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43.4話 バカは誰?


 チビさん視点です。


 なお、チビさんの恋愛ステータスは……

・ツンデレ ★★★★★

・イライラ ★★★★☆

・素直   ☆☆☆☆☆

 ……で、お送りしています。


 異世界召喚からおおよそ八ヶ月。


 アタシはカレン、長姫(おさひめ)、シホと行動をともにするようになり、より力をつけることができた。


 一番長く戦闘訓練をしてきたカレンからは、アタシの自衛手段だった近接戦闘に特化したスキルの扱いを。


 変に大人振ろうとしてちょっとウザい長姫からは、【再生】からヒントを得たスキル取得の補助を。


 いつもビクビクしてて子猫みたいなシホからは、感知系スキルのコツと、魔法スキル全般の取得補助を。


 それぞれ自分の得意分野を教えあいながら、実力をつけていった。


 そんなメンツと一緒に過ごしてきて、アタシも丸くなったと思う。


 未だ喧嘩を売ってくる奴はいるけど、必要以上に【幻覚】で過剰防衛することはなくなった。


 まともに相手をするだけ、体力と魔力の無駄だって気づいたってのもあるけど。


 何より大きいのが、他の異世界人は『敵』とすら思えなくなったこと。


 カレン、長姫、シホと比べたら、弱すぎて話にならないんだ。


 異世界人という狭いコミュニティーの中だけだけど、アタシはピラミッドの頂点付近に座ることになった。


 それがいい意味で余裕となり、異世界人の挑発を弱者の遠吠えと思えるようになったのが大きい。


 後は、『友達』だと、『味方』だと、『仲間』だと、思える子たちができた、ってのもある。


 カレンは大分腹黒だけど、一緒にいて気兼ねしない『友達』。


 長姫はアタシの嫌いな名字呼びのままだし小言がうるさいけど、背中を預けられるほどには信頼できる『味方』。


 シホはいっつもアタシたちにイジられて泣きそうになってるけど、戦闘では無類の強さを見せる『仲間』。


 一人じゃないってことが、これほど安心できるだなんて、知らなかった。


 それもこれも、全部は『アイツ』のおかげ…………、ってことにしてやってもいい。


 一応、多分、おそらく、きっと、『アイツ』との出会いが、アタシの人生を大きく変えた。


 アタシを終始バカにしてきた『アイツ』自身は、非常に、ひっじょ~~~~~うに気に入らないが、そこだけは感謝してる。


 …………じゃなかった、してやってもいい。


 まあ?


 今のアタシがいるのは、ほとんどがアタシの努力のおかげでもあるけど?


 一言。


 そう、一言くらいなら。


『アイツ』にお礼をいってやらんでもない。


 アタシが変われるきっかけくらいにはなったし、ほんのちょっとだけ後押ししてもらった形だし、不本意だけど、本当は不本意だけど、『ありがとう』くらいは、いってやってもいい。


 そう思って、異世界人と一緒に訓練をするようになってから、『アイツ』のことを探してたんだけど。


 何故か『アイツ』の姿は、どこにもなかった。


 さりげなく異世界人の顔を見て『アイツ』か確認しても、一向に一致しない。


 全部で千人くらいいるんだから、そういうこともあるかもしれない。


 が、仕方なくアタシの方から探してやっても、『アイツ』と出会うことはなかった。


 魔物討伐訓練でも、頻度(ひんど)が増す合同訓練でも、『アイツ』だけはどこにもいない。


 そんな状態がずっと続けば、少しは温厚になったアタシでも『アイツ』へのイラつきが日に日に増大していく。


 一回前の合同訓練では、召喚二ヶ月目以降からやたらと絡んでくるようになった猪崎(いさき)(ぎん)が対戦相手になり、ちょうどいいからと八つ当たりでボコボコにしてやった。


 猪崎は学校でも有名な不良で、ユニークスキル持ちだったけど、アタシにかかればどうってことない相手だ。バカだし。


 ま、カレンたちほどじゃないけど、猪崎もそこそこはやる方だけどね。ことあるごとに絡んでくるのは鬱陶しいけど。


 そういった経緯で、マシになったアタシの言動がまた(すさ)みだした、そんな時だ。


『アイツ』の姿を見つけたのは。


「…………あっ!?」


 一週間後に魔物討伐訓練を控えた合同訓練で、アタシはいつものように『アイツ』の姿を探していた。


 ずっと空振りばっかで『アイツ』への苛立ちが募っていた時だったからだろう。


 アタシは訓練場の井戸付近にいた『アイツ』の姿を見つけた瞬間、変な声を上げてしまった。


(……ぅ! 違う! 別に、アイツを見つけたからって、嬉しくなんかないっ!!)


 そして、アタシでもわからない内に芽生えた感情に戸惑い、その場にうずくまってから心の中で否定を繰り返す。


 何でかわかんないんだけど、妙に顔も熱い気がする。


『アイツ』の特徴のないムカつく顔なんて、腹立つだけだと思ってたのに。


 こ、こんなことになるなんて、聞いてないっ!!


「すーはー、よしっ」


 アタシは何度も頭を振り回して、ようやく平静を取り戻すことができた。


 大丈夫。別に何か特別なことをいう訳じゃない。


『ありがとう』、ただそれを、伝えるだけでいい。


 ついでに、アタシがさっき変になったのも『アイツ』のせいだし、それの文句も言ってやる。


 そう考えて立ち上がり、改めて『アイツ』の方を見ると、さっきまでいなかった人影が見えた。


「…………え?」


『アイツ』と親しげに会話をしているのは、アタシが知っている人物。


 長姫、京。


 アタシと話をしていた時よりも気安い様子で、長姫と話をしている『アイツ』。


 その姿を見たら、何でだろう?


「っ!」


 イライラする。


 アタシが仕方なく伝えてあげようとしていた感謝なんて吹き飛ぶくらい、イライラする!


 さっきまで浮かれていた気分が急速に冷え、アタシは手にしている杖の重さを思い出した。


「…………」


 よし。


 ()るか。


 しばらく手元に視線を落としたアタシは、すごく冷静に『アイツ』への奇襲を決意した。


『アイツ』の視界に入らないよう、わざわざ遠回りして『アイツ』の死角に移動し、そろりそろりと近づいていく。


「っ!」


 距離を縮め、アタシの杖の射程圏に入ったことを確認して、アタシは息を吐き出し『アイツ』の後頭部めがけて杖を振り下ろした。


 天誅(てんちゅう)


「おっと」


 が、『アイツ』はまるでアタシの動きが見えていたように、あっさりと回避してしまった。


 アタシの杖は地面を殴るだけに終わり、自然と舌打ちが漏れる。


「ちっ! また逃げられたっ!!」


「気配くらい消せよ。それか、スキルでフェイントでもやっとけ、バーカ」


 あっ! と思ったときには後の祭り。


 まさかターゲットにアタシの不手際を指摘されるなんて。


 しかも、明らかにアタシをバカにしたように、鼻で笑うオプションつき。


 前にあった時と全く変わらないムカつく態度に、アタシの内で燃えていた怒りが余計に勢いを増す。


「誰がバカよ誰がぁっ!! ってか、何楽しそうに女引っかけてんの!? バカじゃないの!?」


「は? 先生とはただ世間話してただけだが?」


「うっさい! このすけこまし!」


「はいはい、それは俺が悪ぅござんしたね~」


「聞き流してんの丸わかりなんだからね!! アタシをバカにすると、後で痛い目にあうんだから!!」


「そうかそうか。期待して待ってるよ」


「うぐぐぐぐっ!!!!」


 勢いに任せてアタシは口を開いて『コイツ』を攻め立てようとしたが、のらりくらりと返されて相手にされていないのが伝わり、ますます『コイツ』への怒りがわき上がってくる。


 アタシより強いからって、調子乗ってんじゃないわよ!!


「あ、あの? お二人は、お知り合いなのですか?」


「前にちょっと一悶着(ひともんちゃく)ありましてね。大したことじゃありませんよ」


「はぁ!? そう言って勝ち逃げする気!? アタシは許さないわよ!!」


 噛みつかん勢いで睨んでいたら、長姫がアタシたちの関係について聞いてきた。


 すると、『コイツ』、めちゃくちゃ適当にアタシとの関係を説明しやがった!!


 その程度ですませていいほど、『アンタ』との出会いは安くないってのよ!!!!


「でも、ここで会ったが百年目よ!! もう一度アタシと勝負しなさい!! 今度こそ絶対に負かしてやるんだから!!」


「え~、パス」


「何でよ!?」


 たまった鬱憤(うっぷん)もあって、アタシは勢い任せで再戦を申し込んでいた。


 本心はそんなことする気なかったから、心の中じゃ「あ、ヤバ」と思ったのも(つか)の間。


『コイツ』、考える素振りさえ見せずに即答してくれやがった!!


 それで、完全にアタシはブチキレた!!!!


「ふざけんじゃないわよ!? アタシがどれだけアンタを倒すために鍛えて探してきたか……」


 自分が何をいっているのか、正直よくわかっていない。


 でも、確かなことは。


 さっきから『コイツ』は、アタシのことが眼中に入っていない。


 アタシの存在を、アタシとの時間を、全然意識していない。


 それがわかったから、アタシは本気で頭にきたんだ。


 アタシと時間を過ごすのが、そんなに嫌なのか!?


 アタシのことが、そんなに(うと)ましいのか!?


 ……そんな、そんなのっ!!


 アタシだけ、『アンタ』と会えたことに浮かれてて、本当に『バカ』みたいじゃないかっ!!!!


「一体何事ですか? 騒々しいですよ?」


 危うくアタシの本音全部をぶちまけそうになったところで、カレンが仲裁(ちゅうさい)に入ってきた。


 どこから見てたか知らないけど、やけにタイミングがいい。


 それが八つ当たりだとわかっていても、カレンへの苛立ちも湧き上がってしまったほどだった。


 でも結局、それからはアタシのことをうやむやにされたまま、どんどん話が移っていった。


 表面上は、まあ興味を引かれる話題もあったし、アタシも(ほこ)を収めてやった。


 でも、それでアタシの怒りがなくなったわけじゃない。


 しかも、アタシたちと別れる時なんか、犬でも追い払うように吐き捨てたのにもさらに腹が立った。


『アイツ』に会ってから、アタシの心はずっと、『アイツ』への不満でいっぱいだった。




「ってわけで、今日はアタシ、すっごい機嫌が悪いわけ。手加減できないから、さっさと降参しなさいよ?」


「…………どういうワケかは知らねぇが、試合開始前に勝利宣言とはいい度胸じゃねぇか、セラ?」


『アイツ』のせいで不機嫌マックスなまま、アタシは合同訓練の対戦相手と対峙している。


 今回の相手も、前回に引き続いて猪崎が選ばれた。


 ま、アタシレベルの相手となると人選が限られてくるから、対戦相手も絞られてくる。


 …………本音を言えば、カレンか長姫かシホと()り合った方が、面白いし()さ晴らしになるしいい経験になるんだけどね。


「いい度胸も何も、アンタこの前の試合もその前も、アタシにボッコボコにやられて終わりだったじゃない。どうせ今回も一緒よ」


「はっ! でかい口叩くのは、俺に勝ってからにしやがれ、セラァ!!」


「あっ! ちょっと!!」


 猪崎が()れ馴れしくアタシの名前を呼び捨てにしたから、ちょっとカチンときてわかりやすくバカにしてやる。


 すると、不良の頭を張ってた単細胞(いさき)はあっさり挑発に乗り、兵士の号令も待たずにアタシに襲いかかってきた。


「別にいいわよ。コイツとの試合、いつもこんなんばっかだし」


 焦った声を上げた兵士に肩を(すく)め、アタシは杖を構えた。


 真正面から突進してくる猪崎は、かなりの迫力がある。


 日本人のくせに身長が2m超えな上、肉体がすっごい筋肉質だから、受ける威圧感も半端じゃない。武器も防具もつけずに接近する筋肉ダルマに、アタシは眉をひそめる。


 ついでに、顔も本当にカレンと同じ高校三年生かと疑いたくなるゴリラ顔も、不快要素の一つ。今は関係ないけど、アタシの好みとはかけ離れている。


 顔だけだったら、特徴のない平凡顔の『アイツ』の方が、万倍マシだと思う。


「オラァッ!!」


 猪崎は突進の勢いそのままに、丸太のような右腕をアタシに振り下ろした。


 頭上からくる拳は金属のような光沢を放ち、まるで鉄杭のような威圧感がある。


 猪崎のスキル、【金剛】だ。


「ふっ!」


 とはいえ、フェイントのない攻撃なんて、脅威でも何でもない。


 アタシは体内の魔力を消費して一時的にステータスを向上させる《身体強化》を発動し、真横に飛び出して猪崎の攻撃を回避する。


 瞬間、地面の土が(えぐ)れて弾け飛んだ。


 素早く体勢を整えたアタシに、猪崎は体を向けてすぐに拳を構える。その拳は地面を割るほどの威力で叩きつけたにも関わらず、一切の傷がない。


 猪崎の【金剛】は攻防一体の厄介なスキルだ。


 分類としては、アタシの《身体強化》と土属性、あるいは土属性の上位である金属性の魔法をごちゃ混ぜにしたようなスキルで、ステータスを引き上げた上、肉体を超硬化させる魔法系スキルだ。


 その硬度は相当で、物理・魔法を問わず同じユニークスキルによる攻撃もほとんど通さない。


 ということは、【金剛】が展開されている間、この世界のほぼすべての攻撃手段が猪崎には通用しないということになる。


 しかも、【金剛】は自分に触れている物限定で、物質にもスキルを付与させることもできる。


 猪崎が触れている物は、それだけで世界最硬の武器となり、防具にもなる。だから、猪崎は特定の武器も防具も自分から断っていた。


 日本でもずっと喧嘩に明け暮れ、特定の格闘技の経験もないため戦闘に『型』がない猪崎と、そこらに落ちている木の棒ですら武器にできる【金剛】は非常に相性がいい。


 予想外の行動が攻撃になり、その一撃を食らえばアタシなんて木っ端のごとく潰されてしまうだろう。


「相変わらず、敵に突っ込むしか脳がないのね? アンタの前世って、名前通り猪だったんじゃない?」


 が、当たらなければどうということはない。


 猪崎のステータスは見た目通り、筋力と耐久力は高いけど俊敏はかなり低い。


 たとえ接近戦に持ち込まれたとしても、さっきみたいに《身体強化》と、回避や逃走に大幅な補正がかかる《韋駄天・逃》さえあれば、攻撃を避けることは容易(ようい)だ。


 それは今までも同じだったし、猪崎も承知しているはず。


「ほざけ! その軽口、すぐに叩けないようにしてやるよ!!」


 挑発に乗ったのか乗らなかったのか、よくわからない反応をした猪崎は、またアタシに突撃してくる。


 そろそろ猪崎だけに調子に乗らせるのも(しゃく)だし、こっちも攻めるとしますか。


「『(ソルジャー)』」


 アタシは魔力を物質化させるスキル『魔力具現』を使用。


 また、【金剛】の強度に少しでも対抗するため、魔力を集中させて魔法系スキルを強化する『魔力集約』を組み込むのも忘れない。


 そうしてアタシの目の前に生み出されたのは、魔力で構築された人型の兵士。


(ソルジャー)』は身長180cmくらいの、ガラスのように丸いフォルムで透明な肉体を持つ、『魔力具現』で作り上げた意思のない魔力の木偶(でく)人形だ。


 その『(ソルジャー)』を、魔法的な行動を複数同時に発動できる《連鎖魔法》、広範囲に魔法を展開できる《広範魔法》も発動させて、無数に出現させた。


 後は【幻覚】を発動し、『(ソルジャー)』たちが本物の人間に見えるように『幻視』をかければ、準備は完了。


 全部の『(ソルジャー)』が同じ姿なのは、わざと。全く同じ容姿の集団に襲われるのは、結構な恐怖を覚えるもの。少しでも優位に勝負を進めるための小細工と言える。


 本当は《詠唱破棄》があるから、『魔力具現』を無言で発動できるんだけど、短い文言を決めて発動した方が、魔法構築もしっかりして威力も上がる。


 シホにそう教えられてからは、『魔力具現』のパターンにはそれぞれ名前を設定してある。


(ソルジャー)』はアタシの命令に従い、手にしている肉体と同質の素材である剣を構える。


「行きなさい!」


 指揮棒のように杖を猪崎へ向け、一斉に『(ソルジャー)』をけしかけた。


 人に似せたとはいえ、『(ソルジャー)』はただの魔力。魔力を手足のように扱える《魔力支配》を持つアタシにかかれば、百だろうが千だろうが『(ソルジャー)』くらいならいくらでも操れる。


「しゃらくせぇ!!」


 ただ、アタシの『(ソルジャー)』もまた、猪崎にとっては見慣れたもの。


 動揺することなく両腕に【金剛】を施した猪崎は、豪快に腕を振り回して『(ソルジャー)』を蹴散らしていく。


 それでいい。


 どうせ『(ソルジャー)』は、単なる(おとり)で、(えさ)だ。


「『(サイズ)』、『分身(ドッペルゲンガー)』」


 猪崎が足を止め、勢いをなくしたのを見計らって、さらに別の『魔力具現』を発動させる。


 まず、アタシの杖に魔力が(まと)わり、先端に大きく歪曲(わいきょく)した刃状の魔力、『(サイズ)』が出現する。


 次に、出払った『(ソルジャー)』の代わりに出現したのは、十数人の『アタシ』だ。


 背格好も装備も容姿も何もかもがアタシにそっくり。それだけでなく、気配や魔力反応や質量まで持つ。それが『分身(ドッペルゲンガー)』だ。


 まあ、『分身(ドッペルゲンガー)』の原理は『(ソルジャー)』とほとんど同じなんだけどね。【幻覚】で見せる『幻視』をアタシにするだけで、単純戦力としては魔力量が多い分だけ『(ソルジャー)』よりやや上といったところだし。


『行くわよ!』


(サイズ)』を展開し終わり、アタシの地声と十数人の『幻聴』で作った声をハモらせて、『(ソルジャー)』の合間を縫って猪崎へ接近した。


 魔力が均等に分割されたアタシと『分身(ドッペルゲンガー)』を見分けることは、非常に難しい。


 レベルが最大になった《魔力支配》は、アタシの細かい動きの癖まで『魔力具現』にトレースでき、外見から判断するのも困難だ。


 そして、猪崎が倒した『(ソルジャー)』も、消費した魔力に触れることで体内に魔力を取り込める『循環魔法』を用いることで、アタシと『分身(ドッペルゲンガー)』の力に還元される。


 回収した魔力は、『(サイズ)』に集中。


(ソルジャー)』に紛れて接近したアタシたちは、猪崎の全身を『(サイズ)』で滅多(めった)打ちにする。


「効くかよ、んな(ぬる)い攻撃ぃ!」


 しかし、瞬時に全身に【金剛】を張った猪崎はびくともしない。


 元々アタシが魔法使い職であり、知力が高くとも筋力が低いため、大したダメージは与えられない。


「おらぁっ!! ……あがっ!?」


 腕が横()ぎに振るわれ、数体一気に『(ソルジャー)』が刈り取られるが、その隙に『分身(ドッペルゲンガー)』の三体が猪崎の後頭部を『(サイズ)』でぶっ叩いた。


 すると、猪崎は頭が大きく下がった前傾姿勢になる。


【金剛】はダメージを無効化するが、攻撃によって生じた衝撃までは吸収してくれない。


 アタシ一人分の力が弱くても、相応の力を込めれば体勢を崩すことができる。


 追撃として、アタシは別の複数の『分身(ドッペルゲンガー)』で『(サイズ)』による足払いを仕掛けた。


「ナメん、なあっ!?」


 きちんと反応してバックステップした猪崎だったが、ギャリッ! という【金剛】が(こす)れた嫌な音とともにしっかりと足を払われ、尻餅をついた。


 猪崎が見えていた『(サイズ)』は確かに避けていたが、元々『(サイズ)』は単なる魔力の固まりだ。《魔力支配》で形なんて自由自在に変化させられる。


 加えて、刃として見えている部分はアタシが【幻覚】で猪崎に見せているだけであって、実体じゃない。


 故に、【幻覚】の刃がそのままに、『(サイズ)』本体のリーチを延ばして攻撃を届かせれば、簡単に攻撃を当てられる。


『はあああっ!!』


 無防備な格好となった猪崎は格好の(まと)


 アタシ、残っていた『(ソルジャー)』、『分身(ドッペルゲンガー)』全員で猪崎を囲んで袋叩きにする。


 攻撃はすべて【金剛】によって弾かれてしまうが、それでいい。


 これは『アイツ』でたまった鬱憤(うっぷん)晴らしだ。


【幻覚】であっさり勝負を決めないのも、ストレス発散がしたいから。


 殴った感触がある、今はそれだけが重要なんだから。


「いい、かげんに、しろおぉ!!」


 しばらく亀のように丸まっていた猪崎だったけど、アタシたちを丸ごと吹き飛ばす勢いで立ち上がった。


 余波で壊れる『(ソルジャー)』の魔力を回収しつつ、アタシも後退して『(サイズ)』を構える。


「チマチマチマチマ、鬱陶しいんだよ! 真面目にやれ!」


「それはこっちの台詞よ。アンタ、何回同じこと繰り返せば学習すんのよ?」


「うがあああっ!! 俺をっ!! バカにしてんじゃねぇっ!!」


 激高した猪崎に呆れたような視線をくれてやると、さらに逆上。


 全身を【金剛】でコーティングした猪崎は、そのままアタシにタックルをしかけてくる。


「はぁ、だからアンタはバカなのよ」


 考えなしとしかいいようのない行動に、アタシは心底呆れかえった。


 間にいた『(ソルジャー)』がひかれて宙を舞い、それでもアタシの命令に従って猪崎へ刃を突き立てる。


 猪崎との対戦で何度も見てきたその光景にため息を吐き、アタシは杖を水平に構えた。


「『(ランス)』」


『魔力具現』で『(サイズ)』から変化させたのは、主に西洋の騎士が馬上で扱ったという、騎兵槍(ランス)


 一時的に魔力量を増やす『魔力増幅』を駆使してかなり巨大になった『(ランス)』を、『分身(ドッペルゲンガー)』たちも構えて腰を落とす。


「『突撃(チャージ)』!!」


 そして、自分へ言い聞かせる号令をかけ、地を蹴った。


 アタシは《身体強化》で、『分身(ドッペルゲンガー)』は本体(アタシ)と同じ速度で、猪崎へ刺突(しとつ)を見舞うために同時に突っ込む。


「はっ! 俺の【金剛】を貫けると思ってんのか? 無駄……」


「残念。時間切れよ、バーカ」


「だぁ!?!?」


 アタシの突貫に余裕をかましていた猪崎(バカ)は、真正面から受け止めようとした。


 しかし、その瞬間猪崎の全身にかかった【金剛】が消え去り、アタシたちの『(ランス)』をもろに受けてしまう。


 一見無敵の【金剛】だが、致命的な弱点がある。


 それが魔力切れだ。


 元々、猪崎の適正職業は闘士で、純粋な前衛戦闘職。俊敏以上に知力も魔力も低く、【金剛】の持久力がない。


 加えて、猪崎は考えなしに全身の【金剛】を繰り返した。


 あくまで付与するタイプの魔法系スキルである【金剛】は、付与する面積が増えれば増えるほど消費魔力が上がっていく。


 攻撃と防御の要所要所でかけるならまだしも、猪崎は常にかけっぱなしだったのだ。


 魔力切れも早いに決まってる。


 まあ、アタシが『(ソルジャー)』たちによる物量攻撃をしかけ、常に【金剛】を展開させざるを得ない状況に持って行ったから、ってこともあるんだけどね。


 ただそれ以上の問題は、猪崎の奴がその弱点に、全然気づいている様子がないこと。


 おそらく、猪崎は魔力の総量が少ないため、魔力枯渇の症状が軽いことが、要因の一つなんだと思う。アタシみたいな魔法使い職じゃ致命的だけど、闘士の猪崎は魔力切れを起こしても、平気で動けるみたいだしね。


 まあ、猪崎自身がバカなのが、一番の原因なんだろうけど。


 何度も同じことを繰り返してはアタシに負けているのに、猪崎は学習という言葉を知らないのだろうか?


 カレンや長姫だったら、一度使用した戦術は二度と通じないから、戦うこっちも燃えてくるんだけど。


 シホ? あんなのと本気で魔法合戦なんて、正気じゃやってられないわよ。命をベットしてギャンブルを繰り返すようなもんだからね。まあ、それはそれで燃えるけど。


穂先(ほさき)は潰しておいたわ。ありがたく思いなさい、バーカ」


 十数本の『(ランス)』を無強化の腹に食らい、気絶した猪崎(バカ)に吐き捨て背中を向ける。


 最後に、『(ソルジャー)』たちの魔力を『循環魔法』で回収し、アタシの退屈な訓練は終了した。


 ちなみに、必要以上に猪崎をバカと(ののし)ったことと、アタシが『アイツ』にバカといわれたこととは、関係はない。


 ないったらないんだからね!




 それからの試合は、特に面白味もなかった。


 アタシの前にやってたカレンはもちろん、後に試合をした長姫もシホも、危なげなく勝利を収めていた。


 アタシが三人の内の誰かとやったら、もっと訓練になっただろうに。


 そう思いながら、特に消耗のない体を休めるため、消化試合を見ていた、その時。


「きゃあああああっ!?!?」


 訓練に似つかわしい、女のものらしい悲鳴が上がった。


「…………は?」


 アタシは反射的に振り返り、そして思考が止まった。


 遠くてよく見えなかったけど、見えた。


 見えて、しまった。


 アタシを、一方的に倒したはずの、『アイツ』が。


 アタシより強いはずの、『アイツ』が。


 雑魚教師なんかに、やられていた姿を。


「っ!!」


 アタシは頭の中で何かが切れる音がして、咄嗟(とっさ)に杖を雑魚教師に向けた。


 そして、【幻覚】を雑魚教師に使い、『アイツ』との距離感を狂わせた。


 本当は脳をぐちゃぐちゃに溶かすような地獄を味わわせてやりたかったけど、それで雑魚教師の手元が狂い、『アイツ』にとどめを刺すことになってしまったら。


 雑魚教師への殺意よりも、『アイツ』への心配が勝り、アタシは教師の剣が『アイツ』へ届かないようにした。


 ギィンッ!!


 だが、アタシの妨害はさほど意味を持たなかった。


 何故なら、雑魚教師の剣が振り下ろされる前に、カレンが間に入って直剣を切断したからだ。


 おそらく、《縮地》からの《異界流刀術》における居合い抜刀技だろう。


 あれは目で見てから避けられる技じゃない。


 アタシの『魔力具現』も、何度アレにやられたことか。


 って、今はそれどころじゃない!


《身体強化》をフルに使って駆け寄ってみれば、長姫とシホが先に到着していた。


 長姫は【再生】による治療を、シホは今まで見たことないくらい、ボロボロに泣いていた。


「ちょっと!! アタシと勝負する前にくたばるなんて許さないわよ!! 絶対に、ぜったいにっ、ゆるさないんだからねっ!!!!」


 アタシは、こんな時だってのに、『アイツ』にそんなことしか言えなかった。


 混乱していた。


 焦っていた。


 シホがいなきゃ、アタシが泣いていた。


 だから、よくわからないことを、自分で言っていた。


 本当は、勝負なんてどうでもよくて。


 ただ、『コイツ』に死んで欲しくないって。


 言いたかっただけなのに。


 こんな時にまで、アタシの口は、バカみたいなことしか言えない。


 こんなんじゃ、『コイツ』にバカだと言われても、嫌われても、仕方ない。


 アタシは、これほど自分で自分を嫌いだと思ったのは、初めてだった。


 血を吐き、苦しげにうめく『コイツ』に、アタシは、暴言しか吐けなかった。


『ありがとう』どころか、苦しむ『コイツ』に『死ぬな』とさえ、言えなかった。


【幻覚】というユニークスキルを手にして、調子に乗っていただけのアタシには、何もできなかった。


 アタシは、無力だ。


 こうして、また一つ。


 アタシはアタシを、嫌いになった。




 それから何とか『アイツ』は持ち直し、三日後には目を覚ました。


 連れて行った先がカレンのベッドだったのは、全然納得しなかったけど。


 自分がずっと使ってたベッドに、男を寝かせてんじゃないわよ!


 そう文句を言いたかったが、その時のアタシに、そこまでの元気はなかった。


 ずっと、怖かったから。


 目を覚ました『アイツ』が、アタシをどんな目で見るのかが。


 はっきりと、『アイツ』から嫌悪感を向けられると思ったら、何よりも怖かった。


 食事も喉を通らず、夜も寝れない。


 自分への嫌悪と、『アイツ』からの反応への恐怖で、舌打ちが癖になってしまった。


 そして、『アイツ』が目覚めた。


「ばっ!? だ、だれがアンタの心配なんてしたってのよ!! アタシはただ、勝負を反故(ほご)にされたくなかっただけなんだから!! それだけなんだからねっ!!」


 心配をかけた。


 アタシたちに向けた『アイツ』の言葉に、アタシの口はまた、バカみたいなことしか言えなかった。


 今度こそ、嫌われた。


 そう思って、心臓が急速に冷えた思いをしたけど、結局『アイツ』はアタシに呆れた視線を送るだけで、大きな反応はなかった。


『アイツ』の気持ちを、直接聞いた訳じゃない。


 でも、少なくとも。


『アイツ』から暴言を吐かれたり、怒鳴られたり、無視されたりしなかったということは。


『アイツ』は、バカでマヌケでどうしようもないアタシを、まだ、心底から嫌っていない。


 そういう気持ちが、感じられた気がして。


 すごく、すっごく、安心した。


「で? 話って何よ?」


 それからようやくいつもの調子を取り戻したアタシ。


 メイドに部屋から追い出された後、最近まともにとれていなかった食事を堪能(たんのう)して、長姫の部屋に集まっている。


 食堂にて、後で話がある、とカレンに持ちかけられたのがきっかけだ。


 本当なら『アイツ』に会いに行って、今度こそ素直に、今までの態度を謝りたかったけど、メイドが邪魔だとアタシたちを追い出したのもあって、行きづらい。


 でも、『アイツ』、イガルト王国のメイドに手ぇ出したりしてないでしょうね?


 あ、想像しただけでブチキレそう。


「その前に、少々『お願い』していいですか?」


 一人で『アイツ』に振り回されていると、カレンが少しニュアンスを変えてアタシとシホに声をかけた。


 心当たりがあったアタシは、一度肩を(すく)めて魔力を放出した。


 シホもそれに従い、アタシよりも余程自然に魔力を動かす。


「はい、終わり。人払いはできたわ」


「ありがとうございます。菊澤さんも」


「『うん』」


 アタシが発動したのは【幻覚】で、シホが発動したのは《隠神(かくしがみ)》。


 カレンがどうしてスキルを要求したのかというと、イガルト人の監視の目を(あざむ)きたかったから。


『アイツ』と出会った日にいて、『アイツ』の指摘で気づいた、あり得ない場所から感じた人の気配。


 そこから、アタシはイガルト王国から監視されていることに気づいた。


『アイツ』がアタシの【幻覚】について説明する前に言ってた、『他の奴ら』って、今思えば異世界人じゃなくて、イガルト人の監視のことだったんだろう。


 そうした存在については、カレン、長姫、シホにはすでに知らせてある。


 だから、イガルト人に聞かれたくない内容の話をする時は、いつもアタシとシホが偽装工作をする。


 アタシの【幻覚】で、アタシたちが部屋を出ていっておしゃべりしているように見せ。


 シホの《隠神》で本物のアタシたちの姿を認識させなくした。


 ぶっちゃけ、監視の目を誤魔化(ごまか)すだけならアタシの【幻覚】だけで十分なんだけど、カレンの提案で監視を違う場所に移動させたいと言われ、こういう形になった。


 何でもシホの《隠神》は特殊上級スキルとかいうものらしく、上級の中でも強力な、ユニークスキルに近いスキルらしい。


 それを打ち破るのは至難の業だ。


 現に、イガルト人がアタシたちのスキルを退(しりぞ)けたことはない。


 今回も、アタシたちを監視していた奴らの気配はみんな、アタシの【幻覚】に惑わされてこの部屋から離れていった。


「『お話って、何?』」


 まず口火を切ったのは、シホだった。


 シホは普段【結界】を用いて、自分の言葉を魔力伝導で伝えている。


 原理はよくわかんないんだけど、何でも【結界】の最小単位は『点』で?


 その『点』を、言葉を伝えたい人に設置して?


『線』で結んで魔力パスを作り、意志疎通を図るとか、何とか?


 多分、そんな内容だった気がする。


 後は、こうして誰もその場を動かないような場面じゃないと、『点』を動かす必要があるから話しづらい、とかもいってたっけ?


 カレンや長姫はすぐに理解していたけど、アタシだけは今でもよくわかっていない。


 読モの仕事とかで勉強はほとんどしてこなかったし、小難しいことはわからない。


「はい。実は……」


「その前にさぁ、アタシずっと気になってたんだけど」


「はい?」


「なんですか?」


「?」


 口を開きかけたカレンを(さえぎ)り、アタシが発言すると視線が一気に集中する。


 アタシは小難しいことはわからない。


 でも、それ以外だったら、割と敏感だ。


「みんなさぁ、アイツのこと、どう思ってるわけ?」


『アイツ』で通じるのはアタシだけらしく、三人は首を傾げるばかり。


「あ、アイツってのは、今多分イガルト人のメイドにご奉仕されて、鼻の下伸ばしてるだろうアイツのことね」


「…………ああ、彼のことですか」


「…………それはそれは、いいご身分ですね?」


「…………(ぷくぅ)」


 だから『アイツ』を特定できるだろう言葉で尋ねてみれば、反応は劇的だった。


 まず、カレンは《鬼気》を最大にした上、《生成魔法》で『泡沫(うたかた)』を出現させた。『アイツ』を斬る気だろうか?


 次に声を上げたのは、表情を消した長姫。『アイツ』がいるだろう部屋を無言で睨み上げ、手には【再生】で生み出したクナイが。こっちも()る気満々ね。


 最後に、長姫の視線の先を追って、かわいらしく頬を膨らませたシホ。反応としては一番かわいらしいが、シホの魔法における才能を考えれば、『アイツ』の末路は悲惨の一言だろう。


 これだけ反応があれば、証拠としては十分だ。


「やっぱり。ここにいる全員、アイツのこと『好き』なんだ?」


「へあっ!?」


「そ、そそそそそそ、しょんなことはにゃいれしゅぅっ!?」


「…………っ!?(ボフンッ)」


 確信を持ってアタシが決定的な台詞を口にすると、全員が顔を真っ赤にして狼狽(うろた)えだした。


 カレンは瞬間湯沸かしみたいに耳まで赤く染まり。


 長姫はクナイを落とした挙句、明らかにどもって噛みまくり。


 シホは頭から湯気を出しながら硬直してしまい、相変わらずダントツでかわいい。


 ……アタシもそろそろ、シホの見方がカレンたちに似てきた気がする。


「セラさんっ!! い、いきなりなにをっ!? って、『全員』、ですか?」


「…………そうよ、悪い?」


 そう。


 ()()だ。


 アタシも、例外じゃ、ない。


 カレンの言葉で集まる視線から逃れるように、アタシは目線をみんなから()らす。


 明確に言葉にしたのは、初めてだったけど。


 この、『アイツ』に対する、この気持ちを言葉にするなら。


『好き』。


 これ以外、あり得ない。


 アタシは、カレンみたいに裏表を使い分けたり、長姫みたいに頭が良かったり、シホみたいに特化した才能はないかもしれないけど。


 人間の感情には、敏感だ。


 特に、今までたくさん向けられてきた『嫌い』と。


 今までほとんど感じたことのなかった、『好き』。


 似ているようで全く違う二つの感情は、すぐにわかる。


『嫌い』はアタシにとって身近すぎたから。


『好き』はアタシにとって疎遠(そえん)すぎたから。


 真反対の理由だけど、アタシにはその二つが、よくわかってしまう。


 まあ、アタシでなくても、カレンたちの反応は素直すぎたから、ほぼオープンだったと思うけどね。


 …………アタシも、感情を隠すのは下手だから、バレバレだったんだろうなぁ。


 うわっ! 今更だけど、何か恥ずかしくなってきた!


 カレンたちに見られていることもあって、アタシの顔もどんどん熱くなっていった。


「で、でも、何でここで、そのことを?」


「いや、アタシも人のこと言えないけどさ? ここにいる全員、アイツに対する態度がわかりやすすぎたじゃん? だから、今後は気をつけなきゃいけないんじゃないかな、と思ったの」


 一足早く冷静さを取り戻したのは、長姫。まあ、どもりは治ってなかったけど。


 ちょっと抜けてるところがあるものの、基本的に感情の切り替えが上手くて頭が良く回るのは長姫だ。


 年齢は近いけど、カレンより立ち直りが早かったのは、やはり年の(こう)と言ったところか。


 だから、アタシの突然のカミングアウトの意味を悟り、長姫は苦い表情へ変わった。


「あの子に、悪意が集中する、ということですか?」


「そういうこと」


 カレンは長姫の言葉にはっとして、シホは小首を傾げて不思議そうな表情をする。


 アタシたちは、美人だ。


 シホは無自覚みたいだけど、アタシたちは相当に恵まれた容姿をしている。


 自惚(うぬぼ)れみたいに聞こえるけど、これは客観的事実。


 男の視線はいつも集まるし、嫌でも好意や劣情を向けられる。


 だからこそ、そんなアタシたちが恋した相手が、そうした男どもが納得できるような奴じゃなかったら?


 どうでもいい奴らの悪意が、『アイツ』に集中する。


 そんなこと、火を見るより明らかだ。


「…………なるほど、そういった問題も、あったのですか」


「盲点でしたね。まさか、そのような点でも注意しなければならなかったとは」


 アタシの言いたいことを理解したカレンと長姫は、同時に頭を抱えだした。


 あれ?


 今回の集まりって、それを確認して注意しよう、ってことじゃなかったの?


「セラさん。教えてくださって、ありがとうございました。懸念は増えましたが、彼がどれほど危ない位置にいるのか、改めて確認できてよかったと見るべきでしょう」


「…………ちょっと待って。それ以上に何かあるっての?」


「ええ。残念ながら。ここからは、私が気づいた点を話しますが、その次は長姫先生からも話があるそうです。

 皆さんが彼のことをどういう経緯で、その、そういう感情を抱くようになったのかは()()()気になりますが、まずは私たちで情報共有をしましょう」


 不安しか(あお)らないカレンの台詞に、アタシは知らず身構えた。


『アイツ』が、アタシの『初恋の相手』が、どんなことに巻き込まれているのか。


 先ほどまでの浮ついた雰囲気は吹き飛び、アタシたちは真剣な顔で顔をつきあわせた。




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名前:毒島(ぶすじま)芹白(せら)

LV:10

種族:異世界人

適正職業:奇術師

状態:健常


生命力:200/200

魔力:3400/3400


筋力:40

耐久力:20

知力:500

俊敏:30

運:60


保有スキル

【幻覚LV5】

《魔力支配LV10》《生体感知LV10》《詠唱破棄LV8》《連鎖魔法LV5》《広範魔法LV5》《極大魔法LV1》《身体強化LV7》《我流杖術LV3》《直観LV1》《韋駄天・逃LV1》

『魔力具現LV9』『循環魔法LV8』『魔力集約LV7』『魔力増幅LV7』

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