東の青龍 -6
「それでは、出発しますよ!」
「ウム!」
気合の入った祥華様に、げんなりした表情の喜助さん。食事が終ってすぐにまた言い合いがあったようで、どうやら喜助さんが負けたらしい。王は俺の荷物を背負い、意気揚々といった顔をしている。
籠を持つ兵たちには申し訳ない気もするが、下級の兵が俺に何かを言えるわけもなく、忠実に従ってくれる。
有難いものだな、地位とは。
「……のう、仁よ」
出発してから数分後。
「何でしょう?」
理由を聞く俺。あらかた予想はつく。
「そなたの荷は重いぞ……」
やはりか…とため息をつき、俺は嫌味ったらしく「そうですか…? それでも大分軽くしたんですが…」と言ってやった。
それを聞いていた喜助さんは、俺のほうを向き“よくやった”と伝えてくれた。
読唇術は俺の得意分野だ。それを喜助さんは知っていたから使ってくれたのか、祥華様の前だから口には出せなかったのか…。
どちらにせよ、喜助さんも祥華様の我が侭にはほとほと愛想が尽きかけているようだ。
守雲川に掛かる大橋を超えると、広大な草原が広がっている。
自由に伸びた草花は、春の訪れを喜んでいる。春風が髪を梳き、俺の気分は最高潮になった。
「やはり重いぞ!」
暫く黙って歩き続けていた祥華様。しかし焦れたらしく立ち止まり、俺に文句を言ってくる。
「…はぁ……自分の言葉に責任を持ってください。その身をもって民の苦を体感するのでしょう…? 民は、重いからといい投げ出したりはしません。」
鈍い祥華様にもわかるようにため息をつき、ご自身でおっしゃられた言葉を言った。
さすがの祥華様も痛感してくれたのか、無言のまま再度歩き始めた。
王であるから彼の命には従わなくてはいけないだろう。しかし、それでもやはり己の言葉には責任を持たなくてはいけないこともまた然り。
王であるからこそ、きつく接することも必要であると俺は思う。
幼少期より甘や……いえ、何不自由なく過ごしてこられた祥華様には、民の苦悩を目で見たことがない。己より身分の低いものの苦労を体感したことがない。
しようと思えばいくらでも出来たかもしれない。が、祥華様にとっては“仕えてくれる”ということは当然のことだと教えられていた。苦労の体感など、王には必要ないこと。
「……私は世間を知らなさ過ぎるのだな――…」
そのお心に、しかと刻み込んでください。
そうすればいずれ民の苦悩に気付かれる日が来るでしょう――…
***
歩みを進めて何刻かが過ぎた頃、やっと沸山の麓に辿り着いた。
この山を越えれば、目的の村に着く。
今晩は、ここで一泊しよう。これからの辛い山道に向けて、体力を十分に蓄えなければいけないから。
「お疲れ様です、祥華様。ここいらで一泊しましょう。」
「……ウム。」
重たいと嘆いていた祥華様。この短時間で大分学ばれたようだ。
荷物を丁寧に降ろし自らも腰を石におく祥華様。余程疲れたのだろう、口数も少なくしきりに水を口にしている。
あまり水を飲みすぎるのもよくないので、ある程度でやめるよう言った。
「祥華様、食事が出来ましたがお疲れでしたらお休みになられますか? 無理に食事をしても、胃は受け付けませんから……」
この言葉に祥華様は頷き、近衛兵たちの張ってくれたテントへ向かった。
その足取りはとても頼りなく、明日の朝が心配になった。
「お疲れ様です、喜助さん。殿軍を務めていただき、有難う御座いました。……まだいますか?」
「あぁ。しかし、手は出してきそうにない……ただの監視だろう、あまり気負うな。」
「はい」
喜助さんの判断は非情に頼もしい。俺よりも気配を読むのがうまく、俺よりも優れた体術を身につけている。
要するに、俺は足元にも及ばないということだ。
「……祥華様は、疲れているようだな。」
「はい。少し酷だったかなと……」
「いや、あれ位でいい。苦労を知る王は、民を苦しめない。」
良き王となられるだろう…という喜助さんは、どこか哀愁を帯びていた。
一族の願いを絶対と考えている反面、祥華様にも期待しているのだ。
我ら芦門家は、あくまで『四神様』に仕える身。この国の王である祥華様に従えているのは、目的を果たす為。
祥華様を俺は利用しているのだ。
しかし逆に、祥華様も我らを利用している。
ここら辺に関しては、暗黙の了解というのが成立している。よって誰も口にはしないだけ。
心の内では何を考えているのやら……
「仁……お前は何が目的で動いている」
「……愚問ですね。」
「だろうな……しかしな、仁よ。私は――…」
|