゼロがそう言うと、キリンはふと何かを思い出すような様子を見せる。
“汝の名を、まだ聞いていなかったな・・・汝は今、なんと名乗っている?”
「ゼロ・・・」
“ゼロ、か・・・いい名だ・・・”
キリンは、少し嬉しそうにそう言った。
“ゼロとは00、すなわち無・・・だが、そこには無限の可能性が眠る・・・全てのものは虚無より生まれる・・・”
そして、キリンは塔の入り口に顔を向ける。
“・・・さぁ、無駄口はここまでだ・・・中に入るぞ”
「・・・分かったよ・・・案内、頼むぜ」
キリンは無言で頷き、塔の中に入って行く。
その後ろに、ゼロはついていった。
ーーーーー
・・・中に入って、30分ほど過ぎた。
壁には、よく分からない文字や、絵が描かれていて、その上からツタの原種と思われる植物が覆い被さっている。
・・・やはり塔の中も、どこか懐かしさと神聖さを感じさせた。
・・・ただ、なにか嫌な感じもした。
昔、ここで何かあった気がする。
・・・けど、思い出せない。
そう思いながらも、キリンの後に続いて巨大な階段を登って行く。
「なぁ・・・」
唐突に、ゼロが口を開いた。
「・・・1つ気になったんだけどよ・・・お前、何で雪山まで来たんだ?何かを辿ってきたとか言ってたけど・・・」
“・・・自分では気付いていないのか?”
「え・・・?どういう事だ?」
キリンの一言に、ゼロは首を傾げる。
“・・・私からは上手く伝えられぬ・・・どうしても知りたいのならば、賢者に会いに行くことだな・・・”
「賢者・・・?一体誰・・・」
“着いたぞ・・・頂上だ・・・”
ゼロの言葉を遮って、キリンは建物の外に出る。
ゼロも、それに続いて外に出た。
・・・そこには、広大な空が広がっていた。
頂上は円の形をしていて、壁や柱などは無く、中央にある大きな剣が土台に突き立てられているだけだった。
闇色の半透明なその剣は、何かの結晶のような物で精製されていた。
「この剣は何だ・・・?」
"生と死を司る剣・・・我々の概念で、闇とは虚無・・・全ての生命は、虚無より生まれ、また虚無へと帰る。・・・その剣は、神々が天地創造の際にイタズラに生み出した物だと言われている・・・"
「で・・・俺にどうしろと?」
"その剣はドラゴノイドの中で、秘宝として扱われた・・・その剣を握り、剣の記憶に触れることができれば、汝の求めるものを得ることができよう・・・"
「・・・」
ゼロは、少しためらいながら剣を握った。
・・・・・・
何も起こらない
「あれ?・・・何も起こらないぞ・・・どうなって・・・」
途端、ゼロの目の前に光が広がる。
「な・・・んだ、これ・・・!」
何かがはじけたような光。
眩しすぎて目を開けていられない。
「く・・・!」
ゼロは耐えきれずに目を閉じた。
・・・しばらくして、ガヤガヤと、話し声が聞こえてきた。
何か騒ぎでもあったのか、慌ただしい感じである。
それに気付いたゼロは、ゆっくりと目を開いた。
・・・目の前には、人だかりができていた。
「ここは・・・?」
キョロキョロと辺りを見渡す。
・・・ここは、塔の入り口だった。
頂上にいたはずが、一瞬にして入り口に戻って来ていた。
「なんなんだ、一体・・・?」
ゼロは首を傾げる。
すると、向こうから小さな子供が走ってきた。
ゼロに気がつかないのか、そのまま直進してくる。
「ちょっ・・・お前・・・」
ゼロが避けようとしたその時、子供がつまずき、こけそうになる。
「危ない!」
思わず手を差し伸べる。
・・・しかし何の意味もなかった。
子供は、ゼロの手をすり抜け、そのままベシャリところんでしまったのである。
「な!・・・え・・・?」
何が起こったのか分からず、ゼロはオロオロする。
「いたたた・・・」
ムクリと、子供が起き上がる。
「あ・・・大丈夫か?」
ゼロが声をかけるが、全く聞こえていない。
そのまま走り出し、今度は体ごとゼロをすり抜けてしまった。
「え?・・・は?」
訳が分からず、そんな情けない声しかでない。
「・・・おいおい・・・もしかして・・・」
スゥ・・・と、目一杯空気を吸う。
「お〜い!誰かぁ〜!」
まさかと思い大声で叫ぶが、そのまさかであった。
・・・ここにいる人々に、ゼロの声は聞こえていない。
それどころか、触れることさえできない。
・・・つまり、ここの人々にとって、ゼロは存在しない者なのである。
「まじかよ・・・訳わかんねぇ・・・まぁ、便利っていったら便利か・・・」
混乱する頭を抱えて、人ごみの中へと入っていく。
誰とぶつかる訳でもなく、スルスルと前に進む。
すると、その中に見知った姿があった。
・・・キリンが、何かの周りをクルクルまわっている。
キリンがまわるその中央・・・そこに、1人の赤ん坊がいた。
・・・ゼロは、直感的にそれが自分だと理解した。
「と、言うことは・・・」
ゼロはキョロキョロと辺りを見渡す。
・・・ここは、確かに塔の入り口だった。
しかし、少し様子が違う。
初め、キリンが隠れていた場所の柱は、まだ崩れていない。
・・・所々が、さっき見たときより新しくなっていた。
「ここは昔か・・・多分、500年前・・・それより・・・」
視線をキリンに戻す。
「キリンの奴、何やってんだ?」
ゼロが不思議がっている内に、キリンはその動きを止めた。
「ありがとうございます、キリン様」
声と共に、1組の若い夫婦が人ごみの中から出てくる。
「これでこの子も無事に成長出来ます。・・・祝詞の儀、お疲れ様でした」
祝詞の儀・・・聞き覚えがある・・・
「あぁ・・・雪山でキリンが言ってたな・・・てことは、あの赤ん坊はやっぱり俺か・・・そして、あれが俺の親、か・・・」
ゼロは何か考え込む。
“・・・この子の名は何という?”
キリンの声ではっとする。
・・・自分の本当の名前。
考えたことは無かったが、興味がないと言えば嘘になる。
ゼロは、会話に耳を傾ける。
「・・・この子の名前ですか・・・この子には、タナトスの名を授けました・・・」
「タナトス?」
ゼロは首を傾げる。
聞いたことのない単語・・・何のことだろう・・・
ゼロがそう思った次の瞬間、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
それと共に、大量の人間が押しかけてくる。
「飛竜だぁ〜!!飛竜が襲ってきたぞ〜!」
「おちつけ〜!」
ゼロの父親らしき人物が声をあげる。
様子からして、この民族の族長らしい。
「飛竜の1匹や2匹、我らの敵では無いはずだ!」
「1、2匹じゃありません!・・・数は分かりませんが、想像を絶する数です!・・・地面の色が見えません!」
「なに!?地面の色が!?」
「それだけじゃない!・・・その後方にあいつが、ーーーーがいます!」
「何!?ーーーーだと!?」
人々は、しきりにその名前を叫んでいたが、その言葉だけ切り取ったように、それが声になることはなかった。
「な、何が起こってるんだ?」
動揺するゼロをよそに、人々は慌ただしく戦闘の準備をする。
「キリン!あんたははやく逃げてくれ!」
ゼロの父親が、キリンに逃げるように勧告する。
“しかし・・・!”
「これ以上の干渉は神への反逆となるだろう。・・・そうなってしまったら、我々の面目がたたん!」
“・・・すまぬ・・・”
言って、キリンは去っていった。
「・・・よし!男共は武器を手にし、命のかぎり戦え!女子供は塔の中へ逃げ込め!」
ゼロの父親が指示をだし、人々はそれに従う。
「あんた!」
・・・そこに、ゼロの母親が駆け寄ってくる。
「何をしている!?早く行かんか!」
「でも・・・!」
渋る母の肩に、父がそっと手をそえる。
「いいか?・・・お前はその子を・・・タナトスを守らねばならん。・・・その子は我々の希望なのだ・・・分かったのなら早く逃げろ・・・」
「・・・分かりました・・・」
・・・母親は、ゼロを抱えて塔の中へ逃げ込んだ。
それを見送った父親は、何も言わずに敵に向かっていった。
ーーーーー
塔の中は、女性と子供で埋め尽くされていた。
皆無言で、恐怖と戦っている。
そこに、血まみれの男が駆け込んできた。
かなり慌てた様子である。
「は・・・早く逃げろ!・・・この戦・・・我々の、負け、だ・・・」
悔しそうに言い残し、その場に倒れ込んだ。
途端、塔の中はパニックに陥る。
泣き叫ぶ子供や、半狂乱で騒ぐ女性達。
・・・そんな中、ゼロの母親だけは落ち着いていた。
上を目指して、ただひたすらに階段をのぼる。
・・・そして、小さな部屋にたどり着く。
そこにある小さな石の箱。
そこに、ゼロを寝かせた。
「ごめんね・・・お母さんは、もうあなたといられないわ・・・」
言って、悔しそうに唇を噛む。
「何一つ・・・何一つとして、母親らしい事をしてあげられなかった・・・本当に、ごめんね・・・」
・・・母親は、涙を流して謝罪の言葉を口にする。
その時、下から悲鳴と雄叫びが聞こえてきた。
・・・恐らく、飛竜が攻め込んで来たのだろう。
「もう、時間がないわ・・・許してとは言わないけど、謝らせて・・・タナトス・・・こんな母親で、本当にごめんね・・・」
そう言って、箱に蓋をした。
そして、何か呪文のような言葉を小声で紡ぎだす。
・・・呪文を唱え終えて立ち上がり、そのまま下へと降りていってしまった・・・
ーーーーー
そこで、意識がもどった。
気が付けば、ここは塔の頂上。
いつの間にか、現実に戻ってきていた。
まだ頭が混乱している。
“戻ったか?ゼロよ・・・”
その声で我に返る。
振り向くと、キリンが横に立っていた。
「お・・・俺・・・どうなったんだ・・・?」
“汝は、剣の記憶に触れたのだ・・・その剣は、一部始終を記憶していたからな・・・”
「教えてくれ!あの時、なにがあったんだ!?あれからどうなったんだ!?」
“答えてやりたいが・・・どうやらその時間はないようだ・・・”
言って、キリンは上を見上げる。
ゼロも、それにならって上を見上げた。
・・・そこには、異形の竜がゼロ達を見下ろす姿があった・・・


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