東の青龍 -3
※祭祀まで、残り八日
王宮を発つまでには、数日日があった。祥華様からはその間仕事を一切回さないと言って下さり、暇を持て余していた。
「仁兄暇なの?」
惷が、俺に向かって言い放った。何の感情もなく、冷たい目で俺を見ている。
お前は何故そんな冷えた目をしているんだ?
「暇なら買い物に付き合ってよ。最近仁兄も父さんも仕事仕事でたくさん買うこと出来なかったんだ。僕一人じゃ持てる量が限られるからね。」
こいつはまだ七つの癖に、しっかりしている。大人よりも前を見据え、考えているかもしれない。こういった家柄のせいもあるのだろうけど、可愛そうな事をしていると思ってしまう。
この事を惷に言うと、返ってくる返事はこうだ。「同情なんていらないよ」だ。“もう七つ”という大人もいるが、俺には“まだ七つ”だ。
きっと、大人びた口調や落ち着いた態度がこの子を締め付けているのだろう。
「いいよ。親父も今日は仕事ないし、子守は任せて二人で行くか。」
まだまだ甘えたい盛りの男の子だ。今を逃せば甘えることは難しくなる。なら、今存分に甘えさせてやろうではないか。
俺は久々に街へ下り、以前とどう変わっているのかを楽しみにした。
が、何も変わりばえせず以前のままで、俺は少し落胆してしまった。何かが変わっていれば、街並みの変化をたのしめたのだが……。
しかし、今は惷の為に来ているのだから我慢した。
ふと、隣を歩く惷に目を向けてみた。
七つの割には体が小さく、手足も細い。生まれつき体が弱いというせいもあるのだろうか。
「仁兄……」
不意を衝かれた呼び掛けに戸惑いながらも、どうした? と聞き返すと、帰ってきた台詞は、顔が変だよ。
いくら弟でもこれは許せない。俺はそこそこ容姿に自身があるんだ。
「お前は俺に喧嘩を売っているんだな?」
にっこりと笑顔で言った。この方が怖いからだ。そして惷に飛びつき抱き上げた。
そして惷はというと、いつもは見せないほどの叫び笑いをもらしていた。俺は嬉しくなり、そして楽しかった。
俺は惷を抱えたまま街並みを歩いていった。
「ただいま!」
元気に声を張り上げる惷の姿は、七つという年相応の顔をしていた。
周りの大人たちは、惷を子供として扱わずにいた。いつもこれぐらい出来て当然だろう……という目で見ている。それに気づいていながら助けてやらなかった俺にも責任はあるだろう。
親父も惷が何でも卒なくこなすことに少しの疑問も抱かず、全てを任せてしまっていた。弟である愁は、惷とは対照的な性格で、自由に遊びまわっている。
誰よりも責任感の強いこともあり、自分がやらなきゃ……自分しかできないんだ、と言い聞かせているのだろう。
「今日は俺が飯を作ろう。」
こんなに感情表現が出来るのなら、何故今まで想いを伝えなかったのか。辛かったであろう今までを、忘れさせるほどの幸せに浸からせてあげたい。
「僕も手伝うよ。仁兄だけじゃ、不安だし。」
「一言多い!」
***
※祭祀まで、残り五日
仕事開始前日、ある異変に気付いた。
「兄様は、明日からいないんですか?」
「……あぁ。」
可愛らしい顔、声、仕草でそんなことを言われたら、離れ難くなってしまうではないか。
裾を引っ張り、上目遣いで見上げてくるその表情に、胸が痛い。
「今日は遊ぼっか」
唯を連れて、俺は近所の空き地へと赴いた。そこではいつも子供の声が響いている。家族連れであったり、子供たちが遊びに来ていたり。
昔、俺がまだ小さい頃に一度だけ母さんに連れて来られたことがあった。……親父は当然ながら仕事の日々。家族を蔑ろにしていた。けど母さんは一度も文句言わなかったな。
「あぁー! 唯が来たぞ!」
空き地で遊んでいた少年たちだ。見たところ、6・7歳ぐらいの活発そうな子だ。
「唯のお友達かい? よろしく」
彼らと目線を合わせて俺がそう挨拶をすると、唯は俺の後ろへと引っ込んだ。よく見れば、唯は怖がっているではないか。
「……友達じゃ、ないみたいだね。」
少年たちは、立ち上げる俺を見上げ強張った。
それもそのはず、俺はお得意の笑顔で彼らを見下し、一緒に遊ぶかい? と聞いたんだ。 少年たちは声も上げずに、静かにその場を去っていった。
「兄様?」
「もう大丈夫だよ。それより、何して遊ぶ?」
肩車してください、と元気に叫びだす唯に、微かな視線を背中に感じながらも自然な笑顔が零れてしまった。
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