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中原可絵≪100文字小説集≫
作者:中原可絵
作品はすべてオリジナルです。無断引用、転載は固くお断りします。
Copyright(C) 2010 Nakahara/2010. All rights reserved.
 

  初恋

 雪晴れの朝、雪の降り積もった通学路で、後ろから声をかけられた。
 腕白盛りの半ズボンの同級生。
 ときめく思いが何なのか、幼い私にはまだわからなかった。
 それから十五年、出席したクラス会で彼は結婚したと聞いた。




  飼い犬の死

 寒い朝。
 エリが死んだよと母が言った。
 八年飼ったスピッツだった。
 前の日、食べた鳥の骨が喉に刺さって、犬は苦しんでいた。
 死に瀕しているものを見た最初だった。
 厳粛なものを感じ、幼い私は小屋に近づけなかった。


 


  春に思う

 十年前別れた人のことを思っている。
 たぶん結婚しただろう。
 北風の中で凍えそうだったから電話できなかった。
 これ以上傷ついたら死んでしまいそうだったから。
 港の見えるあの街へ、桜の咲く頃会いに行きたいと思う。




  プレゼント

 喉が渇いていたの。
 小さなチョコレート菓子の箱は、砂漠の水だった。
「土産を買ってくるのはあなたが好きだからよ」と、女友達は言った。
 十二才も年下の彼だった。
 気持ちも確かめず、ささいなことで別れてしまった。




  電話機

 長いコードのついた電話機だった。
 真夜中、自分の部屋に持って行き、彼と話した。
 別れた後、電話機は黒い生物のように、ただじっとそこに在った。
 コードレスの電話機に買い替える頃には、もう彼のことは忘れていた。




  再会

 彼は泣いていた。
 あの日、あの場所で私たちは別れた。
 それきり……。
 
 十年後、同じ場所で彼と会った。
 どうしたのだろう?
 私を見る冷たい無表情な彼の目。
 私の心はあの日のままなのに、あの日の彼はもうここに居ない。




  桜咲く日に

 満開の桜の木の下で私達は休んだ。
 シーズンには満員の、向かいのレストランに入る行列には加わらず。
 風も冷たくなく、穏やかでゆったりとした時が流れていた。
 その場所まであなたは元気に歩いた。
 最後の花見だった。




  兆し

 肉親が亡くなる時には予兆があると言う。
 兆しなんてなかった。
 知らぬ間に、母は逝ってしまった。
 そんなことは三十年間なかったが。
 墓に行くと、母が好きそうな菫に似た紫の花が一面に咲いていた。
 それが唯一の兆し。




  奇妙なシーン

 頭はキツネかウサギ、体は人間の様。
 天然色の服を着た、背の小さい人形のような奇妙な生き物が、教室のような所で黒板に何か書いている。
 怖い。
 深い眠りに落ちる刹那、私はその奇妙なシーンから逃れようとして焦る。




  出発

 私が居た世界では、存在を誇示すると無数の触手が私にからみつき、私を捉えた。

 遊んで
 遊んで
 遊んで
 遊んで
 遊んで

 慰めはもう要らないわ、鬱陶しいの。
 逃げるように、私はその世界から飛び出した。新しい出発のために。







  















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