67話 山菜摘み
俺が『餓狼の森山』に訪れたのは、この山で採れる希少な薬草に類する植物や、単純な食い物系の山菜が目的だ。
頑固オヤジに啖呵を切った俺だが、レイトノルフ内でできる出稼ぎなんて存在しねぇ。あれば看板娘に拾われる前に、とっくにそれで稼いでるしな。
そうなると、俺にできる手っ取り早い資金稼ぎは何か? っつったら、異世界ファンタジーじゃ定番のダンジョンしかねぇだろ?
ステータスはカスでも、スキルのおかげで戦えねぇわけじゃねぇんだ。能力は最大限に活用しねぇとな。
じゃあ、最初からそれやればいいじゃん、って疑問に思われるんだろうが、すぐにその手段に移せなかった理由はちゃんとある。
冒険者協会の『監視』だ。
就活中にずっと感じていた、【普通】で感じた冒険者と思われる『監視』の目が、結局『トスエル』に厄介になってから一週間は継続していたからな。
その間に高難度ダンジョンなんかに行って暴れてみろ。一発で警戒対象に認定されるわ。
とはいえ、ちょうど俺が客の『教育』を始めたくらいから、『監視』がなくなったんだよなぁ。
おそらく喋り以外は真面目な俺の生活態度から、冒険者への悪評を流布するような真似はしないと判断されたからだろうけどよ。
客である冒険者に喧嘩を売ったのも見られていたはずだが、特に干渉してはこなかった。協会的には冒険者側に非があると判断したらしい。
もしかすると、むしろ冒険者側の詐欺まがいの行為が多々あったからこそ、『監視』の撤退が早まったのかもな。
ただ裏を返せば、『トスエル』に冒険者の客が減ったのも、冒険者協会から指導でも入って来店しづらくなった、っつう事情もありそうだが。
とまあそんな事情があって、冒険者の目っつう外的要因と、『トスエル』の客が減って閑散になったっつう内的要因が見事にマッチし、俺はようやくダンジョンにお出かけすることができた、っつうわけだ。
「よ、っと」
俺の本領を発揮できるまでの期間が長かったなぁ、と振り返りつつダンジョンに入って一時間ほど。
道中魔物を何体も見かけたが、俺の魔力が『0』だからか総スルーされたため、何の障害もなく山歩きに興じることができている。
山、っつっても傾斜はそこまで急じゃねぇ。俺みてぇな虚弱体質でも、若干息が切れるだけで中層くらいの位置まで上れたんだから、散歩とかにちょうどいいくらいなんだろう。魔物さえいなけりゃな。
「さって、目標は『代謝草』と『魔源草』に、『剛力の種』と『剛体の種』と『流魔の種』と『飛脚の種』、後は食材になるキノコとか野草・香草類ってところだな」
今回狙う獲物の確認をしてから、寒空の下でも落ち葉一つない違和感バリバリの森を探索していく。
足下に視線を固定し、【普通】や《生体感知》を併用しながらの魔物の気配感知も忘れねぇ。
俺が主に狙うのは、ステータスを回復したり一時的に強化したりするアイテムの原材料になるものが中心だ。
『代謝草』は名前だけじゃピンとこないかもしれねぇが、生命力を回復させる『生命ポーション』の主原料だ。
RPGなら薬草的なポジションだな。葉っぱを擦り潰した汁に魔力の体内代謝を促す効果があり、加工すれば傷の治りが早くなるんだと。
見た目は、燃え上がった炎を思わせるような形で葉っぱが何枚もついた、ふっつーに緑色の植物だ。外見が特徴的だから、それを目安に探せばいい。
『魔源草』はまんまだな。『魔力ポーション』の主原料だ。
これも葉っぱを擦り潰せば出てくる汁を加工すると、呼気から取り込める大気中の魔力を体内にとどめ、肉体への定着を手助けしてくれる効果を持つ。即回復じゃなく、リジェネ的な回復薬になる。
見た目は、まず細めの茎が上に伸び、そこから分かれた小さな節がぴょんぴょんついていて、節の周りに丸っこい葉っぱがたくさんついている、青紫っぽい植物だ。
吸血鬼の肌もそうだったが、魔力を多く含むとそういう色になるんだろうか?
『剛力の種』、『剛体の種』、『流魔の種』、『飛脚の種』の種シリーズはそれぞれ、筋力、耐久力、知力、敏捷を一時的に上昇させるポーションを作る主原料になる。
これはすりこぎなどで粉砕し、他の材料と混ぜて煮詰めたりすると効果上昇が見込める。
これらの種は『力木』というそのまんまな名前の木が、枝ごとにランダムに実らせる種子になる。
木さえ見つけりゃ数は採れるが、より効果の高いアイテムへと生成するのに量がいるから、売るときは地球でいうグラム単位で計算される。
後は『トスエル』の料理にも使わねぇような、滅多に市場に出ねぇ珍味系の食材が狙い目だな。
それらは高難度のダンジョン内部でしかお目にかかれない上、ダンジョンに入る奴らは基本的に魔物の素材狙いだから、食材系は見向きもされねぇ。
よって、市場への供給量が少ねぇから自ずと希少価値が上がり、単価が高ぇんだよ。
っつうことは、それほど大量に持ち運ばなくても金になるから、体力も筋力もねぇ俺にとっちゃすげぇ扱いやすい素材なんだ。
そういう意味じゃ、重量の問題で魔物の素材は不適格だ。
『異世界人』なら運べるだろうが、町中は『日本人』で行動せにゃならんのに、オーバースペックの荷物を抱えて移動するのは無理があるし不自然だろ?
それに、自生している希少植物を探すより、魔物を倒す方が断然手間だ。
解体方法はわかっても、解体道具が重くて邪魔になるし、山中で常に動き回る魔物を追わなきゃなんねぇし、個体差や死体の損傷具合で売値が変動するし、俺にとってデメリットが多すぎる。
何より、魔物の素材はかさばる。いくら単体が小さくて希少な部位を厳選したとしても、『トスエル』から借りた麻袋じゃ容量は知れてるからな。
持ち運べる個数が限定されるなら、より確実性が高く、軽くても金になりやすい植物の方が効率がいい。
「お、『魔源草』発見。しかも三連チャンか。順調順調」
とどめに、一応今の俺の本業は、宿屋兼飲食店の、ウエイター兼経営コンサルタントだ。
テ○プル大学を卒業した覚えもねぇし、ハー○ードのMBAも取っちゃいねぇが、経営再建をしている最中に何度も店をほっぽって、山菜採りに夢中になっているわけにはいかねぇ。
これはあくまで『出稼ぎ労働』で、言い換えりゃ『副業』だ。俺の身は自由なんかじゃなく、いつでも出来る手段じゃねぇ、ってことを忘れちゃならねぇ。
ただでさえ、『餓狼の森山』まで『日本人』の足で徒歩往復一時間かかり、さらに入り口から中層も往復で二時間歩く必要がある。
暇だっつっても、さすがに夜の営業までには店に戻んなきゃいけねぇだろうから、自然とダンジョンを散策できる時間は限られてる。
そうした時間的制約も考えれば、魔物なんて探してらんねぇだろ。
その点、植物だったら《世理完解》で自生地を探せば余計な手間もかけずにある程度の収穫量は見込めるし、時間の調節も簡単だ。
「おっし。今日はこれくらいで引き上げるか」
っつうわけで、あらゆる面でおいしい山菜摘みは順調に進み、タイムリミットがきたから撤収することになった。
ダンジョン一番の懸念である魔物も、結局下山するまで一体も襲ってくることはなかった。
それだけ俺の存在感が希薄なのか、はたまた俺に食料としてのうまみがねぇのか知らねぇが、喜んでいいのか悲しんでいいのか複雑な気分だ。
帰路の道中も至って平和に進み、検問じゃまた商人のおっちゃんになりすまして、レイトノルフに戻ることが出来た。
後はこれを売るだけだ。時間的にまだ店じまいにゃ早ぇだろうから、『トスエル』に戻る前に金に換えちまおう。
「さぁて、どこに売っ払ってやろうかね、っと」
俺が取ってきた野草の時価と売値を計算しつつ、いくら渡せば『トスエル』の補填になるかも考えながら、足取り軽く大通りを歩いていった。
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名前:ヘイト(平渚)
LV:1(【固定】)
種族:イセア人(日本人▼)
適正職業:なし
状態:健常(【普通】)
生命力:1/1(【固定】)
魔力:1/1(0/0【固定】)
筋力:1(【固定】)
耐久力:1(【固定】)
知力:1(【固定】)
俊敏:1(【固定】)
運:1(【固定】)
保有スキル(【固定】)
(【普通】)
(《限界超越LV10》《機構干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV2》《世理完解LV1》《魂蝕欺瞞LV2》《神経支配LV2》《精神支配LV2》《永久機関LV2》《生体感知LV1》《同調LV2》)
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