第15話
辺りは激しい風と雨に包まれている。
その中で、蠢く巨大な龍、クシャルダオラは気絶したゼロにとどめをさそうと忍び寄る。
一歩、また一歩ゆっくりと、しかし確実にその距離を縮めていく。
そして、ついにゼロの前にたどり着く。
「・・・」
ゼロの意識は不思議な空間をさまよっていた。
そこは何もない空間。
光もなければ影もない。
完全なる無の空間だった。
そこに、どこからともなく声がする。
“・・・汝は、傷つき、苦しみながらなぜ戦いをやめぬ?”
「・・・守りたい・・・」
“守る?”
「・・・幼いころ、俺は命を略奪することで生き長らえた。今も何かを傷つけ、奪うことで今の俺がここにいる・・・。
俺は自分の力が憎かった。力をもっていることが怖かった、苦しかった・・・。
けど、それ以上に憎かった。何かを傷つけ、壊すことしか出来なかったこの力が、憎くてたまらなかった・・・。
けど、それは間違いだった。
力は、力を使う俺次第で、守ることも、壊すこともできる。
俺はこの力で守れるものがあると気付いた。
そして、生まれて初めて守りたいものもできたとき、俺は守ると決めた。
なのに、俺は守ると決めたのに・・・大切なものを守れなかった・・・。
だけど俺は、まだ守り続けたい。まだ守たいものがある。」
“名声も、賞賛も得られないのにか?"
「・・・俺のこの手は、剣を持つことしか出来ない。それに、たくさんの血で汚れちまってる。
・・・だが、それでいい。
名声?賞賛?そんなものいらねぇよ。
こんな俺でも、守れるものがあるなら・・・たとえそれが、この命と引き換えになったとしても、悔いはない・・・」
"・・・そこまでの覚悟か・・・"
「あぁ・・・」
"ならば目覚めよ。今ここにおっては守れるものも守れぬ。今一度言う。目覚めよ・・・!”・・・
・・・ーーー
・・・ドクン・・・
ゼロの体に衝撃が走る。その時、クシャルダオラは、ゼロにとどめをさそうと、その牙をむき出しにし、ゼロに向かって走らせた。
・・・しかし、その牙がゼロを捉えることはなかった。
クシャルダオラの牙はむなしく空を切る。
ゼロは、紙一重でクシャルダオラの牙をかわした。
「・・・」
ゼロは無言で立ち尽くす。
クシャルダオラはゼロの姿を確認すると、猛スピードでゼロに向かって突進する。
しかし、ゼロは逃げようとはせず、ゆらりと剣を構える。
クシャルダオラは敵意をむき出しにしてその牙をゼロに向ける。
ザキィン!!
・・・グオオオオッ!
悲鳴をあげたのはクシャルダオラであった。
ゼロは向かって来たクシャルダオラの額に剣をめり込ませ、力で退けた。
すると、クシャルダオラを纏っていた風が消えた。
どうやら角が折れると、風を上手く制御出来なくなるらしい。
ギュオオオ!!
クシャルダオラは怒りに満ちた声をあげると、ゼロに向かって風の玉を吐き出した。
ゼロは避けようとはせず、剣を自分の前にかざす。
ドスンと、ゼロを風の玉が直撃する。
それと同時に、その衝撃で周りの土が舞い上がる。
クシャルダオラは砂煙を凝視する。
すると、ジャリ・・・と足音が聞こえる。
ゼロは無傷のまま、砂煙の中から出てきた。
「・・・」
ゼロは無言でクシャルダオラと正対する。
・・・グルルゥ・・・
クシャルダオラは怯えていた。
恐らく、生まれて初めてであろう恐怖という感情に戸惑っていた。
それを見たゼロは、先ほどとは逆に、ゆっくりとクシャルダオラを追い詰める。
クシャルダオラは一歩後退し、その場から逃げようと翼を広げた。
しかし、ゼロはそれを見逃さない。
ゼロは目にも止まらぬスピードで距離を詰めた。
ズバン!と、派手な音をたててクシャルダオラの片翼を斬りつける。
その一撃で、クシャルダオラの翼は使いものにならなくなった。
グウゥゥ・・・
クシャルダオラは悲痛な声をあげ、ゼロを睨みつける。
「・・・はっ・・・ははっ・・・あははははっ!!」
ゼロは笑い出した。
何がおかしいのかわからない。
けれど、笑わずにはいられない。
ゼロは笑ったまま、クシャルダオラを斬りつける。
・・・それは、惨劇の始まりだった。
ゼロはただひたすらに斬り・突き・叩き・抉った。
クシャルダオラは逃げることはおろか、わずかな抵抗すら許されない。
何の抵抗も出来ない相手を徹底的に壊すという、凄まじく、恐ろしい暴力。
ゼロは何のためらいもなく、その暴力の全てをクシャルダオラにぶつけた。
この惨劇は二時間にわたり続いた。
ーーーー二時間後、クシャルダオラはすでに虫の息だ。
もはや鳴くことすら出来ない。
ゼロは、クシャルダオラの返り血を頭から浴びて、その顔は心底楽しそうな笑みを浮かべている。
ゼロはクシャルダオラに歩み寄る。
剣を持ちかえ、構えた。
「・・・死ね・・・」
ザク・・・
ゼロはクシャルダオラの頭に剣を突きたてる。
・・・・・・
クシャルダオラは、悲鳴をあげることなく絶命した。
「・・・はは・・・ひゃははははっ!!」
ゼロは、ひたすらに笑う。
が、突然苦しみだした。
「ぐ・・・が・・・」
頭を抱え、膝をつく。
しばらくそうしていたが、ゼロは正気を取り戻した。
「俺は・・・一体どうしちまったんだ・・・?」
ズキリと、ゼロの頭を頭痛が襲う。
「ぐっ・・・。くそっ・・・頭が・・・。」
ゼロは剣を引き抜き、クシャルダオラの前に腰を下ろす。
「・・・わりぃな。俺は少し正気を無くしてたみたいだ。ただ、お前を殺すことしか考えられなくなってた。・・・俺にこんなこと言う資格はないが・・・お前の死は無駄にはしない・・・」
ゼロはそう言って立ち上がり、クシャルダオラの素材をはぎ取り始めた。
その顔は、先ほどの狂気したものとはまったく違っていた。
いつもの表情である。
ゼロは、爪や角など、使えそうなものは無駄なく剥ぎ取った。
ひとしきり剥ぎ終えると、ゼロはクシャルダオラに向かって手を合わせた。
「・・・じゃあな・・・」
ゼロはそう言って、その場を後にする。
ゼロは船着き場にたどり着き、船にのる。
「・・・そういえば・・・あの声はなんだったんだ・・・?」
そんな事を考えつつ、ゼロは密林を後にし、街へと戻って行った・・・
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