89話 種明かし
「……あ~、あたまいてぇ~…………」
ボスドラゴンを倒し、戦闘で使用した『大気浸食』の《同調》を解除しながら、俺はゆっくりとレイトノルフへ帰還していた。
《限界超越》の併用もあり、長時間にわたって《神術思考》の思考領域にかなりの負担をかけたせいで、頭がガンガン痛ぇ。
何だろう、急性アルコール中毒死一歩手前の二日酔い、的な?
酒とか飲んだことねぇから知らねぇけどさ。
何はともあれ、そういう表現をしたくなるほど強烈で持続的な頭痛ってことだ。
「っつか、いくら興奮してたからっつても、独り言がやけに厨二臭すぎだろ、俺……」
で、足を動かす以外やることねぇから、自然とレイトノルフ防衛戦の反省を行うことになった。
まず気になったのが、俺の言動。
周りに誰もいねぇのにも関わらず、ご丁寧に敵の動き一つ一つにリアクションをしていた自分が、今更になってなんか恥ずかしい。
特に顕著だったのがボスドラゴン戦だ。イラついて舌打ちとか、驚きで絶句するとか、思い返せば反応がわざとらしいっつうか、大仰っつうか、とにかく恥ずかしい。
最終的に、ボスドラゴンとの戦闘でたまったストレスから解放されると思った瞬間、テンション振り切れて変な笑い上げたり無駄に格好つけてみたり、ろくなことしてねぇじゃん、俺。
『ファック』からの『地獄に堕ちろ』のハンドサインとか、ふっつーにダセェし。格好つけようとして失敗してんのもまた猛烈に恥ずかしい。
結論。俺はイタ恥ずい。
この記憶を即行で黒歴史フォルダにぶち込んで物理破壊してぇ気分だ。
誰かに見られてた、ってわけじゃねぇのだけが幸いだが、あんなの癖にしちまったら相当イタい奴だぞ?
……とりあえず、今後は人目を気にした振る舞いを心がけよう、うん。
「だが、戦術そのものは何とかはまってくれたな。色々仕込んでて助かったぜ」
上履きでぺたぺた歩きつつ、今度はさっきの戦闘内容を思い返して頭を掻いた。
結果的にはレイトノルフへの被害もなく、百体規模のドラゴンの襲撃を受けたことから考えれば完全勝利といえる。俺はスキルの反動で頭痛に悩まされちゃいるが、些細な問題だ。
とはいえ、得られた結果ほど、戦闘の流れを振り返ると俺に余裕は全くなかった。
飛竜軍団だけなら確かに余裕だったが、やっぱ最後のボスドラゴンの強さが異常だったからだろう。予想以上の苦戦を強いられたのも、アイツがすべての元凶だった。
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名前:ーー(なし)
LV:1258
種族:飛竜種:プオト・トゥーネイクナ・ドラゴン
適正職業:凶獣
状態:健常(《同調》)
生命力:109600/109600
魔力:1052/107700
筋力:8350
耐久力:8210
知力:8640
俊敏:7990
運:5
保有スキル
《竜属性魔法LV10》《限界超越LV10》《座標変換LV10》《鬼気LV10》
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ちなみに、これが《同調》から得たボスドラゴンのステータスだ。【普通】をしかけて弱体化する前に《機構干渉》を通して確認したが、戦った実感と違わず何もかもが段違いだった。
まず、ステータスが飛竜軍団の軽く四倍ってどういうことだよ? ボスはボスでも裏ボスじゃねぇか、ふざけてんのか。
そんだけ能力値が高けりゃ、アニメの光学兵器みてぇなブレスをぶっ放したのも、飛竜軍団が数だけいてもビビりまくってたのも、納得できる。そりゃ強さがけた外れなはずだよ。
そして、ボスドラゴンが一番厄介だったのが、俺の予想通り保有していた『空間転移』系のスキル、《座標変換》だ。
これは『広義に『存在するもの』の空間座標を入れ換える』っつうスキルで、空間を『転移』するというよりも空間の『交換』を行う効果だな。
ボスドラゴンが《座標変換》を使用したのは、三回。
そのどれもが、対象を『自身』と『何もない空間』に限定していたから、『空間転移』系のスキルのように思えたんだな。
ただ、このスキルは単に術者が『空間転移』を行うだけではなく、あらゆる対象の『座標』を交換することが可能だ。それはつまり、『生物』に限定しないということ。
例えば、ボスドラゴンがブレスを発射すると同時に、《座標変換》を発動したとする。
《座標変換》はその性質上、『転移元』と『転移先』である二つ以上の『空間座標』を設定する必要がある。そこで『転移元』をブレスの軌跡上に、『転移先』を全く別の空間に設置する。
すると、《座標変換》で設定したそれらの『座標』は、さながらワームホールのように物理的に繋がった空間となり、ブレスは『転移先』から射出されることになる。
『転移先』の『座標位置』は術者の『空間把握能力』に依存して任意で設定でき、やろうと思えば敵の死角からの狙撃とか、敵を『転移先』で囲んだ全方位ブレスや魔法で一網打尽、なんてことも可能となる。
他にも、敵に直接使うことで強力な攻撃にもなる。敵の上半身に『転移元』を設定し、適当な場所に『転移先』を設定して飛ばせば、耐久力を無視して肉体をごっそり抉ることが出来るんだ。座標設定さえ精確なら、容易に一撃必殺になりうる。
このように、《座標変換》は『移動』よりも『攻撃』に特化したスキルであり、応用すればかなりの威力を発揮する。
まあ、微妙に予想を外したものの、スキル能力の系列は同じだからこそ、ボスドラゴンは高い『空間把握能力』を有していたことになるな。
ただし、《座標変換》は設定した『空間座標』が大きくなるほど、魔力消費が大きくなる。ボスドラゴンくらいの巨体を覆えるほどの『空間』なら、なおさらだろう。
しかも、状況的にボスドラゴンは、普段の使用よりも多大な消費を強いられていた。
一度目はブレスを吐きながらの緊急回避。
二度目は俺の『大気浸食』の包囲から逃れるため。
そして三度目は、俺の『最後の一手』を回避するため。
一度目と二度目は空中にとどまっていた状態だったが、三度目は移動中のスキル発動であり、高速で飛来する『ドラゴン空爆』から逃れるため、『空間座標』を広く大きく設定せざるを得なかった。
だからこそ、ボスドラゴンは己を対象とした《座標変換》で、大きく魔力を消費することとなったわけだ。半端に狭い『空間座標』を設定しちまえば、《座標変換》の性質上自分の肉体を欠損させた状態で移動する羽目になるからな。
とまあこんな感じで、俺は《同調》と『大気浸食』を駆使して、ボスドラゴンを弱らせていた。
理由はもちろん、あれだけの化け物に『空間転移』系のスキルを使わせる余力を残したくなかったため。それには当然、魔力を一気に消費させる必要があった。
戦闘中にボスドラゴンのスキルの詳細を把握してなかった俺だが、ボスドラゴンの『切り札』が『空間転移』系のスキルで『大量の魔力を消費』し、『多用できない』ことがわかれば十分だった。
俺は事前に、ボスドラゴンが『大気浸食』を察知し、かつその危険性を十分に把握していたと確信があった。
なら、『大気浸食』による『どうしても回避できない状態』を作れば、自ずと『空間転移』系スキルを使うよう促せる。
そうして三回ほどスキルを無駄撃ちさせ、《座標変換》を封じることに成功したってわけだ。一度でも発動の余地を残せば、それこそ最後の最後でどんでん返しをされかねなかったから、単なる嫌がらせじゃなく勝つために必要だった行動と言える。
加えて、ボスドラゴンを疲弊させたのにはもう一つ理由がある。
それは、『注意力を散漫にし、判断力を低下させる』という『魔力枯渇』に近い状態で見られる症状を引き出すため。
より突っ込んで言うと、『集中力』を削られたボスドラゴンの『大気浸食』における感知精度を、少しでも鈍らせたかったためだ。
《同調》は物理的、魔力的な作用で察知不可能なものであり、今回の戦闘で術者以外の生物に『直感』とも呼べる超感覚があれば可能だということは立証された。
ボスドラゴンにとっちゃ、ドラゴンという種族特性である『気配察知能力』と、《座標変換》の副次効果で得られた『空間把握能力』がそれだな。
この二つを有することで俺の『大気浸食』は察知されたわけだが、それらは『スキル』ではなく『種族』と『スキル』がもたらした『感覚』だ。
だとすると、魔力を消費すれば発動するものではなく、目を凝らしたり耳を澄ませるのと同じように、ボスドラゴンが『大気浸食』を『意識』して『感知』したと考えるのが自然。
つまり、『大気浸食』を『感知』するには、ある程度の『集中力』を要する。
逆に言えば、『集中力』さえ奪っちまえば、ボスドラゴンに悟られずに『大気浸食』を当てられる可能性がグンと上がる。
実際、ボスドラゴンは俺がいつ《同調》を接触させたのか、最後まで気づかずに死んでいったようだしな。
で、結局俺がどうやって『大気浸食』を当てられたのかだが、厳密には俺はボスドラゴンに当てることは出来なかった。
正確に表現するならば、ボスドラゴンが『自分から当たりに行った』が正しい。
そう。
俺は見える攻撃全てを囮にして、ボスドラゴンが『感知』できないほど薄い『大気浸食』をそこら中にばらまいていたんだ。
そうすれば、俺からのアプローチで無理に《同調》を接触させる必要はなく、広く分布させた『大気浸食』のある場所まで追いこんでやればいい。
仕掛けたタイミングは、俺が飛竜軍団を操ってボスドラゴンにブレスを吐かせまくった時になる。
あの時、ただ闇雲にボスドラゴンへブレスを放っていたわけではなく、ブレスの中に通していた《同調》を大気中の『原子』に感染させていた。
それも、数mにつき『原子』一個という、かなりまばらな場所に点在させて、な。
意図は単純で、ボスドラゴンの《同調》を察知する感覚を、『密度の高い《同調》』に慣れさせることで、広く薄く散らばらせた『大気浸食』の隠蔽効果を高めるためだ。
俺が『木片』から飛ばした『大気浸食』は、可視化すれば巨大な物質に見えるほど、広範囲かつ密度の高い展開をしていた。それでも、ボスドラゴンはかなりの接近を許さなければ、『大気浸食』の気配に気づけていなかった。
だとすれば、『大気浸食』の密度を限りなくゼロに近いほど薄くすれば、ボスドラゴンの『直感』でも捕捉されないだろうと考えた。だから、『大気浸食』をまばらに配置したんだよ。
ただ、ここで誤算があったとすれば、ボスドラゴンがなかなか俺の配置した『大気浸食』に接触しなかったことだな。
運か本能か、ボスドラゴンは飛竜軍団のブレスが通った軌跡を全然移動しなかったんだよ。『大気浸食』の網で囲んで逃げられた後とかになら触れるかと思ったんだが、うまく避けやがってたからまー焦った。
しかし、最終的にはボスドラゴンを薄い『大気浸食』に触れさせることが出来た。
それは三度目の《座標変換》で、ボスドラゴンが不自然に高度を下げた直後になる。
実は、ボスドラゴンが逃げたその位置が、《同調》で操ったドラゴンに撃たせたブレスの軌跡に、ぴったり合致してたんだよ。
ブレス乱射で上空を彩らせていた時に、俺の頭上とレイトノルフの上空を通り過ぎた、数本のブレスがあった。
その一本に、ボスドラゴンはまんまと乗った。
すると、ボスドラゴンの進路上には、『原子』ほどの大きさである《同調》がいくつか配置されていることになる。
そこをあの巨体が通れば、たとえ感知できていたとしても、『大気浸食』を避けることなんて不可能だっただろう。
まあ、ボスドラゴンが偶然触れたというより、俺から向こうの無意識に訴えかけて誘導していた部分もあったが。
意識誘導とはいっても、大したことじゃない。
あの時。
二度の《座標変換》を使わせた魔力消費で判断力を奪い。
『木片』から伸ばした『大気浸食』で左翼を下げさせて飛行姿勢を崩し。
ボスドラゴンの意識外である『上空』から『ドラゴン空爆』による奇襲をかけて。
最後の《座標変換》による『逃げ場』の最適解を、咄嗟に『下』だと思わせた。
たったそれだけで、ボスドラゴンは綺麗に俺の作ってやったレールに乗ってくれた。
後は、実際に起こった通りの展開になったわけだ。
「とはいえ、ギリギリもいいところだったぜ……」
種を明かせばそんなものだが、さっきも言ったように俺に余裕は全くなかった。
何せ、三度目の《座標変換》でボスドラゴンが『下』ではなく別の方向へ逃げていたら、『大気浸食』に触れさせることは出来なかったんだからな。
ああするしか、俺がボスドラゴンをしとめる術は残されていなかった。もし賭けに負けて失敗していれば、今頃レイトノルフは火の海に飲み込まれてただろう。
俺が打った『最後の一手』は、ボスドラゴンにとっての『最後』を決める『一手』であり、下手をすれば俺の敗北を決めかねない『最後』に残された『一手』でもあった、っつうこった。
「はー、ようやく、着いた」
ともあれ、最後に勝ったのは俺だ。
反省点は多々あれど、約束通り飛竜軍団から『トスエル』の連中を守ることが出来たんだ。
結果よければ全てよし、ってな。
そんな感じで自己完結をしながら、レイトノルフの東門まで戻ってきた俺は、一度大きく背伸びをして町の中に足を踏み入れた。
もう一つの約束を、果たさなきゃなんねぇしな。
『うおおおおおおおおおおっ!!!!』
「騒がしいな」
駆け足気味に『トスエル』への帰路をたどっていくと、そこかしこでいい年齢した大人が興奮気味に絶叫していた。
ドラゴンがいなくなったことに興奮でもしてんのか? 暇な連中だな。
叫ぶ暇があったら瓦礫の撤去とかしろよ、と内心で思いつつ、【普通】で消えた存在感をフルに利用してバーサク状態の住民をスルーしていく。
そして、ようやくたどり着いた職場を見上げてから、無傷の『トスエル』の扉に手をかけた。
「帰ったぞー」
……あれ? なんかこの台詞、中年のサラリーマンっぽい?
「あ、ヘイトッ!!」
「ヘイト君っ!」
「ヘイトだとぉ!?」
恐ろしく下らねぇことを考えつつ開けた扉の先には、まず泣き笑いで迫るシエナがいた。俺を呼ぶ声に反応し、次にママさんが椅子から立ち上がって、最後に頑固オヤジが包丁片手にカウンターから顔を出した。
頑固オヤジの奴、マジで仕込みをしてやがったのか?
町ごと吹き飛ぶかもしれねぇ、っつう一大事を理解していてそれなら、大した度胸だな。
「お、っと」
「っ!! おかえりっ!!」
何とも微妙な大物っぽさを感じた頑固オヤジは置いといて、俺の存在にいち早く気づいたシエナは玄関先の俺に飛びついてきた。
ちょっとした男の沽券を守るため、シエナの勢いに負けて後ろにぶっ倒れるなんてことのないよう、『種族』を『異世界人』に変えて受け止めた。あ、【普通】も切ってるぞ?
「どうだ? 約束通り、ドラゴンはぶっ殺してきたし、帰ってきたぞ?」
「……ぷっ、何それ? そんなの、わざわざ言わなくてもわかってるよ」
「あん?」
「だって、ヘイトのこと、信じてたから」
一応、外の様子を知らねぇかもしれねぇと思って報告したが、シエナは一度小さく吹き出すと、真っ直ぐすぎる瞳で微笑を浮かべた。
ふと、半月前に襲撃者を撃退した、夜明け前のことを思い出した。
知らぬ間にいなくなった俺を待ち続けて、寒さに震えて泣いていた姿と。
同意を得て置いていった俺を待ち続けて、体を密着させて温かさを伝えながら笑顔とともに泣く姿。
二つの映像がダブるほど同じ構図で、されど決定的に違う景色を前に、《精神支配》取得以降しばらく固まったままだった俺の相好が、自然と崩れた。
これが、俺が必死になって守ったもの、か。
……まぁ、うん。
悪くねぇな。
「あらあらまあまあ!」
「おいテメェコラ! いつまでシエナに抱きついてんだ離れろ!!」
と、数秒もしない内にママさんの大興奮した声と、違う意味で大興奮した頑固オヤジの声が重なった。
あ~、客観的に見りゃ両親の前で娘をハグしてんだよな。
そりゃ一言二言文句も出るか。
「はいはい、悪ぅござんしたね」
これ以上批判されるのも面倒だったから、素直にシエナから腕を外して一歩離れる。
「確認するが、あれから何か変わったことはあったか?」
「え~? あれだけ? もっとこう、ぶちゅ~ってしちゃってもいいのよ? ほら、私たちは気にしないで、どうぞどうぞ」
「ママさん、とりあえず俺の話聞いてくれませんかね?」
アンタは自分の娘をなんだと思ってんだ?
見ろ。顔真っ赤だぞ、シエナの奴。
「…………」
「おい頑固オヤジ。ガチで構えたその包丁をどうするつもりだ?」
こっちはこっちで、いつか見せた魔力による身体強化を極限まで高め、無言で重心を落とす親バカがいるし。
父母ともども、いちいち娘のあれこれに反応すんなよな。
今からこれじゃ、いざシエナが結婚する時なんて、どんなバカ騒ぎをしでかすつもりだ?
「え、えと、私たちは、怪我とかはないよ? あれからずっと、ヘイトの言いつけ通り、家の中でじっとしてたし」
ガキみてぇな大人二人をうんざりした目で見やっていると、隣からまだ赤面したままのシエナが俺の疑問に答えてくれた。
っつうことは、俺がどうやってドラゴンを退治したのかはわからないが、決着がついたことはボスドラゴンの悲鳴と住民の歓声で知った、ってところか。
それはともかく、お前もお前でその手の話に免疫なさ過ぎだろ。
あんだけイジられ倒してきたんだから、そろそろ慣れろよ。
「そうか。ま、これでドラゴンどもはいなくなった。これで心配することは何もねぇよ」
初心さが抜けないシエナは置いておき、ママさんや頑固オヤジにも報告をしておく。俺とシエナのやりとりは聞いてただろうが、形式的には伝えといた方がいいだろう。
「そうね。ヘイト君は約束通り、私たちを守ってくれた。どうやったのかは、少しだけシエナちゃんから聞いたわ。でも、ちょっとくらいシエナちゃんに怪我をさせてもよかったのよ?」
「お母さんっ!!」
さっきからママさんのシエナに対する扱いが酷い。
言葉だけ聞けば、娘の安否なんてどうでもいい、って風にも捉えることができる。
さすがに看過できない発言だったんだろう。シエナは声を荒らげてママさんに抗議していた。
「ふん! まあ、テメェにしてはよくやった方だな。だが、まだまだこの店を継ぐには早ぇぞ。せめてウチの料理の一つくらい覚えてからじゃねぇと、認めねぇからな!」
「お父さんも!!」
頑固オヤジは話が飛びすぎだろ。
誰が『トスエル』を継ぐっつったよ?
ついに会話の脈絡さえわからなくなったか、この低脳オヤジは。シエナもママさんの流れで語気を強めている。
「もう! 変なことばっかり言ってないで、仕事するよ!」
「そんなに怒らなくてもいいんじゃない?」
「おら! テメェも突っ立ってねぇで、仕事しろ仕事!」
で、いきなり切り替えられて仕事モードに入られてもなぁ。
とはいえ、町の被害状況も少々建物が崩れたくらいだから、外を手伝わずに自分の店に構っていても問題はねぇだろう。
むしろ、ドラゴン襲撃に役立たずだった代わり、町の片づけへと強制的に駆り出される冒険者たちの胃袋の受け皿になるだろう飯屋は、今から準備しとかねぇと間に合わねぇかもしれねぇからな。復興の形も適材適所だ。
それが読めてるのか、各々が瓦礫の撤去作業で疲れるであろう客を招き入れるための準備として、夜の仕込みをし始めた。
まあ、メリハリがついてるのはいいことだな、うん。
「……? ヘイト? どうしたの?」
が。
ただ一人、いつまで経ってもその場から動こうとしない俺に、シエナが不審を表に出して振り向いた。
同時に、ママさんと頑固オヤジも不思議そうな視線を送るが、それでも俺は動かない。
「どうしたの、っていわれてもなぁ……」
集まる視線に居たたまれない気持ちを抱きつつ、右手で頭をポリポリと掻く。
いつまでもグダグダするのも性に合わねぇ。
はっきり言っちまうか。
「唐突で悪いが、俺、今からすぐに、この町を出ることにしたから、仕事を手伝うことは出来ねぇんだよ」
『…………え?』
そうして言い放った俺の言葉が予想外すぎたのか。
シエナも、ママさんも、頑固オヤジも。
口を半開きにして、動きを止めた。
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名前:ヘイト(平渚)
LV:1(【固定】)
種族:イセア人(日本人▼)
適正職業:なし
状態:健常(【普通】)
生命力:1/1(【固定】)
魔力:1/1(0/0【固定】)
筋力:1(【固定】)
耐久力:1(【固定】)
知力:1(【固定】)
俊敏:1(【固定】)
運:1(【固定】)
保有スキル(【固定】)
(【普通】)
(《限界超越LV10》《機構干渉LV2》《奇跡LV10》《明鏡止水LV2》《神術思考LV2》《世理完解LV1》《魂蝕欺瞞LV3》《神経支配LV4》《精神支配LV2》《永久機関LV3》《生体感知LV3》《同調LV4》)
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