ex.10 遅すぎた到着
「ドラゴン退治か! くーっ、腕が鳴るぜ!」
「そうだね~、がんばろうね~」
「……お二人とも、もう少し緊張感を持って下さい。この世界で行う、訓練ではない初めての実戦になるんですよ?」
あまりにものんびりとした台詞を口にしている同行者を振り返り、少し厳しく声をかけます。
あれからさらにもう一人の人物に声をかけ、私たちは【結界】の準備が整った菊澤さんにレイトノルフの近くまで転移してもらいました。
転移した場所は、レイトノルフの東にある『餓狼の森山』というダンジョンの近くです。
【結界】による転移を人や魔物に悟られぬよう、少し町からは遠く人目に付きにくい場所として選んでもらいました。
今は同行者とともに、問題のレイトノルフへひた走っているところです。隊列は私の左右後方に同行者二人が追従する形です。
私だけなら、高速移動が可能な《縮地》を保有していますから、一瞬で現場に到着することはできます。
が、せっかく連れてきた戦力を置いて先行するメリットがないので、『敏捷』ステータス頼りの移動になりました。
とはいえ、距離的にはさほど遠くないので、私たちのステータスからすれば到着時間は数分程度の違いでしかないのでしょうけど。
「大丈夫だって、会長! なんたって、俺たちは世界を救う【勇者】一行なんだ! 相手がドラゴンだろうと【魔王】だろうと、最後は必ず俺たちが勝つんだよ!」
同行者の一人は、左後方で気炎を上げている金木さんです。訓練場を出た後、ドラゴン討伐の協力を依頼しにいったところ、嬉々として了承して下さいました。
金木さんに声をかけた理由は、同行者の中にイガルト王国協力派を入れたかったからです。
私と仲のよい知り合いだけの構成だと、王城を出た後で国王陛下にいらぬ詮索をされかねませんから。
後は、ドラゴンを相手にすると考えた時、実力的にまだマシと言えたのが金木さんレベルだったからです。
直情突進型の戦闘スタイルですので、連携は私たちがサポートする必要はありますけど。いざとなれば、一人で逃げきるだけの力はあるでしょう。
しかし、先ほどから本当に騒がしいですね。どこからそんな根拠のない自信が湧いてくるのか、不思議でなりません。
命のやりとりを軽んじる言動は、まるでゲーム感覚です。正直、声をかけてからずっと人選を誤ったと後悔しています。
「よくわからないけど~、すごいね~」
その隣で金木さんを煽っているのは、最初に声をかけた暖子さんです。
戦闘訓練をし始めてまだ数日しか経っていないにも関わらず、『異世界人』トップクラスの私たちと同じ速度で併走しているのはさすがですね。
まともな訓練はおろか、実戦を全く経験していない暖子さんを頼るのは、とても心苦しいことではありました。
ですが現状、暖子さんの【融和】は私の【勇者】と非常に相性がよく、生存確率を上げるには必要だったのです。
大切な幼なじみを利用する形となり、強い罪悪感と己への嫌悪を覚えながら頭を下げた私に、暖子さんは笑顔で即答してくれました。
そして「ノンコをど~んと頼ってね~?」と、私が固く握りしめていた拳を、優しく解きほぐしてくれました。
暗に『気にするな』と言われたように感じ、暖子さんは必ず守りきると、改めて心に誓いを立てました。
そんな感情の機微に敏いはずの暖子さんですが、先ほどから相づちで金木さんを面倒にしているのはどういうことでしょうか? 本当にやめてほしいんですけど。
「…………言い分はわかりましたが、そろそろ口を閉じて下さい。町が近いです」
なるべく苛立ちを表に出さないように二人へ声をかけ、ずいぶん大きくなった町を見据えました。
転移後、町から煙が上がっているのが見えていたため、すでに襲撃はあったと考えてよさそうです。
しかし、道中いくら周囲を見回しても、肝心のドラゴンの姿がありません。
いつごろ魔物が到着したのかはわかりませんが、少なくとも一度は町へと攻撃をかけたのは確かなはず。それなのに、近くにはそれらしい影が全く見あたらないのは不自然です。
また、ドラゴンの襲撃を受けてなお、町が形を維持しているという点も奇妙です。
『神人』級は生きた災害と言われるほどの強さを持つと言われる魔物です。人間の町を破壊する程度ならば、一時間も必要としないでしょう。
それなのに防護壁がきれいな状態で残っているということは、まだ町の機能が残っている証拠。すなわち、レイトノルフはドラゴンに襲撃されて生き延びたと考えられます。
まともな戦力などいないはずの町が、どうやって……?
いくつもの疑問が頭をよぎる中、私たちは急いで開きっぱなしの通用門をくぐり、町の中へと入りました。
「持ち上げるぞ! せぇのっ!!」
「お~い! こっちも手伝ってくれぇ!!」
そこですぐに、私たちの行動が遅すぎたことを察しました。
「……な、なんだこれ? 魔物が襲ってきてんのに、片付けしてんのか?」
「ん~、もしかして~、ドラゴンはもういないのかな~?」
町の中に入ってすぐに遭遇したのは、テキパキと瓦礫撤去に勤しむ住民たちでした。
住民や武装した冒険者らしい人たちが入り交じり、協力して作業しているのがわかります。
金木さんは彼らが誰も戦闘態勢でないことに戸惑って周囲を見渡し、暖子さんはのんびりとした態度のまま、彼らの行動の裏側を言い当てていました。
まるで、自然災害が通り過ぎた後のような光景に、ドラゴンの存在など感じられません。
まず間違いなく、ドラゴンという脅威は去った、と考えるのが妥当でしょう。
そういう意味では、私たちは間に合わなかったのでしょうね。
「とにかく、現状に詳しい人に接触して、状況を聞きましょう。切迫した状況ではないようですが、到着したばかりでは何もわかりません。
手分けをして町中を移動し、一時間後にはまたこの場所に戻ってくることにしましょう。よろしいでしょうか?」
「わかった」
「おっけ~」
私の中ではほぼ結論が出ていましたが、事実を確認するためにもまず情報収集が必要と提言し、金木さんと暖子さんたちと別れました。
「失礼します」
単独行動をして私がたどり着いたのは、冒険者協会の仮支部です。
聞き込みをして行く内に、騒動によって本来の冒険者協会の建物が倒壊したと教えられ、代わりに仮支部として使用されている建物へと案内されたのです。
冒険者協会を訪れた理由は、ドラゴン襲撃についての情報を得るためです。
住民への聞き込みからすると、やはりすでにドラゴンの危険はないらしいのですが、詳しい事情を知るまで油断はできないでしょう。
常識として、町の情報を一番知るのは普通その土地を管理・運営する貴族領主であり、本来ならば貴族が管理する衛兵に聞くのが近道です。
が、レイトノルフを管轄する貴族はこの町にはおらず、当然公的な自衛組織も存在しません。その代わりを担っているのが、冒険者協会という話でした。
ずいぶん昔から統治者を持たなかったこの町に、冒険者協会は支部を置かせてもらう代わり、防衛機構としての役割を果たすという契約を国と結んだ、という経緯があります。
必然、この町における荒事関係の情報を一番把握しているのが、衛兵をかねた冒険者協会というわけです。
そうしたこの町の歴史や成り立ちを考慮しても、イガルト王国への違和感は浮かび上がってきます。
もし現イガルト王国領が、本当にもともと特定の国の統治下にない土地であったのならば、自国の管理能力を超えた土地を保有することの意義が見いだせないからです。
【魔王】から逃れるため国ごと移動してきたのならば、前の国土と同じ分だけの領域を間借りすればいいだけのこと。
領主の人員や管理能力をはるかに超える地域まで国土とするのは、非効率に過ぎます。
それに【魔王】から苛烈な襲撃を受けたのであれば、その攻撃によって犠牲になった人々も数多く存在するはず。
さらに【魔王】から追撃が行われる危惧も加味すると、生存者を広く散らばらせるメリットが少ないように思えます。
安易に散らばったところで、相手がその気なら死ぬのが早いか遅いかの違いでしかないでしょうし。
むしろ、限定した土地の一カ所に生き残った人たちを集中させて拠点とする方が、国民の保護と同時に【魔王】戦力に対する防衛力にもなり得るのではないでしょうか?
単独で撃破できない化け物でも、集団であれば対抗できるかもしれない、とする考えです。しかし、一網打尽となる危惧もあるので、一概には言えないかもしれませんね。
そもそもこれだけ広大な土地が誰の目にもつけられず、長年放置されていたという主張も、よく考えればお粗末に過ぎます。
人が住むのに過酷すぎるなどの条件があれば、話は別でしょう。
しかし、気候も土地も安定した住みやすい地域が放置されるなど、争いの絶えない人間の歴史と当てはめれば、大きな矛盾と言えます。
それならば、『彼』が考察したイガルト王国の他国侵攻説の方が、よっぽど現実味も説得力もありました。
『彼』のレポートによると、以前はネドリアル獣王国という名前だったそうです。
よく訓練をつけてくれたフロウェルゥさんをはじめ、人間と動物の因子が混ざった『獣人』たちで形成され、各種族の集落が集まった連合国家のような国家形態だったようです。
土地という概念が集落規模でしかなかった獣王国全体の領地は、イガルト王国が完全に支配し管理するには広大すぎたということでしょう。
国土全体で見れば、現状イガルト国王の権勢が隅々まで行き渡っているとは言い難いようです。
事実、王都付近は一つの都市につき一人の貴族領主が配置されていました。
ですが辺境になるにつれて、一人の貴族につき複数の、それも一つ一つが資源価値の低い領地を割り当てられる傾向にありました。
国を支える国民の人数と、彼らを管理する立場にある貴族の人数がつり合っていない証拠です。
こうして考えると、国王陛下たちが私たちへと伝えた内容と事実との間にある食い違いが浮かび上がり、この国の歪さがより際だって見えますね。
「大通りの被害状況は!?」
「民家の被害は全体の20%から15%に修正!」
「ターナ! やっぱり冒険者協会跡にいる男が怖いから、早く何とかしてくれって苦情が止まんないんだけど!?」
それはさておき。
冒険者協会仮支部に足を踏み入れたわけですが、中は色んな人の声で騒然としていました。
一人も手が空いていそうな人はおらず、誰もが魔導具片手に唾を飛ばすか、山積みの書類を持って建物内を走り回っているかしています。
見ただけでわかる激務の中では、私の声など簡単に埋もれてしまいました。一向に存在すら気づかれないまま、職員らしき方々は忙しなく働いています。
「あの、すみません」
「え!? 何!? っていうかのんびり突っ立ってる暇があったら復興に向かってよ! 格好からして貴女も冒険者なんでしょう!?」
仕方なく一人の女性に近づいたところ、会話数秒で怒られてしまいました。どうやら武装している人=冒険者と認識されてしまったようです。
「いえ、私は冒険者ではありません。この町にドラゴンが襲撃した、という情報を聞いて先ほど駆けつけたのですが、魔物が見あたりませんでした。
現在の状況がよくわからないので、お話を伺おうとこちらに足を運んだのですが……」
「よくわかんないけど、手伝い希望なのね!? だったら今から指示出すから、とりあえず町の片づけ手伝って!! これに魔力通したら一日は通信可能だから、聞きたいことがあればそこから聞いて!!」
「え、いや、あの……」
「何ぼさっとしてるの!? さっさと準備して町に戻りなさい!! 細かい指示は魔導具から出すっつってんでしょうが!! それと、住人から身分を聞かれたら『冒険者』だってちゃんと言いなさいよ!? でないと冒険者協会がヤバいんだからね!?」
「は、はい……」
きちんと訂正の言葉を告げたものの、女性職員さんはこちらの話を聞けるだけの余裕がないのか、同意を得ないまま私にまで冒険者の仕事をさせようとしました。
せめてドラゴンがどうなったかだけでも聞こうとするも、返ってきたのは怒髪天を衝くという表現がぴったりの怒鳴り声でした。
彼女の勢いに押され、自然とのけぞる体にあわせ、いつの間にか口から了承の言葉が出ていました。
いえ、その、従わざるを得ない迫力があるといいますか、反抗する気力をうまく刈り取られたと言いますか……。
とにかく私の《鬼気》とは違った気配を振りまく女性職員さんに、勝てる気がしませんでした。
「貴女見た目ほっそいけど、力仕事はできるの!?」
「え、えぇ、ステータスは高い方です」
「なら住民の居住区の瓦礫撤去をしてきて!! それが終わったら、町の状況と貴女の仕事に応じて別途指示を出すわ!! 私は今この場を取り仕切ってるターナよ、貴女の名前は!?」
「カレンと申します。よろしくおねがいしま」
「名前がわかりゃいいのよ!! 挨拶とかどうでもいいからさっさと行って!! こっちは時間も人手も足りないんだから、キビキビ動く!!」
「は、はいっ!!」
挨拶をしただけで怒られてしまいました。相当切羽詰まっているようです。
本当に、この町で一体何があったんでしょうか?
結局何も情報を得られないまま、私はターナさんの恫喝を受けて冒険者協会の仮支部から逃げるように立ち去りました。
ゲスト出演として、ターナさんを出してみました。
【勇者】を顎でこき使う鬼畜支部長、素敵です!!
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名前:水川花蓮
LV:35
種族:異世界人
適正職業:勇者
状態:健常
生命力:9000/9000
魔力:8600/8600
筋力:780
耐久力:710
知力:760
俊敏:850
運:100
保有スキル
【勇者LV3】
《異界武神LV1》《万象魔神LV1》《イガルト流剣術LV10》《生体感知LV8》《未来把握LV6》《刹那思考LV6》
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