76話 いちゃもん
ゴークとの借金騒動から半月。
二月半ばになっても『トスエル』の経営状態はますます上向きで、看板娘との会話でちょろっと挙がった臨時休業は結局取れずじまいだ。
あれから変化がいくつかあった。
まず、ゴークとの対決から程なくして、露天商が全員しょっぴかれて『副業』が出来なくなった。
これは仕方ない。『副業』の流れを思いついた段階から、この闇取引は時間の問題だとは思っていた。
一応商売人とはいえ、レイトノルフの大通りを占拠していた露天商は、お世辞にも商売上手とは言えねぇ。
大半が売れるか売れねぇかわからん商品ばっか扱い、一日中座り込んで生活しているようなホームレスだからな。
そもそも、腕がいい商人ならずっと露天商であることはない。何らかのチャンスを見いだし、成功して金を集め、商会を立ち上げて活動しているはずだ。
だが、俺がダンジョンアイテムを売っていた露天商たちは、同業者との競争に負けたか、商才がなくて勤めていた商会から見放されただろう落ちこぼれ。
いくら『うまくやれ』と忠告していても、いつかどこかで下手を打つことはわかりきっていた。
そういう意味でも期間限定だった『副業』は、予想通り露天商の全員逮捕によって幕を閉じることになった。
これにより、俺の収入は激減、っつうかゼロになった。まだ『トスエル』から給料をもらってねぇからな。収入源をなくして、見事完璧な居候にクラスチェンジしたわけだ。
ただし、夜中のダンジョン通いは未だ続けている。『大気浸食』の工夫やスキルレベル上げなど、ダンジョンで出来ることはまだまだあったからな。
最近では『異世界人』での『種族』で出来ることも模索している。まあ、今のところ『異世界人』の平均ステータスで出来る範囲は超えられねぇが。
やっぱ、俺に戦闘系スキルの適性が全くないのが痛ぇ。単騎の戦闘能力でいえば、『異世界人』の中じゃ下位も下位だろう。
それだけ、この世界におけるステータスやスキルの恩恵は大きい、ってことか。ある意味不便で、ある意味便利な世界だよ、本当に。
あぁ、それはさておき。
他に変わったことと言えば、『トスエル』一家との距離感だな。
新年会以降にあった気まずさがなくなり、それ以前のかなり気安い接し方に戻っていた。
とはいえ、それはまるっきり元通り、ってわけじゃねぇ。
なんか、微妙に距離が近くなったんだよなぁ?
「遅ぇぞヘイト! 次は4番だ、さっさと運べぇ!」
「うっせぇよ! テメェはさっさと次作れ頑固オヤジ!」
頑固オヤジは、より一層俺に怒鳴り散らすようになった。俺の作業が遅れたりミスったりすれば、鬼の首でも取ったように生き生きと叱責すんだよ。
俺が働き出してから二ヶ月になるが、思ったよりも作業効率が上がらねぇのもあるがな。こう、器用さっての? そういうのは、知識と違って並の速度でしか身につかねぇらしい。
頭ではわかってっけど、体は思うようについていかない感じだ。それは《神術思考》でも解決できず、ステータスの身体補正の限界なのかもしれねぇな。
そんなわけで、俺は今でも細かな作業で小言をもらっている。頑固オヤジの場合、俺に頭の良さでは勝てねぇからか、ここぞとばかりに元気になるのはなんか腹立つが。
「あ、ヘイト君! こっちのテーブルのお片づけ、手伝ってくれない!?」
「わかりました! ママさんはそれ出したら5番お願いします!」
ママさんは、俺への気後れがなくなったな。新年会からは自分が失言したと思いこんでいたのもあり、かなり接し方は遠慮がちだったんだが、ものの見事にその壁が玉砕されていた。
前まであったほんわかした空気を取り戻しつつ、それ以外の顔を見せるようになった。自分で言うのもあれだが、『家族』の距離感? まるで頑固オヤジや看板娘に話しかけるような接し方に変化した。
さすがに『異世界人』の背景事情があっから、素直に受けるわけにはいかず、気づかねぇフリで無視している。が、当のママさんは俺の態度にも頓着せず、時には冗談までかましてくる始末だ。
おそらく看板娘を庇ったことで、ママさんの俺への評価が上がったんだろう。それで馴れ馴れしく接することとどう関係してんのかは、よくわからねぇが。
「わきゃあっ!?」
「っと、悪ぃ。大丈夫か看板娘?」
「だ、だいじょうぶだいじょうぶ! わ、私、次のお料理運ぶから、ごめんねっ!!」
「お~、少しは落ち着けよ~」
激変したのは看板娘だ。
さっきはちょっと肩がぶつかった程度だったんだが、一人騒いで逃げるように俺から離れて行った。
看板娘は借金騒動からずっと、ことあるごとに俺に対して過剰反応を繰り返すようになった。俺の自爆も連想されて変に意識しちまうから、正直止めて欲しいんだが。
「ヒューッ! お熱いねぇ、お二人さんっ!」
「おいおい、ここだけ季節は真夏かぁ!? 暖炉とかいらねぇんじゃねぇかぁ!?」
そんな初心な反応が恋愛感情に見えなくもないからか。こうして接客中だと色んな野次が飛ぶ。最近『トスエル』に新たな酒の肴が増えたと、もっぱらの人気(?)だ。
こうして騒ぐ奴は、だいたいが酔っぱらいだからな。指笛が鳴り響き、暑い暑いと揶揄され、どぎつい下ネタが飛び出す時もある。
「や、やめてくださいっ!! 私とヘイトはそんなんじゃないですからっ!!」
それに対して看板娘がいいリアクションしちまうもんだから、余計に酔っぱらいどもの調子に乗らせちまう。反応すんな、って何度も忠告してんのに、今日も我慢できずに反論しちまったなあのバカ。
ただ言い返すだけならまだしも、顔を真っ赤にさせてたんじゃ説得力皆無だ。案の定、酒飲みはここぞとばかりにはやし立て、さらに騒ぎを大きくしていく。
実際は『従業員』と『雇用主の娘』って間柄に変化はねぇんだが、そういう関係に誤解されても仕方ねぇわな。それもこれも、誤解を招く看板娘の態度が悪ぃ。
看板娘の内心も、感情に任せて『余計なことすんな』とか『出て行け』とか俺に言いまくったことを気にしてるだけで、コイツらの思ってる浮ついたもんなんざありゃしねぇだろう。
俺も看板娘も、あの時の出来事は恥は恥でも、中二病的な恥ずかしさだ。俺は雰囲気に、看板娘は感情に流されて、後悔しかしねぇ発言ばっかだったしなぁ……。
「はい、おまちどうさま」
「おいおい兄ちゃん。彼女を助けなくていいのか?」
「事実とは異なりますからね。しばらくすれば飽きるでしょ」
「何だ、つまんねぇなぁ」
料理をテーブルに運ぶと俺の方にも茶々が飛ぶんだが、至極冷静に返答するからか、もっぱら矛先は看板娘に向く。
片方が冷静であれば、若干の鎮静効果もあると思って反応しねぇようにしてるんだが、相方があれじゃしばらくはネタにされるだろうな。
ホント、看板娘ってその手の話に弱ぇよなぁ。まともな恋愛しろよ、結婚適齢期。俺も人のことはとやかく言えねぇけど。
「こちらお釣りです。ありがとうございました!」
「お幸せに~」
「だから違いますってぇ!!」
あ、またイジられてんな、看板娘の奴。釣り銭計算が一瞬で出来るようになったのは喜ばしいが、いつまでもあんな調子じゃ仕事にならねぇぞ?
ちょっと前は配膳中に俺とすれ違って、持ってた酒とかをぶちまけそうになってたしな。そろそろあのオーバーリアクションは矯正しとかねぇと、営業に差し支えるかもしれねぇ。
なんてことを考えつつ、俺たちが夜のラッシュを捌いていると。
「あぁ!? 何だこりゃあ!?」
一つのテーブルから、耳障りな怒声が店内に響きわたった。
あぁ、またか。
「お待たせいたしました。お客様、如何されました?」
「どうしたもこうしたもねぇんだよ! 見てみろ! 皿ん中に虫が入ってんじゃねぇか!? せっかく気持ちよく飲もうとしてたっつうのに、台無しじゃねぇか! どうしてくれんだおい!?」
あ~、今日も虫か。昨日はデケェ油虫で、一昨日はゴブリンの右手だったか。
これもまた、『トスエル』で大きく変わった出来事と言っていい。
二月に入ってから、朝、昼、夜と、ほぼ毎回のラッシュ時に一部の冒険者からクレームが上がるようになったんだよ。
最初は言葉遣いが悪ぃだの、足踏んだだの、頼んだ料理とは違うだの、接客態度について言いがかりをされるようになった。
そういう奴らには俺が懇切丁寧に《魂蝕欺瞞》で片を付け、最後には意識朦朧として帰って行った。酒でも飲み過ぎたんじゃねぇの?
最初、他の客は嫌そうな顔をしたものの、途中から俺の毒成分が豊富に含まれた舌鋒に含み笑いをこぼし、クレーマーが出て行った後にゃ拍手喝采の乾杯オンパレードだった。
他の客も大勢いる中でのクレームは店の信用問題になるから、なるべくことを荒立てず、悪印象を残さないようにする必要がある。
だからこそ、俺は《魂蝕欺瞞》も使っていちゃもんを一種のショーに仕立て上げた。酒の余興だと思わせることにより、追加注文も増えて一石二鳥だな。
接客内容について一週間ほど難癖が続いた後、次にくるようになったのが異物混入系。
料理や酒の中に、虫の死骸や調理過程でありえねぇもんが入ってるって文句が上がり始めたんだ。今回みたいにな。
混入系は他の客が自分の皿にも入ってんじゃねぇか? って思われる可能性が高く、飲食店じゃ致命的な信用失墜に繋がる。
これについての対処も、基本的に《魂蝕欺瞞》を使った。ほとんどが馬鹿なのか、町中にいるはずのない種類の異物を用意してくれてるから、論破もしやすかったしな。
虫系だったら魔物の幼体が主だ。ダンジョンにしかいねぇよ! って種の虫ばっかで、他の客も冒険者で知識豊富だから理解があり、今のところ大きな問題には発展していない。
後はイロモノ系が少数だな。魔物の指、骨、目玉などなど、本来は料理の中に入れねぇような物が入っていた、と騒ぐ奴らだ。こっちのバリエーションもダンジョン魔物ばかりで、他の冒険者からはしらけた視線をもらうことが多かった。
中には一昨日の馬鹿みたいな、ゴブリンの手を持ってきて斬新な盛りつけを披露した奴もいる。出オチで他の客の爆笑をかっさらい、売り上げに貢献してくれたから、逆にありがたかったけどよ。
何せ、野菜炒めにどーんと生えたゴブリンの腕とか、ネタにしか思えねぇヴィジュアルだったからな。シリアスな空気が一気に吹き飛んで、仕事がやりやすかったぜ。
とはいえ、ギャグっぽい内容でもクレームには変わりない。全部の案件でこちらに非はないときっちり主張しつつ、混入物の矛盾を指摘し帰ってもらった。
料金は異物が入っていた料理の分を除いて会計したよ。明らかに向こうの嫌がらせだってわかっていても、飲食店側が何のフォローもしねぇと、客に対応が悪ぃと思われちまうからな。
客の心理は《魂蝕欺瞞》で修正するが、万能じゃねぇ。そろそろ本格的にクレームの根っこを排除していかねぇと、いずれ大きな不利益が生じそうだ。
「虫、ですか? ……見るところによると、これは『猿王の森』に生息するフォトムの死骸ですよね? なるほど、今回は『黒鬼』級ダンジョンですか。がんばりましたねぇ」
「っつっても、ダンジョンの浅い場所に出てくるような蛾だけどな!」
『ぎゃははははっ!!』
裏では毎度のことで辟易としつつ、今回いちゃもんをつけてきた冒険者の自作自演を褒めて冗談に落とし込む。いつものパターンだ。
他の飲み客は《魂蝕欺瞞》の混じったそれを聞き、クレームを付けた冒険者の技量を称賛した。直後に上がる笑い声も、定番になりつつある酒の余興と認識し、楽しんでいる証拠だ。
ここまではいつものパターンなんだが、今日はちょっと流れが違った。
「んだと、こらぁ!! あまり調子に乗ってんじゃねぇぞ、クソガキ!!」
今までは同業者に指摘されると萎縮しちまう奴らがほとんどだったんだが、コイツは怯むどころか逆上。
椅子を倒して立ち上がり、躊躇なく武器を引き抜きやがった。
……ん? コイツ、よく見りゃ冒険者登録の時にいたハゲ斧じゃねぇか? 向こうは【普通】の『認識阻害』で俺に気づいちゃいねぇが、間違いねぇ。
装備の質が全体的に向上し、木こりっぽい斧が両刃のごつい物に変わってやがる。他にも、ハゲは相変わらずだが無精髭がきれいに剃られてすっきりしてるし、印象がかなり変わったな。
何だ、イメチェンでも始めたのか? 中年のイケてますアピールは見てて哀れなだけだから、止めといた方がいいぞ?
「ヘイトっ!?」
騒ぎに振り返った看板娘がすぐにでもこちらに来そうだったので、手で制しておく。お前が介入したらもっとややこしくなる。そこで大人しくしてろ。
「おや、これは申し訳ない。当店をご利用になる冒険者の間では近頃、ダンジョンにしかいない生物の死骸を持ち寄り、自ら料理にトッピングして声を荒らげる酔狂な方々がいらっしゃいまして、てっきりお客様もそのような方々のお一人かと」
再びわき上がる爆笑の渦。戦いに疎い客が多かったらこんな反応にゃならねぇだろうが、利用客のほとんどは飲酒済みの冒険者だ。
ことさらにハゲ斧の行動を滑稽な言い回しに変えてやれば、こんな風にひと笑い取ることが出来る。
要約すると、『分不相応なダンジョンで昆虫採集するほど手間暇かけた自演乙』ってところだ。
想像してみ? 笑えるだろ?
「なっ!? お、俺を馬鹿にしてやがんのか!?」
馬鹿にはしてねぇよ、呆れてうんざりしてるだけだ。
っつうか、酒もほとんど飲んでねぇ素面で動揺する素振りなんか見せんなよ。明らかに俺が言った奴らの一味ですよ~、って自分から暴露したようなもんじゃねぇか。
まあ、ハゲ斧の反応を確かめずとも、毎度のように人が多い時間帯に現れてはいちゃもんつける冒険者連中が、単独犯なわけがねぇ。
『トスエル』の評判を意図的に下げ、陥れるために徒党を組んでいると考える方が自然だ。で、全員が冒険者だっつうところから、依頼でも出されて派遣され続けてる、ってところか。
「滅相もない。私は単に事実と個人的推測を申し上げたまで。お気に障ったのであれば謝罪いたしますよ、紳士殿?」
「テメェ、絶対俺のこと馬鹿にしてんだろ!?」
見るからに大仰な執事の礼を取ってやると、さらに冒険者たちのツボを刺激し、さらなる笑いが引き起こされる。
毎回思うが、酔っぱらいの笑いのハードルひっくいな。見せ物だと思わせたいこっちは助かるけどよ。
ただし、槍玉に挙げられたハゲ斧は青筋を量産し、ついにぶちキレた。
「ふざけんじゃ、」
抜いた両刃斧を両手で持ち上げ、貴族対応をしていた俺へ殺意の視線を叩きつけた。
ふむ、明確な攻撃の意思を見せたのは初めてのケースだな。
これは少々派手に暴れてもいい、っつう依頼内容の書き換えがあったか、単にハゲ斧に堪え性がなかっただけか?
「ねぇ、」
いずれにせよ、さすがに流血沙汰になれば《魂蝕欺瞞》の誤魔化しに無理が出てくる。
スキルの記憶改変や意識誘導は、まだ実際に起きた事実をベースにする分、現実との齟齬があると違和感をもたれちまう。まだ《魂蝕欺瞞》のレベルは3だし、矛盾に気づく可能性がなくはない。
かといって客の記憶を完全に消去しちまうのも難しい。酒を言い訳に記憶が曖昧になってんじゃねぇの? ってのはだいぶ飲んでる奴にしか通用しねぇ。アルコールの強さも個人差があるしな。
この騒ぎが始まる直前に来た客もいる中、全員の記憶を飛ばしちまえばそこには不自然さが残る。そうなると、記憶が飛ぶ店っつう疑惑から客が『トスエル』に近づかなくなるかもしれねぇ。
そうなれば結局悪評につながり、店に痛手を負わせちまう。
ノリに乗ってる状態の今、それは避けたい。
「ぞぉ!!」
思考に没頭している間にハゲ斧の叫び声が終わり、両刃斧の空気を引き裂く音が聞こえてきた。
さぁて、どう対処するのがベストかね?
「…………なっ!?」
とのんびり構えていると、金属同士が擦れた音が耳をつんざき、俺が何かする前にハゲ斧が驚きの声を上げた。
「……頑固オヤジ?」
気取った礼から頭を上げると、そこには俺を庇う形になる頑固オヤジの背中があった。
ハゲ斧の両刃斧を受け止めてんのは……、おいおい包丁で片手かよ。四角い厚刃の中華包丁っぽいのを逆手に握り、斧の刃を直角に受け止めて平然としてやがる。
「こんの大バカ野郎。お客様と揉め事起こしやがって。後で覚えてろよ」
「そっちこそ。現役相手にどこまでやれるんだ、元冒険者さんよ?」
「抜かせ。この程度のひよっこなら、一分経たずに三枚おろしだ」
おーおー、怖ぇ怖ぇ。
さすが元『黒鬼』級冒険者、ってところか?
《生体感知》で頑固オヤジを見ると、魔力を全身と包丁に満遍なく通し、高レベルの身体強化をしているのがわかる。
単純に筋力任せのハゲ斧とは雲泥の差だ。我流の名残か細かいところは荒削りだが、実力に裏打ちされた技量が窺える。
「な、何だよテメェ!」
「ウチの料理を一切仕切ってる料理人だよ。アンタの言う虫が入ってた料理も、俺が仕込みから味付けまでやったんだがなぁ?」
「はあっ!?」
『ええっ!?』
え? なんで他の冒険者も驚いてんの? まさか、ママさんがやってたと思ってたのか? ずっと給仕してたからありえねぇって気づかねぇか?
あー、でもそういや、頑固オヤジってほとんど客の前に顔を見せねぇから、誰が調理してんのかはわからねぇか。
それか、ママさんが仕込みをした料理を、人相の悪ぃ頑固オヤジが仕上げてた、っつう思いこみでもあったのかねぇ? それなら納得だわな。
何せ、『トスエル』の料理ってどこか母親の手料理を思わせる、優しい味付けが多いからな。それがゴリゴリのおっさんが作ってたなんて、冒険者としても信じられねぇし、信じたくなかっただろう。
ちなみに、ママさんや看板娘も料理は出来る。が、それはやっぱ家庭料理の域を出ず、修行を積んだ頑固オヤジみてぇに、店で出してるものほど上手いってわけじゃねぇ。
う~ん、これはこれで『トスエル』のイメージが崩れちまったか?
「それで? アンタは俺の料理の何が気に入らねぇって? ここいらじゃ『猿王の森』でしか見ねぇフォトムを、ダンジョンに入れねぇ俺らが紛れ込ませたとでも言うつもりか?
だったらアンタ、調理に一切使えねぇフォトムの入手経路から、俺らがお客様に出す料理にそれを入れるメリットまで、全部説明出来んのか? フォトム以外に示せる確たる証拠は? ねぇんなら、アンタの一方的な言いがかりと判断するが、どうだ?」
「ぐ……っ!?」
うわ、頑固オヤジの奴、斧を受け止めた包丁を握る手の力を徐々に上げて威嚇してやがる。頑固オヤジの強面もそうだが、他の冒険者に気づかせねぇのがすげぇな。
伊達に高ランク冒険者の入り口に立ってたわけじゃねぇ、ってか? 今はどうか知らねぇが、二ヶ月前は『黄鬼』級だったハゲ斧じゃ、相手にすらなんねぇだろう。
「ちっ! こんな店、二度とくるかよ!!」
頭が弱いハゲ斧も、頑固オヤジ相手にゃ分が悪いとすぐに悟ったらしい。負け犬臭が漂う捨て台詞を残し、金も払わず逃げていった。
仲間らしい奴も数人いたが、そいつらもハゲ斧を追って出て行っちまった。まあ、コイツらは大した注文もせずに喚いてたから、損失は大したことねぇか。
「んだと、あのクソ野郎……っ!」
「抑えろ頑固オヤジ。相手にするだけ損だ」
とはいえ、調理者の頑固オヤジとしては、せっかく作った料理を冒涜された上、一方的に店を悪く言われちゃ黙ってられねぇんだろう。
今にも飛び出しそうな形相でハゲ斧の背中を睨みつけていた頑固オヤジに、周りには聞こえねぇ声量で注意を促す。
「……ってわけで、バカな客と『トスエル』の泣く子も黙る料理長の対決でした! 拍手!!」
『お、おおおおおっ!!』
ちょっと頑固オヤジの刺激が強かったのか、反応までに間があったものの、冒険者たちは俺の口上につられて拍手と歓声を上げた。
こっそり《魂蝕欺瞞》を発動させ、突発の寸劇扱いに刷り込ませりゃ何とか誤魔化せるだろう。
「……ちっ、俺は見世物じゃねぇぞ」
「そうした方が丸く収まるんだ、ママさんと看板娘のためにも、我慢しろ」
眉間の皺を濃くした頑固オヤジをなだめつつ、俺も笑顔で拍手を送る。
今回の騒動は、こうして無理矢理収めてやった。
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名前:ヘイト(平渚)
LV:1(【固定】)
種族:イセア人(日本人▼)
適正職業:なし
状態:健常(【普通】)
生命力:1/1(【固定】)
魔力:1/1(0/0【固定】)
筋力:1(【固定】)
耐久力:1(【固定】)
知力:1(【固定】)
俊敏:1(【固定】)
運:1(【固定】)
保有スキル(【固定】)
(【普通】)
(《限界超越LV10》《機構干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV2》《神術思考LV2》《世理完解LV1》《魂蝕欺瞞LV3》《神経支配LV3》《精神支配LV2》《永久機関LV3》《生体感知LV2》《同調LV3》)
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