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61話 捨てる神あれば拾う神あり

「やっぱり。三日前にうちにきて、仕事くれ! って押し掛けてきた人だよね?」


 両手で買い物袋を持ち、目を丸くして近寄ってくるのは、記憶に新しい女だった。


 年は俺と同じくらいで、身長は150そこそこと、背格好はチビに近い。が、あか抜けた読モ風だったチビとは違い、この女はがっつり田舎娘感がにじみ出ている。


 外見的特徴は白人系の金髪碧眼(へきがん)。王城にいた奴らよりは色素が若干薄いが、立派なイガルト人だな。


 特徴的なのは髪型で、三つ編みで二つ結びを肩に垂らす、典型的なお下げスタイル。


 顔は結構かわいいタイプなんだが、髪型同様服装も野暮ったくて、正直すごい地味。メガネでもかければ委員長と呼びたくなる雰囲気だ。


 で、俺がどこでこの女と会ったかというと、レイトノルフ三日目の累計58軒目で頭を下げた、飯屋をかねた宿屋の中だ。


 両親と娘一人という、ザ・核家族の個人経営の中流宿泊施設、って感じだったな。


 俺が就活したときは、料理担当のやたら厳ついオヤジが出てきて、「帰れ」の一言で追い出された。


 飲食込みのサービス業ってことで昼時を避けてぶっこんだんだが、仕込み中だったのか手に包丁を持ったままだったのが印象的だ。


 その去り際、一瞬だけ目があったのがこの女だ。


 包丁オヤジと並ばせるのはもはや犯罪だと思うくらいの美人な母親と一緒に、店内清掃中だったところで見られたくらいで、直接話すのは今が初めてだけどな。


 にしても、よく俺のこと覚えてたな、この女? 顔を見る機会なんざ一瞬だったはずだぞ? あの一回だけで覚えたってことか?


 だとしたら、大した記憶力だな。宿屋か飲食店なんかにある、サービス業特有の特殊能力なんだろうか? お得意さんを一瞬で識別する、的な?


「確かにそうだが、アンタは確か、『トスエル』って宿屋の娘さんだったよな? こんな時間に買い出しか?」


「あ、これ? ちょっと明日の食材で足りない物が出来たから、買い足してきたの。いつもは昼のうちに仕入れてるんだけど、明日は時間がなさそうだったから、今日中に買っておこうと思ってね」


 女は抱えた紙袋の中身が見えるように傾けた。


 ふむ、果物や香辛料みたいなものが中心らしい。果物は近くの森型ダンジョンの浅い場所で採れるもんで、香辛料は隣国からの輸入品だな。


 隣国の商品がこの町にある、ってことは貿易に関しては完全に遮断しているわけじゃねぇらしい。ま、町単位では、って話かもしれねぇがな。


「というか、まだ仕事探ししてたの? あれからずっと?」


「まあなー。この町にきてから200以上回ってみたけど、見事に全滅だったよ。昨今の就職事情は相当厳しいらしい」


「そんなに!?」


 休みや食事の暇を惜しんで大小の規模問わず店に押し掛けりゃ、一週間でもそれなりに回れるもんだ。日本の就活事情と違って、町の広さ程度だったら一日でそこそこ回れるしな。


 とはいえ、短期間で三桁の店に売り込みかけてたら、そら驚くわな。


『トスエル』の娘、……面倒だ。看板娘でいいだろ。その看板娘はめっちゃ大仰に驚いていた。


「じゃ、じゃあこれからどうするの? 住む場所は?」


「ねぇな。これから最近行きつけのスラム地区の裏路地に行って、適当に休むつもりだったよ」


「そこ絶対休めないから!! 犯罪者の巣窟(そうくつ)だから!! 行きつけとかありえないからっ!!」


 おおう、地元民の突っ込みはなかなかにキレがあるな。


 お前正気か!? って感情がダイレクトに伝わってくる。


「……あぁ~、もうっ! そんなの聞いたら放っておけないじゃん! わかった、今度は私からもお父さんに頼んでみるから、一緒にうちに行こう! はい決定!!」


 すると、何か自己完結したらしい看板娘は、斜め上の方向性で話を強引に帰結させた。


 ちょい待て。俺の同意を求めるやりとりはどこに消えた? 一方的すぎんだろうが。


「は? 所詮(しょせん)他人のことだろ? ほっとけほっとけ」


「困ってる当事者の君がいう台詞じゃないよね!? そこは素直に『ありがとう』でいいじゃない!?」


 反射的に俺の口から出た言葉は、果たして遠慮だったのかただの反発だったのか。


 すげなく否定された看板娘は、またしても華麗な突っ込みを披露してくれた。切れ味抜群だな。


 いや、俺としちゃ非常に助かる提案なのは理解してんだぞ? ただ、いきなりの超展開についていけねぇんだよ。


 後は、自分で言うのもなんだが、基本的に俺は(あま)邪鬼(じゃく)だからな。


 看板娘の提案が、たとえ見返りを求めねぇ親切心からくるもんでも、どうしても裏を疑っちまう。


 何が目的だ? この提案で看板娘に何のメリットがある? この話に乗ることで、俺に生じるだろうデメリットはどこにある?


 他にも、俺と看板娘の間に生じる損得勘定を見えないそろばんで弾き、結果看板娘にメリットがほとんどねぇからこそ、余計に疑っちまう。


 悪意しかねぇ人間なら信用できて、悪意のねぇ人間なら疑心を抱くとか、色々人として終わった感じが否めねぇな、俺。


「っつか、一度断られた場所にもっかいいくとか、ダサくね?」


「君の生き死にがかかった状況の判断基準がダサいってなに!? それに、今度は私が口添えしてあげる、っていってんじゃん!?」


「アンタの口添え効果はいかほどだよ? あのオヤジ相当頑固だろ? しかも、未婚でかわいい盛りの一人娘が、夜の買い出しから帰ってきたら、男連れの上そいつをうちで雇ってやれって援護射撃するなんて、親父からしたらふざけんな! だぞ?

 俺が予想するに、『テメェ、俺の娘を(たぶら)かしてんじゃねぇぞ!!』の一言から始まり、胸ぐら掴み上げて顔面グーパンチの流れが出来上がってるんだが? 実の娘としては、そこんとこどうよ?」


「うっ……。確かに、お父さんならやりそうだけど…………、そ、そこは私もうまくやるって!」


「それが逆効果なんだよ。むしろ、どこの馬の骨ともしれねぇ俺を、何とかして排除しようと必死になるはずだ。

 自分で言うこっちゃねぇが、俺は身分不詳で金もねぇ、浮浪者同然のろくでなしだぞ? そんな奴を強く擁護(ようご)しちまうと、アンタが俺に弱みを握られた、みてぇなあらぬ誤解を招きかねねぇだろうが」


「えー……、あー…………、そ、そう、かも?」


「ほれみろ。計画性ゼロ、勢い任せ、実現性皆無の穴だらけじゃねぇか。どう考えても俺が無駄にボコボコにされる未来しか見えねぇんだけど? そんな負け戦濃厚な条件で『トスエル』に行けってか? なかなか無茶を言うお嬢さんだな?

 それともあれか? 就職難民である俺に餌をちらつかせておいて、希望から一転して地獄を見る末路を、横目で見ながら心中あざ笑うのがアンタの趣味なのか? 悪いことはいわねぇから、もっといいストレス発散方法を見つけることをオススメするぞ?」


「人を勝手に加虐(かぎゃく)趣味扱いしないでくれる!? そんなこと微塵(みじん)も思ってないから!! 単に君の心配しただけだから!! 純粋な善意で力になってあげたいと思ってただけだから!!」


「そいつはどうも。ありがたすぎて泣けてくるぜ。だが、自分のことは自分で何とかする。上から目線の下手な同情はいらねぇよ。

 それより、早めに帰った方がいいぞ、アンタ。なんだかんだで夜も遅くなってんだ。女の一人歩きが危ねぇのは、どこの世界でも一緒だ。それに、あんまり帰りが遅いと、それこそあの親父がうるせぇぞ? さっさと帰って安心させてやんな」


「…………っ!!」


 何でか俺を実家に連れ込もうとする看板娘を説き()せ、帰宅を促してやるとめっちゃ(にら)まれた。


 え? 俺、変なこと言ってねぇじゃん? 何がご不満なんだよ?


 妙に食い下がる看板娘に不審感を募らせていると、いきなり近づいてきて俺の腕を掴みやがった!


「あっ! おい!? 何しやがんだ!!」


 あっぶね!! 腕の【普通】解除が間に合わなかったら、洒落(しゃれ)になんねぇ傷物にしちまうところだったぞ、おい!?


 字面(じづら)に反し、【普通】が日常生活で不便しかないという矛盾に苦悩しつつ、俺は捕縛されたまま腕を引く看板娘に抗議を上げる。


「……あぁ~、もうっ!! さっきから屁理屈ばっかりうだうだうっさい! 男なら細かいことを気にしないで、どっしり構えてなさいよ! とにかく! いいから君は黙ってついてくること! わかった!?」


「はぁ!? 無茶苦茶じゃねぇか!? いいから離せ、コラ!!」


「離しません! 未婚でかわいい盛りな女の子の一人歩きが危ないって言ったのは君でしょうが!? 早く帰れって忠告するくらいだったら、私に時間を使わせた君が、家まで送り届けるくらいの親切さくらい見せなさいよ! あと、人からの厚意はありがたく受け取っときなさい! 他人を疑うだけじゃ疲れるだけでしょうが!」


「うっ……」


 看板娘の邪気のない言葉に、喉から出かかった文句が全部引っ込んでいった。


 この不毛な論争が、俺の疑心暗鬼が原因なのは、当然わかっちゃいた。


 が、改めて指摘されると、男のくせに小せぇな! って言われてるようで、それ以上の反論が一気にしづらく、何も言えなくなっちまったんだよ。


 とはいえ、挙げていった問題は俺からしたら当然の懸念(けねん)だったわけで、看板娘に危機感がなさすぎるのが問題なのは変わらねぇ。


 人を疑いすぎるよりも、人を信じすぎることの方が危険なんだぞ?


 それがわかんねぇのか、このお嬢さんは?


 無限に()いてくる文句を内にためつつ、俺は看板娘に文字通り引きずられていった。




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名前:ヘイト(平渚)

LV:1(【固定】)

種族:イセア人(日本人▼)

適正職業:なし

状態:健常(【普通】)


生命力:1/1(【固定】)

魔力:1/1(0/0【固定】)


筋力:1(【固定】)

耐久力:1(【固定】)

知力:1(【固定】)

俊敏:1(【固定】)

運:1(【固定】)


保有スキル(【固定】)

(【普通】)

(《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV2》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV2》《神経支配LV2》《精神支配LV2》《永久機関LV2》《生体感知LV1》《同調LV2》)

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