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47話 vs.ゴブリン

 あれから無言の状態のまま、俺とワンコは簡素な馬車に乗せられ、城を後にした。


 馬車を牽引(けんいん)する動物は、見た目普通に馬だった。ファンタジー生物じゃなくて、ちょっとガッカリ。


 後、よく異世界ものの小説じゃ、乗り物にゃサスペンションがなくてキツいって書いてあったが、マジだな。


 車輪が石に乗り上げる度にケツがバウンドして打ち付けられ、視界が上下に揺れる揺れる。


 これ、目的地に着くまでにはほぼ確実にケツの殴打で猿尻化と、乗り物酔いのダブルパンチだぞ? 他の『異世界人』は大丈夫だったのか?


《神経支配》で直接乗り物酔いを誤魔化(ごまか)しつつ、都市の検問で一度停車した以外は、ずっこんばっこん揺られながら進んでいった。


 車内には俺とワンコ以外に、御者役を含めた数名の兵士。外見からして、ワンコ以外は全員イガルト人だな。


 会話らしい会話もなく、ただひたすらに馬車が移動する。外が見れる(のぞ)き窓もねぇから、今俺がどこに向かって移動しているのかすら、わからねぇ。


 ま、出発地点の馬車の進行方向と、馬車の速度を計算すれば、だいたいどの方角にどれくらい離れたか逆算できるけどな。


「降りろ」


 何度もケツがしばかれたせいで、そろそろ腰に影響が出始めてきた頃。


 馬車に乗せられてからおおよそ二時間といったところで、御者の兵士から命令される。


「う、っわ」


 で、馬車の扉を開いて出てみれば、なんてファンタジー。何気に城以外のファンタジーって、今が初めてなんだよな。


 だだっ広い空にはうろこ雲が浮かび、時折ありえねぇサイズの鳥っぽい何かが飛んでいるのが見える。


 真正面には、鬱蒼(うっそう)とした森との境界に木々が立ち並び、暗がりの奥から《生体感知》にいくつもの気配が引っかかった。


 馬車の通り道を見てみると、簡素な街道になっていてこの上を走ってきたっぽい。整備された道であんだけ揺れたのか、と微妙な気持ちになる。


 馬車を回り込んで森の反対側を見てみると、ひたすら平原だった。森の全体像は把握しきれねぇが、いきなり現れている森に違和感を覚える。


「なんでいきなり森が?」


「魔物が集まる場所は余分な魔力が集まり、土地に変異をもたらす。

 そうした特異な自然条件の土地はダンジョンと呼ばれ、主に冒険者の狩り場や兵士の行軍訓練などに用いられている」


 俺の疑問を拾ったのは、イガルト人の兵士だった。本当に必要最低限の情報だけを口にした、って感じで俺を見ないまま装備をチェックしている。


 ほう、これがダンジョンか。


 知識では知っていたが、やっぱ実物は迫力が違うな。


 魔物はどんだけ雑魚でも、人間なんかよりも保有魔力量が多く、そこにいるだけで大量の魔力を放出している。


 よって、魔物が大量に集まった場所は魔力のたまり場になりやすく、その土地の自然環境に大なり小なり影響を与える。


 変異した土地は居座った魔物の住みよい環境に変更されており、ある程度魔物の種類を推測できるのは優しい設計だな。


 目の前にある平原の中の突然の森だったり、砂漠だったり、湿地だったり、特殊な例では岩場や湖なんかも突然出現するそうだ。


 そうして魔力によって改変された土地をダンジョンと呼び、魔物が集中する場所もダンジョンと呼ばれている。


 ま、要するに魔物が大量にいるところがダンジョン、って認識でオッケーだ。


 ちなみに、魔物の強さの基準は魔力量もそうだが、どちらかといえば魔力の扱いに長けていればいるほど強い傾向がある。


 最弱の名を欲しいままにしている魔物、ゴブリンは魔力操作がダントツで下手だから、肉体スペックで劣る人間にあっさりと殺される。


 冒険者の最低ランクが武装した程度でやられるくらいだから、相当バカで雑魚なんだろうな。


 で、森っつう環境はゴブリンの影響でダンジョンになる、典型的な地形変異だ。


「なるほど。俺の相手はゴブリン、ってわけね」


「行くぞ」


 確認のためにワンコたちに振り向いてみたが、コイツら俺を無視してさっさと森の中に入って行きやがった。


 俺の訓練じゃねぇのかよ? 俺を放置して何したいんだ、お前ら?


 いちゃもんはいくらでも思いついたが、とりあえず飲み込んで肩を(すく)め、ワンコたちに続く。


 馬車には二人の兵士が残り、森に入ったのは俺、ワンコ、二人の兵士の四人だ。


 背の高い木々に日光が遮られ、森の中はかなり暗い。今は昼頃だし視界がゼロになる程じゃないが、木の陰からの奇襲とかにゃ注意する必要がありそうだ。


 植生は結構雑。少し辺りを見渡すだけでも、この世界じゃ熱帯に生える植物と、温帯に生える植物が共生していた。植物園よりも雑多な森の様子に、もの凄く違和感を覚える。


 が、先導の兵士はそんなことを気にもせず、進路に邪魔な植物を剣で切り払いながら進んでいった。


 後、魔物以外にも脅威が多い。感染症のデパートである蚊や、蛇や蜘蛛(くも)なんかの小型有毒動物にも注意を払わねぇとな。


 今更だが、冬服の学生服だけの無装備でぶっ込む環境じゃねぇだろ? 靴なんて上履きだぞ? 防御力いくつだよ?


「……いた」


 森に侵入して数分、さっそく魔物が出現したみたいだ。


 先頭の兵士が足を止め、剣を構えている姿が見える。


「『メシ~!』」


 俺も最後尾からそちらへ視線をやると、緑色の小さい人型が、棍棒を振り回して木の上の果実に手を伸ばしている。


 予想に違わず、ゴブリンだな。だが、予想以上にバカそうな感じで、ちょっと気が抜ける。


 同郷の日本人なら誰もが思い浮かべる、緑色の小鬼であるゴブリンは、自作の腰(みの)に棍棒と、期待を裏切らない装いだ。俺らが発見したゴブリンは一体だけで、集団行動が多いゴブリンとしては珍しい。


 そして、あのゴブリンは台詞通り、食いもんである果物を採ろうとピョンピョン飛び跳ねてる。棍棒を使えば取れる、微妙に取れない高さの果物に、延々と手を伸ばしてはジャンプを繰り返している。


 あんなんでも、魔力だけなら一般の人間よりも優秀なんだよな。


 そういうもんだと理解してても、何となく微妙な気持ちにならざるを得ない。


 あ、ゴブリンの言葉がわかるのは《世理完解(アカシックレコード)》の知識な。魔物の言語まで収録している《世理完解(アカシックレコード)》、マジパネェっす。


「魔物だ。行ってこい」


「…………へいへい」


 すると、コイツら魔物討伐訓練に初参加の俺に、何の助言もなくせっついてきやがった。さっさと済ませろ的な感情をダダ漏れにし、俺を鋭く睨んでくる。


 本当に俺を訓練させる気あんのか? いや、ねぇのはわかってんだが、そこまで露骨でいいのか?


 突っ立ってても始まらねぇし、俺は特に意識せずにゴブリンへ歩いていく。


 まともな戦闘訓練もしたことねぇんだ。それなりの知識はあっても、経験がねぇんじゃ小細工なんて無駄にしかならねぇよ。


「ちぃ~っす」


「『? チィ~ッス?』」


 とりあえず片手を上げて近づいてみれば、ゴブリンは野生ゼロで俺の言動を真似してきた。


 言語は使えても、知能は本っ当に低いな。少しは警戒しろよ。


 まあ、俺の格好や雰囲気が、全然戦闘向きじゃねぇってのも一因だろうけどよ。


「ちょっと相手してくんねぇ? 低脳ゴブリンさんよ?」


「『ムッ! ワカルゾ! バカニシタナ!』」


 ニヤニヤ顔で挑発すると、ゴブリンはようやく侮辱されたと思ったらしい。


 結局取れなかった果物を放置して棍棒を構え、襲いかかってきた。


「……ふむ」


 ドタドタと迫るゴブリンの姿を観察しながら、俺はどうやって殺すかを考える。


 上級スキルを所持している俺だが、この場にクソ王の配下がいる時点でそれは使えねぇ。後でスキルの存在を報告されたら面倒だしな。


 それに、後ろの兵士じゃなくとも、ついてきたらしい密偵の気配も二つほど感じられっから、迂闊(うかつ)にスキルを暴露するわけにゃいかねぇ。


 故に、俺が表だって使えるのは【普通】のみ。


 後は『日本人』のクズステータスで、どうやって戦うか、だな。


「『ギャアッ!』」


「よっ」


 何かやられた時みたいな叫び声を上げ、ゴブリンは棍棒を振り下ろした。


 動きは(のろ)いし、俺は半身になって棍棒を(かわ)す。


 さて、どうしよう?


「とりあえず鉄拳制裁ぃ!!」


 ま、最初から取れる手段なんて、ほとんどねぇんだ。


 なら、雑魚魔物相手に今の俺がどこまでやれるか、試すのも悪くない。


 そう思って、右手を握りしめた俺は、攻撃の後で硬直したゴブリンの横っ面に殴りかかった。


 直後。


 ぐしゃっ!!


「…………は?」


 俺はポカーンと口を開いて呆然としちまった。


 何せ、拳を振り抜いた後には、首が吹き飛んだゴブリンの死体があったんだから。


 潰れたトマトのように血潮(ちしお)が飛び散り、俺の顔に点々と跳ねる。学生服は【普通】のおかげか、ゴブリンの血を弾いてシミすら残さねぇけど。


 思考が停止した俺の前で、ゴブリンはゆっくりと膝を地面につき、倒れた。


「はん? 出来損ないでも、雑魚魔物くらいは倒せっか」


「何をしている? 次に行くぞ」


 まだ呆然とする俺の様子に、兵士たちは特に大きな反応を見せずに先を促した。


 が、俺はまだ衝撃から立ち直ることが出来ない。


 別に魔物を一発で殺せたことで驚いてるんじゃない。


 いや、それはそれで驚きなんだが、それ以上の違和感を覚えていたからだ。


(何だ、今の? 殴った感触すらなかったぞ?)


 状況的に、ゴブリンの頭を潰したのは、俺なんだろう。


 なのに、その際、全く抵抗感がなかった。


 生物の頭を殴った、っつう感触はおろか、ほんのわずかな引っかかりさえ感じなかった。


 さながら、空気を殴ったような、ただの素振りをしたような、そんな感覚。


 もし圧倒的なステータス差があったとしても、そんなこと、ありえるのか?


 それに、俺とゴブリンにあったステータス差は、俺が優位だったんじゃねぇ。


 ゴブリンの方が、圧倒的に高かったはずだ。


 それなのに、何の工夫もない、ただの拳で一撃?


 何だ?


 何かが、おかしい?


「早くしろ」


「…………わかった」


 しかし、違和感の正体はつかめないまま、()れた兵士の呼ぶ声に思考を中断させる。


 ワンコや兵士がいて、《生体感知》を常時発動しているとはいえ、ここはまだ魔物の巣窟(そうくつ)なんだ。


《神術思考》で考える余地はいくらでもあるとはいえ、初めての実戦と戦場で、考え込む余裕は作らない方がいい。


 この出来事の検証は、城に帰ってからゆっくりやればいい、か。


 俺は自分を無理矢理納得させて、兵士の先導に従い、さらに奥へと進んでいった。




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名前:平渚

LV:1【固定】

種族:日本人▼

適正職業:なし

状態:【普通】


生命力:1/1【固定】

魔力:0/0【固定】


筋力:1【固定】

耐久力:1【固定】

知力:1【固定】

俊敏:1【固定】

運:1【固定】


保有スキル【固定】

【普通】

《限界超越LV10》《機構(ステータス)干渉LV1》《奇跡LV10》《明鏡止水LV1》《神術思考LV1》《世理完解(アカシックレコード)LV1》《魂蝕欺瞞(こんしょくぎまん)LV1》《神経支配LV1》《精神支配LV1》《永久機関LV1》《生体感知LV1》《同調LV1》

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