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69話 スキル調査その13

 はてさて、『トスエル』一家にやらかしちまってから、二週間が経過している。


 あれからは一応、宣言通りにダンジョンに行って出稼ぎに勤しんだ。で、解雇も覚悟で帰ってみたが、蓋を開ければ何も言われなかった。


 ただし、さすがにあれだけキレたように見せちまったら、俺をどう扱っていいのかわからなくなったんだろうな。


 頑固オヤジも、ママさんも、看板娘も、必要最低限の会話以外では、俺に話しかけてこなくなった。


 特に、看板娘の態度がおかしい。表情がずっと強ばってて、明らかに無理してるのが丸わかりだった。俺が話しかけたときの引きつり具合は半端じゃない。


 俺のキレた演技で吐いた台詞への負い目、にしてはおかしな態度の期間が長い。


 看板娘の性格から考えて、数日後くらいには謝りにきて終了、ってのを予想してたんだが、一向にそうなる気配がねぇ。


 頑固オヤジとママさんも、一気に俺への態度がよそよそしくなりすぎだし、これは何か隠してやがるな?


 ま、大方の見当はついてっし、しばらくは様子見だな。


「おし、『代謝草』ゲット、っと」


 そして、今日も今日とて『餓狼(がろう)森山(しんざん)』で山菜摘みに勤しむ俺。現在は日をまたごうかという時間帯で、昼間よりも気温が下がって寒ぃのなんの。


 とはいえ、体温の低下程度で思考が鈍ったり、体調が変化することが少ねぇから、我慢できっけどな。《神術思考》と《永久機関》のスキルさまさまだ。


 後は、夜中で活動する時は『種族』を『異世界人』に変更している。こんな夜中にダンジョンに入るバカはいねぇから、人間の目を気にしなくていい。


 何せ、基本的に昼行(ちゅうこう)性の人間にとって、夜中の無理な行動は即、死に繋がる。


 俺がいるような、視野が暗闇に閉ざされ、遮蔽物も夜行性魔物も多い山型のダンジョンなんて、余程の実力と自信がねぇ限り、夜に挑むなんて考えつきさえしねぇだろう。


 実際、夜中のダンジョン散策で人間の気配を感じたことは一度もねぇ。ここら周辺の冒険者連中は、実力か自信かその両方が欠落した奴らばかりなんだろうな。チキン乙。


 ま、そのおかげで俺は伸び伸びと資金稼ぎが出来てるわけだから、感謝すべきだろう。


 店の時間を気にしなきゃなんねぇ昼間よりもダンジョン散策時間が長めに取れっから、持ってく袋も多めに出来っし、パンパンにしても『異世界人』で運べる。


 いわばボーナスタイムだな。スマホ持ってなかったからアプリゲーはしたことねぇし、実態はよーわからんが。


 ってわけで、『トスエル』を抜け出してから二時間半。


 早くも一つ目の袋はポーション類の原料でいっぱいになった。今見つけた『代謝草』は容量の半分ほど埋まった二つ目の袋にぶち込んでいく。


「ガアアアアッ!」


 せっせと金稼ぎに専念していると、ガサガサという葉擦(はず)れの音の直後、背後から獣のうなり声が発生した。


 獣はどうやらかなり殺気立っているようで、今にも俺を引き裂きそうな気配を放ち、肉薄する。


「グルアッ!」


 そして、振り向かない俺を(くみ)しやすい獲物と思ったのか、短い咆哮(ほうこう)とともにしゃがんだ俺の体をすっぽり覆う影を落とした。


 木々の隙間から差した月光に照らされた獣の姿は、熊のシルエット。大きな腕を振りかぶり、俺の頭を潰そうと振り下ろされたところだった。


「ア……ッ? グラアッ!?」


 しかし、熊は全く不必要なタイミングで片足を上げ、毛深い豪腕を俺の頭上で空振らせた。


 そのまま腕よりも足の勢いが強かったのか、自分で勝手にバランスを崩した熊は背中から後ろへ転倒してしまう。


「お勤めご苦労さん」


『代謝草』を丁寧に引っこ抜いて立ち上がり、仰向けに倒れている熊を見下ろした。


 この熊はサヴィジベアーっつう、『赤鬼(オーガ)』級に指定された全長4mほどの魔物だ。熊のくせにこの時期でも冬眠してねぇ、活動的な凶暴熊だな。


 得意なのは体内の魔力を循環させての身体強化。


 ただでさえ魔力、筋力、耐久力、俊敏、体重などなど、どれも凶暴熊の方が人間より上なのに、さらに高まる身体能力のおかげで、一度暴れたら手がつけられねぇんだと。


 ランクの基準は、同ランクの冒険者4人が力を尽くして互角、って程度の強さだな。基本的に同じランクだったら人より魔物の方が強いから、当たり前なんだが。


「ガアッ! …………がぁ、っ!?」


 そんなぜってぇに出会いたくねぇ(たぐい)の森の熊さんだが、ある程度人の表情がわかるのか、俺のどこまでも見下した嘲笑(ちょうしょう)に怒りの声を上げ、すぐに立ち上がろうとした。


 が、地面につけた手はそのまま体を持ち上げることはなく、胸の方に移動させた。目は驚愕で見開かれ、口をぱくぱくさせながら足もばたつかせる。


「が……、……ぐ…………」


 しばらく陸に打ち上げられた魚みてぇな反応をした後、凶暴熊はそのまま筋肉を弛緩(しかん)させた。


 袋を肩に担ぎなおした俺の下には、命の光を失った瞳が固まったまま動かない。


 確認するまでもなく、死んでいた。


「またこの熊か。夜中になったらいっつも動き出すんだよなぁ。ま、排除は簡単だから別にいいけど」


『異世界人』でも無駄に荷物になるもんを運ぶ気にはなれず、凶暴熊を放置して次の採集ポイントに向かう。死体はいずれ消えるから放置で構わねぇ。


 通常の山なら、あまり特定の資源ばかりを取りすぎるといずれ枯渇し、生態系に変化をもたらす危険性があるが、人手は俺一人だし環境破壊をするほどの被害はねぇ。


 加えて、ここは通常の地域より魔力の濃いダンジョンだ。ボスを含めた魔物がいなくならねぇ限り、植生は一定に保たれる。ちょっと取りすぎた程度だったら、次の日にゃまた新しいのが生えてきてるよ。


 こういうところも、ステータス同様ゲームっぽくて助かる。気分は狩りゲームだ。オトモはいねぇけど。


「ホロロロロロッ!」


 そこからいくつかポイントを移動し、すでに何回もお世話になっている『力木(りきぼく)』から種を拝借(はいしゃく)していると、またまた背後から独特な声が聞こえてきた。


 今度はナイトオウルか。こいつは森の暗殺者とも言われているフクロウの魔物で、鳴き声とほぼ同時に、対象の急所を鋭い爪で一突きにする攻撃を得意とする。


 フクロウなんだから夜行性なのは当たり前だし、わざわざ(ナイト)とかつけなくていいと思ったが、名前の由来は騎士さえ容易(たやすく)く殺すことからつけられたっぽい。


 ランクも倒しづらさから『黒鬼(ギガンテス)』級に認定され、レイトノルフじゃ討伐後の素材はかなりの金で売れるらしい。ま、2、3mもあるデカ鳥の素材なんて邪魔だし、俺には必要ねぇけど。


「ん」


 ほとんど聞こえねぇ羽ばたき音の代わりに、フクロウの声を頼りにして魔物の位置を特定した俺は、種を摘み取りながら《神術思考》の思考領域を割いてスキルを使用した。


「ホロロロ、っ!? …………ロッ!?!?」


 すると、フクロウの声が不自然に途切れ、いきなり生じた羽ばたき音が異変を伝え、ドサッ! と地面に何かが落ちた。


 ゆっくり『力木』の実りを回収し終えて背後を確認すると、数m先にフクロウが地面でジタバタ暴れていた。それはさっきの凶暴熊の再現のよう。


 やがて無様に振り回していた翼も動かなくなり、血の代わりに羽をまき散らしてフクロウは事切れた。


 お察しの通り、この魔物の変死は俺のスキルが原因だ。


 やったことは、至極単純。


 まず最初に使ったのが《同調》。


 対象はさっきまで触れていた『力木』ではなく、『大気』。


 厳密には、大気の中に含まれる『気体元素』だ。


《同調》の最初の説明は『他の存在とスキル所持者を《同調》させる』だった。『他の存在』って記述から、あらゆるものを対象に出来ることが(うかが)える。


 そこで、目に見えなくて触れた感触がなくても、確かに存在する『元素』も『物質』であることから、スキル対象に出来るんじゃねぇか? って試してみたんだよ。


 ここは異世界だから、地球と比べりゃ大気組成の種類や割合は違う。


 この世界は魔法優位で科学が発展してねぇこともあり、今の《世理完解(アカシックレコード)》じゃ大気組成まではわかんねぇ。大気中にどんな『元素』が漂ってんのかは、ぶっちゃけわかんねぇままだ。


 だが一方で、『日本人(おれ)』が今まで生きてこられたことから、この世界の大気と地球の大気に著しい違いがあるわけじゃねぇだろう。少なくとも、『窒素』や『酸素』はほぼ同程度の割合で存在しているはずだ。


 そう仮説を立てて試した結果、あっさり成功。《同調》は効果対象をしっかり認識さえしてれば、対象の詳細を把握してなくてもいいらしい。


 大気中の『元素』を対象に《同調》を仕掛けることを確認できた俺は、次にそれを何かに有効活用出来ねぇか考えた。


 結果、身体的魔力的違和感を出さない、《同調》の『大気浸食』を可能にした。


 イメージはソナーだ。俺の肉体を中心に、波紋みてぇに《同調》を大気中の『元素』に仕掛け続け、徐々に《同調》範囲を広げていく。


 そんで、【普通】か《生体感知》であらかじめ察知していた『敵』に《同調》を仕込めたら、後は《神経支配》で即殺だ。


 凶暴熊とフクロウにやったのは、《神経支配》による心肺機能の強制停止。


 脳からの電気信号を阻害することで心臓と肺の活動を停止させ、意図的な心不全と呼吸困難で酸素及び魔力欠乏を引き起こしたんだな。


 昼間とは違い、夜中のダンジョンは魔物の凶暴性が増し、見境(みさかい)がなくなる。『副業』の夜中はずっと、魔物から頻繁(ひんぱん)に襲撃を受けていた。


 そいつらの迎撃を繰り返したおかげでスキルを試す機会が増え、《同調》や《神経支配》などのレベルが上がって、安定した技だな。他にもいくつかレベルがあがり、スキルの精度が上がって助かっている。


 とはいえ、『元素』を対象とした『大気浸食』は、まだ万能とはいえねぇ。


 問題点は、《同調》させた『元素』一つ一つに意識を割かなきゃなんねぇから、俺自身が無防備になりやすい点。


『大気浸食』は《神術思考》の『思考領域』をだいぶ食う上、雑念を払って集中力を維持するため《明鏡止水》も併用しなきゃなんねぇから、強力な分使い勝手は結構悪ぃ。


 また、《神術思考》が《同調》でほぼ埋まっちまう弊害(へいがい)で、《同調》を飛ばせる距離には制限がかかる。


『大気浸食』はその原理から、『原子』一つ一つに《同調》を施す必要があり、その際ほんのわずかだが一定の情報量が発生する。


 それは『大気浸食』の距離が離れるほど、《同調》した『原子』の数が増えて情報量が膨大となり、《神術思考》の思考処理領域が一気に圧迫されるんだ。


 よって、本当に必要最低限の思考を残すため、その都度《同調》を解除して《神術思考》に余裕を作らなきゃなんねぇ。その限界が、『大気浸食』の射程範囲と言える。


 パソコンがイメージしやすいな。メモリとCPUが《神術思考》、白紙のメモ帳ファイルが《同調》した『元素』だとする。


 メモ帳ファイルなんて、新規に一つ作っただけじゃパソコンの作業効率に何の影響も与えねぇだろうが、もしそれが無限に作成され続けたらどうなる?


 一つ一つのファイルがカスみてぇな容量でも、無限に増えればいずれ『思考領域(メモリ)』を圧迫し、『処理速度(CPU)』も遅くなる。行き着く先は『思考停止(フリーズ)』か『熱暴走(オーバーヒート)』だな。


 簡単にいや、『大気浸食』はやりすぎたら脳がぶっ壊れる。そうならないよう、思考領域の容量を調整した限界が、『大気浸食』の射程限界になるんだな。


《神術思考》のレベルが上がれば思考処理領域が広がり、自ずと《同調》の効果範囲は広がりそうだが、これも改良の余地がまだまだある。


 それに、《同調》の『大気浸食』における移動速度は《同調》のレベルに依存するようで、かなり遅い。


《神術思考》の処理速度が適用できたら、ほぼ一瞬で『敵』を捕捉できるだろう。


 が、今んところ『もわぁ』っとした感じに広がるので、対象に《神経支配》を発動させるまでにはどうしてもタイムラグが生じる。


『餓狼の森山』にいる雑魚相手だったら、こうして奇襲を受けきる前に間に合うんだが、それ以上の魔物が相手だとわずかな時間差が命取りになる。


 最悪の場合にゃ【普通】があるとはいえ、手札を増やすことは悪いことじゃねぇ。


 今後の課題は、この技の改善だな。


「っと、そろそろ夜が明けるな」


 そんな感じで、片手間に魔物を駆除しつつダンジョン内を歩き回り、下山予定時間には持ってきた袋いっぱいに薬草や珍味を回収できた。


 やっぱ『異世界人』だと移動が早く量を運べる分、資金稼ぎがはかどるな。


 これだから夜中のダンジョン巡りは止められねぇぜ。


 時々俺に襲いかかってぽっくり()った魔物をスルーしつつ、『異世界人』のステータスをフルに活用した速度で下山。


 そのままレイトノルフまで直行し、検問の前で『日本人』に『種族』を戻した。




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名前:ヘイト(平渚)

LV:1(【固定】)

種族:イセア人(日本人▼)

適正職業:なし

状態:健常(【普通】)


生命力:1/1(【固定】)

魔力:1/1(0/0【固定】)


筋力:1(【固定】)

耐久力:1(【固定】)

知力:1(【固定】)

俊敏:1(【固定】)

運:1(【固定】)


保有スキル(【固定】)

(【普通】)

(《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV2》《神術思考LV2》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV3》《神経支配LV3》《精神支配LV2》《永久機関LV3》《生体感知LV2》《同調LV3》)

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